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ついに堂々のシリーズ完結! 「放課後ライトノベル」第7回は『フルメタル・パニック!12 ずっと、スタンド・バイ・ミー(下)』で最後の戦いへ!
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印刷2010/08/28 10:30

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ついに堂々のシリーズ完結! 「放課後ライトノベル」第7回は『フルメタル・パニック!12 ずっと、スタンド・バイ・ミー(下)』で最後の戦いへ!



 20年とも,30年ともいわれるライトノベルの歴史の中には,ライトノベルファンならば知らない者はいないというほどの作品がいくつも存在する。
 『ロードス島戦記』『スレイヤーズ』『ブギーポップは笑わない』――いずれもライトノベルの歴史を語るうえでは外せない名作だ。原作は読んだことがないという人でも,アニメなどのメディアミックスを通じて,名前くらいは聞いたことがあるのではないだろうか。単に作品自体が面白いだけでなく,のちの作品に大きな影響を与えてきた名作たち……。

 そして,いずれ間違いなくその列に並ぶであろう作品が,この夏,12年越しの完結を迎えた。そう,『フルメタル・パニック!』だ。
 『フルメタ』には,『戦うボーイ・ミーツ・ガール』から始まる長編シリーズと,『放っておけない一匹狼?』から始まる短編シリーズがあり,このほかに長編を補完するサイドストーリーが語られる『サイドアームズ』シリーズ2冊が刊行されている。
 本編にあたる長編シリーズではミリタリー色の強いシリアスなストーリーが,番外編的な短編シリーズでは打って変わって,ドタバタ学園コメディが展開されるのがシリーズ全体の特徴だ。

 今回の「放課後ライトノベル」で紹介する『フルメタル・パニック!12 ずっと、スタンド・バイ・ミー(下)』は,その長編シリーズの最新巻にして,ファン待望のシリーズ完結編だ。

画像集#001のサムネイル/ついに堂々のシリーズ完結! 「放課後ライトノベル」第7回は『フルメタル・パニック!12 ずっと、スタンド・バイ・ミー(下)』で最後の戦いへ!
『フルメタル・パニック!12 ずっと、スタンド・バイ・ミー(下)』

著者:賀東招二
イラストレーター:四季童子
出版社/レーベル:富士見書房/富士見ファンタジア文庫
価格:609円(税込)
ISBN:978-4-8291-3553-2-C0193

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●“戦争ボケ”と“凄腕の傭兵”,2つの顔を持つ主人公


 主人公の名は相良宗介(さがらそうすけ)。東京の高校に転校生としてやってきた彼は,幼いころから紛争地帯で育ってきたため,日本での一般常識が完全に欠落していた。平和な日本も,彼にとってはいつ戦闘が始まってもおかしくない危険地帯(のように思える場所)なのだ。

 その勘違いぶりは,短編第1話「南から来た男」(『放っておけない一匹狼?』所収)の冒頭で,下足箱に入れられたラブレターを不審物と勘違いし,下足箱ごと爆破処理するというエピソードによく現れている。その後も思い込みと勘違いでたびたび暴走しては,クラスメイトの千鳥(ちどり)かなめにスリッパやらハリセンやらで頭をはたかれる宗介。「戦争ボケ」と呼ばれる彼の巻き起こす騒動の数々は,笑いなしに読むことはできない。

 だが,そんな宗介の姿はあくまでかりそめのもの。彼の正体は,極秘の傭兵組織ミスリルの一員として,世界の秩序を乱す連中と戦う凄腕の兵士だったのだ。巨大人型兵器アーム・スレイブ(AS)を操縦し,さまざまな強敵と激闘を繰り広げる宗介は,短編での戦争ボケな彼とはまるで別人。『戦うボーイ・ミーツ・ガール』から連なる長編シリーズでは,スペシャリストたる宗介本来の(かっこいい)姿を存分に堪能できる。

 ドタバタギャグの短編,シリアスなアクションものの長編という二面性を持つ『フルメタ』は,そのギャップもあって読者の絶大な支持を受け,三度にわたってアニメ化されるほどの人気作に成長。「スーパーロボット大戦」シリーズや,つい先日発売されたばかりのPlayStation 3用ソフト「Another Century’s Episode:R」への参戦を果たしたり,劇中に登場するASがフィギュア化されたりするなど,ロボットものとしても高い評価を受けている。


●壊れゆく日常,倒れる仲間たち。絶望の中で男は立ち上がる


 かなめとテッサ(宗介が所属するチームの司令官。かなめと同年代の少女)による,宗介をめぐる三角関係などをスパイスにしつつ,長編と短編は肩を並べるようにして巻を重ねていく。だが,長編が佳境に入るにつれ,両者の関係はまた別の意味で切っても切り離せないものとなる。

 かなめは実は「ウィスパード」と呼ばれる特殊な人間で,そのためにさまざまな組織に狙われており,宗介が日本にやってきたのも,彼女を護衛するためだった。そうした立場ゆえに,2人は幾度となく危機にさらされることになるが,やがて事件の背後に「アマルガム」という謎の組織があることが判明する。アマルガムによる攻撃は次第に苛烈さを増していき,ついにその魔の手はミスリルのみならず,かなめたちが平和に暮らす日常へも伸ばされていく。

 どんなに平和な日々でも,ASが1機あればいとも簡単に崩れ去ってしまう。その事実が読者の眼前に突きつけられると共に,シリーズは怒濤のクライマックスへと突入していく。圧倒的な敵戦力に,精鋭ぞろいだったはずのミスリルは大きなダメージを受け,味方は次々と傷ついていく。当然,死人も出る。短編シリーズで描かれた日常が,騒がしくも温かだったからこそ,長編シリーズ終盤の展開はどこまでも重く鋭く,我々読者の胸に突き刺さってくる。

 だが,どれだけ絶望的な状況に立たされても,宗介は決して諦めない。かつては粛々と任務をこなすだけだった宗介は,かなめとの出会いや,その後の出来事を通じて,少しずつ兵士としての殻を破っていった。だからこそ,かなめが敵の手に落ちたと知れば,彼女を取り戻すために迷いなく戦いに身を投じていくのだ。任務ではなく,自分がそう望んだから。『フルメタ』は,兵士として生まれ育ってきた宗介が,一人の男として自らの進む道を見出す物語でもある。


●12年をかけてたどり着いた結末を刮目して見よ!


 ウィスパードとは何か? アマルガムの目的は? さまざまな謎が明かされた前巻『せまるニック・オブ・タイム』が刊行されて2年半。上下巻で刊行された『ずっと、スタンド・バイ・ミー』で,宗介たちの長い戦いはようやく終わりを告げる。
 最後の戦いに向かう宗介たちは,しかし,決してヒーロー然としてはいない。戦いを前に各々が悩み,迷う姿からはむしろ,頼りなささえ感じられる。戦い方も,時に行き当たりばったりでひどく泥臭い。

 だが,それも当然のこと。彼らはもともと,ヒーローなどではない。砲弾の飛び交う戦場で,血と泥にまみれながら,それでも生きるために戦う兵士なのだ。大切なものを取り戻したいという想いを胸に,兵士として培ってきたすべてを出し尽くして戦う。そんな宗介だからこそ,勝算に乏しい戦いの中でも最後まで足掻くことができるのだ。その果てに迎えた結末は,月並みな表現だが,涙なしに読むことはできない。
 未読の人は,完結した今こそ読むべし。傑作です。

■問題なく分かる,賀東招二作品

『コップクラフト DRAGNET MIRAGE RELOADED』(著者:賀東招二,イラスト:村田蓮爾/ガガガ文庫)
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画像集#002のサムネイル/ついに堂々のシリーズ完結! 「放課後ライトノベル」第7回は『フルメタル・パニック!12 ずっと、スタンド・バイ・ミー(下)』で最後の戦いへ!
 『フルメタル・パニック!』の著者,賀東招二は1994年,「弁天女子寮攻防戦」(富士見ファンタジア文庫『弁天女子寮攻防戦』所収)でデビュー。1998年からスタートした『フルメタル・パニック!』が大ヒットとなる。同作のアニメ版ではシリーズ構成や脚本も担当。アニメ脚本家としては,『ドルアーガの塔』のシリーズ構成・脚本を担当したほか,『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』にも参加している。
 読みやすい文章と練り上げられたプロットに裏打ちされた,バランスの取れたストーリー展開が持ち味。作風には,アクション映画や海外ドラマの影響が散見される。現在ガガガ文庫で展開している『コップクラフト』は,異世界との交流が起こるようになった町で刑事を務める男が,異世界から来た美少女騎士と共に,地球と異世界,2つの世界にかかわる事件を追っていくという,海外刑事ドラマのライトノベル風翻訳とでもいうべき内容に仕上がっている。

■■宇佐見尚也(ライター)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。『フルメタ』にはシリーズ開始時からずっと付き合ってきたこともあり,すでに好きとか嫌いとかを超越した作品だと,瞳をうるませながら熱っぽく語る宇佐見氏。そのせいか,今回の原稿はこれまでになく難航したとのことで,今ごろはきっと真っ白に燃え尽きているところだろう。とりあえず,この隙にテッサちゃんはもらっていきますね。
  • 関連タイトル:

    Another Century’s Episode:R

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