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“重力対談”が実現! 「サカサマのパテマ」吉浦康裕氏と「GRAVITY DAZE」外山圭一郎氏が,ゲームや映画についてトコトン語り合った
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印刷2013/11/23 00:00

インタビュー

“重力対談”が実現! 「サカサマのパテマ」吉浦康裕氏と「GRAVITY DAZE」外山圭一郎氏が,ゲームや映画についてトコトン語り合った

エンターテイメントなんだから


外山氏:
 「サカサマのパテマ」を見ていても思ったんですが,最近,僕がちょっと感じるのが「エンターテイメントなんだから」って言われることが多いなってことなんですよね。

吉浦氏:
 エンターテイメントなんだから?

外山氏:
 はい。「これはエンタメでしょ?」っていうのを,なんか今は,作り手が凄く意識しなきゃいけない時代だなというか。僕が子供の頃って,映画とかにしても,ワケが分からないものや,嫌な気分になる終わり方のものとか,そういう作品がたくさんあった気がするんですよ。

吉浦氏:
 ああ,なるほど。

外山氏:
 だけど今は,「そんな,お客さんを不快にさせるような作品はどうなの?」みたいなことをすぐに言われてしまう。技術が発達して表現力が上がった割には,あれをやっちゃ駄目,これをやっちゃ駄目みたいなものが増えてる気がするんですよね。

吉浦氏:
 なんとなく分かります。「面白い映画はこうあるべき」みたいな雰囲気というか。

画像集#015のサムネイル/“重力対談”が実現! 「サカサマのパテマ」吉浦康裕氏と「GRAVITY DAZE」外山圭一郎氏が,ゲームや映画についてトコトン語り合った

外山氏:
 まぁ,変なものを作ると儲からないとか,実験的な作品は今の市場的には難しいとか,お金の問題もあるのかなとは思いますけどね。

吉浦氏:
 その意味で言うと,「サカサマのパテマ」って,間口としては王道といいますか,広いところを狙って作ったつもりではあるんですけど,100%親切エンタメ志向かって言われると,そういうわけでもなくて。
 たぶん,本当にお客さんに分かりやすくしようと思ったら,世界の構造とかを全部セリフで説明しちゃうべきなんですけど,そこは敢えてやらないでいるんですね。なぜかというと,「これはどういうことなんだろう?」って,作品に一歩踏み込んでほしいから。でもこれも,昨今のいわゆるエンタメ作品のスタイルからすると「不親切」なんですよね。

外山氏:
 ああ,でも。「サカサマのパテマ」は,その“説明するところとしないところのバランス”がとてもよかったと思いますよ。「なんだろう?」ってものを散りばめながらも,最後は最後でちゃんと納得感があるみたいな。

吉浦氏:
 ありがとうございます。外山さんにそう言って頂けてよかったです(笑)。それに僕,なんといいますか,マニアックな層に支持される作家主義的な映画監督とかが,ちょっと日和って撮った作品っていうのが好きなんですよ。あ,日和ったっていうと失礼ですよね。ちょっと商業を意識した……みたいな(笑)。

一同:
 (爆笑)。

外山氏:
 日和ったって(笑)。

吉浦氏:
 有名どころで言えば,テリー・ギリアム監督とか。「未来世紀ブラジル」も好きなんですけど,「12モンキーズ」のバランスが絶妙で好き,みたいな。王道の部分と,毒を入れる部分というか,お客さんに杭を打つみたいな要素の絶妙なバランスの良さっていうんですかね。そういうのが好きで。

外山氏:
 なんとなく分かります。

吉浦氏:
 だから「サカサマのパテマ」でも,そういうバランスには気を付けていたんですよね。


アーケードの時代に戻ってる


4Gamer:
 お話を聞いていて思ったんですけど,やっぱりエンターテイメントには,一定の分かりづらさだったり,難しさって必要なんですかね? 最近はゲームも含めて,とにかく何もかもが簡単な方へとシフトしている印象があるんですが,そこに対する問題意識だったり危機感って,お二人にはあるんですか?

吉浦氏:
 いちゲーマーとしての意見でいうと,僕は「スーパーメトロイド」って作品が大好きだったんです。あの,台詞とかが一切なくて,ひたすら迷宮を解いていく感覚が凄い好きで。でも,後に出た「メトロイドフュージョン」は,次にどこにいけばいいか全部示してくれるようになっていたんですね。僕は,それは「面白くないな!」って感じたんです。だけど一方では,昔ほど頑張って迷宮を解く意欲がない自分にも気づいてしまって……。

4Gamer:
 はい。

吉浦氏:
 これ,どっちの意見もわかるなと。自分自身は古いタイプのゲーマーだと思っていたので,その簡単にするって方向に対して「……分かる」って共感してしまった自分に,逆にショックを受けたんですけど(笑)。

一同:
 (笑)。

画像集#016のサムネイル/“重力対談”が実現! 「サカサマのパテマ」吉浦康裕氏と「GRAVITY DAZE」外山圭一郎氏が,ゲームや映画についてトコトン語り合った
外山氏: 
 それはまぁ,仕方がないというか。これだけエンターテイメントが多様化して,さらにインターネットが発達した今,携帯電話(スマートフォン)が手元にあれば,「何もすることがなくて,どうしよう」みたいに思うことってないじゃないですか。昔だったら,何もすることないから,昔のゲームを引っ張り出してまたやってみるか,みたいなこともあったんですけど,今はそれがないですよね。

吉浦氏:
 ないですねぇ。

外山氏:
 だから,最初は取っつきにくいけど徐々に分かってもらえる的な良さがあったとしても,今は,分かってもらう前に次へ行かれてしまうっていう難しさがどうしてもある。

4Gamer:
 スマートフォンの普及によって,その流れは加速度的に進んでますしね……。

外山氏:
 まぁただ,ソーシャルゲームっていうか,スマートフォンが普及して以降は,個人的には「アーケードの時代に戻ってるな」って感じがあって。

吉浦氏:
 アーケード時代?

外山氏:
 とにかく,まず100円入れてもらわなきゃ,さらに最初のワンプレイで楽しませないと二度とやってもらえない,みたいな感覚ですね。

吉浦氏:
 ああ,なるほど。

外山氏:
 ただ作り手としては,そんななかであっても,やっぱり世界観やキャラクターを描きたいから,5秒くらいでお芝居をして,テンポを殺さずに表現をする――そういう作り方って日本はめちゃくちゃ発達していると思うんです。スマートフォンのゲームが台頭してきたことで,そこは活かせるようになるのかなって感じはしますけどね。

4Gamer:
 そうですねぇ。

外山氏:
 逆にコンシューマタイトルは,やっぱり最初に5000円とかで買わなくちゃいけないから,どうしてもちょっと高尚なというか,ハードルの高い遊びになっていますよね。それ自体はどちらが良い悪いってのはないんですけど,開発者の視点でいえば,そのパッケージゲームの市場は,海外の化け物みたいなタイトルがひしめく場所でもあるから,それらと戦っていくのはキツイなって感覚はありますけど。

4Gamer:
 海外のゲームはハリウッド的というか,市場の組み立て方が違いますからねぇ。

外山氏:
 はい。制作費の予算は10倍違うのに,商品としては同じ値段で並べられてしまう辛さというかね。これはゲームに限らない話だとは思いますけど。

吉浦氏:
 そうですよねえ。その意味でいうと,まだ日本のアニメって,ハリウッドのビッグバジェットな作品に全然太刀打ちできないってわけじゃないですからね。同列で比較されにくいというか。
 でも最近はゲームでも,ダウンロード販売だとか,1000〜2000円で作家性の強い作品が作られてきてますよね。ああいうのは,僕から見ても「いいな」って思うんですけど。

外山氏:
 そうですね。だから,クリエイターのそういうフラストレーション(大作を作る息苦しさ)の受け皿として,インディーズってものがやっと機能してきたってことなんだと思います。ビジネスとしては,まだまだこれからってところもあるんでしょうけど,作り手の選択肢が増えたことは良いことだと思いますよね。


吉浦監督が作ってみたいゲーム


4Gamer:
 そういえば,吉浦監督は「ゲームを作ってみたい」とか。

吉浦氏:
 え,いや。そうなんですけれど,実際に作られてる方の前で言うのはちょっと気恥ずかしいというか……。

外山氏:
 いえいえ。

4Gamer:
 実際に「こういうゲームを作ってみたい」みたいな構想はあるんですか?

画像集#002のサムネイル/“重力対談”が実現! 「サカサマのパテマ」吉浦康裕氏と「GRAVITY DAZE」外山圭一郎氏が,ゲームや映画についてトコトン語り合った
吉浦氏:
 あの,やっぱりですね。僕は,物語を書きたいんです。そのためにアニメを作ってるって側面もあって,そういう意味で,ゲームでしか書けない物語を書いてみたいというか。任天堂に「MOTHER」を持ち込んだ糸井重里さんじゃないですけど,そういうことが出来たらいいなぁってぼんやり思ってる感じです。

4Gamer:
 アニメでは表現しづらいことでも,ゲームならできるんじゃないかってことですか?


吉浦氏:
 そうです。やっぱり,たとえ一本道のゲームだったとしても,自分でアクションを起こさないと先に進めないっていうのは,それだけで没入感が違うというか,その要素はとても大事だなって思うんです。例えば,初期の「バイオハザード」にしたって,自分で扉を開けなきゃいけないとなると,途端に「先にゾンビがいるかも?」ってドキドキするじゃないですか。ただ見てるだけの映像作品とは,そこが決定的に違いますよね。

外山氏:
 そうですね。

吉浦氏:
 だから,そういう自らアクションする要素――そこに起因した物語を書けたら最高だなって。そういうものを表現した,何かコンパクトなゲームを作ってみたいなと思っています。あの,逆に外山さんは,映像作品とか映画にご興味はないんですか?

外山氏:
 ええと,いち視聴者というか,見る立場としては大好きですけど,作る方は……。もう,自分が作る必要もないくらい,いろんな方が活躍されてるって感じですかね。まぁ,僕も学生の頃は,大学でビデオアートとか少しやってたりして。その時は,結構楽しかったですけどね。

吉浦氏:
 そうですかぁ。しかし,「サイレントヒル」にしろ「SIREN」にしろ,もちろん「GRAVITY DAZE」もそうですけれど,外山さんの作品は,物語的な要素が強いようでいて,やっぱり根底には「プレイする」ってところが強くありますよね。

外山氏:
 そこはやっぱり,他のエンターテイメントとの最大の差別化要因ですから,かなり意識していますよね。

吉浦氏:
 だから,世界観やストーリーがきっちりあるんだけど,そこの発想の順序というか,考え方はやっぱり違うんだろうなって。最近はゲーム機の表現力が上がって,世界観や物語が昔よりも映画的になっているとはいえ,面白いゲームはやっぱりプレイありきだし,そこはほんと「いいな」って思います。

外山氏:
 まぁただ,さっきの話じゃないですけれど,予算の大きなタイトルになればなるほど,その“プレイ”って部分で新しい冒険ができなくなってくるから,結果,世界観や物語の比重が大きくなっている傾向はあるんじゃないですか。

吉浦氏:
 まぁ,そうですねぇ。

外山氏:
 だから,僕なんかは,そういう予算規模の作品と勝負するためにも,誰もやったことがないものを考えていかないと駄目だなって思っています。

画像集#023のサムネイル/“重力対談”が実現! 「サカサマのパテマ」吉浦康裕氏と「GRAVITY DAZE」外山圭一郎氏が,ゲームや映画についてトコトン語り合った
吉浦氏:
 ああ,その意味でいうと,外山さんのゲームって,とにかくコンセプチュアルですよね。僕自身も,アニメを作るときはコンセプトって大事だなって思っているんですけど,外山さんの作品のそういう部分にはとても惹かれるんですよね。

外山氏:
 というか,それ(コンセプト)がないと,一から十までスタッフに「ここはこうして!」って指示を出さないといけなくなりますから。コンセプトがあると,僕としては“楽ができる”んですよ。「ここはこういうコンセプトだから,後は分かるよね?」みたいな(笑)。

吉浦氏:
 それって“羅針盤”があるってことですよね。それがあるとないとでは,全然違うと思います。

外山氏:
 まぁ,そうですよね。

吉浦氏:
 しかし,やっぱりゲームっていいですよねぇ。羨ましいです。

4Gamer:
 どういう部分がですか?

吉浦氏:
 例えば,「HEAVY RAIN」とか,最近だと「BEYOND: Two Souls」って作品があるじゃないですか。ああいうのを見ていると,なんていうんですかね。物語に没入させるやり方の幅が広いっていうか。僕はあれを見て,「映画っぽいゲーム」なんじゃなくて,「ゲームっぽい映画」なんだって解釈したんですけど,ゲーム機ってものを使ってやれること(見せられること)の裾野は広いなって思って。

外山氏:
 最近,「BEYOND: Two Souls」のディレクターのデビット・ケイジさんが来日されたので,彼とちょっと話したんですけど,彼は「これがないとゲームじゃないって思っているものが,本当に必要なのかどうか考えるべきだ」みたいなことを言うんですね。分かりやすいところでいうと,「成功と失敗」って概念は必要なのかとか,飲み屋でそういう話をしていて(笑)。

吉浦氏:
 楽しそうな話ですねぇ。

画像集#044のサムネイル/“重力対談”が実現! 「サカサマのパテマ」吉浦康裕氏と「GRAVITY DAZE」外山圭一郎氏が,ゲームや映画についてトコトン語り合った
外山氏:
 それに対して,「ゲームオーバーは要らないだろ」「いや,そうとも言えない!」 とか,そういう議論をしていたんですけれど,大予算の作品でも,ちゃんとああいうことを考えながら作れてるのは凄いなと感心して。だから,「HEAVY RAIN」や「BEYOND: Two Souls」のような作品がもっと作られるようになってくれば,ゲームの定義ってもっと広がっていくのかなとは思うんですよね。

4Gamer:
 良くも悪くも「フォーマットが決まってない」というのは,やっぱりゲームの魅力ですよね。

吉浦氏:
 いや,本当にそう思います。

外山氏:
 ゲームとはなんぞや?みたいな部分には,まだまだ可能性が埋もれているでしょうしね。

4Gamer:
 では,そろそろお時間なので,最後に読者に向けて何かコメントを頂けますか。

外山氏:
 じゃあ,まず僕から。「サカサマのパテマ」という作品は,世界観の設計や構造が,ゲームを親しんでいる人にとって受け入れられやすい作品というか,そういう内容になっていると思います。そのうえで,ゲームではなかなか表現しづらい面白さ,あるいは恐怖感が詰め込まれている映画なので,4Gamerの読者さんにもぜひ見てみてもらいたいですね。

吉浦氏:
 よく映画雑誌の取材とかの決まり文句として,「僕は映画が大好きで,それが今,作る立場になって……」みたいなものがあるんですけど,正直な話,僕は映画と同じくゲームもたくさん遊んでいた子供だったし,そこから得たものも多かったと思っています。
 その意味で「サカサマのパテマ」は,そんなゲーム好きの遺伝子が組み込まれているというか,そういうものが如実に表われている作品になっていると思うので,ぜひゲーマーの皆さんにも見て頂きたいですね。

4Gamer:
 しかし,これはちゃんと映画の宣伝になっているのだろうか……(笑)。

吉浦氏:
 いやでも,ゲーム好きのアニメ監督としては,憧れの外山さんと対談できるなんて,こんなおいしい話はないですよ(笑)。あまつさえ外山さんに「サカサマのパテマ」の紹介までしてもらって……。

外山氏:
 僕もこんなに話し込んだのは久しぶりです。今日は楽しかったです!

4Gamer:
 まぁでは,こんなゲーム好きの監督が今後も映画を撮り続けるためにも,皆さんぜひ見にいきましょうということで。

外山氏:
 そうですね。そんな感じの締めにしておきましょう(笑)。

吉浦氏:
 今日はありがとうございました!

画像集#014のサムネイル/“重力対談”が実現! 「サカサマのパテマ」吉浦康裕氏と「GRAVITY DAZE」外山圭一郎氏が,ゲームや映画についてトコトン語り合った

――2013年10月30日収録



「サカサマのパテマ」
大ヒット上映中!
配給:アスミック・エース
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「サカサマのパテマ」公式サイト


「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」
好評発売中!
発売:ソニー・コンピュータエンタテインメント
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「GRAVITY DAZE」公式サイト


  • 関連タイトル:

    GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動

  • 関連タイトル:

    GRAVITY DAZE 2/重力的眩暈完結編:上層への帰還の果て、彼女の内宇宙に収斂した選択

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