インタビュー
夢のコラボが実現した驚きの経緯とは。本日発売の「STREET FIGHTER X(クロス) 鉄拳」,小野P&原田P直前インタビュー
今回4Gamerは,本作,そして「ストリートファイターIV」シリーズのプロデューサーであるカプコンの小野義徳氏,「鉄拳」シリーズプロデューサーであるバンダイナムコゲームスの原田勝弘氏に発売直前インタビューを敢行した。夢のコラボ実現に至った経緯や制作秘話,良質な格闘ゲームが日本で生まれる理由,昨今の格闘ゲームシーンの印象についてなど,トピックス盛り沢山の内容をお届けしていこう。
「STREET FIGHTER X 鉄拳」公式サイト
4Gamer.net「STREET FIGHTER X 鉄拳」攻略特設サイト
夢のクロスは焼き肉屋から始まった
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。ストリートファイターと鉄拳の夢のコラボであるストクロ。まずはその本作を手がけることになった経緯をお聞かせください。……あれ,そういえば小野さんは,「ストリートファイターIV」(以下,ストIV)の頃,「次は『ヴァンパイア』を作りたい」とおっしゃっていたましたよね。
ちなみにヴァンパイアは絶対嘘ですから! 完全なトローリング(釣り)ですからね。
小野義徳氏(以下,小野P):
違うわ! 作るためのハードルが高いの! ……まあ,ストIVを作るのも大変だったんですよ。「そんな過去のゲーム作る必要がない」って言われて,社内の9割9分から反対されてましたから。
原田P:
(対戦格闘ゲーム制作に)10年間のブランクがありましたからね,カプコンさんは。
小野P:
「ストリートファイターIII 3rd STRIKE Fight for the Future」以来だからね。
4Gamer:
……ヴァンパイアを作りたい気持ちは,今でもあるんでしょうか。
小野P:
それは本当ですよ。現に企画書も何回か出してますから。
4Gamer:
ヴァンパイアの新作は,本当に楽しみです。ぜひよろしくお願いします(笑)。
……ではあらためて,ストクロの実現に至るまでの経緯についてお聞かせください。
小野P:
コンシューマ版のストリートファイターIVが世に出た2009年頃かな。原田さんと「(格闘ゲームの)熱をまだまだ継続していかないといけない」って話し合ったんですよ。で,昔の格闘ゲームはマスに向けて作っていたけど,今はもうプレイヤー達のコミュニティをどう育てていくか,どう付き合っていくか,という時代に変わってきている。そんな状況の中で,“コミュニティに対してアピールできるもの”を考えたときに,「勢いがあって,コミュニティも大きいところ同士でやれば,共鳴するんじゃないの?」という話になったんです。
4Gamer:
コミュニティ,ですか。
小野P:
そう。ストリートファイターと鉄拳,大きなコミュニティを持っている双方のファンに訴えかけることで,ちょっと外れた人からも「あれ?」と思ってもらえる可能性がありますし。そもそも格闘ゲームをやっている人だったら,どっちの作品も見たことがあるはずじゃないですか。そこで「あれ? 同じ会社のゲームじゃないぞ」って疑問に思ってもらえて,さらに詳しい人なら,今までなら絶対に交わることのなかった「2Dと3D」だし……。
原田P:
予想外のはずや! っていうのはありましたね。
小野P:
この話題性だけで,買ってくれるかどうかまでは分からないですけど,「まあちょっと見てみようか」ぐらいの気持ちは誘えるわけです。それが「格闘ゲームの熱」を出す“振動”になるんじゃないかって。
4Gamer:
なるほど。では最初は小野さんから原田さんへ話を持ちかけたわけですか。
小野P:
これが不思議なことにね,何の打ち合わせもしてないのに,同じ話を同時に切り出したんですよ。
原田P:
そうそう。打ち合わせしてないのに,今日このお揃いのペアルックを着てくるくらいだから(笑)。
小野P:
そうなんですよ。今日ここに着いたらお互い指さして「……よしっ!」ってなもんで(笑)。
(一同笑)
原田P:
まあ最初に具体的な話が出たのは,品川で一緒に焼き肉を食べたときなんですけど。
小野P:
3年くらい前かねぇ。
原田P:
そこで,自然発生的に今作の話をしたんですよ。お互い「もうこの話が出そうだな」って感じていたらしく,アイデアを持ち寄ってね。
4Gamer:
なんと。
小野P:
だから話が進むのは早かったですよ。タン塩を焼き始めたときには,もう具体案を話し始めて,ミノにいったときには,もう「次は何をするべきか」って話をしていました。
原田P:
その次のステップで,「僕は今『鉄拳TAG TOURNAMENT2』を作ってて忙しいんだけど,小野さんはどうですか。それを先に作ってくれる時間ありますか?」って。
小野P:
ハラミを焼いてるときに,もうその話になってましたね。
原田P:
小野さんが「今からやったらいけますよ」って言ってくれたんで,「小野さんはドラフトを書いてください。僕は今からグループ内でロビー活動をします」と。
小野P:
電光石火のロビー活動だったもんね(笑)。
原田P:
会社同士での話し合いを,細かいプロセスは全部すっ飛ばして,両社の社長と開発のトップと僕らの6人で顔を付き合わせて,僕と小野さんでやりたいことをプレゼンして,「……やりますよね!」って手を握らせる――そこまでを一気にやりましょう,ってことで,2か月ぐらい水面下で活動してたんですよ。
小野P:
時間をかけると絶対におかしな人が出てくるので。金の匂いをかぎつけた亡者どもがうわーっとね(笑)。
原田P:
そうそう。大きいタイトルなので,先走って色々フライングする人が増えると思ったんです。でもそんな事のせいで,こんな面白い話にミソがついたり,下手をして企画自体がなくなるのはつまらない。なので,2人で水面下で一気に下準備して,バンダイナムコ未来研究所の応接室で,お互いの社長同士を会わせて……という作戦を立ててね。今思えばあの歴史的なシーンを,写真に撮っておけば良かったよね。
4Gamer:
いやいや,それにしたって,かなり大きなプロジェクトですよね。進めるうえで,小野さんと原田さんの間に不安はなかったんでしょうか。
小野P:
最初から2人とも同じ目標だったんですよ。“振動を作ろう”って。あと彼が言うには,「カプコンさんがせっかく格闘ゲームシーンに10年振りに帰ってきたんやから,一緒にやろうよ」,と。
4Gamer:
原田さんは,小野さんに帰ってきてほしかった,と。
原田P:
いやいや,帰ってきてほしかったのはストリートファイターですよ! 小野さんなんて言ったら,世の中の人から「あいつらデキてんのか」って思われるわ(笑)。
(一同笑)
小野P:
今だって,そう思われてるフシがありますからね(笑)。
原田P:
僕の中での経緯という意味では……この20年の間には色々あったじゃないですか。とくに格闘ゲームって,ちょっと盛り上がるとブームだっていわれたり,その逆もね。でもね,これまで17年間,鉄拳を例にとっていうと総計4000万本で,シリーズ毎に300〜400万本以上をコンスタントに売り上げてきて,むしろ昔より伸びてる国や地域もあるぐらいなんです。単なるブームなら17年も続かなかっただろうし,こんな数値は達成できなかったはずなんです。
だけど,ストリートファイターが10年いなくなったら,「ブームは終わった」とか言ってる人もいて,いやそれはちょっと違うだろうと。俺がそうだったように,絶対に(ストリートファイターを)待ってる人がいるはずだと,これだけは信じていました。格闘ゲームを遊びたい人はいるはずで,だからこそ鉄拳は17年も続いてきたし,10年の空白があろうとも,その元祖であるストリートファイターにはずっと帰ってきてほしかったんですよ。
4Gamer:
なるほど。
原田P:
そうしないと格闘ゲームシーンが盛り上がらないから。ほら,商店街も八百屋とかラーメン屋とか駄菓子屋とか,色々あったほうが賑やかで楽しいし,人も集まるじゃないですか。(ストIVが)戻ってきてくれたことで,やっぱり30〜40代のプレイヤーも帰ってきたし,新しい世代のプレイヤーも増えたでしょ。
小野P:
ストIVでプレイヤーの年齢層が下がりましたからね。
原田P:
10〜20代の人もせっかく遊ぶようになったし,それでまたお互い別々の路線に行くんじゃなくて,コミュニティ同士を混じり合わせたい,盛り上げたかったんです。でもね……仮にお互いの会社の社長に「コミュニティを盛り上げたい」なんて話から入ったら,「ビジネスの話はどうなってんだ!?」ってことになる。だからこの攻め方はいかん。情熱だけじゃ大人は攻略できないんです(笑)。
小野P:
なので,会社には「うちの『STREETFIGHTER X 鉄拳』と,原田さんの『鉄拳 クロス ストリートファイター(仮)』(以下,鉄クロ)両方作りましょう! お互いに儲ければいいんです!」って。……でも本当のところは,儲けなんて僕らからしたら二の次,三の次なんだけどね。
原田P:
お互いの知名度を使って儲けましょう,みたいなことを,周囲にはうまいこと言ってね(笑)。でもさっき言ったように,僕らの狙いは実はそこにあるわけじゃないんだ。組んだ事で2倍儲かるロジックがあるわけもなし。第一儲けるだけが目的なら,そもそもゲーム屋なんかやってない。伊達に格闘ゲームで20年近くも食ってきたわけじゃないんだと。
小野P:
中途半端に一つのチームになって,喧嘩したり遠慮したりして中途半端なものを作るより,カプコンの作る一八とか,鉄拳チームの作るリュウとか,お互いのファンにとっても面白いでしょう?
原田P:
お互いのコミュニティが,とにかくガッっと盛り上がって少しでも交流してほしかったんです。
4Gamer:
だんだん分かってきた気がします。ちなみに,カプコンとバンダイナムコゲームスで,1作ずつ別々に作る,という案はどのあたりで出たんでしょうか。
原田P:
焼き肉の時点で,「別々に開発しましょうね」「そうですよね」って。
小野P:
そうそう。焼き肉の皿が変わるごとにどんどん話が固まっていって,アイスクリームが出てくる頃にはもう明日からやることが決まってました(笑)。そこから色々な理由を付けて理論武装して……。
原田P:
俺ね,そのときまで小野さんは“行き当たりばったり”な人だと思ってました。
(一同爆笑)
原田P:
でも,僕と小野さんって実は割と逆なんですよ。
小野P:
むしろ彼のほうが,夢とか可能性とか,そういう言葉が好きなんですよ(笑)。
原田P:
夢,可能性,情熱……というか執念で動いているところがあるんです。でも小野さんはやたら計算高いんですよ。それがわかってたんで,会社に話す前も役割分担までして。
小野P:
僕がロジック担当で,原田さんが情熱担当みたいな。
4Gamer:
なるほど(笑)。焼き肉会談の時点で,お互いにずっとやりたいと思っていたものが下地にあった,ということなんですね。
原田P:
あと,もうひとつ経緯についてなんだけど,僕は昔から対決モノ,例えば「MARVEL VS. CAPCOM」とか「CAPCOM VS. SNK」がものすごく羨ましかったんですよ。
4Gamer:
VS.シリーズですね。
原田P:
そうそう。なんでかっていうと,例えばマーベルって,スパイダーマンとかハルクとか,すごい超人達ばっかり出てくるわけじゃないですか。その彼らがストリートファイターのキャラクターと戦うってことに,世の中の人はあのとき納得したわけですよね。ウルヴァリンとリュウが戦うシーンが想像できたってことです。
小野P:
リュウならウルヴァリンのツメをガードしても大丈夫! みたいな(笑)。
でもそれぐらい,ストリートファイターのキャラクター達は,キャラとしてある意味「強い」地位にいたってことじゃないですか。で,今度はCAPCOM VS. SNKでSNKさんとコラボしたじゃないですか。それを見たときすごく羨ましくてね。「SNKさんのキャラって,ストリートファイターの土俵までいったんや!」って。
鉄拳は最初の頃,家庭用の売り上げ本数こそちゃんと出てますけど,格闘ゲームとしてはなかなか盛り上がらなくて,というか,なかなか認めてもらえなくて,すごく苦労したんですよ。でも「鉄拳3」でようやく起爆して,「鉄拳タッグトーナメント」(以下,鉄拳TAG)でようやく格闘ゲームとしての認知度もあがって,「鉄拳4」は逆にちょっと不評で(苦笑)。でも5と6でドン! ドドン! と大復活して……というふうに17年やってきて,その間にストリートファイターも戻ってきてくれて,これはひょっとしたら世の中の人――アジア,北米,欧州の人達も,今だったらクロスしても,ちゃんと沸いてくれるんじゃないだろうか,と。
謙虚にいえば,ストリートファイターに10年のブランクがあったからこそ,その間に僕らが全世界での鉄拳コミュニティを,ちゃんと暖めることができたのかな,とも思いますね。
小野P:
またありがたいことに,格闘ゲームコミュニティの世界地図を描くと,ストリートファイターと鉄拳は国盗りゲームみたくクッキリと分かれてるんですよ。
4Gamer:
なんとなくですが,アジア圏は鉄拳が強い,みたいな?
原田P:
それはね,大きな誤解なんです。今からいう話をよく聞いてください。例えばアジアひとつとっても……。
小野P:
韓国は鉄拳だよね。
原田P:
韓国は確かに鉄拳なんですけど,香港に行けば圧倒的にストリートファイターだったり。
4Gamer:
ははあ。「シティハンター」の映画を思い出します(笑)。
小野P:
インドネシアはストリートファイターだったな。
原田P:
でもフィリピンは鉄拳なんですよ。
小野P:
タイに行くと「THE KING OF FIGHTERS」(以下,KOF)だね。
原田P:
そうそう。タイとか台湾,中国本土でも奥地はKOFですね。それでね,鉄拳って,実はヨーロッパが一番強いんです。ドイツ,フランス,スペイン,イタリアとか北欧とかね。
小野P:
ただ,イギリスはストリートファイターなんです。
原田P:
でもね,イギリスと文化がそっくりなオーストラリアは鉄拳なんですよ。よく分からないですけど,ニュージーランドとオーストラリアは鉄拳なんだよなあ。
小野P:
そんな感じで,世の中の人から見たら「食い合ってる市場やん」って思うかもしれないけど,全然違うんですよ。だから,組むにしてもデメリットが何もないんです。
原田P:
それで,こういう話だと,会社の上の人もきっちり食いつくじゃないですか。
4Gamer:
確かに(笑)。
小野P:
嘘じゃないしね(笑)。
原田P:
しかも,僕らの視点――コミュニティっていうところで見た場合にも,これを混じり合わせれば,今後にいい影響が出てくるんじゃないですか,と。
小野P:
やっぱり開発で何億も投資するってなると,じゃあナンボ返ってくんねん,という話になるんですけど,そこに関してもロジックがぴたりと合ったので。……その焼き肉会談から,2か月くらいで社長同士の握手までいったよね?
原田P:
そうそう。2か月後にはもう。
小野P:
この大きなIP同士で,かつ,文化がまったく違う西と東の会社が,たった2か月で握手までいけたっていうのは,結構……。
原田P:
すごいことですよね。
小野P:
画期的ですよ。
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