インタビュー
「レイトン教授VS逆転裁判」で実現したレベルファイブとカプコンの看板タイトルコラボ。その裏側を「逆転裁判」パートを手がけた巧 舟ディレクターにズバリ聞いてみた
本作は,レベルファイブの「レイトン教授」シリーズとカプコンの「逆転裁判」シリーズのキャラクターが共演し,“ナゾ”と“ムジュン”に挑むという内容だ。
アドベンチャーゲームとして屈指の人気を誇る両シリーズ作品を,どのように1本のタイトルにまとめていったのか。今回4Gamerでは,逆転裁判パートのディレクターを務めた,カプコンの巧 舟氏に,本プロジェクトについていろいろと話を聞いてきた。
また,今回は都合が合わずに同席していただくことは叶わなかったが,レベルファイブ代表取締役社長/CEOである日野晃博氏にもコメントをいただいている。インタビュー中に差し込む形で掲載しているので,ぜひそちらもチェックしてほしい。
なお,極力ネタバレには配慮しているが,記事の性質上ゲームの内容に触れざるを得ない箇所もあるので,「ゲームは前情報なしに楽しみたい」という人は,序章を終わらせる程度でいいので,ゲームをある程度進めてから読むことをお勧めする。
レベルファイブ代表取締役社長/CEO 日野晃博氏 |
「レイトン教授VS逆転裁判」逆転裁判パート ディレクター 巧 舟(たくみ しゅう)氏 |
「レイトン教授VS逆転裁判」公式サイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
今回,レベルファイブさんと共同で「レイトン教授VS逆転裁判」を制作することになったのは,どのような経緯からだったのでしょうか。
日野さんと初めてお会いしたのは2009年頃で,そのときは別件でカプコンにいらっしゃっていたのですが,うちの小林※が日野さんと会食をするというので,僕はそのオマケとしてご一緒したんです。
※カプコン CS開発統括 副統括 兼 編成部 部長/プロデューサーの小林裕幸氏
4Gamer:
そのとき,「レイトン教授VS逆転裁判」の話題が出たんですか?
巧氏:
そうですね。日野さんから「こういうことをやりたいんですよ」という構想を聞かせていただいて,僕はそれを聞いて「難易度が高そうだな」なんて思っていました(笑)。
4Gamer:
まるで他人事みたいですね(笑)。
巧氏:
僕は当時,「ゴースト トリック」というゲームを作っている真っ最中だったので,プロジェクトに関わるなんて,思いもよらなかったんですよ。
そのあと,「レイトン教授VS逆転裁判」のプロジェクトが正式に始まったと2010年の頭に聞かされて,「ゴースト トリック」を作りながら,同じフロアにいるデザイナーの塗くん※がいろいろと作業をしているのを,横目で見ていました。
※カプコンの塗 和也氏。「レイトン教授VS逆転裁判」ではキャラクターデザインとアートディレクションを担当
4Gamer:
では,巧さんが「レイトン教授VS逆転裁判」に関わることになったのは,どのような経緯からだったんですか?
巧氏:
2010年の5月頃だったと思うんですけど,竹下※から「焼肉を食べに行こう」と誘われたんです。
最初は高級な店の前まで行ったのですが,値段を見た竹下に「こっちにいい店があるよ」と,駅前の庶民的な焼肉屋に連れて行かれて,そこで「一緒にやっていこうよ」と。僕からすると「何の誘いなんだ」という話ですけど(笑)。
※カプコンの竹下博信氏。プロデューサーとして,「ゴースト トリック」「レイトン教授VS逆転裁判」で巧氏とタッグを組んでいる
4Gamer:
当時,「ゴーストトリック」で一緒にやっていたのに,今さら何を,と思いますよね(笑)。
巧氏:
まあそんな感じで,「レイトン教授VS逆転裁判」の監修を引き受けてほしい,と切り出されたんです。
最初は,レベルファイブさんに「逆転裁判」とは何ぞやということを語ってほしいという話だったので,先方に出向いて,一生懸命説明をさせてもらいました。でも,日野さんは「逆転裁判」シリーズをプレイされていたので,わざわざ説明するほどのことでもなかったみたいですね。
4Gamer:
そうだったんですか。
巧氏:
僕も企画マンですから,何か求められたら応えられるよう,準備していたアイデアをお話ししたのですが,僕が出したアイデアをもとに,熱心にディスカッションを重ねていきました。それが始まりだったと記憶していますね。その頃には,具体的なことはまだ何も決まっていない感じでした。
4Gamer:
もしかしたら,プロジェクトは“巧さん待ち”の状態だったのかもしれませんね(笑)。
巧氏:
僕が関わり出してからいろいろと決まっていったのは事実なので,レベルファイブさんと竹下の間で,何か密約が交わされていたんじゃないかと勝手に想像しているのですが,実際のところはどうなんでしょうね(笑)。
Q:実際のところ,巧さんを最初からプロジェクトに引き込もうと考えていたのでしょうか?
日野氏:
はい。巧さんに参加いただいてこそ,本物の「逆転裁判」が作られると思うので,プロジェクトの成功には,彼の存在は不可欠だと考えていました。
4Gamer:
今回はレベルファイブとカプコンの共同制作タイトルということですが,どのように役割を分担したのでしょうか。
ゲームの内容全般は,日野さんも含めて,レベルファイブの東京オフィスに詰めて,両社が顔を突き合わせて決めていきました。まるで合宿のようでしたね。
キャラクターデザインやグラフィックスはカプコンがイニシアチブを取って,プログラムはレベルファイブさんが担当しています。音楽とシナリオについては,「レイトン教授」パートをレベルファイブさん,「逆転裁判」パートをカプコンがそれぞれ中心で作ったという感じですね。
4Gamer:
思っていた以上に,はっきり分かれているんですね。
巧氏:
もちろんコラボレーションなので,キャラクターはお互いのパートに出てきますし,音楽やSEも,両者で調整して使っています。
4Gamer:
巧さんが「レイトン教授VS逆転裁判」のプロットを考えたのは,いつ頃だったんですか?
巧氏:
2010年の7月いっぱいでシナリオプロット案をまとめるという話だったのですが,当時ちょうど海外出張が入っていて,帰国が7月28日だったんです。出張中は,「3日くらいでまとめないといけないから,帰ってから大変だなぁ」と,ボンヤリと考えていました。
4Gamer:
出張中に書いてしまおうといった考えはなかったんですか(笑)。
巧氏:
ああ,もちろん出張中に,いろいろアイデアを考えていましたよ! 心が休まらない出張でしたね。
「レイトン教授VS逆転裁判」としての新しいアートを作り上げるうえで,「レイトン教授」と「逆転裁判」でそれぞれ“寄せた”部分とは?
4Gamer:
ゲーム画面で見ると,双方のキャラクターが共演してもほとんど違和感を感じなかったのですが,デザインのすり合わせには時間がかかったのでしょうか?
巧氏:
それはもう,かなり時間をかけています。
基本的には,塗くんが起こしたデザインをレベルファイブさんでチェックしてもらって相談する,というプロセスでした。
なるほどくんの頭身を縮めてレイトンさんを伸ばして……と,どちらも調整したのですが,日野さんからは「レイトンが伸びましたね」と言われました。たしかにそうかもしれませんね(笑)。
4Gamer:
確かに,頭身が伸びた「レイトン教授」側のキャラクターのほうが目立っているかもしれません。
最初は,なるほどくんの4〜5頭身も描いてみたのですが,キャラクターの崩壊が激しかったんです。なので,レイトンさん側に頑張っていただいた部分は大きいかもしれません。
ちなみに,最初の魔女裁判に出てくる証人達も,塗くんが「レイトン教授」を意識して描いたスケッチから起こしているんです。「逆転裁判」ではなく「レイトン教授」寄りだけど“そのまま”ではないという,いいバランスに仕上がったと思います。
Q:アート面について,2タイトルを融合させるまで,どのような点に苦労したのでしょうか?
日野氏:
カプコンさんも,レベルファイブのスタッフも,アートに対してこだわりのあるスタッフ同士なので,片方だけを改変してもどちらかが不満を持ってしまいます。
そのため,お互いが詰め寄り,「レイトン」でも「逆転裁判」でもない,「レイトン教授VS逆転裁判」としての新しいアートを作り上げる必要がありました。デザイナー同士が,やり取りを繰り返し今の形になっています。
でも実際出来上がったものを見ると,どちらかというと「逆転裁判」寄りになっていますね(笑)。
4Gamer:
逆に,「逆転裁判」側で「レイトン教授」に合わせた部分はありますか?
巧氏:
キャラクターの接地面でしょうか。「逆転裁判」では,キャラクターの身長や立ち位置をわりとリアルに考えているので,身長が低くてメッセージウィンドウに顔がかかってしまうようなときでも,あえてそのままにしていることもあります。
「レイトン教授」シリーズでは,実際の接地よりも画面での見え方のほうを重視しているところがあるので,「レイトン教授VS逆転裁判」では,背の低いキャラクターには宙に浮いてもらったりして,細かい調整を入れています。
4Gamer:
なるほど。そういったこだわりは,グラフィックスが3D化されたことで,より明確にプレイヤーに伝わるかもしれませんね。
巧氏:
3Dになると,そういった嘘をごまかしにくくなりますからね。
4Gamer:
なるほどくんの髪型も見事にCGモデルで再現されていますよね。
あれはアートディレクターの塗くんが大活躍してくれました。テクスチャもベタ塗りでは面白くないですから,風合いや質感,ニュアンスをどうするか,レベルファイブのプログラマーさんと連携を取って,いろいろ試していました。頑張って仕上げたなと思います。
今回は,「レイトン教授」のシステムを元にして「逆転裁判」のシステムを実現しているので,レベルファイブさんのプログラマーは大変だったんじゃないでしょうか。とくに画作りに関しては,「裁判パートにこんなエフェクトを入れたい」とか,けっこうな無理を言ったにもかかわらず,リクエストに応えていただけたと思います。「それはちょっと難しいですね」というせめぎ合いもありましたけど(笑)。
4Gamer:
どのようなせめぎ合いがあったのでしょうか?
巧氏:
ネタバレになるので,具体的にはお話ししないほうがいいと思うのですが,最後の法廷に出てくる証人たちです。見ればすぐに分かると思います。プログラマーさんからはいくつか別の案をいただいたのですが,「いやいや,そこをなんとか……」と言い続けて,実現した部分です。
4Gamer:
それは気になりますね……。最後までプレイして確認することにします。
違いといえば,「逆転裁判」パートで,ひらめきコインを使ってヒントをもらえるようになっているのには驚きました。
これは,日野さんが「逆転裁判」をプレイしたときに,詰まって先に進めなくなってしまう可能性が常にあると感じていたことから入った仕様です。
日野さんには,ライトなユーザー層に,カジュアルにゲームをプレイしてほしいという思想があるので,今回は「レイトン教授」側に合わせて,「逆転裁判」側でもコインを使えるようにしています。
4Gamer:
「逆転裁判」シリーズだと,必要な証拠品は分かっても,証言のどの部分で突きつければいいのか迷うケースもあったので,個人的にはありがたい仕様でした。
巧氏:
「逆転裁判」でヒントを出すならどうすべきという問題は,かなり難しかったですね。また,難易度を下げるという意味では,証拠品の数も最大8個と,「逆転裁判」シリーズより少なくすることで,選びやすくしています。
4Gamer:
そのほか,システム面で巧さんが気になった両シリーズの違いなどはありますか?
巧氏:
細かい部分ですけど,今,パッと思いつくのはセリフ送りですね。
「レイトン教授」では,セリフを送るときにボタンを押したりタッチしたりしても,音が出ないんですよね。これは僕の勝手な推測なんですが,「レイトン教授」シリーズはボイスの再生が前提にあるので,余計な音を入れないように配慮しているのではないかなと。
まあ,そう思いながらも,「逆転裁判」パートでは,ボイスの有無に関係なく,セリフ送りの音を入れているんですけど。考え方の違いだと思います。
声優の起用は「お祭りとしてアリ」――映画版「逆転裁判」が直前にあったのは運命的だった
4Gamer:
今回,「レイトン教授」シリーズとのコラボということで,本格的な声優の起用,3Dモデルのキャラクター,アニメでのイベントシーンなど,今まで「逆転裁判」シリーズにはなかった要素が入りました。実際に制作してみて,どのような印象を持ちましたか?
巧氏:
僕は「逆転裁判」に関して若干……というか,けっこう保守的なんです。ゲーム中に出ている情報以外のことは,プレイした人に想像していただきたいので,あまり決めてしまうのが好きじゃないんですよね。それは,声についても同じだったりします。
4Gamer:
プレイヤーに,想像をふくらませる余地を残しておきたいということでしょうか。
そうですね。その一方,世の中では,声優さんがボイスを演じて臨場感を出すゲームが主流になっていますし,僕自身,その面白さも理解しています。今回はコラボレーションですし,「レイトン教授」のフォーマットに招かれた形で,「お祭りとしてアリ」だと意識を変えました。
そういう意味では,方向転換というか,「そういう方向にも向かえる」ことを示す,いいきっかけをレベルファイブさんに作っていただけたと思います。もしこの機会がなければ,今までの「逆転裁判」のスタイルをいつまでも引っ張っていたかもしれません。
4Gamer:
「レイトン教授VS逆転裁判」では,なるほどくんを成宮寛貴さんが,真宵ちゃんを桐谷美玲さんが演じていますよね。
巧氏:
レイトン教授は大泉 洋さん,ルークは堀北真希さんという,名の通った俳優さんが演じていますから,それにイメージを合わせたキャスティングをしないといけませんよね。
今回は,映画版「逆転裁判」が直前にあったというのは,運命的だったと思います。今回に限っていえば,成宮さんと桐谷さんなら配役に説得力がありますし,お二人に引き受けていただけたのは,本当にありがたかったです。
4Gamer:
ボイス収録では,キャラクターの名前のアクセントが気になったとTwitterでつぶやいていましたが。
巧氏:
ツィートではアクセントと書きましたが,イントネーションと言ったほうが正しいですね。「なるほどう」のイントネーションは「エビフライ」と同じなんですけど,映画ではそうなっていなかったんですよね。それを収録前に成宮さんに説明したところ,ビックリされていました。
桐谷さんは,映画版のキャスティングの話が出る前から「逆転裁判」を遊んでいてくださっていたそうで,イントネーションも正確でしたね。
4Gamer:
「レイトン教授VS逆転裁判」で発覚した,「逆転裁判」のトリビアですね。
……でも,ゲームの「逆転裁判」だと,「ポポポ音」があるだけですよね。それでイントネーションが分かるというのも,すごい話ですね。
巧氏:
たしかにそうですね。あの「ポポポ音」から,ぼくの念が漏れ出していたのかもしれません。
4Gamer:
ちなみに,成宮さんと桐谷さん以外のキャストも,巧さんが決めているんですか?
巧氏:
マホーネ役の悠木 碧さんは,ちょうどその頃,ミステリー系のアニメということで観ていた「屍鬼」と「GOSICK―ゴシック―」のヒロインで,魅力的だと思っていたんです。チームに悠木さんのファンがいたこともあって,すんなり彼女に決まりました。それ以外は,塗くんが持っているイメージに沿って起用している感じです。
「レイトン教授VS逆転裁判」は、いい緩急でお互いに刺激しあっているような仕上がり。レイトン教授のセリフにも、巧氏の“遊び”が盛り込まれている
4Gamer:
あらためてお聞きしますが,「レイトン教授VS逆転裁判」では,全体的なストーリー構成はどうなっているんですか?
基本的には「レイトン教授」シリーズの流れを汲んだ章仕立てになっていて,レイトンさんが「ラビリンスシティ」という町を舞台に活躍する,という大きな流れがあります。その中で魔女の起こす事件を,なるほどくんが裁判で解決していきます。そこで得られた手がかりをもとに,さらにストーリーが進んでいくという構成です。
「レイトン教授」パートは少しゆったりと時間が進む感じ,「逆転裁判」パートはやたらテンションが高い感じと,いい緩急でお互いに刺激しあっているような仕上がりです。
4Gamer:
「逆転裁判」パートの,キャラクターのアクションも,“らしい”テンションで良い感じですね。
巧氏:
キャラクターのアクションは,グラフィックスが2Dから3Dになってボイスが入ったことで,もっとも変わった部分です。いわばコマ割りだった2Dから見せ方が根本的に変わっていますし,3Dではアクションの細かいところまで調整できるので,2Dのデフォルメ表現とはまた異なる職人芸が発揮できて,これはこれで面白いと感じました。
4Gamer:
聞いた話だと,物語のボリュームが相当あるそうですが。
巧氏:
今回は制作期間を長めに取れたので,アレも入れよう,コレも入れようと,結構な物量を投じました。ネタが充実しているという点では,かなりの手応えがあります。もちろん,長いプレイがストレスになる方もいるので,長ければいいというものでもないですが,かなりの没入感で一気に遊べるものになっていると思います。
僕としては,「つきつける」を失敗したときのテキストも,全部読んでほしいです。
4Gamer:
そういった“正解”以外の部分にもこだわるのは,「逆転裁判」らしいとも言えますね。
巧氏:
たとえハズレでも,それが楽しければもう一度やってみよう,前に進もうというプレイヤーの動機になるので,大事な部分だと思うんですよ。今回は,レイトンさんが失敗したときのセリフもあるので,ぜひどんどん失敗してみてください。
4Gamer:
その場合のレイトン教授のセリフは,巧さんが書いたんですか?
巧氏:
そうですね。とは言っても,レイトンさんはレベルファイブさんの看板キャラクターですし,大勢のファンがいらっしゃいますから,責任を持って書いていますが,僕自身は,レイトンさんをかなり面白い人物だと捉えています。
最初に日野さんの抱くレイトンさんのイメージを聞いて,そこから外れないようにしたうえで,コッソリ遊びを入れています。日野さんも気づかないような細かいところで,レイトンさんのいろんな面が見られるはずです(笑)。
Q:巧さんが書いた逆転裁判パートのレイトン教授について,感想を聞かせてください。
日野氏:
巧さんはよく,僕の目を気にしながら書いていたと言われるのですが,基本的には自由に書いていただいているつもりなので,僕からシナリオに対してツッコミを入れたことは,ほとんどありません。
むしろ,巧さんがレイトンをいじることで,作品が面白くなれば,それで良いと思っています。感想とはちょっと違うかもしれませんが,巧さんが自由に楽しみながら書いてくれているので,作品はすごく魅力的に仕上がりました。
魔法があるからにはルールがある,ルールがあるからにはムジュンが生ずる余地もある。一番やりたかったのは、物理法則などの共通ルールを外すこと
4Gamer:
「レイトン教授VS逆転裁判」のなるほどくんと真宵ちゃんは,「逆転裁判」シリーズの時系列ではどの時期であるとか,決まった設定はあるのでしょうか?
巧氏:
とくにないですね。「逆転裁判」シリーズは,けっこうガチガチに時系列が定まっていますけど,今回はお祭りなので,純粋に「レイトン教授VS逆転裁判」だけのパラレルな世界という設定になっています。
4Gamer:
今回,なるほどくんと真宵ちゃんを久しぶりに書いてみていかがでした?
巧氏:
2人を公式に書くのは8年振りになるのですが,ずっと頭の中にいたキャラクターなので,やり取りはまったく詰まることなく書けましたし,楽しかったですね。逆に読んでくださる皆さんが,変わった,変わらないをどう感じるのか気になります。
「逆転裁判」は僕自身が全体をコントロールしてきたシリーズですが,今回は日野さんはじめレベルファイブの皆さんとの共同作業ですから,そこに対するみなさんの感想も気になります。とにかく,楽しんでいただけることを願っています。
4Gamer:
「レイトン教授VS逆転裁判」では,魔法というファンタジー要素が入ってきますよね。「逆転裁判」然り「ゴースト トリック」然り,仕掛けにこだわっていますが,「何でもあり」にすることもできてしまうファンタジーをどう扱ったのでしょうか。
今回,作り手として意識したのは魔法の扱いです。通常のミステリーだと,たとえば証拠品に残った指紋が事件解決の糸口になるように,現実世界の物理法則に則っています。それは,作り手にも読み手にも,そういう共通ルールが共有されている前提があるからできることです。
ところが,魔法については誰も知りません。そういった世界にいきなり成歩堂が放り込まれたら,どうやってロジックを組み立てるのか。物理法則などの共通ルールを外すことを一番やりたかったんです。
魔法があるからにはルールがある,ルールがあるからにはムジュンが生ずる余地もある。僕が目指したのは,それを皆が同じスタートラインから発見して,その驚きと喜びを共有できる,というところでした。
4Gamer:
なるほど。ルールに対する矛盾であれば,ベースが魔法でも成立する気がしてきました。
巧氏:
「逆転裁判」にも霊媒という要素があって,そこに特定のルールを設けていたのですが,今回は,魔法という形でより分かりやすく打ち出そうと。
魔法は何でもアリに見えるけれども,ルールが頑として存在するので,それに沿って裁判が進められるというような発見を楽しんでほしいんです。
だから発想の順番としては,常識の通用しない魔法という存在がまず先にあって,それが魔女裁判に結びついたという感じですね。これは「逆転裁判」シリーズのナンバリングタイトルではできないアイデアですが,今回は,それが実現できる機会だったわけです。
4Gamer:
今回,真宵ちゃんが出てくるのに霊媒を使わないというのも,魔法との兼ね合いですか。
巧氏:
そうですね。両者が混在してしまうと,軸がブレてしまうし,それでプレイヤーが混乱してしまったら,ゲームとしての面白さも危うくなります。
「逆転裁判」を知らない「レイトン教授」ファンは,「この変な格好の女の子は何なんだ?」と思うかもしれませんけど(笑)。
4Gamer:
そういえば,真宵ちゃんが霊媒師だからああいった着物風の衣装を着ているという説明も,一切省かれていますね。
巧氏:
そういうところが気になった方は,3DSならDSの「逆転裁判」シリーズ/「レイトン教授」シリーズ全部が遊べますから,ぜひこの機会に過去作品を手に取っていただければと(笑)。
4Gamer:
作品のテーマの一つである「魔女裁判」について,思いついたのが2010年5月26日だったと業務日報に書いてある,とつぶやいていましたよね。思いついたアイデアまで日報に書いているんですか?
巧氏:
そうですね。日報にはいろいろ書いてます。最初のうちは作業内容だけ書いていたのですが,毎日書いていると,同じような内容ばかりが続きますよね。だから,日々あった面白いことを書くようになってきて。
ジーケン・バーンロッド卿のネーミングに関連して,フィンランドの人達の名前が面白いというツィートもしましたが,あれも,そのまま日報に書きましたね。
4Gamer:
……え? 日報にあんなことを書いているんですか?
巧氏:
はい。「今日はジーケンさんの正式な名前を考えていたのですが,結局決まりませんでした。と言うのは……」みたいな感じで。
4Gamer:
もしかして,交通費清算の話も……。
巧氏:
それも日報に書いてますね。僕にとって文章を書くということは,それが日報であれTwitterであれ,ある種の作品なんです。だから,生半可なものを出したくないんですね。
4Gamer:
ところで日報って,基本的には上司が見るものですよね。
巧氏:
ええ。みなさんシャレの分かる方たちだという,ぼくの勝手な大前提のもとに書いています。たまにリアクションが返ってきますよ。
4Gamer:
懐の広い会社ですね……。
巧氏:
「レイトン教授VS逆転裁判」の開発が佳境で忙しかったので,きちんとした日報を書けなくなっていて,最近マスターアップして少し時間ができてからも,あまり書いていないので,またちゃんと書かかないと。日報を書いたり,Twitterをやったりという目的があると,日々の物の見方も変わってくるんですよね。ある意味で,修行になっています。
「レイトン教授」も「逆転裁判」も遊んだことがないという人であっても,「レイトン教授VS逆転裁判」をプレイすれば,それぞれのシリーズを遊んでみたくなる
4Gamer:
以前からお聞きしたかったのですが,巧さんが書く文章は,同じ単語でも漢字になったり,ひらがな/カタカナになったりと,独特で特徴的ですよね。何かルールがあるのでしょうか?
巧氏:
僕が気をつけていることの一つに,「読む」のではなく「見る」だけで頭に入るように書くというのがあります。
「逆転裁判」では,視線を左右に動かすことなく見るだけで情報として飛び込んでくるテキストの量が16文字×2行と想定して,その中で改行に気をつけたり,画数の多い漢字は使わないようにしたり,ひらがなが続きすぎたらカタカナを織りまぜたりカッコでくくったりして視認性を高めています。ルールが厳密にあるわけではなくて,そこは状況に応じて書いています。
今回は,「レイトン教授」シリーズに合わせて20文字×2行になっています。そういう意味では,今回,3DSになって文字がシャープになった半面,少しサイズが小さいかなという心配もあるのですが……。
4Gamer:
すごく細かい話ですが,裁判長は文章中では「裁判長」なのに,メッセージウィンドウでは「サイバンチョ」になっているのはなぜなのか,せっかくなのでこの機会にぜひ教えてください。
巧氏:
ゲームボーイアドバンス時代の仕様で,ウィンドウの上のスペースには6文字までしか入らなかったんです。
1作目では「サイバンカン」だったんですが,皆からはずっと「裁判長」と呼ばれていたので,「逆転裁判2」からは「サイバンチョウ」にしてしまおうと。6文字制限があるので,「ウ」は取ってしまったんです。そこに深い意図はなかったですね。
今回は,7文字どころかもっと増やせたんですけど,一度定着した名前を変えるのもどうかということで,そのままにしています。「逆転裁判」をプレイしたことがない方は,「サイバンチョ」という名前かと思ってしまうかもしれませんね(笑)。
4Gamer:
そういえば,あの部分だけカタカナ表記ですよね。なるほどくんは,ほかの場所の文章ではひらがなですが,あそこだけ「ナルホド」になっています。あれは,どちらが正しい表記なんですか?
巧氏:
それもゲームボーイアドバンス時代の仕様で,メッセージウィンドウではカタカナなのですが,なるほどくんと呼ぶ場合は,ひらがなが正しいです。
4Gamer:
……なるほど。
今回,レベルファイブと共同制作した経験から,今後,巧さんのゲーム制作にアニメなどの表現手法が取り入れられるといった可能性はありますか?
巧氏:
検討すべき要素が一つ増えたという感じですね。プレイヤーの皆さんあってのゲームですから,何が望まれているのかも慎重に検討する必要があります。
僕自身は,ゲームにしかできない表現にこだわりたいので,映画やドラマでできる表現を,ゲームでやる必要はないのではないか,と考えていたんです。「ゴーストトリック」のときは,アニメやボイスを入れないどころか,演劇の舞台のようにカメラワークも完全に固定するというこだわりを持って臨みました。きっと,自分で自分を縛るのが好きなんでしょうね(笑)。
ただ,それと求められるゲーム像はまた別ですから,今回の取り組みで増えた手札を使うかどうかは,次に何をやるのかで変わると思います。
4Gamer:
では最後に,「レイトン教授VS逆転裁判」をまだプレイしていない人に向けて,メッセージをお願いできますか?
「レイトン教授」も「逆転裁判」も,任天堂プラットフォームで展開するアドベンチャーゲームの代表的なシリーズです。「レイトン教授VS逆転裁判」は双方の面白さをそれぞれの新作として楽しめて,かつ2つのシリーズのコラボレーションとしての面白さを楽しめる,豪華なお祭りのようなゲームです。
普通,こういったコラボレーションは,一方のシリーズのチームがもう一方のシリーズのキャラクターを借りて行うものですが,今回は,両方のチームが協力し合い,ときに喧々諤々しながら作ってきましたので,その密度たるやすごいものがあります。
これまで,「レイトン教授」も「逆転裁判」も遊んだことがないという人であっても,これをプレイすれば,それぞれのシリーズを遊んでみたくなると思います。どちらもシリーズとして作を重ねていますから,すごく長く楽しめるのではないでしょうか。そのスタートとして,「レイトン教授VS逆転裁判」をぜひ手に取ってみてください。
4Gamer:
ありがとうございました。
Q:今回,カプコンの巧さんと一緒に作品作りをした印象を聞かせてください。
日野氏:
巧さんは,クリエイター気質が非常に強い方だなと感じました。僕はプロデューサー,クリエイターという両方の面を持っていて,自分の役割を使い分けているのですが,巧さんは純粋なクリエイターで,納得するまでこだわりを持って制作されます。
だからこそ,作品を任せられますし,一緒に作っていて面白いと感じました。巧さんの作品に対する思いを感じたので,今回一緒にお仕事が出来て良かったと思っています。
Q:「レイトン教授VS逆転裁判」をまだプレイしていない人に向けて,メッセージをお願いします。
日野氏:
「携帯ゲーム機を持っている人であれば,2つのコンテンツが融合したこのタイトルを遊ばずして,何を遊ぶ!」というくらい自信を持ってお届けできる作品となっています。携帯ゲーム機ならではの仕掛けがたくさん入った『レイトン教授VS逆転裁判』を是非遊んでください。かなり楽しめると思いますよ!
「レイトン教授」は日野氏,「逆転裁判」は巧氏がぶつかり合ったことで,まぎれもない本物同士が融合したタイトルになっているのは,巧氏の話からも感じ取ってもらえたのではないだろうか。
発売済みのタイトルなので,もうプレイしている,クリアしたという人も多いことだろうが,本作はクリア後の“オマケ”として,「巧氏が書き下ろした短編シナリオ+レベルファイブ渾身のナゾトキ」が12篇,設定資料などのアートワークがそれぞれ12回,全24週にわたって配信されていく(関連記事)。クリア後も長く楽しめる作品となっているので,まだプレイしていないという人は,ぜひ手に取ってみてほしい。
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