インタビュー
「日本ファルコム×イメージエポック」2大メーカー社長対談――“ジャパンRPG の「軌跡」と「未来」”
2010年11月24日,若き社長,御影良衛氏が率いるイメージエポックは「新作発表会 兼 JRPG宣言決起会」という,実にインパクトのある発表会を開催した。このとき「JRPG」という言葉をあえて掲げたことに,日本中のゲームファンおよびゲーム開発者が衝撃を受けたことだろう。
一方,国産RPGメーカーの老舗である日本ファルコムでは2007年,まだ32歳だった近藤季洋氏が新社長に就任。PCゲームを主なプラットフオームとして活動してきた日本ファルコムが,その主戦場をPSPへと移し始めたのも,ちょうどこの前後からである。
2011年4月,都内某所にて,「日本のRPG」にこだわる2人の若き社長による“ジャパンRPG の「軌跡」と「未来」”と題した対談が実施された。日本のRPGは今,どうなっているのか? そしてこの先,どこへ向かうのか? 若き社長2人によって繰り広げられた熱いトークが……4月30日発売の「ゲーマガ」2011年6月号にて,全6ページにわたって掲載されているのだ。
いきなりそんな宣伝だけしても「なんだよ」って感じだが,今回4Gamerでは,この対談記事の“プレビュー版”をお届けしよう。プレビューとはいっても前半まるまる載せており,結構な読み応えがある。全文が読みたくなっちゃった人は,「ゲーマガ」2011年6月号を購入して引き続きお楽しみいただきたい。それでは対談記事を以下よりどうぞ。
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2人のコンピュータゲームの原体験は?
国産RPGの退潮が語られる現在のゲームシーン。このジャンルにこだわりを見せるメーカーは,いかにして未来を切り開こうとしているのか? 老舗と新進,対照的な2社のトップが大いに語る!
「スペースインベーダーの衝撃」
――お2人とも,就職前からゲームはお好きだったんでしょうか?
近藤氏:
当時,普通はワンプレイ100円で,子どもには大金でしたが,運がいいことに,父親の会社の保養所に行くと10円でできたんです。それで夢中になって……それから近所のお兄ちゃんの家でエポック社のゲーム機に触れて,その流れでファミコンが出たら当然気になって,自然に入っていったら「ドラゴンクエスト」に出会ったと。これが大きなインパクトでしたね。「ゲームにお話がある」っていうのが,すごい衝撃的でした。
――ゲーム業界に入ることを考え始めたのはいつですか?
近藤氏:
小学校2年のときに「将来の夢はゲームセンターの店長」って言って,親をがっかりさせました(笑)。今でも,親にネタにされますよ。真剣にゲーム業界に入ることを考え始めたのは大学に入ってからです。
「FFVIIとの運命的な出会い」
御影氏:
僕は幼稚園の頃,任天堂の「ゲームウォッチ」で遊んだ記憶がありますが,それから中学3年まで,ゲームに触れてないんです。ウチはとにかく勉強,勉強だったので,まったく触れられなかったんですね。たまに友だちの家に遊びに行くと「ドカポン」とか「桃鉄」があって,その瞬間は一心不乱に遊んでいた記憶があります。そんな僕を見かねて,父が「ドラゴンクエストIV」を持ってきてくれたんですが,やってるところを母親に見つかって,「何,この頭の悪くなる道具は!」って激怒されて捨てられちゃって,トラウマになりました(笑)。
ちゃんと遊べるようになったのは高校に入ってからで,父が今度はプレイステーションを持ってきてくれて,受験後だったので,母もさすがにうるさく言わなくなっていたんです。最初にプレイしたのは「MYST」(編注:海外ADVの名作)だったんですが,僕にはあまり面白くなかったです(笑)。
それで,何かほかのゲームを遊びたいなと思って,何の知識もないまま生まれて初めてゲームショップに行ったら,ちょうど「ファイナル ファンタジーVII」の発売日だったんです。これを店員さんに勧められて,買って帰ってやってみたら,4日間寝ずに遊んでしまって……本当に4日間寝てないと思うんですよ(笑)。ここからゲームにシフトした感覚ですね。あの時間がなければ,別のことをしていたかもしれないです。
――いまRPGを中心に手がけているのも,その原点の影響ですか?
御影氏:
そうですね。学生時代からいろいろな会社で経験しましたが,ほとんどがRPGの類でした。だから,アクションゲームのノウハウはまったくないんですよ(笑)。
イメージエポック代表取締役社長
御影良衛氏
高校3年のときにコーエー(現コーエーテクモゲームス)でデバッグのアルバイトを始めたのが,ゲーム関連キャリアの始まり。その後,大学時代に複数社を開発現場で経験,2004年にナムコテイルズスタジオに入社。同年8月13日に,合資会社イメージエポックを立ち上げた。約1年後の2006年6月9日に同社を株式会社化し,現在に至る。起業当時22歳で,現在29歳。
日本ファルコム代表取締役社長
近藤季洋氏
1998年,大学卒業と同時に日本ファルコムに入社。総合職として入社し,サーバーの管理などを担当していたが,社内アンケートで多くの意見を語るうちに開発に加わり,企画やプロデュース,ディレクション,シナリオなどを手がけるように。「空の軌跡」をはじめ,21世紀に入ってからの同社作品のほとんどに,何らかの形で関わっている。2007年,代表取締役に就任。
「JRPG宣言」を打ち出した意図は?
「興味を持たれることがまずは大切」
――御影さんは,最初の自社タイトル「最後の約束の物語」の発表と同時に,「JRPG宣言」を出されました。そのねらいは?
御影氏:
ほめてくれる人と憎んでくれる人っていうのは,プラスマイナスの違いはあっても感情の絶対値は同じで,知ってもらいさえすれば,それをひっくり返すのは努力をしていけばいいと。そういう理論は確かに心理学にあって,非常に納得できたので,じゃあその戦略で行こうと。
ただ,JRPGっていうものに対して御影良衛が感じている,海外との違いとか,まだ失われていない楽しさっていうのを,僕自身がすごく愛しているのは本当です。そこに,ウチの広報チームが理論武装してぶつけてきたっていうのが正確なところですね。僕がRPGを好きじゃなかったら,多分,この戦略はなかったと思いますよ。
──「JRPG宣言」に関して,近藤さんはどう思いました?
近藤氏:
僕は発表会の前に,御影さんから直接,「こういうことを考えてる」と聞いていたんですよ。そのとき僕自身が,自社のRPGについての方針を改めて打ち出していたので,「なるほど」と思いましたね。
「まずは,きちんと作れるものを作る」
――その方針というのは?
近藤氏:
「海外はどう考えてるんですか?」とか,「海外も踏まえて展開を考えたほうがいいよ」って言われることも増えてきているんですが,自分たちの理念として,まずきちんとしたものが作れないといけないっていうのがあるんです。向こうのテイストできちんとやれるか考えたときに,そもそも足場がもろくて,良否の判断さえできないと思うんですよ。だから,一時はいろいろ悩んだんですけど,まずは自分たちが確信をもってやれることをきちんとやろうと。
具体的には,停滞気味な日本のRPGをもう1回進化させて,それを礎にしてやっていこうという方針を出したんですね。絵画とか音楽の名作って,身近な人のために作ったものが広がっていったっていうパターンがあるじゃないですか。それと同じように,まずは日本向けにきちんと作って,進化させてから,その延長線上で海外に受け入れてもらう形になるべきだと考えたんです。そう決めた矢先に御影さんの話を聞いたので,「JRPG,なるほどな」って,スッと入ってきたんですよ。聞いた瞬間から賛成でしたね。叩こうとか,全然思わなかったですよ(笑)。
「良い作品を作り続ければ3本目には売れる」
御影氏:
それから,「売れなくても,良いものを作り続けて継続して3本やれば,3本目で恐らく15万前後まで持っていけるはずで,ファルコムさんが落ちていくことは,おそらくないでしょう」とも申し上げました。無理やりにでも続けていればっていうのはウチの考え方でもあって,「最後の約束の物語」も,そういうつもりで作っています。
――さきほど近藤さんが,RPGは停滞期にあると仰いましが,御影さんもそう思われますか?
御影氏:
僕も今は,まさに停滞期だと思っています。ただ,どこかでひっくり返すことはできるだろうとも思っています。ファルコムさんっていう,僕の憧れのブランドの1つでもある老舗の会社が良質のRPGを出し続けてくださっていますし,日本一ソフトウェアさんの「ディスガイア」とかもありますしね。そういう,15万本前後売れている良質なRPGを,次のステップにどう持っていくかっていうことを,僕らはこれから,もっと密に語り合っていくべきだと思っています。
日本のRPGが停滞してしまった原因は?
「“きちんと作る”ことを止めたことが敗因」
――日本のRPGが停滞した理由は,どこにあるとお考えでしょうか?
近藤氏:
やっぱり,ゲームの中身ですよね。「きちんと作る」ということを,環境の面でいろいろあって止めてしまったというのが,一番大きいんじゃないでしょうか。ウチはずっと,何か変わったことをしてきたわけではないんですね。やるべきこと,やらなきゃいけないことを,きちんとやってきただけです。
いまウチを評価してくださっているユーザーさんは,この部分に対する信頼を持っていただけているはずで,だからこそ毎回,次を楽しみに待っていただけると思うんですよ。そういう信頼が,一部で失われつつあると思うんですね。
御影氏:
僕は開発上がりですがマーケッター気質なので,マーケットの側面から話をさせてもらうと,タイトルが定期的に投入されていないことも大きいと思います。ファルコムさんが成功してる理由の1つに,1年に1回,同じ時期に必ず作品を出していることがあるんですね。これは非常に良いことで,ユーザーの習慣化につながるんですよ。1つのサクセスストーリーに乗っています。
――では,現状を打開するために必要なこととは?
近藤氏:
まずは,失われた信頼を取り戻していくことが必要でしょう。信頼していただけた作品に与えられる結果が,先ほど御影さんが仰った,15万本というラインだと思うんです。そういう作品がある程度出てきたら,次はどうすればいいかは,みんなで考えていければと思ってます。「JRPG宣言」は,そのための起爆剤になるんじゃないかと,期待を込めて見ているんですけどね。
御影氏:
15万本ラインのタイトルを作って,いまファルコムさんがやっているような定期的なソフト投入サイクルを構築することで,まず基盤を作れます。その次の目安になる数字は,30万本ですね。1990年代には,30万本以上売れるRPGが,1年間にだいたい3本以上は出ていたんですよ。ところが今は,100万本以上は2,3年に一度しか出ず,50万本のタイトルも2年に一度くらいしか出ない。そして,かつて30万本前後売れていたタイトルは,軒並み10万本以下になっているんです。
この状況で,30万本以上のタイトルを定期的に出せるようになる会社はどこかっていうのが次の焦点で,イメージエポックがねらっているのは,そこなんです。30万本を年間3タイトル,毎年投入できるようにする,これがウチの5カ年計画です。
そのために,まずは15万本のタイトルを3タイトル保持すること。これが直近で目指していかないといけない仕事だと思ってます。そして3年後からは,30万本を3本という戦略にシフトしていきます。これである程度基盤ができると思います。
「継続とブランドが好きな日本人」
――売るために必要な,具体的なアクションは何だとお考えですか?
御影氏:
もちろん作品のクオリティ維持はマストですよ。ニッチから始めて除々にマスへ広げていく。かんたんにいうなれば3〜4本まとめて数年単位でものを見て総合プロデュースしていく感覚が必要なのかもしれません。
近藤氏:
継続が大事というのはそのとおりで,「空の軌跡」がまさにそうですね。シリーズ1作目の「FC」がPSP参入の2本目だったんですが,このとき,売れてない時期もひたすら広告を出し続けたんですよ。そうしたら,2作目の「SC」が出たときに,売り上げが目に見えて加速したんです。1作目の初週は5万もいかなかったんですね。そんなところからスタートして,今は20万本以上のセールスが出ているんですが,広告を出し続けた効果は確実にありました。「Yahoo! 満足度ランキング1位」というキャッチをずっと載せたのも正解でした。
コアなゲームファンではない一般の方はモンドセレクションのように,ブランドで保証されると安心するんですよね。お店の人が,あれを見たことで「FC」を入荷してくれるようになったんです。そういう流れができてきたところに「SC」が出て,すると「FC」を買う人も増えてくる。「SC」が売り切れると,今度は「SC」と「FC」を両方入荷してくれる。こういうサイクルを確立できたことで,「空の軌跡」はうまくいったと思います。
御影氏:
さりげなく話してますけど,相当に素晴らしいバリューチェーンの構築ですよね。なかなかできない,難しいことですよ。僕,レポートにまとめて真似ようって思いましたからね(笑)。
近藤氏:
ウチは広告も全部社内でデザインして作ってるんですけど,デザイナーがYahoo!の満足度ランキングを外してくるんですよ。で,広報の担当者が「外したら駄目!」って(笑)。そういう問答は何回かありました。
「ファルコムの戦略の失敗と修正」
御影氏:
マーケッターやってる人間から見ると,あれって,アクティブユーザーを押さえ切ったあとにライトユーザーのフォロワーさんに届けるための補完的な戦術であって,アクティブユーザーには全然届かない施策なんですよ。いきなり,そこに行ってしまったのを見て「ヤバイぞ」って思ったんですけど,その後の近藤さんの仕掛けがすごく絶妙で,ちゃんと盛り返してきた。それで,「今のファルコムの社長さんはキレるぞ」と思ったのが,最初に近藤さんにお会いしたいと思ったきっかけです。
近藤氏:
耳が痛い話ですね(笑)。ずっとPCでやってきて,PCでは広告媒体がある程度決まっていたので,自分には一般的な宣伝ノウハウがなかったんです。それなのにPSPに参入したとき,模索するプロセスを欠いたまま,やれることはとにかく何でもやろうという方向で進めてしまった。
そんな中で,御影さんや,アクワイアの遠藤社長,日本一ソフトウェアの新川社長のような方と少しずつ情報交換をさせていただけるようになって,思うところが出てきたんです。それで,日本一さんのやり方などを参考に,お金を出す前に知恵を出そうよと,初心に戻って修正していったんですね。
御影氏:
いま名前が挙がった会社でミニチュアゲームショウをやろうよって話をしたことがあるんですけど,なかなか簡単にはいかないですね。僕はいつでもOKなんですけどね(笑)。
近藤氏:
いろいろなメーカーさんが足並みをそろえるのは,やっぱり大変ですよね。でも,そういうアクションは細かいことからいろいろ起こしていかないとと思っています。
御影氏:
いまはユーザーさんとの交流も,自分で歩いてたくさんやらないといけないですからね。「最後の約束の物語」も地味にいろいろやってます。
近藤氏:
電車に広告打つより,まずはそっちですよね(笑)。
というわけで若干中途半端なところで終わっているが,社長対談の“プレビュー版”いかがだっただろうか。「ゲーマガ」2011年6月号では,「クソゲーを出さずに続けることの大変さ」「ジャパンRPGを欧米で売るのに必要なこと」「品質を維持して作り続ける決意」などといった後半の話題も含めた,この対談記事の全文が読める。日本のRPGと,そに子を愛する人のために購入リンクを用意しておいたので,ぜひ活用されたし。
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