インタビュー
“重力対談”が実現! 「サカサマのパテマ」吉浦康裕氏と「GRAVITY DAZE」外山圭一郎氏が,ゲームや映画についてトコトン語り合った
次代の担い手と期待されるアニメーション作家でありながら,大のゲーム好きとしても知られる吉浦氏。4Gamerでは,そんな縁もあって,氏へのインタビューを行うことになったのだが,「同じ重力をテーマにした作品つながりで」という話から発展し,「GRAVITY DAZE」の外山圭一郎氏との対談をセッティング/その取材を引き受けることになった。
というわけで,今回4Gamerでは,吉浦氏と外山氏によるクリエイター対談をお届けしたい。両者のゲーム遍歴の話から始まり,アニメのことやゲームのこと,ひいてはエンターテイメント全般のあり方まで,さまざまな興味深い話題が飛び出た本対談。ぜひご一読ください。
「サカサマのパテマ」ストーリー
地底から降って来た少女パテマとの奇妙な出会いが、
≪真逆の世界≫の謎を解く。
かつて、大異変が人類を襲った。そして、時が過ぎ…
どこまでも、どこまでも坑道が続く地底世界。狭く暗い空間であっても、人々は防護服を身にまとい、慎ましくも明るく楽しい日々を送っている。
地底集落の長の娘であるパテマは、まだ見ぬ世界の先に思いを馳せて、坑道を探検していた。新たに発見した場所は、集落の「掟」で立入りが厳しく禁じられている「危険区域」にあった。これまでにみたこともない広大な空間は、下から上に浮遊する微小物質が光を反射しながら漂う、幻想的な光景が広がっている。そこはかなり旧い時代につくられた建造物のようで、錆びつき崩れた橋が架かっていた。
パテマが「掟」を破り、探検しているのには理由があった。
それは、憧れのラゴスから幼いパテマへのプレゼント。青々とした広大な風景が写り、天井に向かって逆さまに落ちる不思議な写真。大人になったら「違う世界に行く」という約束。長代理のジィに叱られ、兄のようなポルタに心配をかけても、ラゴスが教えてくれた「もっと色んな場所を知りたい」という思いが、パテマを探検に連れ出すのだった。
「サカサマのパテマ」公式サイト
共通点はセガサターン?
4Gamer:
本日はよろしくお願い致します。吉浦監督は,かなりのゲーム好きとうかがっておりますが。
ゲームはかなり好きですね。ですから,今日,こうして外山さんと対談ができるなんて,役得というかなんというか……とても光栄です。
外山氏:
ありがとうございます。こちらこそ光栄です。
4Gamer:
吉浦監督は,ゲームの世代で言うと,やっぱりファミコンあたりからゲームに入ったクチなんですか?
吉浦氏:
えっと,そうですね。自分は1980年生まれなんですけど,ちょうど物心が付いた頃に,「スーパーマリオ」がもの凄くはやっていたんです。だから,ファミコン,ゲームボーイ,スーパーファミコンと来て,その後は,SCEの方の前では言いづらいんですけど,僕はセガサターンを買って(笑)。
一同:
(笑)。
吉浦氏:
だから,セガサターンで「バーチャファイター」を遊んで「すげえ!」とか思いつつ,当時のゲームはいろいろ遊びました。「パンツァードラグーン」とかも大好きでした。あ,ちなみに僕はPlayStationは持ってなかったんですけど,外山さんの「サイレントヒル」は凄くやりたくて,ソフトだけ買って,ハードは借りて遊んでましたよ!
外山氏:
ははは。じゃあ,ゲームの世代という意味では,ある意味で一番いい時期を体験してこられた感じですよね。
4Gamer:
吉浦監督は「MYST」にかなり影響を受けた――みたいなお話がありましたけど,「MYST」もサターン版を遊ばれたんですか。
吉浦氏:
そうです。「MYST」は,サターンマガジンっていう雑誌の一面広告を見たときに,「自分がやりたいのはこれだ!」って直感的に感じて。あの幻想的な世界観と,その中を歩き回れるってところに凄いハマったんです。あれを見て「CGってなんだろう?」と思ったことがキッカケで映像方面に興味を抱くんですけれど。
4Gamer:
参考までに,PlayStationじゃなくてセガサターンを買ったのはなぜなんですか?
吉浦氏:
これ,あんまり共感してもらえないんですけど,僕は「Dの食卓」というか,ワープさんの作品が大好きで。「Dの食卓」や「エネミー・ゼロ」がサターンに出るという話を聞いて,それだけで買ってしまったんです(笑)。
4Gamer:
なるほど(笑)。でも,吉浦さんの嗜好的にそれは分かる気もします。外山さんのゲーム遍歴はどんな感じだったんですか?
外山氏:
そうですねぇ。僕らの世代(1970年生まれ)って,ゲームという文化が生まれて,それと一緒に育ってきたという世代なんですよ。物心ついた頃はまだ“ビデオゲーム”というものはなくて。そのうち「PONG」みたいなゲームを,デパートの屋上とかで見かけるようになって,「あれはなんだ?」みたいな(笑)。そういうところからゲームに入って。
4Gamer:
外山さんの世代だと,小学校の低学年の頃は外で遊んでたけど,途中でファミコンが出て家で遊ぶようになったとか,そういう感じだったんですか?
はい。時代背景でいうと,小学生の頃にインベーダーブームが来て,中学になる頃にファミコンブームが来るみたいな感じで。ただ僕は,どちらかというとコンシューマゲームよりはアーケードゲーム世代って感じでして。「アーケードこそが至高である!」みたいな,そういう選民意識を持ってる人種だったんですけど(苦笑)。
吉浦氏:
家庭用のゲームはアーケードの劣化版みたいなイメージだったんですね。
外山氏:
こんなの偽物じゃないか,みたいな意識があったんです。それに僕は,家にパソコンがあって,パソコンのゲームも遊んでいたので,余計にファミコンのゲームなんて!と斜に構えて見えていたんですね。「ドラゴンクエスト」が出た当初も,「ザ・ブラックオニキス」の方が面白いし!みたいな。
4Gamer:
あはは。なんか分かります!
吉浦氏:
僕は,家にパソコンがなかったものですから,あまりパソコンのゲームには触れてないんですけど,友達の家で少し遊んだことはあって。ただ,なんというか,当時のパソコンゲームやってる人のアングラ具合みたいなものを感じて……僕はあまりそっちには行けなかったんですけど。
外山氏:
いや,本当にそのとおりです。ファミコンが出る前というのは,ゲームを遊んでる奴なんて,クラスで2〜3人とか,そういう世界で。もの凄いマイノリティというか,謎の選民意識みたいものを持っている愉快な人達だったんですよ(苦笑)。
4Gamer:
ちなみに外山さんって,ゲーム機は何を持っていたんですか?
外山氏:
えっと,いや実は,この場ではとても言いづらいんですけど,昔の僕は,いわゆる激烈な“セガ信者”でして……。セガこそ至高である,みたいな(笑)。
一同:
(爆笑)。
外山氏:
だから,メガドライブからセガサターンへ,みたいな感じでした。あの頃は,まさか自分がSCEに入るなんて露ほども思わず。PlayStationとセガサターンが発表された当時,僕はセガの勝利を信じて疑わなかったですから!
怖くてプレイできなかった「サイレントヒル」
外山氏:
あの。さっきの話の流れでいうと,僕は,ちょうどPlayStationとセガサターンが出る年(1994年)にゲーム業界(KONAMIに入社)に入ったんですよ。
吉浦氏:
あ,そうだったんですね。じゃあ業界に入られて,すぐに次世代機向けのゲーム開発を?
外山氏:
いや,僕は最初はドット絵をやっていました。まあ,本当に研修の間だけなんですけど,ぎりぎりドット絵をやらせてもらって。その後は,僕はやっぱりセガが大好きだったので,「セガサターンでなんかやりたいです」ってずっと言ってて(笑)。
吉浦氏:
はははは(笑)。
外山氏:
あの頃は「バイオハザード」が大ヒットして,ホラーアドベンチャーがブームになっていたんです。で,KONAMIでも「そういうホラーゲームのラインを一本立ち上げよう」みたいな話になって。しかも,次世代機向けってこともあってか,ここはベテランよりも若手中心でいくべきだろうって方針になり,入社3年目の僕がディレクターに抜擢され,チームも僕以下の年齢のメンバーが集められたんです。
吉浦氏:
初のディレクター作品が「サイレントヒル」なんですね。
4Gamer:
それって,外山さんがまだ25〜6歳の頃のお話ってことですよね。
外山氏:
そうですね。だから,本当に独立愚連隊みたいな感じで,いろいろ勝手にやらせてもらえた。ゲームってこうじゃないの?みたいなセオリーを知らないのも,むしろ強みだったんですよ。
吉浦氏:
「サイレントヒル」は,僕にとって本当に思い入れのある作品なんです。例えば「バイオハザード」は,僕はショットガンを撃ってれば怖くない!って感じだったんですけど,「サイレントヒル」は本当に怖くて,最初はプレイできなかったんですよ。
外山氏:
ほう。
吉浦氏:
僕は,どちらかというと,マップの隅から隅まで埋め尽くすタイプのゲーマーというか,そういう遊び方をすることが多いんですけれど,「サイレントヒル」は怖くて,そんな遊び方はとても出来ない。とにかく「このマップを早く通り抜けよう!」って思った初めてのゲームだったんです。
外山氏:
そう言って頂けると,クリエイター冥利に尽きますね。
吉浦氏:
それに,個人的にはあのテレビCMもとても印象的で。暗闇の中でこう,ライトだけ照らして,そこに山岡さん(※)のギターサウンドがテレレーテレレーって鳴る。あれを見た瞬間,映画「リング」の予告編と同じ怖さを感じて。「これは絶対に面白い!」とか思って,プレステを持ってないのにソフトだけ買っちゃうんですけど(笑)。
※山岡晃(やまおかあきら):東京芸術大学で製品・インテリアデザインを学んだ後,作曲家としての活動を開始。コナミ入社後に,サイレントヒルの音楽や,作品全体のプロデュースに携わる。最近では世界各地を飛び回りながら多くのクリエイターとの協業を果たしている
外山氏:
いい話ですね(笑)。まぁでも,やっぱり「暗闇の恐怖」とかっていうのは,あの頃は他がやってないところでしたから,差別化って意味で,そこは意識して作っていましたよね。
吉浦さんは,「SIREN」は遊ばれたんですか?
吉浦氏:
もちろん遊びました! というか,「SIREN」をやって驚いたのは,どんどんゲームがユーザーフレンドリーというか,簡単になっていくなかで,もの凄い突き放された感じがしたところなんですよね。最初,全然クリアできなくて。物語も断片的じゃないですか。
外山氏:
いや,あれはインターネットが普及し始めた頃の企画だったので,「ドルアーガの塔」をネットの口コミでやるようなノリのゲームを作ってみようと思ったんですよ。
吉浦氏:
ああ,そこは確信犯的にやられてたんですね。
外山氏:
はい。解けない理不尽さっていうか,ノーヒントで遊んでもらって,そのうち誰かが偶然見つけたヒントがネットで広がる――みたいなことを「SIREN」ではやろうとしたんです。ストーリー的にも,分かりやすい映画のようなお話が展開される形ではなくて,断片的な構造にして,それぞれについての解釈をみんなで補完し合うような。
吉浦氏:
なるほど。「SIREN」のそういう構造って,物語を創る側としては,ガンガン感性を刺激されたんです。「あのワンカットの意味は何なんだろう」とかがもの凄い気になって。後でネットとかで情報を見て,「ああ,あれは食われてる人魚の視点なんだ」とかが分かるわけですけど,ああいう作り方を羨ましく思ってました。
外山氏:
まぁただ,当時はもっとシンプルな,純粋なホラーアクションを期待して買ってくれたお客さんが多くて。そういう方からは,「難しすぎる」「ワケ分からん」みたいなお叱りを受けて,個人的には結構へこんでたりもしたんですけどね(苦笑)。
落ちる“怖さ”にこだわった「サカサマのパテマ」
吉浦氏:
あの,すいません。いきなり話が脱線しすぎですよね……(苦笑)。
4Gamer:
そ,そうですね。じゃあ映画のお話を……
外山氏:
では,まずは僕からシンプルな質問を(笑)。「サカサマのパテマ」の着想はいつ頃だったんですか?
吉浦氏:
発想は,天気の良い日に寝っ転がって空を見上げていると「なんか空に落ちそうな気がする」っていう,子供の頃の妄想からですね。当時は,誰もが必ず一度は考えるものだと思ってたんですが……。とにかく,まず”サカサマ人間”という設定があって,その先の舞台設定であったり,キャラクター性であったりというのは、後付けで考えていった部分です。
外山氏:
僕は,映画を見させて頂いて,純粋に「羨ましいな」って思ったんです。なぜかというと,足を踏み外したら終わってしまう恐怖感みたいなものって,僕も「GRAVITY DAZE」で最初に試みていた部分だったから。ただ,ゲームではなかなか表現することが難しくて。
4Gamer:
それはなにがネックだったんですか?
外山氏:
やっぱり落ちてしまう(死んでしまう)のは,プレイヤーさんの体験として“気持ち良くない”んですよ。ストレスになるだけで。シーンやカメラをガチガチに固定して,あそこへ到達するために断崖絶壁を飛び越える……みたいな形ならまだやりようもあるんですけど,自由に動けるシステムとは相性が悪かったんですね。だから「GRAVITY DAZE」では,主人公を超人的な感じにしたりして,“怖さ”よりも“爽快感”を重視する方向に舵を切っています。
吉浦氏:
興味深いです。
外山氏:
その意味で,同じ“重力”を題材にした作品でも,「サカサマのパテマ」は僕らができなかったことをやっているなぁと。あの,小屋からパテマが身を乗り出して身がすくむ感じや,青い空が奈落の底のように感じられる感覚とか,見ていて凄く羨ましかったです。
「空」という題材でいえば,アニメでも「空を飛ぶ気持ちよさ」みたいなものを追求する作品は多いと思うんですけど,僕はむしろ,「空を飛ぶっていうのは,とても怖いんじゃないか」って思う方なんです。だから「サカサマのパテマ」でも,僕らはあえて“怖さ”で勝負しようよって,そこはスタッフを含めてかなり意識的にやってました。
外山氏:
なるほど。
吉浦氏:
あ,ちなみに“怖さ”ってお話でいうと,僕は結構ホラーが好きなんですけど,「ゲームじゃないと表現できない怖さってあるな」ってよく思うんですよね。なぜそんなことを考えるかというと,アニメってホラーは描きにくいんです。本当に怖いホラーはアニメでは描けないなって僕は思っていて。
外山氏:
そうなんですか? それはちょっと意外です。
吉浦氏:
だって,いくら緻密に怖い絵を描いても,実写の怖さには敵わないですから。だからアニメでは,雰囲気やシチュエーションで怖がらせるしかないといいますか。“表現の幅”が結構狭いなと感じていて。
外山氏:
でも一方で,現実では表現できない“曖昧な感覚のもの”を描けるのはアニメの強みですよね。
吉浦氏:
そうですね。絵や動きって意味でもそれはありますし,さらに「キャラクターの感情の起伏」とかも,実写より判定が甘いところはありますからね。
4Gamer:
判定が甘い?
吉浦氏:
例えば台詞にしても,実写でやると「そりゃないでしょ」って大げさに感じる言回しでも,アニメだと違和感がなかったりする。それによって物語の自由度みたいなものが広がっている側面もあるんです。そこはアニメの凄くいいところだなって感じています。
クリエイターに大きな影響を与える「ICO」と「アウターワールド」
外山氏:
あと,これはぜひお聞きしてみたかったのですが,「サカサマのパテマ」のボーイミーツガール感であったり,この手を掴む感じっていうのは,やっぱり「ICO」とかの影響を受けていたりするんですか?
吉浦氏:
ああ,めちゃくちゃ受けてます(笑)。というのも,「サカサマのパテマ」を企画するにあたって,最初に逆さまになるって設定を考えて。次に逆さまの男女が抱き合うって絵を描いたんですよ。それを見たら,この「男の子が掴まないと,女の子が落ちちゃう」っていうのは,まんま「ICO」だな!と思ったんですね。
外山氏:
ほうほう。
吉浦氏:
順序としては後付けになるんですけど,その絵を見たとき,これは「ICO」同様にロマンチックな設定だと気がついて。結果,音楽も大島ミチルさん(※)にお願いすることにしたんです。
※大島ミチル:ロックリバー株式会社に所属する作曲家。2001年に発売されたアドベンチャーゲーム「ICO」において,BGMや主題歌の作曲を担当した。
外山氏:
やっぱり。映画を見ていて,「ICO」が好きなのかなっていうのを感じるんですよ(笑)
ははは(笑)。いや,ぶっちゃけ,メインテーマ曲は「You were there(※)のような雰囲気でお願いします!」って言い方でオーダーしてしまいました! そういう言い方も大概どうだろう,失礼じゃないかなって思ったんですけど,とにかく「大好きなんです!」って力説して。
※「ICO」の主題歌・エンディング曲
4Gamer:
なんか「ICO」って,クリエイターさんに与えてる影響が凄まじいですよね。
外山氏:
いや,ホントにね。僕も飲み会とかでいろんなクリエイターさんに会うけど,ほぼ全員が「ICO」と「ワンダと巨像」が好きだって言いますから(笑)。
吉浦氏:
「ICO」といえば,上田文人さん(※)が「アウターワールド」を好きだって言ってて,それがすごく嬉しかった記憶もあります。僕もあの作品は大好きなので。
※上田文人(うえだふみと):ゲームデザイナー。大阪芸術大学を卒業後,独学でCGを学んでワープ入社しゲーム業界へ。「ICO」と「ワンダと巨像」の2作品で世界にその名を轟かせた。現在は「人喰いの大鷲トリコ」を制作中。
外山氏:
ああ,その話もよく出るんだよな。「アウターワールド」に影響されましたっていうクリエイターも凄く多くて。ついこの間も,「The Last of Us」のディレクターのブルース(※)さんと飲んでたんですけど,彼も「俺は,アウターワールドとICOの影響でゲームを作ってる」って言ってて。
※ブルース・ストレイトリー:Naughty Dogに15年以上在籍するゲームディレクター。PS3用ソフト「The Last of Us」を手掛けた。
吉浦氏:
「アウターワールド」と「ICO」って,同じレイヤーで語られること多いですよね。
4Gamer:
そう言われると,確かに。なんでだろう?
外山氏:
そこは,上田さん自身が,「ICO」は「アウターワールド」の影響をモロに受けてるって言ってたから,きっとそういうことなんじゃないかと。
吉浦氏:
なるほど,そうか。確かにあの台詞がない感じとかは,共通するものがある気がします。
「サカサマのパテマ」はゲームっぽい?
吉浦氏:
「ICO」の影響うんぬんってお話でいうと,「サカサマのパテマ」って,いろんな人から「ゲームっぽいですね」って言われるんですけど……外山さん的にはどう思われます?
外山氏:
あ,確かにそうですね。僕もそう思います。
吉浦氏:
なんか,「物語のコンセプトや考え方がゲームデザインっぽい」とか言われて。それを聞いてハっとしたというか,やっぱり僕は“ゲームっ子”なんだなぁって思ったんですけど。
外山氏:
舞台設定というか,ルールの作り方がゲームっぽいですよね。
吉浦氏:
そうなんです。重力が反転するしないの法則であったり,理由であったり,そこらへんの設計がゲームっぽいって言われるんですよ。
4Gamer:
過去にゲームを遊んだ経験が映画に活かされてる部分って結構あるんですか?
吉浦氏:
ゲームの影響って意味でいうと,僕はその,「ルールを簡単に逸脱する脚本」って好きじゃないんですよ。例えば,愛の力で奇跡が起きて救われるとか。
外山氏:
なるほど(笑)。
吉浦氏:
あくまで設定した世界のルールに則った脚本を作りたいんですね。物語優先でルールを無視するのはイヤだったから,パテマでもそこは徹底しました。実際,作画監督が間違えてパテマを逆方向に演技させちゃったことがあったんですけど,「ごめんなさい!」と,そこは全部描き直しをお願いしました。そういう部分は,自分でもゲームの経験が生きているというか,ゲームの影響が強い考え方なのかなって気はしています。
ルールの一貫性みたいな部分は,確かにゲーム的な発想かもしれませんね。アニメや漫画だと,割とそのへんはゆるい印象もありますし。
4Gamer:
でも一方で,「サカサマのパテマ」の作中で,パテマとエイジが抱き合うと,まるで重力が中和されたようなフワっとする表現があるじゃないですか。あれって,冷静に考えたらちょっと変というか。双方が上下に引っ張られるんだったら,お互いを掴むのって相当力がいるよな,みたいにも思うんですけど。
吉浦氏:
そこは,宮崎 駿さん的な,強引に「感覚の気持ちよさで納得させる」ってやり方ですよね。これもアニメ特有の表現の一つで。そもそも,重さの差によって落ちるスピードが変わるということも,実際にはあり得ないわけですけど,作中ではそういうシーンも結構あって。
4Gamer:
そのへんは意図的にやっているんですね。
吉浦氏:
はい。そこはアニメーターなら,ある種,無意識でやってしまうところでもあって。厳密に言えば,アニメの動きって,歩き方一つを取っても小さく嘘をついているんですよ。物理法則だったり,筋肉の動きからすると,随所で嘘をついた動きをしている。でも,動きのポイントを抽象化して見せることで納得させるっていうのが,アニメ表現の特徴なんですね。
4Gamer:
動きのポイントを抽象化する,ですか?
吉浦氏:
現実的な描写を部分的に省略したうえで,「ここは法則を守ってるよ」ってところだけを強調してポンポンポンって与えることで,それっぽく見えるのがアニメの表現といいますか,そういう理屈で成り立っているんです。
外山氏:
なるほどねぇ。
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