テストレポート
「GeForce GTX 670」SLIテストレポート。GTX 680のSLIと比べ,価格対性能比は相当に高い
その実力はレビュー記事でお伝えしたとおりだが,GTX 680にかなり近い性能を示すということで,気になっている人も少なくないだろう。また,発売当初の価格こそ4万円台中後半が主流ながら,搭載グラフィックスカードの北米市場における想定売価は399ドルとのことなので,価格が下がってきたら2-way SLIを検討したいという人もいるのではなかろうか。
4Gamerでは,Palit Microsystems(以下,Palit)の販売代理店であるサードウェーブから,GTX 670搭載カード「NE5X67001042-1042F」(以下,Palit GTX 670)を入手できたので,レビュー記事で用いたリファレンスカードと組み合わせ,2-way SLIの性能をチェックしてみたいと思う。
リファレンスと似て非なる仕様のPatit製カード
リファレンスカードをベースにコストダウンか
GTX 670というGPUの仕様やリファレンスカードの詳細はレビュー記事を参照してもらうとして,本稿ではまず,Palit GTX 670を簡単に紹介しておきたい。
ただ,4mmというサイズの違いこそあれ,70mm角相当のブロワーファンを搭載する点はリファレンスカードと同じ。補助電源コネクタが6ピン×2となっている点にも違いはない。
GPUクーラーの取り外しは保証外の行為となり,取り外した時点でメーカー保証は受けられなくなる。本稿の内容を参考にGPUクーラーの取り外しを試みる場合はくれぐれも自己責任でお願いしたいが,カードデザインを確認するためにGPUクーラーを外してみると,クーラーのデザインはリファレンスカードと同様にシンプルだと分かる。
なお,搭載されるメモリチップは,リファレンスカードと同じく,SK Hynix製のGDDR5「H5GQ2H24AFR-R0C」(6Gbps品)だった。
SK Hynix(旧称:Hynix Semiconductor)製の2Gbitチップ8枚を基板の表面に搭載し,グラフィックスメモリ容量2GBを実現している |
リファレンスカードと同じ4+2フェーズの電源回路を採用。断言まではできないが,リファレンスカードよりもさらに低コスト化が図られた気配もある |
Palit GTX 670の動作クロックは,コア(ベース)915MHz,ブースト980MHz,メモリ6008MHz相当(実クロック1502MHz)で,このあたりはリファレンスカードと同じだ。
新旧ハイエンドGPUの2-way構成と一斉比較
シングルカードからの伸び率もチェックする
テストのセットアップに入ろう。今回,GTX 670の2-way SLI動作(以下,GTX 670)をテストするにあたって用意した比較対象は以下のとおりとなる。
- 直接の上位モデルとなるGTX 680の2-way SLI動作(以下,GTX 680 SLI)
- NVIDIAが対抗製品と位置づける「Radeon HD 7950」(以下,HD 7950)の2-way CrossFireX動作(以下,HD 7950 CFX)
- レビュー記事でGTX 670といい勝負を演じた「Radeon HD 7970」(以下,HD 7970)の2-way CrossFireX動作(以下,HD 7970 CFX)
- NVIDIAの新世代デュアルGPUカード「GeForce GTX 690」(以下,GTX 690)
- Fermi世代の最上位モデルだったデュアルGPUカード「GeForce GTX 590」(以下,GTX 590)
このうち,2-way構成を取るGTX 670とGTX 680,HD 7950,HD 7970ではシングルカード動作時のスコアも併記し,「スコアの伸び率」チェックに使いたいと考えている。
以上を踏まえたテスト環境は表のとおり。2-way構成においては,表中,上に示したほうがプライマリとなる。
なお,GIGA-BYTE TECHNOLOGY製「GV-R795WF3-3GD」はメーカーレベルで動作クロックが引き上げられたクロックアップモデルだが,プライマリ側がRadeon HD 7950リファレンスカードであるため,CFXの仕様上,低いクロックに揃って協調動作を行うことになる。なので,リファレンスクロックのカード2枚によるCrossFireX動作だと考えてもらって問題ない。
HD 7970とHD 7950のテストに用いたのは,テスト時点(※2012年5月9日)の公式最新版「Catalyst 12.4」となる。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション12.1準拠。ハイエンド環境のテストということで,解像度は1920×1080&2560×1600ドットの2パターンを選択する。また,同じ理由から「標準設定」は省略し,4xアンチエイリアシングと16x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」(もしくは8xアンチエイリアシングが適用される「Ultra設定」)のみを取り上げることにした。
なお,CPUの「Core i7-3960X Extreme Edition/3.3GHz」では,テスト時の状況によって自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の効果に違いが生じる可能性を考慮し,同機能をマザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している点は,GTX 670のレビュー記事から変わらずだ。
なお,ここまでのテスト条件は,GTX 670のレビュー記事およびGTX 690のレビュー記事と同じ。そこで,ドライババージョンが揃うテスト結果は,両記事から積極的にスコアを流用する。具体的に述べると,GTX 670とHD 7970,HD 7950シングルカードのデータはGTX 670のレビュー記事,GTX 680 SLIとHD 7970 CFX,GTX 590,GTX 680シングルカードのデータはGTX 690レビュー記事からの流用である。
今回の主役となるGTX 670 SLI,ドライバのバージョンが新しくなったGTX 690,そしてHD 7950 CFXのスコアが,今回,新規に取得したものとなるので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
GTX 680 SLIとのスコア差は
シングルカードと同様に小さい
というわけでグラフ1は,「3DMark 11」(Version 1.0.3)の「Performace」と「Extreme」,2つのプリセットにおける総合スコアだ。GTX 670 SLIのスコアはGTX 680 SLI比で91〜92%程度のところにあり,シングルカード同士で比較したとき89〜91%程度だったのと比べると差は縮まっている。
それぞれシングルカードからのスコア上昇率を見てみると,GTX 670 SLIはPerformanceで約69%,Extremeで約93%。GTX 680 SLIは順に約63%,約92%なので,「シングルカードの性能で劣るほうがスコア向上率は良好」という,マルチGPU動作の常をここでも再確認できたわけだ。
続いてグラフ2,3は,「S.T.A.L.K.E.R.:Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の公式ベンチマークソフトに用意された4つのテストシークエンスから,最も描画負荷の低い「Day」と,最も高い「SunShafts」のスコアを個別にまとめたものとなる。
まずDayから見ていくと,GTX 670 SLIのスコアはGTX 670比で57〜83%程度高く,3DMark 11と同様,GTX 680 SLIの伸び率である51〜81%程度を上回った。
興味深いのは,HD 7970 CFXに対してGTX 670 SLIが14〜15%高いこと。シングルGPU同士で比較するとGTX 670とHD 7970のスコア差は1〜5%しかないので,STALKER CoPのDayにおいてはSLIのほうが有効に機能しているといえるだろう。
一方,シングルカードのレビュー記事でGTX 670がHD 7970に逆転を許したSunShaftsで,GTX 670 SLIはHD 7970 CFXに再び逆転を許した。SLI動作においても,GeForce GTX 600シリーズが競合に対して抱えるメモリ周りの弱点は確認できたことになる。
「Battlefield 3」(以下,BF3)のスコアをまとめたグラフ4だと,GTX 670 SLIとGTX 680 SLIのスコア差は3〜4%程度とかなり縮まった。もっとも,GTX 690ともほとんど変わらないスコアなので,「解像度2560×1600ドットまでだと,この3構成にほとんど差はない」と述べたほうがいいかもしれない(関連記事)。
なお,HD 7970 CFXとHD 7950 CFXは2560×1600ドットでフレームレートが上がらず,スコアが大きく落ち込んでしまっている。
グラフ5は「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のテスト結果だ。Call of Duty 4だと,GTX 670 SLIのスコアはGTX 680 SLI比89〜93%で,シングルカード同士のスコア差を踏襲したものになっている。DirectX 9世代の古いタイトルでもしっかりと性能を出せている点は評価できそうだ。
競合製品と比較してみると,GTX 670 SLIのスコアはHD 7970 CFXに対して8〜10%,HD 7950 CFXに対して約22%高い。
「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)のスコアをまとめたグラフ6だと,1920×1080ドットで上位陣にCPUボトルネックが原因と見られるスコアの横並びが確認できる。そのため2560×1600ドットのスコアを見ていくが,GTX 670 SLIのスコアは対GTX 680 SLIで約96%,対GTX 670シングルカードで約173%となっており,まずまずの結果が得られていると述べてよさそうだ。少なくとも,ドライバの問題でスコアが向上しないHD 7970 CFX&HD 7950 CFXとの違いは歴然である。
GPU Boostがらみと思われる問題によって,GeForce GTX 600シリーズのスコアが振るわない「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)だと,HD 7970 CFXおよびHD 7950 CFXがGeForce勢を圧倒する(グラフ7)。GTX 670 SLI自体も,対シングルカードで86〜93%高いスコアを示してはいるので,むしろここは,ドライバのアップデートによってGPU Boostの挙動を最適化できるのかどうか,今後に注目したいところだ。
3D性能検証の最後は「DiRT 3」のテスト結果となるが,グラフ8を見てみると,GTX 670 SLIのスコアは,GTX 680 SLI比で94〜97%程度。2560×1600ドットでGTX 670 SLIはGTX 670シングルカード比約185%のスコアを示し,GTX 680 SLIがGTX 680シングルカードに対して付けた173%というスコア向上率を上回っている。このあたりは3DMark 11を踏襲した傾向になっていると述べていいだろう。
GTX 680 SLIとの消費電力差は順当なものに
ファンの回転数の高さはネックとなり得る
SLIやCrossFireXは複数枚のカードを利用するため,消費電力がどうしても大きくなってしまうのが悩みのタネだが,シングルカード動作時にGTX 680よりも最大30W程度消費電力が下がっていたGTX 670を2-way動作させたときの消費電力はどの程度になるのか。
レビュー記事と同じく,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比較してみよう。テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイの電源がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とすることにしている。
その結果はグラフ9のとおりで,アイドル時だと,GTX 670 SLIとGTX 680 SLIは(シングルカードで比較したときと同じく)ほとんど変わらない結果になった。Radeon HD 7900シリーズのCrossFireX構成時は,アイドル状態においてセカンダリ以降のGPUで消費電力を大きくカットできる「AMD ZeroCore Power Technology」(以下,ZeroCore)が機能することもあって,HD 7970 CFXとHD 7950 CFXのスコアが低い。また,GTX 690もなかなか低めのスコアだ。
一方のアプリケーション実行時だと,GTX 670 SLIとGTX 680 SLIのスコア差は8〜72Wになった。先のレビュー記事だと,GTX 670とGTX 680とで15〜31Wの違いがあったことから,SLI動作時はベストケースではギャップが広がり,ワーストケースでは縮まるということになるが,総じて,単体カードのテスト結果を踏襲するものと述べていいようにも思われる。
今回はプライマリとセカンダリのそれぞれでGPU温度を取得することにし,室温は24℃の環境において,システムはPCケースに組み込まず,いわゆるバラック状態でスコアを取得している。
GPUクーラーもセンサーも異なるので,厳密な意味での横並び比較は行えないが,それでも,GTX 670 SLIのスコアがGTX 680 SLIより若干高めというのは見て取れる。このあたりはシングルカードでテストしたときの結果を踏襲したものといえるだろう。
なお,HD 7970 CFXとHD 7950CFXではアイドル時のセカンダリGPU温度が0℃になっているのは,ZeroCoreが有効になったとき,こういう値が返ってきたためだ。また,HD 7950 CFXのセカンダリGPUでGPU温度が低いのは,テストに用いたGIGA-BYTE TECHNOLOGY製カードが2連ファン仕様のオリジナルクーラーを採用しているためである。
ところで,毎度ではあるが筆者の主観であることを断ってから述べると,Palit GTX 670のGPUクーラーは,リファレンスカードのそれよりも動作音が大きかった。Palit GTX 670が搭載するクーラーのファンは,今回のテスト中,回転数が1170〜2510rpmの間で制御されていたが,これはリファレンスカードの同1140〜2010rpmよりも明らかに高いので,これが原因と考えていいはずだ。
なぜ回転数が高くなっているかだが,これは,Power Targetが100%の状態で,GPUコアクロックが1110MHzまで上がっていた――リファレンスカードは1084MHzだった――ことと関連があるかもしれない。
GPU Boostの上限クロックは必ずしもファンの冷却能力だけで決まるわけではなく,消費電力や,GPUダイ自体の耐性にも影響されるため,断言まではできないのだが,Palit GTX 670では,GPU Boostでより高いクロックを実現するために冷却能力を上げ,ファンの動作音が大きくなることを許容した可能性はある。
価格対性能比はGTX 680 SLI以上
オリジナルクーラー仕様の製品×2で構成したい
ただ,GTX 670のレビュー時に指摘したGPUクーラーへの不満は,リファレンスデザインに近いクーラーを採用するPalit GTX 670をセカンダリに用いたことで,さらに高まった。GTX 670のSLI構成を本気で考えているなら,情報が出揃うのを待ったうえで,静音性と冷却能力に優れるオリジナルクーラー搭載のモデルを選ぶのが得策ということになるだろう。
NVIDIAのGTX 670製品情報ページ
ドスパラのPalit GTX 670(NE5X67001042-1042F)販売ページ
Palit公式Webサイト
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