インタビュー
「良いゲームとはなにか」と考え続けた結果,「El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON」が生まれた――竹安佐和記氏,木村雅人氏インタビュー
天界ではそんなもん食器だぞ
しかし,本当にさまざまな面で斬新なゲームデザインですよね。メインキャラクターがおよそ天使らしくなかったり。
木村氏:
羽も輪っかも,いわゆる天使的な記号はほとんどないんですよ。露骨な天使ではなく,人知を超えた雰囲気を作り出したかったんです。
4Gamer:
イーノックの武器や鎧などがそうですよね。
竹安氏:
人類にはそう簡単に理解できない,そんなデザインですね。武器も,光の粒子が固まって出来上がった物質という設定になっていまして,人類が到達するのが不可能な存在として作っています。
木村氏:
人類が到達できない物だけれども,パッと見で武器だと分かって,なんとなく使い方も理解できる……そして名前もシンプルに。デザインのハードルは凄く高かったですね。
4Gamer:
アーチ,ベイル,ガーレなど,武器の名前もオリジナルですよね。
竹安氏:
はい。一応ルシフェルは,聖書によると武器を持っているんですが,これもやはり,あまり詳しく描写されていないんですよ。巨大な槍なんですけど……面白くないなと(笑)。あとはみんな普通に剣と盾しか持ってないんですよね。
で,アーチは“神の爪楊枝”とか言われてますけど,そういう風に「実は天界では使い方が違うかもしれない」というのは面白いんじゃないかと思って。天界ではこんなもん食器だぞと。でもそれを見た人類は「こんな凄い武器があったのか!」という(笑)。
なんだか,自分達が凄く矮小な存在に思えてきますね。爪楊枝に驚くとか……。
ちなみに“神の爪楊枝”とか,そういった「エルシャダイ」人気を爆発させた印象的なフレーズの数々は,全部竹安さんが考えられたんですか?
竹安氏:
そうですね。シナリオの経験もないし,文章力も全然ないので木村に推敲してもらいました(笑)。
木村氏:
でも元ネタを考えているのは竹安ですし,とくにルシフェルのセリフはまんま使ってますよ。僕も文章書きの端くれなので言いますけど,確かに国語的には間違ってるところが多いんです。でもそんなことは関係ないんですよ! とにかく元のインパクトを失わないように,推敲にも凄く気を使いましたね。
4Gamer:
あれだけ多くの人間を熱狂させたことからも分かるように,本当にセリフに関しては,ここ数年でもトップクラスのインパクトを持っていますよね……。
木村氏:
でも,とくに変なことを言っているわけじゃないんですよね。普通のことを言ってるだけなのに,何だか引っかかるという……これは凄いことだと思いますよ。
ガンダムとシャアザク
イーノックとルシフェル
そういえば,キャラクターの年齢設定が割と高めですよね。どういった意図があってのことなんでしょうか?
竹安氏:
年齢で言えばイーノックは28歳,ルシフェルは(外見年齢で)30歳前後です。確かに,国内の市場だけを見るならば,年齢を下げたほうがいいと思うのですが,本作は,まだPlayStation 3やXbox 360を持っていない人をターゲットにしているんですよ。なので,映画的な設定を持ってきました。実際の俳優なんて,貫禄のある方々ばかりじゃないですか。
木村氏:
僕らの世代の話をすると,例えば「機動戦士ガンダム」でホワイトベースの艦長をやっていたブライトさんは,19歳なんですよね。相当な違和感があるじゃないですか(笑)。
日本の10代に向けた作品にするのならば,当然キャラクターの年齢を下げるべきなのですが,それではターゲットが狭くなってしまいます。より沢山の人にプレイして頂きたい,という考えが先にあったので,世代に関わらず受け入れられるようにデザインしました。
4Gamer:
日本では基本的に「ライトノベルやアニメ,ゲームの主人公は若くしないといけない」という固定観念がありますよね。実際のところどうなのか,少々疑問ではありますが。
竹安氏:
確かに出版社の人達と話したりすると,「エルシャダイ」のキャラクターは老けてるのに,人気があるのが不思議だとよく言われますね。
4Gamer:
万人に通じる不思議な魅力を持っているということなんでしょうね。しかし,いざ決定する際には,やはり反発などもあったのでは?
竹安氏:
意外と,そうでもなかったんですよ。やはり出資元が海外だというのが大きかったです。なにしろ日本の常識を知らない方々ですので(笑)。
木村氏:
むしろ若くしたら「なぜ10代の若造に世界の命運を託すんだ!」と言われるんじゃないかと。
4Gamer:
ごもっともすぎる……。
竹安氏:
それに僕も,人間が本当に力を持つのは25歳から35歳にかけてだと思うんですよ。
これ,ディレクターの人生観が出ちゃってる部分がありますね。
竹安氏:
あるかもしれませんね。僕は30過ぎてから東京に出てきたので。
木村氏:
とくに,キャラクターが迷ったり悩んだりするシーンって,嘘っぽくなるといけないじゃないですか。その辺は本当に竹安の経験が反映された部分が多いと思いますよ。
4Gamer:
竹安さんの考える一番エネルギッシュな年齢が設定されていたわけですね。しかし,イーノックは見た目もかなりゴツいですよね。外見的なモデルは存在するんですか?
竹安氏:
映画を参考にした部分はありますが,オリジナルです。イーノックとルシフェルでマッチョと痩せ型の対比を出したかったんですよ。でも,海外ではイーノックですら「まだ細い」と言われてしまうこともあります。
対比を大事にしたかったんですよね。ガンダムとシャアザクみたいなものです。もちろんイーノックがガンダムで(笑)。
4Gamer:
イーノックでもまだ細いと……やはり海外の人達って,ガタイの良いキャラクターを好みますよね。
木村氏:
海外に渡ってみて分かったんですが,向こうの方々はデフォルトで筋骨粒々なんですよね。普段見ている姿がそうだから,キャラクターに求める物も同じになってくるのは,しょうがないんですよ,きっと。
「Gears of War」とか凄いですもんね。もう山みたいな体型で。アレをもう少し前に見ていたら,イーノックはもっとゴツくなってたかもしれません。日本人はルシフェルを見ていてくださいということで。
木村氏:
とにかくイーノックはガッチリとしていて朴訥,そしてルシフェルは細身で美しいという感じで対比を出していますね。
4Gamer:
朴訥……ですか。確かにPVを見ると,イーノックってほとんど喋らないですよね。ゲーム中でもそうなんでしょうか?
竹安氏:
はい。“プレイヤー自身が主人公”という風に感じてほしいとの思いからです。キャラクターが喋り過ぎると,どんどん自分じゃなくなってくるので。
逆にあまり喋らないと,「今イーノックは何を考えているんだろう」と,自分の考え方を反映させることができるんですよ。
それを考えると,ルシフェルというキャラクターを出したのは,手前味噌ながら秀逸だなぁと思うんですよね。主人公の代わりにたくさん喋ってくれますから。
洋画的なキャスティング
影の主人公はルシフェル
話をお聞きしていると,映画の作り方を参考にしている部分が多いようですが,やはり映画はよく観に行かれるんですか?
竹安氏:
はい。どんなに忙しくても2週間に1回は映画館に行きますね。
木村氏:
竹安があまりにも強引に誘うものだから,スタッフみんなで「ワルキューレ」を観に行ったこともありましたね。
竹安氏:
軍属の規律が凄く綺麗に描かれていて,素晴らしかった。あと「エルシャダイ」でも重要なキーワードである“堕天”って,裏切りじゃないですか。「ワルキューレ」も裏切りの話なんですよ。その裏切る人達の心理描写が凄く良かったんです。
ほかにも色々と見ましたよ。古いのになると「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」とか。ルシフェルのイメージを固めるのに役立っていますね。
4Gamer:
どちらも名作ですねぇ。そういえば,「エルシャダイ」はキャスティングも随分と渋いですよね。この辺も映画的というか。
竹安氏:
キャラクターの顔立ちが,もう海外の人じゃないですか。なので当初は英語で考えていたのですが,日本で発売するからにはやっぱり日本語で作ろうということになりまして。
でもキャラクター的には洋画的な声が欲しくて,キャスティングを考えるときには,声優さんの顔を一切見ずに声だけで選びました。そのためか,結果的に渋めの声が多くなりましたね。
イーノック役の三木眞一郎さんも素晴らしいですが,ルシフェル役の竹内良太さんも大きな話題になりましたね。「あの声優さんは誰だ!」と。
竹安氏:
竹内さんに決まったときは本当に嬉しかったですよ。一番悩んだ人だったので。絶対に「エルシャダイ」の顔になるキャラクターだと思っていました。だって,影の主人公ですからね。この作品で一番喋りますし。
4Gamer:
本当にいい声ですよねぇ。
木村氏:
収録しているとき,竹安は本当に嬉しそうでしたからね。ずっとニヤニヤしてて。
竹安氏:
エルシャダイの成功は,50%くらいはあの人にかかっていると思ってましたから。指鳴らして,あの声でしゃべり始めたらもう勝ちでしょ(笑)。
4Gamer:
いやはや……聞きたいことはまだまだあるのですが,お時間が……。本日はありがとうございました!
ジャンプひとつをとっても只ならぬこだわりが込められていたり,最先端のアニメーションエンジンを導入していたり……これだけの話を聞かされて,アクションゲーム部分に期待するなというほうが難しい。ネタとしてのイメージが先行してはいるものの,エルシャダイというゲームは,大まじめに作られた実に“まっとう”な作品であることは間違いないだろう。
ともあれ,今回初めて明かされたような裏話もちょくちょくあり,大変有意義なインタビューになったと思う。
しかし――神は言っている,ここで終わる定めではないと――。4Gamerでは今後,エルシャダイのインプレッション記事などもお届けする予定なので,楽しみに待っていてほしい。
「El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON」公式サイト
- 関連タイトル:
El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON
- 関連タイトル:
El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON
- この記事のURL:
キーワード
(C) 2010 Ignition Entertainment Ltd. All Rights Reserved.
(C) 2010 Ignition Entertainment Ltd. All Rights Reserved.
- El Shaddai ASCENSION OF THE METARON 特典 特製ポストカード (全3種の中から1枚) 「ダウンロードパスワード付き」付き
- ビデオゲーム
- 発売日:2011/04/28
- 価格:¥3,950円(Amazon) / 6999円(Yahoo)