テストレポート
「Radeon HD 6970&6950」CrossFireXテスト。やはりドライバの成熟待ちだが,光るものは見える
その後12月下旬になって,AMDは搭載グラフィックスカードの想定売価を日本円でそれぞれ3000円程度引き下げており,ショップ関係者によれば,新価格は今週から適用されている模様。早くも価格設定に関してはメスが入った格好だが,今回はそんな2製品のCrossFireX動作をテストしてみたいと思う。
「Radeon HD 6870」(以下,HD 6870)および「Radeon HD 6850」のCFX性能は優秀で,マルチGPUのアップグレードパスとしては,かなり魅力的な存在だったが(関連記事),新しいGPUコアアーキテクチャを採用する上位モデルだとどうだろうか。
レビュー時と同じ環境でテストを実施
CFX構成時は(今のところ)PowerTune利用不可
HD 6970とHD 6950の特徴などは解説記事やレビュー記事を参照してもらうとして,さっそくテストのセットアップに入りたい。もっとも,テスト環境は表に示したとおり。マルチGPU構成のテストに合わせてグラフィックスカードを変更した以外,ドライバのバージョン,CPUの動作設定も含めて,レビュー時とまったく同じである。
比較対象には,下位モデルとなるHD 6870のCFX構成,そして競合製品となる「GeForce GTX 580」「GeForce GTX 570」(以下順に,GTX 580,GTX 570)のSLI構成と,デュアルGPUソリューションである「ATI Radeon HD 5970」(以下,HD 5970)を用意。プライマリで用いたグラフィックスカードは基本的に,HD 6970&HD 6950のレビュー時に用いていたもので,GTX 570のみ,スケジュールの都合により,GALAXY Microsystemsから貸し出しを受けた「GF PGTX570/1280D5」へ変更している。また,セカンダリとして用意したカードのうち,「EAH6870 DirectCU/2DI2S/1GD5」は,ASUSTeK Computerから貸し出しを受けたもので,同製品はメーカーレベルでクロックアップがなされているが,CFXの仕様上,セカンダリとして利用する分には,リファレンスクロック動作のカード2枚によるCFXと捉えて問題ない(※とくに断っていない機材は,4Gamerで独自に用意したものとなる。セカンダリGTX 570は,4Gamerで用意したもう1枚のGF PGTX570/1280D5だ)。
SAPPHIRE HD6970 2G GDDR5 PCI-E DL-DVI-I+SL-DVI-D/HDMI/DUAL MINI DP BFBC2 VIETNAM GAME EDITION メーカー:Sapphire Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店)info@ask-corp.co.jp 実勢価格:4万2000〜4万6000円(※2010年12月25日現在) |
SAPPHIRE HD6950 2G GDDR5 PCI-E DL-DVI-I+SL-DVI-D/HDMI/DUAL MINI DP メーカー:Sapphire Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp 実勢価格:2万8000〜3万4000円(※2010年12月25日現在) |
EAH6870 DirectCU/2DI2S/1GD5 メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 価格:未定(※2010年12月25日現在) |
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション10.2準拠で,解像度は1920×1200&2560×1600ドットの2種類を選択。さらに,より負荷の大きい状況でこそマルチGPUの効果が現れやすいこともあり,今回は「標準設定」や「低負荷設定」を省略し,「高負荷設定」のみのテストとした。シングルカードのスコアは,レビュー時のものを流用している。
ところで,Radeon HD 6900シリーズに新しい電力制御機構である「PowerTune Technology」(以下,PowerTune)が搭載されているというのは,別途掲載済みのテストレポートでお伝えしているとおりだが,CFX構成をとると,「Catalyst Control Center」に,同機構の制御用となる「Power Control settings」スライダーが表示されなくなった。テストに用いているグラフィックスドライバは,「Catalyst 10.11」をベースとするレビュワー向けリリースだが,現状では,CFX動作時にPowerTuneを利用できないようだ。
CFX動作のスコアの伸びはなかなかに優秀
ただしドライバの練り込み不足はここでも感じられる
以下,文中とグラフ中ともに,マルチGPU動作とシングルカード動作を区別するため,CFX動作時はGPU名の後ろに「CFX」,SLIは「SLI」とそれぞれ付記するとお断りしつつ,テスト結果を見ていくことにしよう。3D性能を比較するグラフは基本的にマルチGPU→シングルGPUの並びとし,かつモデルナンバー順で揃えているが,グラフ画像をクリックすると,別ウインドウで,2560×1600ドット時のスコアを基準に並び替えたものも表示するようにしてある。
というわけでグラフ1は,「3DMark06」(Build 1.2.0)の総合スコアをまとめたもの。このクラスのマルチGPU動作だと,高負荷設定1920×1200ドット程度では負荷が低すぎてCPUボトルネックが発生し,22000弱程度でスコアの頭打ちが見られる。
そこで2560×1600ドットに注目すると,HD 6970 CFXでHD 6970から約29%,HD 6950 CFXは約37%,スコアの向上が見られた。スコアが頭打ち気味になる以上,マルチGPU動作で今一つ伸びきらないのはやむを得ずといったところか。
GTX 580,HD 6970,HD 6950,GTX 570という力関係それ自体は,シングルカード時と変わっていない。
グラフ2は「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の「Day」シークエンスの結果だ。
ここで,HD 6970 CFXとHD 6950 CFXが示したスコアは,それぞれシングルカード構成時に対して51〜60%,63〜67%高いというもの。GTX 570 SLIの同83〜107%というスコアと比べると,見劣りするうえ,HD 6870 CFXの同72〜75%という伸び率にも届いていない。
Radeon HD 6900シリーズのCFX構成が,GeForce GTX 500シリーズのSLI動作に及ばないというこの傾向は,同じくSTALKER CoPから,より負荷が大きくなるSunShaftsシークエンスのスコアをまとめたグラフ3でより顕著になる。
ただし,HD 6970 CFXとHD 6950 CFXが,グラフィックスメモリ容量2GB効果か,2560×1600ドット時のスコアでHD 5870 CFXやHD 6870 CFXを大きく引き離している点は注目しておきたい。
同じDirectX 11タイトルでも,グラフ4に示した「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)だと,そこまでGeForce圧倒という結果にはなっておらず,シングルカード時の力関係をまずまず反映した格好になっている。むしろ,HD 5870 CFXがシングルカード比で60〜62%のスコア向上に留まったのに対し,Radeon HD 6900&6800シリーズのCFXがそれぞれのシングルカード比で安定して70%以上の伸び率を示したことを評価すべきだろう。
グラフ5の「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)におけるHD 6970 CFXとHD 6950 CFXのスコア向上率も相当に優秀だ。シングルカード構成時比で順に95〜99%,109〜117%なので,HD 6870 CFXの同79〜99%に遜色ないどころか,下位モデルを上回るスコア向上を実現できている。
ただ,絶対的なフレームレートで比較したとき,HD 6970 CFXがHD 5870 CFXに大きく水をあけられてしまっているのは,やはり看過できない。シングルカード構成のレビュー時に指摘した「テクスチャ性能周りにある何らかの不安」は,CFX構成でも引きずったままだ。
一方,ここまでとはまったく異なる結果になったのが,グラフ6に示した「Just Cause 2」である。
シングルカード動作で,Radeon HD 6900シリーズは,GeForce GTX 500シリーズにまったく歯が立たなかった。にもかかわらず,マルチGPU動作では,HD 6970 CFXがGTX 580 SLIを逆転し,HD 6950 CFXがGTX 580 SLIとほとんど同じスコアを叩き出しているのだ。Catalystの最適化が適切なのか,GeForce Driverが今一つなのか,その両方が原因なのかまではさすがに何とも言えないが,シングルカード動作時とマルチGPU動作時で,ここまで違う傾向を示すというのは,なかなか興味深い。
ちなみに,シングルカード動作時に対するスコア上昇率は,HD 6970 CFXが50〜74%,HD 6950 CFXが64〜83%。GTX 580 SLIの同11〜13%とは対照的である。
グラフ7に示した「バイオハザード5」は,120fps前後でCPUボトルネックが発生し,スコアが荒れる傾向にある。スコアを取って,しかもグラフに示しておいて恐縮だが,ハイエンドクラスのグラフィックスカードを使ったマルチGPUの検証用アプリケーションとして,バイオハザード5は不向きになってきている印象だ。
性能検証の最後は「Colin McRae: DiRT 2」(以下,DiRT 2)である。結果はグラフ8にまとめたとおりだが,シングルカード構成時と比較すると,HD 6970 CFXは54〜64%,HD 6950 CFXは65〜72%のスコア向上率。HD 6870 CFXの69〜73%と比べても悪くはないが,2560×1600ドット解像度でGTX 580 SLIやGTX 570 SLIが示す75%,86%といった数字には及んでいない。
なお,GeForce GTX 500シリーズのSLI動作で1920×1200ドット時にスコアが伸びきっていないのは,CPUボトルネックが原因と思われる。
HD 6970 CFXの消費電力はGTX 570 SLIと同等か
やや低め。HD 6950 CFXとの差はかなり大きい
ハイエンドGPUを2基動作させる以上,消費電力がハネ上がるのは想像に難くないが,レビュー記事で,決して低消費電力と言えなかったHD 6970は,CFX動作でどういったスコアを示すのか。今回も,ログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を測定・比較してみよう。
測定にあたっては,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果はグラフ9のとおり。
まず,アイドル時で比較してみると,HD 6970 CFXとHD 6950 CFX搭載環境はシングルカード構成時から19〜24Wほど高い値を示しており,アイドル時の消費電力が20Wとされるグラフィックスカードを1枚追加しただけのスコアに収まっている。また,180Wを超えるGTX 580 SLIやGTX 570 SLIと比べても明らかに低い。
その一方で,アプリケーション実行時におけるHD 6970 CFXのスコアが高いのはかなり目に付く。GTX 570 SLIと同等か若干低いレベルで,その立ち位置だけならシングルカード構成時とほぼ同じなのだが,HD 6850 CFXやHD 5870 CFX,HD 5970が作る“第2グループ”からは完全に抜け出してしまっている。このインパクトは大きいと言わざるを得ないだろう。
3DMark06の30分連続実行時を「高負荷時」とし,アイドル時ともどもTechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.4.9)からGPU温度を取得した結果がグラフ10だ。今回のスコアは,20℃の室内において,PCケースに組み込まない,いわゆるバラック状態に置いたときのものとなる。
レビュー記事ではHD 6970の温度が高いと指摘したが,マルチGPU動作時は,負荷が分散されるためか,プライマリGPUでも75℃と,HD 5870 CFX並みのスコアに落ち着いている。HD 6950 CFXだとさらに温度が下がった。ただ,GTX 580 SLIよりは高く,この点は覚えておく必要があると思われる。
GTX 570 SLIに届かない場面も多い
ドライバの練度が足りておらず今後に期待
また,シングルカードでGTX 570に迫っていたHD 6970の消費電力は,マルチGPU動作でも顕著に伸びてしまっており,とくにHD 6950 CFXとの差はかなりのものになった。CFX動作でこそ,PowerTuneは効果を発揮しそうなのだが,現時点では利用できない点も惜しい。
以上のことから,Radeon HD 6800シリーズのCFXを勧めたときと同じテンションでRadeon HD 6900シリーズのCFXを勧めるわけにはいかないというのが,この時点での結論である。何はともあれ価格は下がり始めたわけで,あとはどれだけ早いタイミングで,ドライバのチューニングが一定のレベルに達してくれるかがカギとなりそうだ。
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