インタビュー
プレイヤーと共に成長していく作品が今のブラウザゲーム市場には必要――「戦国IXA」関係者を一同に集めたCBT反省会に参加してみた
オープンβテストのバージョンでは,クローズドβテストの結果を踏まえてインタフェースやゲームシステム(主に合戦の仕様周り)を大幅に変更。より遊びやすく,多くの人が楽しめる内容になっているという。
「戦国IXA(イクサ)」公式サイト
ゲーム業界,IT業界それぞれの最大手が臨むプロジェクトという意味でも注目を集める戦国IXA。今回は,クローズドβを終えた段階で関係者一同を集めて行われた“反省会”に,なぜか4Gamerも呼ばれ,しかも話を進めることになった(これってインタビューというやつでは……)。
クローズドβを終えてみての感想やその反省点,それらを踏まえて今後どういう展開をしていくのか,さらには「そもそもブラウザゲーム市場についてどう考えているのか」など,いろいろな角度から話を聞いてみたので,もらさずここでお伝えしよう。
ちなみに今回集まったのは,スクウェア・エニックスのエグゼクティブ・プロデューサーである渡辺泰仁氏とプロデューサーの藤井聖士氏,ディレクターの岡山博紀氏,プロモーションを務める田所 宰氏,さらにヤフーから齋田友徳氏,開発元であるONE-UPからは代表取締役・椎葉忠志氏と開発ディレクターの鹿野秀介氏の計7名。……要するに,本プロジェクトに関わる主要メンバーほぼ全員である。
大手企業が手がける初の本格派の国産ブラウザゲームとして,戦国IXAは一体何を目指しているのだろうか? いろいろなトピックが入り乱れた議論の内容をお届けしよう。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
一同:
よろしくお願いします。
4Gamer:
まずは,クローズドβテストを終えてみての感想からお聞きします。いかがでしたか。
率直なお話をすると,いろいろな反省点が見えたな,というのが正直なところです。
4Gamer:
戦国IXAの大きな特徴は,戦争というある種の“お祭り”を「システム側で演出しようという試み」だったと思いますが,そこについてのプレイヤーさんの評価はどうだったのでしょう。
ONE-UP椎葉忠志氏(以下,椎葉氏):
私たち自身が言うのもなんなのですが,私どもが開発を手がけている「ブラウザ三国志」などは,いろいろな意味でとても“荒削り”な作品でした。戦争のシステムにしても,ゲーム的な要素で戦いを誘発するというよりは,プレイヤーさんの側にかなり依存しているところがあって。
ONE-UP鹿野秀介氏(以下,鹿野氏):
あくまでもプレイヤーさん達のコミュニケーション次第といいますか。それこそメッセージをやりとりして喧嘩になったら戦争になる,というような(笑)。そういうアナログ的な大雑把っさが色濃くあるのが,ブラウザ三国志というゲームだと思います。
4Gamer:
まぁでも,その荒っぽさがうまい具合に機能しているな,とは遊んでいて思いましたが。
そうですね。そこは,プレイヤーさん達の「濃さ」や「熱」に助けられたな,とは思っていて。ただ,一応はいろいろな工夫もしていて,ブラウザ三国志は「三国志」という世界観を乗っけることで,「これは戦争をするゲームなんだ」という意識をプレイヤーさんに持たせたりだとか,そういう細かい配慮はしていたつもりです。
4Gamer:
一方で戦国IXAという作品は,そういう荒っぽい部分をシステマティックなものに置き換えようとしているのかなと感じたのですが。
渡辺氏:
戦国IXAの見どころの一つは,まさにそういうオンラインゲームならではの“お祭り”に,プレイヤーさんをいかにスムースに参加させるか,という部分です。
本作での“合戦”の扱いは,ほかのブラウザゲームとはちょっと建て付けが違っていて,通常時の街建設とかとは切り離された仕様(※)になっています。
※本作では,合戦は専用のマップで行われ,合戦の期間などもシステム側で設定される。これにより,いつの間にか攻められていた,というような状況を減らし,また合戦の時期を規定することで,プレイヤーが“合戦に参加するタイミング”を合わせられる(一緒に遊んでいる感が演出されやすい)。
若干スポーツライクといいますか。戦争の“負の部分”はできるだけ排除して,ポジティブな面白い部分だけをシステムで演出できれば,という方向なんですよね。
4Gamer:
負の部分というのは?
椎葉氏:
昔,ブラウザ三国志を開発するにあたって,私らもいろいろなブラウザゲームを遊んでいたんですけど,街が滅ぼされたりするというのは,やっぱり「コアな人はいいけど,普通の人はこれは厳しいよな」と感じていました。
4Gamer:
滅ぼされそうな人から,悲痛なメッセージが送られてきたりすることもありますしね……。
ええ。で,「どうしてこういう風になってしまうんだろう」というのを踏まえながら,戦国IXAの仕様についてあれこれ議論するなかで,やっぱりそういう仕様は間違っているのではないか,という話があったんです。
渡辺氏:
そこは多分,いわゆる「デスペナルティ」についての考え方だと思うんですよね。なんというのか,私が他社さんのブラウザゲームを遊んだときに感じたのは,「滅ぼされないために頑張る」という方向が強すぎるのではないかということでした。楽しく遊ぶために頑張るんじゃなくて,(街が滅んで)嫌な気分を味わいたくないために頑張る……といいますか。
4Gamer:
言わんとしていることは理解できます。遊ぶ“動機”が後ろ向きというか。
渡辺氏:
例えばの話ですが,弊社が開発/運営を手がけている「ファンタジーアース ゼロ」では,戦いで負けてもデメリットってないんですよね。でも,だからといって“戦うモチベーション”がないかというと,そんなことはない。
藤井氏:
あくまで「勝つために戦う」と言えばいいでしょうか。ゲームを遊ぶ(戦争をする)動機は,できるだけポジティブであるべきだと考えたんです。
そういうスクウェア・エニックスさんからのご意見もあって,戦国IXAでは,合戦で負けても大きなデメリットは発生しない仕様になっているんです。合戦の期間中にみんなでわーっと集まって,気軽に楽しめるような形にできればと考えました。
椎葉氏:
合戦というか,競争要素のそうした負の側面を考えたとき,そこをスポーツライクにしてしまうというのは,一つの解決策になり得るのかなと。
4Gamer:
その意味では,戦国IXAの戦争システムは,クローズドβでうまく機能していたんですか?
鹿野氏:
それが,正直なお話をすると,テスト期間が短かったこともあって,課題を多く残してしまったと思います。また戦争のシステムについて,プレイに慣れてないプレイヤーさんに対して説明不足だったことも反省点です。
渡辺氏:
そうした反省点を踏まえて,オープンβテストで公開されるバージョンでは,戦争のシステムが大きく変更されます。以前は,攻撃側の進入経路が「国の外側」だったんですが,そうじゃなくて,国の内側の複数あるポイントへ進入する形に変更されています。プレイヤーさんの意見を参考に,いろいろ改良しています。
以前は,攻撃が外側からだけだったので,国の内側に領地があるプレイヤーは,合戦の最前線に立つことがなかったんですよね。
岡山氏:
ええ。合戦については,プレイヤーさんから頂いた評価って割と真っ二つに分かれていて,最前線で戦っていたプレイヤーの方からは「面白い!」という声を頂けたのですが,逆に国の内側に領地があるプレイヤーの方からは,「なんだかよく分からない」「面白くない」という評価をされてしまいましたので。
鹿野氏:
そこで,オープンβで遊べる新しいバージョンでは,攻撃側の出現位置を複数用意することで,「どこでも最前線になり得る」という形に変わっているんですよ。
齋田氏:
とはいえクローズドβの時に,合戦が始まって攻撃側の出城がずらりと並んだりしていたのは圧巻でしたよね。
渡辺氏:
そうですね。ああいうプレイヤーさん達が一斉に参加することで体験できる,オンラインゲームならではのダイナミズム自体は,割とうまく表現できていたように思います。
4Gamer:
他にオープンβテストで大きく変わる変更点は何かありますか?
主にユーザーインタフェース周りですね。こちらもプレイヤーさんやスクウェア・エニックスさんから頂いた意見を参考にして,大きく手を加えました。左から順(編注:目線の動きやすい順)に,よく使うであろうコマンドを並べていたりだとか,細かい修正を行いました。
SQEX田所 宰氏(以下,田所氏):
あと,オープンβテストに合わせて新カードも追加されますし,いろいろなイベントも予定していますよ。
戦争をするだけのゲームにはしたくなかった
4Gamer:
ときにクローズドβテストに参加したプレイヤーさんは,どういった層が中心だったんでしょうか。
齋田氏:
クローズドβは,弊社を中心にプロモーションをかけたのですが,カジュアルな方よりもコアな方が多かったですね。
岡山氏:
弊社でアンケートをやらせて頂いたのですが,すでに「トラビアン」やブラウザ三国志などといった類のブラウザゲームを遊んだことがあるというプレイヤーさんは,全体の2〜3割といった感じでした。
4Gamer:
でも,7割は新規のプレイヤーさんだったわけですね。経験者と非経験者で遊び方の違いなどはあったんですか?
岡山氏:
先ほど「合戦についての評価が分かれた」というお話をしましたが,合戦そのものの仕様以外にも,合戦に対するそもそもの意識の違いというか,そういうものも割と顕著だったかな,と思えるような印象もありました。
4Gamer:
意識の違い?
岡山氏:
なんと言いますか,戦争シミュレーションゲームを遊んだことがないプレイヤーさんは,合戦よりも街の建設をメインに捉えていらっしゃるというか。まるで牧場系のブラウザゲームを遊んでいるようなプレイスタイルの方が多かったんですよね。
4Gamer:
なるほど。
ただ,そこについては我々もある程度は理解していまして,当初から戦争をするだけのゲームにはしたくないと考えていました。
岡山氏:
ええ。だから戦国IXAって,実はRPG的な要素を色濃くしてあるんです。武将にしろ街にしろ,プチプチと操作して育っていくのが楽しい,というのが根幹にある。そしてその育てた武将なり軍隊なりの活躍場所として,合戦という場が用意されているといいますか。
鹿野氏:
ブラウザ三国志などでは,内政と戦争どっちがメイン要素かというと,それは間違いなく戦争なんですよね。戦争をするために内政をして軍隊を用意するので,内政自体は準備部分でしかないんです。でも戦国IXAでは,むしろ内政のウエイトを重くしていて,「育てる楽しみ」みたいな部分を重視しています。
藤井氏:
ひたすら地道に街や武将を育てていくのでもいいのですが,多少リスクを取ってでも大きく成長をしたいという時に,戦争に参加してもらう。先ほどのお話でもありましたが,本作における戦争(合戦)は,あくまでもスポーツライクな位置づけなんです。
4Gamer:
あんまりギスギスしてしまうと,ライトなプレイヤーは厳しいですしね。
田所氏:
ですから,もし戦国という部分で「難しそう」と躊躇されている方がいたら,とにかく一回遊んでみてほしいですね。
これは普遍的な面白さがある――スクウェア・エニックスが見るブラウザゲーム
4Gamer:
少し話が脱線してしまうのですが,そもそもこの戦国IXAのプロジェクトがスタートしたのっていつぐらいだったんですか?
渡辺氏:
具体的に話が動き出したのは,去年の5〜6月くらいでしょうか?
椎葉氏:
そうですね。戦国物でいこう!という話になったのは,さらに1〜2か月後だと思いますが。
4Gamer:
じゃあ,まだブラウザ三国志がブレイクする前の時期に走り始めたということですか?
渡辺氏:
時期的に言えばそういうことになりますね。
4Gamer:
そういう時期にブラウザゲームというものに取り組もうと思ったきっかけはなんだったんでしょう。
一番の理由を言うなら,「社内で流行ったから」というのが一番大きいかもしれませんね(苦笑)。当時,ブラウザゲームが日本で流行り始めた頃で,勉強がてら社内で何人かに声をかけて,いくつかのブラウザゲームを遊んでみたことがあったんです。
4Gamer:
反応はどうでしたか。
渡辺氏:
それがもう,みんな面白いようにハマってしまって(笑)。私自身も「これは普遍的な面白さがあるな」と感じて,この面白さをスクウェア・エニックスというブランドを通じて広く世に知らしめれば,そこにはチャンスがあるのではと考えていました。
4Gamer:
ただ,途中でブラウザ三国志が大ブレイクしたり,ブラウザゲームに参入する企業が相次いだりして,ブラウザゲームに対する環境も,ここ1年で大きく変化しましたよね。
渡辺氏:
企画の当初は,もっとシンプルな形で素早くリリースするという話もあったんですよ。ただヤフーさんとのお話もあり,ブラウザゲームというものをより広く遊んでもらうために必要な要素を改めて考え直す,という方向に向かっていきました。
椎葉氏:
戦国IXAって,いろいろ挑戦的というか,とても“欲張り”なプロジェクトなんですよね。後発ということもあって,我々が手がけたブラウザ三国志や他社さんの作品を見たうえで,もっとこうした方がいいんじゃないか,これがあればもっと面白いんじゃないかと,いろいろなアイデアを詰め込もうとしてるタイトルなんです。
渡辺氏:
結果としては,割と挑戦的なプロジェクトになりましたね。
4Gamer:
先の合戦システムのお話もそうですが,戦国IXAってゲームデザイン的なチャレンジは実は結構多いですよね。
育てていくプロジェクトとして戦国IXAを見てほしい
4Gamer:
先ほどブラウザゲームに取り組む経緯について触れさせて頂きましたけど,ブラウザゲームあるいはソーシャルゲーム市場は今後どうなっていくとお考えですか?
渡辺氏:
んー,あんまりソーシャルがどうのというのは意識していないですね。先ほどもいったように,普遍的な面白さと言いますか,「時間を拘束しない」だとか「非同期で楽しめる」だとか,普遍と言える要素がいくつかあり,それが技術的な背景などと組み合わさっていった結果,今のブラウザゲームというものが生まれてきたんだと考えています。
4Gamer:
バズワードとしての「ソーシャル」「ブラウザ」の流行り廃りはともかく,その中身にある普遍性/本質というのは確かに感じますよね。
渡辺氏:
ブラウザゲームについては,やっぱり椎葉さんに語ってほしいと思いますけど,どうですか?(笑)
おっしゃる通りだと思います。今の,ある種バブルのような盛り上がりがずっと続いていくかどうかはともかくとして,どんなPC/端末にもインストールされている「ブラウザ」というプラットフォームがあり,またそれが技術的にもこなれてきた結果として,十分な楽しみが体験できる新しい遊び方が出てきた。そこは普遍だと思うんです。
4Gamer:
でも一方で,「最近,新作ブラウザゲームの寿命が急速に短くなってきた」という話をオンラインゲーム会社の各社さんから聞くようになりました。
椎葉氏:
なんせタイトル数は半端なく乱立していますからね。ある程度は仕方のないことだと思いますが……。作り手側として不安がないかといえば,嘘になるでしょう。
4Gamer:
そんななかにあって,この戦国IXAが目指すの方向はどういったところなのでしょうか。
渡辺氏:
我々スクウェア・エニックスがこれまでいくつかのオンラインゲームを開発/運営してきたなかで,一つの信念があるんです。
4Gamer:
それは?
渡辺氏:
それは,「真に成功するオンランゲームとは,プレイヤーと共に成長していくタイトルだ」ということです。
藤井氏:
弊社で言うと,「ファイナルファンタジーXI」や「ファンタジーアース ゼロ」がまさにそうだったと思います。ゲームがリリースされて時間が経っても,飽きられるどころかむしろ人が増えていくという。本当の意味で成功しているオンラインゲームというのは,そういうものだと感じるのです。
4Gamer:
他社さんの事例を見ても,確かにそういった側面はあるかもしれませんね。
最近のブラウザゲーム市場は,おっしゃるようにタイトルの寿命が加速的に短くなってきていると思います。でも戦国IXAは,むしろ時間の経過と共にプレイヤーが増えていくような作品にしていきたいと考えているんです。ただ消費されるだけのタイトルではなくて,そういう“プレイヤーと共に成長していくゲーム”が,今のブラウザゲーム市場には必要なのではないでしょうか。
4Gamer:
ではプロジェクトそのものの計画も,かなり長いスパンで組まれているんですか?
渡辺氏:
そうですね。オープンβテスト後も常に開発/改良を続けていく予定ですし,正式サービス後も同様です。場合によっては,今後システムががらりと変わることだってあるかもしれません。
齋田氏:
以前のインタビューでも触れたかと思いますが,ヤフーとしても,今回のプロジェクトはただのプロモーション協力という視点では見てないんですよね。ネット(Web)を使った新しいエンターテイメントを,より広くのお客様に届ける施策の一環として捉えています。
椎葉氏:
「未完成」という言葉は遊んでくれているプレイヤーの方に失礼なので使いたくはありませんが,作り手として見た戦国IXAというプロジェクトの魅力は,そうした“伸びしろ”の大きさだとも感じています。
4Gamer:
どんどん変化していく,ある種のライブ感のようなものも,オンラインゲームの魅力ではありますよね。
渡辺氏:
ええ。ブラウザゲームというこの新たなプラットフォームで,より多くのお客さんにオンラインゲームの魅力を体験して頂けたら嬉しいですね。関係者一同,今後もより一層努力していきたいと思います。
4Gamer:
分かりました。本日はありがとうございました。
さて。今回の取材を通して強く感じたのは,渡辺氏や椎葉氏が,ブラウザゲームをただの流行り物のジャンルとして捉えているのではなく,そこにある種の“普遍性”を見出しているというところだろうか。
さまざまな娯楽やサービスがあふれ,可処分時間の奪い合いが激しさを増しているという昨今。時間を拘束せず,またハードウェアも選ばないブラウザゲームが流行っているのは,決して偶然ではないだろう。大金を掛けたコンソールゲーム開発とは違うベクトルとして,今後もブラウザゲームが持つ“普遍性”を応用した作品が登場してくるのは間違いないと予想される。
8月2日からオープンβテストが開始されている本作「戦国IXA」は,タイトルが乱立する昨今のブラウザゲーム市場にあって,本作が渡辺氏の言うような“成長していくタイトル”になり得るのか否か。その動向を見守りたいと思う。
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