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[CEDEC 2012]開発経験なしのディレクターが20万本超のヒットを生んだ。「TOKYO JUNGLE」のスタッフが開発の裏側を語ったセッションをレポート
このセッションは「TOKYO JUNGLE 〜経験ゼロの若者による企画立案から発売までのサバイバル術〜」と題されたもので,TOKYO JUNGLEのプロデューサーであるソニー・コンピュータエンタテインメント(以下,SCE)の山際眞晃氏と,ディレクターを担当したクリスピーズの片岡陽平氏が登壇した。
山際眞晃氏 |
片岡陽平氏 |
セッションタイトルにある「経験ゼロの若者」というのは,片岡氏のこと。SCEが開催するクリエイターオーディション「PlayStation C.A.M.P!」からゲーム業界に入った片岡氏が,TOKYO JUNGLE以前に関わったタイトルは,PSP用の女性向けファッションコーディネートツール「MyStylist」のみで,本格的なゲームの開発経験はなかったとのことだ。
片岡氏をはじめとしたPlayStation C.A.M.P!出身のクリエイターには,これまでにない斬新なゲームの企画が求められるのだが,たいていの場合,斬新さを追求したゲームは,分かりづらく,売れないものになってしまうという。片岡氏はこれを「PlayStation C.A.M.P!のジレンマ」と呼び,自身もこのジレンマに悩まされたと語った。
そのジレンマから抜け出すきっかけになったのは,シンガーソングライターの井上陽水さんが自身の作詞法を紹介する新聞記事だったという。陽水さんが作る歌のタイトルや歌詞のユニークさは有名だが,実はありきたりな言葉の組み合わせからできている(例えば「長い」と「猫」の組み合わせで「長い猫」),ということを知り,これをゲームにも応用できないかと思ったそうだ。
そこで片岡氏は,誰もが好きな「動物」と,SFなどでおなじみの「荒廃した世界」という,それぞれでは普遍的なテーマを組み合わせ,新たなゲームを作ることを思いつく。これがTOKYO JUNGLEの原案となったわけだ。
ゲームのテーマが決まると,企画の作業はどのハードウェアでリリースするかや,どんなゲーム性にするか,という段階に移る。TOKYO JUNGLEの企画立ち上げ時期は,携帯機タイトルがPSPからPlayStation Vitaへ移行するという難しい時期に当たったため,そちらは避けることとなり,必然的にPlayStation 3用タイトルとしての開発が決まった。だが,ここで片岡氏は「アーケードライクなゲーム性」「1日30分で楽しめる」という,およそ据え置き機らしからぬ方針を打ち出した。
これには,以前から片岡氏自身が据え置き機タイトルに「操作やゲーム性が複雑」「マンネリ」といった不満を持っていたことに加え,「ほかのタイトルと同じ土俵に立たず,未開拓の市場を獲得する」という狙いがあったとのことだ。TOKYO JUNGLEは「据え置き機でプレイするのに飽きたけど,携帯機では物足りない」という層をターゲットにしたという。
この「同じ土俵に立たない」という方針は,SCE社内で行われるプレゼンテーションにも生かされた。このプレゼンテーションは役員クラスの社員も出席する中で行われ,開発予算の獲得に関わるという重要なものだ。
以前は,重苦しい雰囲気の中,粛々とスライドを見せていく,というスタイルがほとんどだったとのことだが,片岡氏はSCEの社内事情をよく知らなかったという。
「映像でタイトルの魅力をそのまま伝えたい」「見ている人に楽しんでもらいたい」と思った氏は,プロモーションビデオを流し,そこに「サバイバル教官」役の開発スタッフが生でナレーションをかぶせる,という,演劇調のプレゼンテーションを行った。
この型破りなプレゼンテーションはSCE社内で話題となり,タイトルの認知度も上がって,サポートが増えたとのことだ。片岡氏はこのプレゼンテーションを通して,仕事とは人と人とのつながりで成り立つもので,作り手を好きになってもらうことが大事だと実感したという。
もちろん,開発経験のなさがすべてプラスになったわけではない。当初2Dとして開発されていたTOKYO JUNGLEだったが,「もう少しゲーム性を深くしたい」という意見が相次ぎ,途中で3Dに変更されるという大幅な変更が行われることとなった。片岡氏は,開発経験のなさが招いた事態だったと振り返っている。
2Dから3Dへの変更によってスケジュールも延びたほか,機材も増加したため,オフィスの電気工事が必要になるなど,予定外のコストがかかったとのこと |
最後に片岡氏は「経験がないぶん,どうすれば伝わるかと,いかに人の興味をひくかを考えてやってきました」と語り,それがユーザーに届いてセールスにつながったと分析してセッションをまとめた。
ゲーム開発者に向けたセッションという形をとってはいるものの,見方を変えれば,「古いやり方にとらわれず,自分たちで方法を模索して成功をつかみ取る」という,すべての若い人達に向けた内容だったと言えるだろう。
セッション終了後,片岡氏に話を聞く機会を得たので,「TOKYO JUNGLEは開発経験のなさが成功につながりましたが,次回作からは期待も組織も大きくなるでしょうし,やりづらくなるのでは」と少々意地悪な質問をぶつけてみた。すると片岡氏は「クリスピーズの社員は今5人ですが,増やす予定はありません。会社を回すためだけに仕事を受けるようなことはしたくないので。これからも,自分達が作りたいと思うゲームを作ります」と答えてくれた。
このコメントのブレのなさからすると,次回作でも,TOKYO JUNGLEのような,新しい魅力をもった作品が期待できそうだ。
「TOKYO JUNGLE」公式サイト
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