インタビュー
スクウェア・エニックス×ヤフー×ONE-UPが,ブラウザゲーム市場に殴り込み。「戦国IXA(イクサ)」はいったいどんな作品なのか
ゲーム市場の新たな金脈として注目され,猫も杓子もといった体で,いまなお各社がこぞって参入しているブラウザゲーム市場なわけだが,そんな状況にあってしばらく静観を決め込んでいたのが,スクウェア・エニックスとヤフーの両雄である。
片やネットサービスの新たな潮流として,他方ではゲーム市場の新たな潮流として,ブラウザゲームは,双方共に無視するわけにもいかない分野として映っていたことと思うが,表だった動きが見えなかった裏では,今回の連携に至る交渉が,水面下で行われていたわけだ。
プロジェクトの第一弾として発表された「戦国IXA(イクサ)」にしても,その開発を「ブラウザ三国志」のデベロッパとして知られるONE-UPが担当しているなど,今回の取り組みは,業界に身を置く立場で見ても「ほほう。そう来たか」と感じさせる,組み合わせのとても面白いプロジェクトである。
4Gamerでは,早速スクウェア・エニックスおよびヤフーの両社に取材を申し込み,「戦国IXA」そのものの話だけでなく,今回の連携の経緯や狙いなどを聞いてみた。
ちなみに先ほどの記事でも触れられているが,「戦国IXA」とは,日本の戦国時代をテーマとした多人数参加型のオンライン戦略ゲームだ。既存のブラウザゲームの流れをきっちり踏襲しながらも,今回の取り組みならではの仕組みや要素,より多くの人に遊んでもらうための仕掛けが多々用意されているのが,大きな特徴だ。
今回の連携は,単にスクウェア・エニックスがヤフーにゲームを提供するというだけ(いわゆる,既存のゲームポータルとゲームメーカーの関係)に留まらず,文字通りの“共同事業”として取り組んでいくものだという。このあたりも気に留めつつ読んでみてほしい。
「戦国IXA」公式サイト
「戦国IXA」特設サイト
藤井聖士(ふじいせいし): スクウェア・エニックス 第二オンライン企画運営部 プロデューサー |
李 濶玉(りーゆの): スクウェア・エニックス 第二オンライン企画運営部 Coプロデューサー |
齋田友徳(さいたとものり): ヤフー株式会社 コンシューマー事業統括本部 ID決済サービス本部 課金コンテンツ企画部 |
「戦国IXA(イクサ)」とはどんなゲームなのか
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
早速ですが,現時点では,「多人数参加型のオンライン戦略ゲーム」という以上の情報がない「戦国IXA」について聞かせてください。
リリース資料にも書かせて頂きましたが,戦国IXAは,日本の戦国時代をテーマにしたオンラインゲームです。プレイヤーは,「織田」「足利」「北条」などといった大名家に仕える一人の武将としてゲームに参加し,主(あるじ)である大名を天下統一に導くことを目的とします。
4Gamer:
大名家に仕えるというのはどういう意味なのでしょうか。システム側で用意した“勢力”に最初から所属した状態でゲームが始まるということですか?
李 濶玉氏(以下,李氏):
そうですね。本作には,全部で12の大名家が用意されていまして,プレイヤーは,ゲームを開始するときにどの大名家に所属するかを選択します。大名家というのは,MMORPGでいうところの“Race”(種族),ほかのブラウザゲームでいえば“同盟”や“勢力”といった類のもので,同じ大名家に所属しているほかのプレイヤーは,問答無用で味方同士になるという感じですね。
藤井氏:
私も公私の両面でいくつかのブラウザゲームを遊ばせてもらったのですが,そこで一つネックに感じていたのが,「味方がいないとすぐにやられてしまう」という部分でした。
4Gamer:
確かに。いわゆる“トラビアン系”と呼ばれるゲームをいくつか遊んで思ったのですが,ある程度大きな勢力に参加しないと,一方的にやられるだけのゲームになっちゃうことも多いですね。
藤井氏:
ゲームを開始すると,隣のプレイヤーが敵でいきなり攻め込まれてしまうなどというのは,ちょっと違うんじゃないかな,と。
李氏:
コアなゲーマーの方なら,そこで「何……だと!?」と頑張ってプレイすると思うのですが,やられてそのまま辞めてしまうというプレイヤーも少なくないんじゃないかと思うんですよね。
藤井氏:
とくに今回のプロジェクトは,「ヤフーさんとがっつり組んでやろう!」というお話でもありましたので,ヤフーのユーザーさんに遊んでもらうという意味でも,そのあたりを配慮したほうがいいのではないかと考えました。
齋田友徳氏(以下,齋田氏):
ヤフーのお客様は,ご存知のように若年層から年配の方までさまざまでして,ゲーマーでない方も多いですからね。その辺については,スクウェア・エニックスさんや開発のONE-UPさんに,いろいろとアイデアを出していただきました。
4Gamer:
でも,大名の人気不人気で偏りが出そうな気もするんですが。それに対してのフォローアップ策はどうでしょう。
藤井氏:
大名家一つあたりの参加人数制限だとか,システム的な制限での対応も考えています。ただ,大名それぞれの魅力があると思いますし,参加人数が多いなら多いなりの,少ないなら少ないなりの楽しみ方ができるゲームになっていると思いますよ。
人数が少ない大名家なら,戦果の取り分も多いですし,ゲームに慣れた方などはそういった大名家に仕えてみるのも面白いプレイスタイルになるかもしれませんね。
4Gamer:
ゲーム全体の流れとしては,やはり4か月で1クールとか,そういうスタイルになるんでしょうか。
藤井氏:
現段階ではそのくらいを予定しています。「武将カード」や経験値などは持ち越されますが,大名家ごとのランキングなどはリセットされる形ですね。
4Gamer:
ゲーム全体の規模感というか,参加人数はどのくらいを想定されているんですか?
李氏:
1サーバーあたり,最大で3万人くらいを想定してシステムを設計しています。
武田 |
上杉 |
北条 |
毛利 |
目指せ天下統一! 「戦国IXA(イクサ)」の合戦システムについて
4Gamer:
本作における戦争にあたる「合戦」は,どういった流れ/形になるんでしょうか。
藤井氏:
どの国と合戦をするかは,各大名家に所属するプレイヤーの投票によって決定されます。例えば,「足利家に攻め込む」みたいな案件を誰かが提案して,それが一定以上の得票を集めると,足利家に宣戦布告がなされて“合戦状態”に突入するという流れですね。
4Gamer:
つまり,システム側で明確に「合戦」という状態が用意されるということですか?
李氏:
そうです。合戦状態になると,攻め込んだ側に対して,相手側の陣地に拠点構築用の領地を与えられるので,そこに侵攻用の砦を築いて戦っていくというスタイルです。
また宣戦布告の直後に合戦が開始されるわけでもなくて,宣戦布告から合戦が開始されるまで,3日間の準備期間も設けられています。
4Gamer:
「いつ攻められるか分からない」というスタイルではないということですね。
戦国IXAは,手軽に遊んでもらえるブラウザゲームの利点を活かして,それこそ普段ゲームを遊ばないような方にも遊んでほしいと思っている作品なんです。ですので,そのあたりの設計については多少“ゆるめ”に考えています。例えば,寝ている間に街が滅ぼされてしまったりするというのは,やっぱり多くの方にとっては厳しいルールだと思いますし。
4Gamer:
確かにそのとおりですね。
李氏:
ですから合戦のシステムに関しても,忙しい人向けに「友軍」という要素を用意しています。これは,いちいち軍隊を操作しなくても,ただひたすら兵士を作って大名のところに送りつけるだけでも,戦いに参加できる(貢献できる)というものです。
4Gamer:
短いプレイ時間であっても,「みんなで戦ってる感」や「参加してる感」をどうプレイヤーさんに感じてもらうかという話ですよね。
藤井氏:
そうですね。そういった“オンラインゲームならではの楽しさ”を手軽に味わっていただくという意味では,ブラウザゲームは最適なジャンルではないかと思います。
多数の有名作家が手がける「武将カード」
4Gamer:
あと先程「武将カード」というお話がありましたが,そちらについても少し。
藤井氏:
戦国IXAに登場する「武将カード」は,ゲーム中に用意されている「戦国くじ」というサービス(ショップ)から入手できます。
4Gamer:
カードのイラストは,いろいろな作家さんが手掛けているんですよね。
大名家の12人を含めたメインのイメージイラストを弊社の直良(※)が,それ以外の各カードに関しては,塚本陽子氏や寺田克也氏,あるいは西村キヌ氏など,各方面で活躍されている漫画家やイラストレータさんに描いていただきました。また,本作の為に発掘した方もいます。
※直良有祐(なおらゆうすけ):ファイナルファンタジーシリーズやフロントミッションシリーズなど,スクウェア・エニックスの各主要タイトルでキャラクターデザインやアートディレクターを手がけるクリエイター
齋田氏:
実を言うと,私は重度の歴史オタクで伊達政宗も好きなのですが,例えば父親である輝宗のイラストでは,彼が子育て熱心という逸話が残っているので,その肩に梵天丸(ぼんてんまる:政宗の幼名)を乗せていたりだとか,持っている武器や服装,シチュエーションなどが,その武将のエピソードをよく表現してもらっているんですよね。歴史好きの方には,そういった細かい描写にも注目してほしいですね。
藤井氏:
クローズドβの時点では,戦国時代の初期に活躍した武将を中心に50枚前後のカードを用意させていただいておりますが,今企画している段階だけでも,150枚を超えるカードを予定をしています。
4Gamer:
集めたカードを一望できる図鑑モードみたいなものってあったりしますか?
李氏:
カードのコレクション要素は,本作の大きな楽しみの一つだと考えておりまして,おっしゃるような図鑑モード的なものも用意する予定ではおります。
藤井氏:
せっかく素晴らしいイラストをクリエイターの方に描いて頂いているので,入手したカードのイラストを大きな画面でじっくり見られるモードだとか,そういう機能も検討しています。
4Gamer:
デジタルなアイテムであっても,そういう“所有感”が満たされる仕掛けがあると嬉しいですよね。
スクウェア・エニックスとヤフーの連携について
4Gamer:
話は少し変わりますが,今回の連携の経緯はどういったものだったんでしょうか。
齋田氏:
ご存知だとは思いますが,弊社は,かなり昔から「Yahoo!ゲーム」というサービスを通して,ヤフーのお客様にゲームコンテンツやゲームの情報をお届けしてきました。
ただ,自社で提供するゲームは「ポーカー」や「将棋」といったカジュアルなものがメインでしたし,オンラインゲームにしても,こちらで踏み込んで何かするというようなことは一切なく,あくまでも集客のお手伝いというスタンスだったんです。
4Gamer:
一般的なポータルサイトとゲームパブリッシャの関係というと,例えば,Yahoo! JAPAN IDと連携してサイトからお客さんを誘導して,その誘導した分の対価を支払うというレベニューシェア方式が多いですよね。あるいは,プロモーションのお手伝いをするだとか。今回の「連携」は,そういった取り組みとはどう違うのでしょうか。
これまでのやり方というのは,凄い乱暴な言い方をすれば,「人がたくさんいるところ(ヤフー)にゲームを置きましょう」というだけものですよね。要するに,一種の広告や出店という扱いでしかありませんでした。
今回の連携はそうではなくて,「ヤフーのお客様にゲームを遊んでもらうにはどうすればいいか」を真剣に考えていきましょうというプロジェクトなんです。
4Gamer:
具体的にはどんなことを指しますか?
齋田氏:
凄いシンプルなところでいえば,お互いに持ってる情報や知識を共有して,どんなゲームならヤフーのお客様に遊んでもらえるのかを,企画/検討するなどですね。
実を言うと,こういう取り組みって,ほかの分野……,例えばショッピングであったりオークションであったりというところでは,マーケティングデータに基づいた大小さまざまな試みがなされているんですよね。それは収益云々という面からでもありますし,ヤフーのサービスをより豊かにしていくという意味でも,とても大切な取り組みです。
4Gamer:
なるほど。
齋田氏:
しかし,それらが優先されていた結果,ことゲームという分野に関しては,なかなか手が付けられないでいた状況でした。ただ,そうこうしている間にも,ブラウザゲームやソーシャルゲームといった市場が立ち上がってきました。ゲームというものが,ある種のWebサービスの一つとして,ヤフーのサイト上からシームレスに遊べる環境が整ってきたわけです。
4Gamer:
そうですね。
齋田氏:
で,「これはヤフーとしてもぜひ取り組むべきだ」という話がある一方,とても良いタイミングでスクウェア・エニックスさんと話し合う機会があり,両社の企業文化や得意分野を相互に理解し合っていく過程で「ブラウザゲームに関して,ご相談したい」というお話を頂きまして。まさに渡りに船といった感じでした。
藤井氏:
最近,ゲーム市場が「厳しい,厳しい」と言われる一方で,ブラウザゲームのような新たな市場が立ち上がってきましたよね。ただそうした新しい分野では,どういうゲームが最適なのか,あるいはお客さんにどうアプローチしていけばいいのか。それがなかなか見えにくいのも確かだと思うんです。
4Gamer:
調査会社ではなかなか追いにくいところもありますし,仮に追えるとしても,それには莫大な費用が必要になりますよね。
藤井氏:
そうなんです。ですから,ヤフーさんと共同で仕事をさせていただくなかで,ヤフーの利用者……言い換えると,ゲーマーではない「普通の人」にゲームを遊んでもらうためのノウハウを模索していきたい。そんな思いもあったんです。
齋田氏:
例えばの話ですが,ヤフーの持つバックエンドのシステムと連携して,このゲームを遊んでいるプレイヤーには××という商品を買っている人が多いだとか,そういうデータを積み重ねていくことも大切なんじゃないかと考えています。それは,広告だとかほかの分野にも応用できることですし。
4Gamer:
いわゆるデータ・ウェアハウジングですね。コンテンツ業界は,兎にも角にも「作品が面白ければ売れる」という考えが根強いので,なかなかそういった定量的な分析は進んでいませんけれど,産業が成熟するにつれて,そういった「どんなお客さんがどうゲームを遊ぶのか」という分析は,重要度を増して来るのかもしれません。
齋田氏:
ヤフーがゲーム事業に乗り出すことで,ゲーム市場の裾野を広げるお手伝いができれば嬉しいですね。
4Gamer:
期待しています。本日はありがとうございました。
さて,スクウェア・エニックスとヤフーという2大ブランドによる取り組みついて,あれこれと聞いてみた今回のインタビュー。つい先日発表された「Yahoo! モバゲー(仮)」など,矢継ぎ早にゲーム市場への布石を打っているヤフーの動向,そして国内大手のゲームメーカーであるスクウェア・エニックスのブラウザゲームに対する見解が聞けたのは,今回の取材の収穫であった。
近年,ブラウザ&ソーシャルゲーム市場が急激に拡大するなかで,この両社が後手に回った感は否めない。しかしそれだけに,巻き返しを図るこの2社による連携は,ある意味で必然の流れだったのかもしれない。
ハンゲームなどを始めとしたゲームポータル間の競争が一段落した今,個々のゲームメーカーがユーザーを囲い込んで商売をする時代ではなくなったきたことは否めない。また,Facebookやmixiにおけるソーシャルゲームよろしく,ゲームポータルを超えた,より大きな枠組み(コミュニティ)がプラットフォームとして立ち上がってきている実情が一方にはある。
国内最大手のゲームメーカーであるスクウェア・エニックスが,ソーシャルゲームを始めとした拡大する新興ゲーム市場に無関心であるはずはなく,いままでの主流であった「3D MMORPG」などと比べれば比較的低コストで作れるブラウザゲームであれば,これを皮切りに,複数のタイトルがローンチされる可能性は大いにある。
そうしたなかでスクウェア・エニックスは,自社のPlayOnlineというサービスをどう扱い,またヤフーやmixi,FacebookといったWebサービスとどう向きあっていくのか。ゲーム会社として,一つの決断を迫られている時期なのかもしれない。
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