連載
この先,もっと君を好きになる。「放課後ライトノベル」第114回は『さくら荘のペットな彼女』で運命の修学旅行へ出発します
いやあ,季節の変わり目ってやつは急に忙しくなりますね!(録り溜めたアニメを消化しながら)。ジョジョとかJoJoとか,いろいろ語りたいアニメはあるのですが,本連載としてやはり注目していきたいのは「K」。7人の王が繰り広げる異能バトルという中二ゴコロをくすぐる設定も魅力的ですが,脚本を務めるのがライトノベル作家達で結成された「GoRA」ということもあり,ノベライズを始めとする今後のメディアミックスにも大いに期待が持てます。
そうしたオリジナル作品以外にもライトノベル原作のアニメがいくつかスタートしており,今回の「放課後ライトノベル」で紹介するのも,つい先日アニメが始まったばかりの『さくら荘のペットな彼女』の最新巻。アニメではまだ初々しい空太とましろのやりとりですが,この最新巻ではなんだか凄いことに!?
『さくら荘のペットな彼女8』 著者:鴨志田一 イラストレーター:溝口ケージ 出版社/レーベル:アスキー・メディアワークス/電撃文庫 価格:620円(税込) ISBN:978-4-04-886986-7 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●変人だらけの寮で始まる,飼い主・ミーツ・ペット
さくら荘,それは水明芸術大学附属高等学校において,一般寮の生活に馴染めなかった者ばかりが集められた特別な寮。高校2年生の神田空太(かんだそらた)は,比較的常識人ながらも,捨て猫を見捨てることができなかったばかりにペット厳禁の一般寮を追い出され,そのさくら荘に入居するはめになってしまう。
常にハイテンションな上井草美咲(かみいぐさみさき),美咲の幼なじみで女性関係にだらしがない三鷹仁(みたかじん),部屋に引き篭もりっぱなしで,めったに姿を見せない赤坂龍之介(あかさかりゅうのすけ)など,変わり者だらけの住人に振り回される日々に疲れ,「脱・さくら荘!」を誓う空太だったが,そんなある日,さくら荘に新たな住人がやってきた。
彼女の名前は椎名(しいな)ましろ。空太と同い年ながら,絵画の世界ではすでに高い評価を受けている天才画家だが,彼女には致命的な問題があった。幼い頃から絵画の世界にどっぷりと浸っていたため,生活能力や社会的常識が残念なことになっているのだ。
顔を洗えば洗面所が水浸しになる,登校中どころか学校の中ですら迷子になる,コンビニに行けばレジを通さず,その場で商品を食べる。当然,誰かが面倒を見てあげなければならず,さくら荘でその役目が果たせるのは唯一の常識人である空太のみ。かくして,ましろの“飼い主”となった空太だったが,さらにタチの悪いことに,ましろには羞恥心が足りなかった。おかげで平気で裸を見せたり,下着を空太に選んでもらったりと,やりたい放題だ。こうして空太少年の苦悩と懊悩(おうのう)の日々が幕を開ける。
●そして少年は才能という絶対的な厳しさと出会う
こうした羨ましくもけしからんダダ甘な日常描写や,ツッコミ体質の空太と変人たちの軽快な会話だけでも十分に楽しいのだが,本作はそれで終わるだけの作品ではない。ましろが日本にやってきた真の目的は,芸術の世界から足を洗い漫画家を目指すため。だが,それは空太にとって到底理解しがたいことだった。
才能があるのに,なぜそれを活かさず違う分野に進もうとするのか? どうしてそこまで好きになれるものが見つかるのか? これといった目標も才能も持たないからこそ,空太にとってはましろの存在が許せなかった。
本作の舞台となるのは“芸術大学附属高校”。つまり何かを表現して生きようとする者が集まる場所である。もちろん,集まってくる者は,他者との才能の違いに対してとても敏感だ。圧倒的な才能に対する敗北感。順調に前に進んでいく周りの人に対する劣等感。そうしたマイナスの感情は,相手との関係が身近であればあるほど,より大きく膨らんでいく。
そんな葛藤を胸に秘めながらも,自分が本当に望んでいるものを見つけ出し,憧れの対象に負けないために,前に足を踏み出す空太の姿が素晴らしい。夢に向かって進もうとすれば,当然立ちはだかる壁もあるし,挫折を経験することだってある。それでも再び立ち上がり,目標に向かって真っ直ぐ進もうとするその姿は,読者をも前向きな気持ちにさせてくれる。
そして,そうした思春期ならではのコンプレックスと各人の恋愛感情をうまく絡ませることで,本作はまさに青春というものを凝縮したラブコメに仕上がっている。
●2人同時の告白に,空太が出した答えとは!?
そんな『さくら荘のペットな彼女』だが,最新巻はラブ度が200パーセント増し。ましろがさくら荘にやってきてから早一年。美咲と仁が卒業し,新入生が入寮してきたりと,さまざまなものが変わっていく。いつまでも昔と同じではいられない。そして,それは人間関係においても同様である。
7巻のラストで空太は,さくら荘に住む声優志望の少女,青山七海(あおやまななみ)とましろの2人から同時に告白を受けた。当然すぐに答えられるはずもなく,考える時間が欲しいという空太。その期限は修学旅行が終わるまで。
だが,考えれば考えるほど空太は自分の気持ちが分からなくなり,そして一方で重大なことに気づく。もしかして自分がましろに対して抱いていた気持ちは恋愛感情などではなく,ただの「憧れ」だったのではないだろうかと……。かくして,答えを出せないまま,ついに北海道での修学旅行を迎える。
毎回,進路のことや周囲の人間関係,寮の存続の危機など,さまざまなことに頭を悩ませてきた空太だが,今回の悩みはいたってシンプル。2人のうちのどちらを選ぶか? 2人とこれまでにさまざまな思い出を積み重ねてきただけに,そう簡単に割り切れるものではない。今回の空太は最初から最後までとことん悩み続ける。だからこそ,普段はちゃらんぽらんな先生による真摯なアドバイスは,いつも以上に心に沁みる。そうして周りの人々にも支えられ,空太はついに決断を下す。果たして空太が選ぶのは?
1巻から続いたさくら荘の恋愛模様もいよいよクライマックス。作者のあとがきによれば,物語はあと2冊で完結する予定とのこと。これから,カップルになった2人はどう描かれるのか,空太が目標とするゲーム作りはどうなるのか? ますます今後の展開は気になるが,とりあえずはアニメを観ながら次の巻に期待したい。
■ペットを飼うより飼われたいという人にお勧めのライトノベル
今回のコラムでは,「女の子をペットにするのもいいけど,女の子のお世話っていろいろ大変そうだし,どちらかといえば飼われたりしたいよね!」というダメ人間なアナタのための3冊を紹介しよう。
『犬とハサミは使いよう』(著者:更伊俊介,イラスト:鍋島テツヒロ/ファミ通文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
まず1冊めはファミ通文庫の『犬とハサミは使いよう』。ある日,強盗に襲われて命を落とした本好きの少年・春海和人。「読まずに死ねるか!」という強い意志によって,見事蘇ることに成功……ただしダックスフンドの姿で。犬になったら本が読めなくて困ると嘆く和人だったが,そこに現れたのはハサミを振り回すドS女の夏野霧姫。なぜか彼女は和人の言葉が理解できるうえに,とある秘密も持っていて……。犬になってもとりあえず本を読むことを何より優先する和人と,そんな和人をハサミでチョキチョキしようとする霧姫のやり取りが楽しい。
続いては淺沼広太の『俺は彼女の犬になる!』(MF文庫J)。「悪魔召喚マニュアル」で淫魔サキュバスを呼び出し,彼女と契約した富士岡藤紫郎。すると彼の体はみるみる小さくなっていき,チワワに変身してしまう。人間の時は頭の中のエロいことを次々と口に出すなかなかナイスな変態さんだが,チワワに変身した時には身分を利用して女子のスカートの中をくんかくんかしたり,胸元にもぐりこんだり,いろいろな箇所をぺろぺろしたりとやりたい放題。本能に忠実で大変ほほえましい限りだ。
最後に,犬ばかり扱うのも不公平なので(?),猫が主人公の作品として竹林七草の『猫にはなれないご職業』(ガガガ文庫)をご紹介。「吾輩は猫又である。」という,どこかで聞いたような冒頭から分かるとおり語り手は猫又で,しかも陰陽師。外見は可愛らしいけど中身は渋いおっさんである。飼い主の桜子を助けるため,腐女子と組んで妖怪相手に戦うという,ギャグっぽい設定なのに意外とバトル描写が濃厚な作品だ。今回紹介した中では最も動物に近いくせに,人としては一番まともな気がする。
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