インタビュー
「鬼哭街」から「沙耶の唄」「魔法少女まどか☆マギカ」までミッチリ質問攻め! 虚淵 玄氏&中央東口氏のロングインタビューを掲載
舞台は近未来の“魔都”上海。主人公「孔濤羅」が妹の仇を討つため,対サイバー気功術“電磁発勁”と一振りの倭刀(日本刀)を武器に,凶悪なサイボーグ武芸者達がひしめく犯罪結社“青雲幇”に,単身戦いを挑んでいくという復讐劇になっている。超人的な武術で戦いを繰り広げる武侠小説と,サイバーパンクな超科学が融合した独特の世界観が大きな魅力だ。
リニューアル版では,グラフィックスや演出が一新されたほか,豪華声優陣によるフルボイス化や縦書き表示システムなどを導入。さまざまな要素が大幅にリファインされている。
今回4Gamerは,同作の脚本を手がけた虚淵 玄氏と,原画担当の中央東口氏にインタビューする機会に恵まれた。「鬼哭街」制作の裏話はもちろんのこと,その他のニトロプラス作品や,虚淵氏が脚本を手掛け大ヒットしたアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」の今後の展開などについてもお聞きできたので,その内容をお届けしていこう。
虚淵 玄氏 |
中央東口氏 |
「鬼哭街」公式サイト
「ニトロプラス」公式サイト
サイバーパンク武侠片「鬼哭街」の軌跡
まずは自己紹介を兼ねて,お二人の関わってきた作品と経歴についてお聞かせください。
虚淵氏:
自分はニトロプラス初期のゲームから,シナリオや企画担当として作品に関わってきました。「Phantom PHANTOM OF INFERNO」から「吸血殲鬼ヴェドゴニア」「鬼哭街」「沙耶の唄」と制作して,その後は小説やアニメの脚本など,色々な仕事をこなしてきました。ゲームから離れたと思ったら,たまに戻ってきてまたゲームシナリオの仕事をしたり……。ふらふらと腰を据えずに活動していますね。最近だとアニメの「魔法少女まどか☆マギカ」でシナリオをやって,「あいつは誰だ?」なんて言われたりもしています(笑)。
4Gamer:
いや,虚淵さんのことはみんな知っていると思いますよ(笑)。
虚淵氏:
なんか,「STEINS;GATE」を作った人なんじゃないか,とか「デモンベイン」を作った人? とか……かなり勘違いされちゃっています。
4Gamer:
なんと……。
虚淵氏:
お客さんが増えてくれるのはすごく嬉しいんですが,急に有名になっちゃったせいで,よく分からない情報が拡散していますね(笑)。
4Gamer:
では続いて中央東口さん,自己紹介をお願いします。
自分も虚淵と同じく,ニトロプラスで「ヴェドゴニア」や「鬼哭街」「沙耶の唄」などのキャラクターデザインをやらせていただいて,その後フリーランスになりました。それからは,propellerさんで「あやかしびと」など,いくつかの作品に携わらせていただきまして,今回は「鬼哭街」で,久しぶりにニトロプラスで仕事をしましたね。
4Gamer:
ありがとうございます。それではあらためて,「鬼哭街」が生まれた経緯からお聞きしてもよろしいでしょうか。
虚淵氏:
当時,僕以外のライターで別のラインを一つ動かそうという話になり,「"Hello, world."」というタイトルの制作が進んでいたのですが,それの進行がかなり難航しまして……。その時にはもう,僕と東口は「ヴェドゴニア」の制作が終わっていたので,宙ぶらりん状態だったんですよ。
それで,「せっかくだから,この暇に何か1本作ろうか」って僕が言い出して,サクっと作ったのが「鬼哭街」です。
4Gamer:
では,「鬼哭街」はお二人のアイデアから生まれたということですか?
中央氏:
いえ,自分は企画発案に関わっていたわけではなく,虚淵から「こんなんあるんだけど,やらない?」って言われて,それに同調したという感じですね。
虚淵氏:
そもそも,「3か月で何かゲームを1本作れないか」という考えで始めた企画でしたから。
4Gamer:
たった3か月ですか!?
虚淵氏:
はい。ストーリーそのものは昔から考えていたネタをシャッフルしたもので,新規の作品に合わせて考えた……というわけではなかったので。
4Gamer:
なるほど。元々あったアイデアから引っ張り出してきたと。
虚淵氏:
そうですね。ちょうどその当時,中国の武侠小説にハマってまして。そこに僕が昔から考えていたストーリーのプロットを組み合わせて,構想そのものはあっという間に完成しました。そのせいか,キャラクターのイメージなどはかなり曖昧で,東口には苦労をかけましたよ。
4Gamer:
キャラクターのビジュアルイメージは,かなり東口さん任せな部分があったと。
虚淵氏:
もう任せっぱなしです。彼が途方に暮れるくらい任せていました(笑)。
中央氏:
虚淵はビジュアル面にあまりこだわらないので,それが良いところでもあるんですけど,逆に取っ掛かりがなくて困ることも多かったですね。
4Gamer:
となると,デザインに悩んだところも多かったのでは?
中央氏:
そうですね……悩んだというか……。
虚淵氏:
むしろ「悩む時間が欲しかった」って感じだよね。時間の制約が何より大きかったので,「すぐにやっちゃって!」という感じの急かし方をしちゃうことが多かったです。
4Gamer:
大急ぎだったんですねぇ。実際のところ,本当に3か月で制作できたのですか?
虚淵氏:
実際はちょっとはみ出したかも。
中央氏:
そうですね,実際は3か月半から4か月ほどかかったと思います。
4Gamer:
それでも十分凄いと思いますが……。
中央氏:
というかむしろ,そのあとに作った「沙耶の唄」が,3か月くらいで終わったはずです。
虚淵氏:
そんなもんだった?
中央氏:
はい,かなりスムースに制作が進んだのを覚えています。
虚淵氏:
まぁ,あれはほかの作品と違って,背景とか服で頭使わなかったからねぇ。ストーリーが出来ていればあとは早いよ。
4Gamer:
しかし,本当に3か月や4か月で作れてしまうもんなんですねぇ。
虚淵氏:
分岐が存在しないので,実際は“ゲーム”じゃないんですけどね(笑)。
4Gamer:
「鬼哭街」は分岐なしの「ストーリーノベル」という,当時としては非常に挑戦的な作品でしたね。
虚淵氏:
その点はある意味,不安でもありました。今でこそ「ひぐらしのなく頃に」のような作品がありますけど,当時の基準で考えたらありえない試みだったので。
4Gamer:
となると,制作するうえで反対意見なども?
虚淵氏:
お店のほうから「何でもいいから,選択肢をつけてくれ」というオーダーが来たりもしましたね。いわゆる“ムカデ分岐”というヤツで,「バッドエンドとグッドエンドがあるだけでもゲームだと言い張れるから!」と。それを聞いて,ちょっとムカッとしました(笑)。
4Gamer:
確かに,それはちょっと違いますよね。重要なのはストーリーですし。
虚淵氏:
ムカデでいい,なんて言われたらヘビ(分岐無しの一本道)のほうがいいよ! という気持ちになりまして。
4Gamer:
その結果,ヘビとして発売された「鬼哭街」は,非常に多くのファンから高い評価を受けましたよね。それについてはどう思われましたか?
虚淵氏:
いや,ビックリでしたね。「ここでヘコんでも『"Hello, world."』で取り返せばいいや!」くらいの気持ちで作った,半分趣味の作品なので。言ってみれば,日替わりランチで試しにでっちあげたメニューがバカ売れした! みたいな気分です(笑)。
4Gamer:
やはり虚淵さんとしては,選択肢のある作品よりは,ない作品のほうが好みなのでしょうか?
もちろん,選択肢がないほうが書きやすいですね。なにより,一本道ならブレない主人公をちゃんと想定できるので。「Phantom」と「ヴェドゴニア」を通じて痛感させられたのが,僕には八方美人なギャルゲータイプの主人公を作れないという部分でして,キャラクターをしっかり作っていくと,「こいつが惚れるのはこの女だ」というのがしっかりと見えてきちゃうんです。
4Gamer:
そう言われるとそうですね……。ギャルゲーの主人公って,真面目に考えるとかなりおかしな性格をしていたりしますし,全編を通しての感情移入は難しいかも。
虚淵氏:
逆におかしくないと,シナリオが成立しなくなってしまう。僕には,ヒロインすべてに“吊り橋効果”を当てはめるくらいしか思いつかなくて,そこで行き詰ってしまいました。なので「鬼哭街」は,端からカップリングが決定しているものにせざるを得なくなりましたね。
4Gamer:
もしも潤沢な予算や時間があったとしても,複雑な分岐で構成された作品にはしたくない感じでしょうか?
虚淵氏:
その場合は企画だけ書いて,そういうのが得意な人に書いてもらいます。今になって思うと,僕の芸風は分岐には向いていないんですよね。嫌いという訳ではないのですが,自分では実現できないのです。
武侠小説とサイバーパンクの魅力
4Gamer:
話は少し戻りますが,「鬼哭街」の企画が立ち上がった当時,武侠小説にハマっていたとのことですが,中でもとくに影響を受けた作品はありましたか?
虚淵氏:
武侠物って,結構内容が似たり寄ったりになりがちなんですよ。なので,全般の要素をごった煮にしてつめこんだ感じですね。
でも,あえて作品名を挙げるならば,古龍の「多情剣客無情剣」などでしょうか。武侠小説の代表的な作家として,金庸,梁羽生,古龍の3人が挙げられるんですが,日本人の感覚には古龍が一番合うんじゃないかと思います。金庸の歴史大河的な方向性に比べて,古龍からはハリウッド的なケレン味というか,エンターテイメント性が感じられるんですよ。まぁ,少しケレン味が過ぎる部分もあるかも知れませんが(笑)。
4Gamer:
ほほう,では「鬼哭街」が楽しめたファンへとくにオススメしたいのは?
虚淵氏:
古龍の作品の中なら先ほど挙げた「多情剣客無情剣」と,「楚留香」や「辺城浪子」あたりですかね。武侠物なのに,どこかウェスタンのような,謎の味わいがある作品です。
4Gamer:
「鬼哭街」で描かれていた復讐劇のような?
虚淵氏:
復讐あり,裏切りありで先の展開を予想させない。むしろ予想を裏切りさえすれば,何をやってもいいと思ってるんじゃないかという,無責任な展開もたまにあります(笑)。
4Gamer:
しかし武侠物というと,あまりメジャーなイメージはないと思うのですが……ジャンルとして選んだ際に,そういった部分は意識されましたか?
虚淵氏:
ちょうど当時,少し流行ってたんですよ。そのまま下火になってしまいましたが……今でも,なんで流行らないのか不思議でなりませんねぇ。
4Gamer:
MMORPGだと武侠物は結構あるんですが,やはり日本では,人気のジャンルとまでは言えない立ち位置ですね。
虚淵氏:
まさに謎です。
4Gamer:
小説での武侠における基本設定が,もっと根付いてくれてもいいのに……とは思います。
虚淵氏:
確かに,基本設定のハードルというのはそれなりにありますよね。ファンタジーにおける「指輪物語」や「ロードス島戦記」のような,ガッツリと普及させる下地となる作品があれば違うのでしょうけど。
そこで,「鬼哭街」が武侠をメジャーに!
虚淵氏:
武侠とはいっても,かなり“なんちゃって武侠”みたいなもので,いい加減にもほどがあるので(笑)。
4Gamer:
サイバーパンクの要素も入っていて,この構成はなかなかないパターンでは?
虚淵氏:
とはいえ,「銃夢」がやっていたところではありますよね。作品の中身も,体の構造や心の構造に関わってくるので,実は馴染みやすいテーマなのではないかと思います。
4Gamer:
なるほど,確かに「銃夢」との共通点は多いかもしれませんね……。では,武侠物に続いてサイバーパンクに関して影響を受けた作品は何でしょうか?
虚淵氏:
ウィリアム・ギブスンですね。作品名で挙げるなら「ニューロマンサー」から始まる「電脳」3部作からは強烈に影響を受けています。そしてビジュアル的には当然「ブレードランナー」や「アップルシード」ですね。
4Gamer:
では,虚淵さんが最も好きな作品を挙げるとしたら,何になりますか?
虚淵氏:
一番好きなのは「ハードワイヤード」かもしれません。ギブスンの「ニューロマンサー」よりもハリウッド寄りで,サイバーパンクでありながら非常に痛快なストーリーなんですよ。
4Gamer:
先程からお話を聞いていると,虚淵さんはハリウッド的な作品のほうが好みなんですね。
虚淵氏:
そうですね。そのせいか,あまりハードすぎるSFにはのめり込めないんです。世界観や思想だけで満足できるタイプではないので,結局はその世界の中で,誰かが日本刀を振り回したり……とか,そういう方向性に行っちゃいますね(笑)。
4Gamer:
痛快ですね(笑)。そんな虚淵さんにさまざまな注文をされる東口さんも,やはりそういった作品に触れているのでしょうか?
中央氏:
はい。参考にした作品を紹介してもらって,その良いと言われた部分をかいつまんで読んでみたりはしましたね。
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