連載
宇宙人教師がやって来た! 「放課後ライトノベル」第82回は『侵略教師星人ユーマ』で生徒も侵略者もまとめて宇宙的スケールで熱血指導
思えばこれまで,ゲームからはたくさんのことを学んできた。たとえばRPGは,主人公たちの冒険を通じて,生きる意味や人生とは何かといった問題を,まだ幼い筆者に考えさせてくれた。パズルゲームは論理的に考える力を養ってくれたと思うし,プロ野球選手の名前をすらすら言えるようになったのは野球ゲームがあったからだ。格ゲーをしていると画面の外でも戦いが始まることや,本当に怖いのはボスの強力な攻撃ではなく親が無言で押すリセットボタンであること……どれも,ゲームをやっていなければ分からなかったことだ。
大人になった今もそれは変わらない。協力プレイが楽しいゲームのヒットは一緒に遊ぶ友達を作っておく大切さを痛感させてくれたし,ソーシャルゲームの流行は「なるほど,人はこうして課金に慣れていくのか……」というプロセスをまざまざと見せつけてくれた。今も昔も,ゲームは我々にとってこの上なく優秀な教師であるのかもしれない。
と,思わずドヤ顔になるくらい良いことを言ってしまった今回の「放課後ライトノベル」では,そんなゲームに負けないくらいナイスな教師が登場する作品を紹介する。第18回電撃小説大賞・メディアワークス文庫賞を受賞し,著者のデビュー作となった『侵略教師星人ユーマ』がそれだ。
『侵略教師星人ユーマ』 著者:エドワード・スミス 出版社/レーベル:アスキー・メディアワークス/メディアワークス文庫 価格:578円(税込) ISBN:978-4-04-886541-8 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●宇宙人が降りてきた町に,宇宙人教師襲来!
太平洋に臨む小さな港町,茜陽町。この町の沖合には,10年前より巨大な建造物が鎮座している。10年前,アゾルトと名乗る宇宙人が突如として宇宙から飛来。彼らが乗ってきた,12の巨大宇宙船のうちの1つがこの町に降着したのだ。彼らとのコミュニケーションにも,その排除にも失敗した人類は,彼らの行為を黙認。以来今日まで,町の人々は侵略の象徴とも言えるアゾルトの宇宙船を見つめながら生活することを余儀なくされていた。
茜陽町唯一の高校に通う2年生,桜井舞依(さくらいまい)は,アゾルト星人の飛来と同時期に母を失ったことから,宇宙人に対して強い嫌悪感を抱いていた。ある日彼女は,アゾルトの宇宙船に向かって拡声器で「地球は自分が侵略する。貴様らは出ていけ」と怒鳴る男と遭遇する。関わり合いにならないよう,その場を去った舞依だったが,間もなくその男,ユーマ・森次(もりつぐ)が彼女の家の隣に引っ越してきたことを知る。
驚きはそれだけにとどまらない。翌日,学校に姿を現したユーマは,舞依たちに向かって「今日から俺がこのクラスの担任だ」と告げたのだ。同時に彼の弟,ソーマが転校生として舞依たちのクラスメイトに。宇宙人を自称する,奇妙な隣人にして教師を得て,舞依の日常は徐々に変わり始めていく――。
●「平凡」から半歩踏み出した,キャラクターたちの愉快な競演!
この作品の最大の魅力は,なんといっても生き生きとしたキャラクター描写。「自称宇宙人」である森次兄弟はもちろんのこと,平凡な学生であるはずの舞依とその友人,家族たちの描かれ方も非常に印象的なのだ。
舞依の親友である桂木(かつらぎ)アンナは,クォーターだが中身は生粋の日本人。しょっちゅう擬音交じりでしゃべるムードメーカー役として,たびたび場を盛り上げてくれる。もう1人の親友・菱見百合香(ひしみゆりか)はちょっと天然気味のお嬢様で,ユーマに惚れ込んでからの恋する乙女っぷりには,にやにやすること請け合い。掃除をサボることに血道を上げるクラスメイト,黒部小太郎(くろべこたろう)とユーマとの対決に至っては,もはやクラスの風物詩と化している。
そのほか,舞依の姉妹やユーマの同僚教師といった,ほかの登場人物もいずれも魅力的。その誰もが,無理やり個性づけされているのではなく,あくまで現実的な範囲内で特徴づけがなされているのがポイントだ。
そしてもちろん忘れてはいけないのが,ユーマ,ソーマの森次兄弟。弟のソーマは,料理の腕前は超一流,兄のサポートもそつなくこなす美少年,という天から二物も三物も与えられたような人物。一方で,見た目と中身にギャップのある人や物に,つい心魅かれてしまうという弱点(?)も。気になる女性と接近して動揺する様は,いかにも年頃の少年らしくてなんとも和む。
●未熟な生徒や不埒な侵略者に,ユーマの宇宙的指導が炸裂!
だが,本作で最も魅力的なキャラクターといえばやはり,堂々とタイトルを飾っているユーマその人だろう。自らを宇宙人だと自称してはばからず,なにかにつけて発言が宇宙規模になるユーマは,そこだけ見れば単なるエキセントリックな人だが,意外や意外,授業の進行は極めて丁寧。宇宙規模の言動も,「なんか変わった先生だなあ」程度に軽く流され,むしろ竹を割ったような態度が生徒たちの人気を集めてしまうという,なんとも苦笑いな展開に。
もっとも本人はいたって真面目で,ぱっと見の印象に惑わされなければ,その思考にきちんとした筋が一本通っていることがよく分かる。実際,この作品を読んでいると,彼の宇宙規模の視点から発せられる,さまざまなものの見方や考え方にはっとさせられることも。侵略対象である地球に対する,ユーマの熱い気持ちを知ったときには思わず涙ぐみそうになってしまった。
「宇宙人アレルギー」の舞依も,そんなユーマとの会話を通して,徐々に意識が変わっていく。彼女が10年間ため込んでいた鬱屈を,ユーマがアゾルト星人の陰謀と共に粉砕せんとするクライマックスは実に痛快かつ,ウルトラマン世代には必見の内容。その際の彼と地元住民とのやり取り,これがまたほのぼのとしていて笑いを誘う。
宇宙的なスケールの広がりを持つ,ご町内的コメディの佳作『侵略教師星人ユーマ』。読めばきっと誰もが「こんな先生に教わりたかった……」と思うはずだ。
■メディアワークス文庫賞のもう1冊は女性にお勧めの恋愛もの
メディアワークス文庫は,電撃文庫を擁するアスキー・メディアワークスから,2009年12月に創刊されたレーベル。電撃文庫の枠に収まりきらない,幅広い作風の小説を送り出すために作られたレーベルで,電撃文庫でデビューした作家がこちらで作品を書いたり,その逆も多い。最近では,本連載の第66回で紹介した『ビブリア古書堂の事件手帖』が文庫本としては初めて本屋大賞にノミネートされるなど,創刊3年目にして早くも存在感を見せている。
『月だけが、私のしていることを見おろしていた。』(著者:成田名璃子/メディアワークス文庫)
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メディアワークス文庫賞は,そんなメディアワークス文庫の創刊に対応する形で,電撃小説大賞の中に新たに創設された賞(第16回から)。今回受賞作が発表された第18回では,『侵略教師星人ユーマ』と『月だけが、私のしていることを見おろしていた。』の2作が同賞を受賞している。『月だけが〜』は,恋人と別れた女性が,天体望遠鏡を通じて出会った青年と交流していく話。主人公の細やかな心情描写が強く心に残る,ぜひ女性に読んでほしい一作だ。
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