インタビュー
再び1000億の大台に? 昨今活況なTCG市場の動向と,その中での新しい取り組みについて,老舗バンダイに聞いてみた
「オーナーズリーグ」から「サイバーワン」へ
では,ここからはその「サイバーワン」について詳しく伺っていきたいと思います。現状でのプレイヤーの反応はいかがでしょうか。
中村氏:
おかげさまですでに何万人かという会員数を集めていまして,オリジナルタイトルの立ち上げとしては,かなりいい数字だと思っています。
上床氏:
「オーナーズリーグ」のスタート時同等の人数を集めていますので,我々としてもかなりよいスタートになりました。
4Gamer:
「サイバーワン」の立ち上げにあたっては,やはり「オーナーズリーグ」のヒットが背景にあったわけですよね。
上床氏:
そうですね。
4Gamer:
先ほども“ゲーム寄り”というお話しがありましたが,「サイバーワン」はかなりゲームに振られていて,どちらかというとTCGの系譜にあたるタイトルだと思います。しかし「オーナーズリーグ」は,ゲームよりもコレクションの要素が強い,どちらかというと昔ながらの「カードダス」に近い。
中村氏:
そうですね。「オーナーズリーグ」ではトレーディングカードとしての価値,コレクション性を徹底的に追及しました。今はバージョンアップして少しずつゲーム方向に寄せてはいるんですが,できるだけパラメータなども細かくはせず,トレーディングカードとしてカッコいい,価値のあるものを目指しています。
4Gamer:
それはどうしてですか?
中村氏:
先ほどもお話しした「ムシキング」や「三国志大戦」のように,その場でカードが払い出されるタイプのカードゲーム――バンダイの場合は「データカードダス」といいますが――それらと比較すると「オーナーズリーグ」に代表される「ネットカードダス」は,ゲームをする場所とカードを購入する場所が,時間的にも空間的にも離れているんですね。だからゲーム要素よりもコレクション要素を重視しました。
上床氏:
でも「好きな選手のカードが欲しい」の先に,カードを買うモチベーションを作ってあげないと,ネットという付加価値を付けた意味がない。なので「オーナーズリーグ」では,ゲームでなくコミュニティの部分を強く押し出しています。「日本一の球団を作ろう!」ではなく,小さなコミュニティのリアルな友達の中で楽しんで,オンラインで順位を競う。それが「オーナーズリーグ」の成功に繋がっているんです。
中村氏:
トレーディングカードがなぜ欲しくなるかというと,究極的には「友達が欲しいカードを自分は持ってる」という優越感ですよね。アナログのTCGだったら,例えば地域のカードショップなどの小さなコミュニティで,自慢できるわけです。
でもネットだと,全国の何万人もいるコミュニティの中での比較になってしまい,それが薄れてしまう。だから「オーナーズリーグ」では,そのコミュニティをわざと狭く作っています。全国のユーザーと競って1位を目指すより,身近な友達が「そのカードすげーな」って賞賛してくれるほうが,優越感の総量が大きい。そういうところが価値を提供する上で大切だと思います。
4Gamer:
これはオンラインゲームの話になりますが,5〜6年前の,オンラインゲームがかなり盛り上がっていた時期に,任天堂さんとかは講演とかで「他人と遊んでも面白くない」と明確に言い切っていたんですよね。たとえば「マリオカート」でランキングをつけるのは簡単だけど,「あなたは何百万人中何万位です」とかいわれてもなんにも嬉しくないので,それをするくらいだったら友達だけのローカルなコミュニティに落としたほうが絶対面白いし,そうすべきだと。
中村氏:
それは同感ですね。
4Gamer:
オンラインゲームが隆盛してる最中の発言ですから,非常に慧眼だなと当時思っていて。
中村氏:
mixiとかもそうですが,あえて小さい枠を作ることで,身近なユーザーと盛り上がる楽しさがある。「オーナーズリーグ」はSNSをすごく意識した作りになってます。
4Gamer:
しかし,今お話しいただいた「オーナーズリーグ」のアプローチは,「サイバーワン」のアプローチとまったく逆の方向を向いているように見えます。「サイバーワン」では,公式サイトなどでも「最強リーグのトップを目指せ!」というようなウリ文句が踊っています。
中村氏:
実は「サイバーワン」に関しても,コンセプトに関してはわりと近いものがあります。基本的には全国一位を目指すんですが,実はあまり明かされてない仕様がありまして。
C-1からC-5までの各クラス内で,リーグ戦で競い合って上のクラスを目指すんですけど,フレンド登録したプレイヤーは,優先的に同じリーグ内に入るようになっているんですね。たとえば学校で,クラスの30人とフレンド登録したら,必ず2,3人は同じリーグで戦うことになる。
4Gamer:
自然に友達同士でリーグを競えるようになっていると。
中村氏:
オンラインで知らない人と試合をしても,あまりCPU戦と変わらないと思うんです。仮にプロフィールが書いてあったとしても。でもそこにリアルの知り会いって要素が入るだけで,一戦ごとの重みがそこに生まれます。コミュニケーションも一気に広がるので,「サイバーワン」はそこを意識しました。
4Gamer:
なるほど。
中村氏:
ただ「オーナーズリーグ」の経験上,人数をそろえて「リーグを組んでみんなで始めよう」ってなると,沸点がちょっと高すぎるというか,始めるまでのハードルが高くなってしまう。だから「サイバーワン」では,リーグに参加する意志がなくても遊べるし,やってみると勝手に友達と出会うような仕組みにしたんです。
「オーナーズリーグ」がウケた理由は,この「リアルな友達と遊ぶ」という部分に尽きますので。
4Gamer:
少し話が変わりますが,「サイバーワン」はシステム部分では共通する部分があるにしても,導線という意味では,少し弱いですよね。版権も使わないオリジナルタイトルですし,野球というメジャーなテーマの「オーナーズリーグ」に比べると,最初に手を出すまでのハードルは高いと感じます。
中村氏:
それはおっしゃるとおりです。オリジナルキャラクターだと,最初にユーザーに振り向いてもらうのが確かに難しい。……きっかけは,「オーナーズリーグ」の年齢分布だったんです。本来30歳前後をメインターゲットと想定して作ったんですが,実際には中高生が一番多くて。
4Gamer:
えっ,そうなんですか。
中村氏:
30代と中高生でどっちに野球好きが多いかっていったら,普通に考えると30代じゃないですか。それでも中高生が多いってデータが出ている。ということは,この遊び自体が中高生にすごく合うんじゃないか。それなら野球ではなく,最初から中高生にターゲットを向けたものを,小学校の頃TCGを遊んでいたけど,今は卒業してしまったというプレイヤーに受けるものを考えたほうがいいんじゃないか。そういう考えで「サイバーワン」の設定が生まれました。
4Gamer:
そこであえてオリジナルにしたのは,なぜなのでしょうか。
中村氏:
それでも勝負できる,という自信があったからですね。仕組みとして優秀なのであれば,それに最も合った世界観を作れば,十分勝負はできると。個人的な考えですけど,キャラクターもののゲームって,今は凄くリアルになってるじゃないですか。昔だったら,技術が追いつかない部分を紙で補完するというような需要があったと思うんですが。今の本物みたいに動くゲームがある中で,それを単純にカードにしたところでどうなのかな? と思ってしまいます。カードならカードである必然性がないとダメですね。
4Gamer:
確かに。
中村氏:
「サイバーワン」も,カードである必然性はすごく大事にしています。だから,企業が技術力やブランドを競い合うためにカードを開発/販売しているという世界設定になっているんですよ。
ネットカードダスのプレイヤー層
4Gamer:
「オーナーズリーグ」のプレイヤーは中高生が多いという話でした。実際のプレイヤーの分布というのはどうなっているんでしょうか。
中村氏:
正確には,若干中学生が伸びてますけど,あとはけっこうまんべんなく,平たい分布になっています。というか,当初は中学生なんてそんなに取れるわけがないと思っていたくらいで。フタを開けてみたら沢山いた,という感じです。「オーナーズリーグ」は結構極端で,会社の同じ部署とか小さなコミュニティ内でものすごく盛り上がっちゃうんですよ。逆にコミュニティ内にリアルな友達がいないと,あまり盛り上がらない。だから教室とか部活とかで小さなコミュニティを沢山持っている子供達にマッチしたのかもしれません。
4Gamer:
それらはプレイヤーからのアンケート結果から見えてきた結果でしょうか。
中村氏:
ええ,一緒に遊んでいる人数を聞くと「7人以上で遊んでる」とか,大人数が一番多いんです。年齢が上がってくると,「1人で」というのも多いんですが,でも7人というのは,同じ何かのコミュニティに所属してないと出てこない数字だと思います。
4Gamer:
そうすると,「オーナーズリーグ」は既存のTCGとはまったく違う層を取り込んでいることになります。
中村氏:
まぁ,アナログのカードゲームと被ってる層はもちろんあると思いますが,もう少し気軽なコミュニティですね。
4Gamer:
「サイバーワン」のプレイヤー層は,「オーナーズリーグ」のプレイヤー層を引き継いでいるのでしょうか。
中村氏:
それは正直,まだ分からないですね。印象としては,現時点ではもともとアンテナの高いカードゲーマーが多い気がします。ただそういう人は,「サイバーワン」の自動対戦システムって,少し物足りないと思うかもしれません。アナログTCGを普段からプレイできる環境があるのなら,恐らくそっちのほうが楽しいですし……。
4Gamer:
濃密な駆け引きがありますからね。
中村氏:
もちろんそういうカードゲーマーにも遊んでほしいのですが,そこからさらに広がって「カードゲームやりたいけど,ちょっと時間が……」という人も巻き込んで盛り上がってくれればと思います。中高生にはそういう層はまだまだ残ってると思うので。
中高生をターゲットにする難しさ
4Gamer:
ちょっと脱線するんですが,その本作の狙いであるところの中高生って,今はカードゲーム以外だと何を遊んでいるんでしょうか。やっぱり携帯ゲーム機や携帯電話のゲームとか?
中村氏:
うーん。「オーナーズリーグ」のアンケートデータでいうと,中学生の子は携帯電話は持っていないという回答が,意外と多かったです。携帯電話でゲームをしているのはもう少し上の層で,中学生はPCで遊んでいる人が多い。
4Gamer:
中高生というと,イメージ的にはPSPを持ち寄ってモンスターハンターをやっている,というのがありがちですけど(笑)。
上床氏:
僕らの時代もそうでしたが,中学生や高校生って,結構忙しいんですよね。学校へ行って部活やって塾にも行って。限られた時間の中でしか遊べない。これが大学生になってくると,もっと楽しいことがいっぱいあるじゃないですか(笑)。
4Gamer:
確かに。これはゲーム業界なんかでも感じますけれど,やっぱり世代が違う大人が作る以上,中学生や高校生の動向を把握して物を作るのって大変ですよね。
上床氏:
実際,バンダイでは中学生をターゲットにしたという商品は少ないんですよ。未就学児――これは3〜5歳くらいなんですが,そこから小学校高学年までが中心で。なので中学生狙いというのは社内的にも珍しい製品です。「オーナーズリーグ」の年齢分布も,すごく珍しいですね。
4Gamer:
「サイバーワン」は,もう少し偏りそうですか。
中村氏:
オーナーズリーグに比べると,もう少し前半に寄るとは思います。サイバーワンを遊んでいる20代の層も,中高生時代にTCGにハマってて,今はやらなくなったという人が多いと思うので,うまくハマってくれればと思いますね。その昔ビックリマンを集めてた30代にも「今はゲームができちゃってスゲーな」とか思ってもらえれば(笑)。
最後の重要な議題
4Gamer:
そろそろお時間ですので,まとめに入りたいのですが……読者へのメッセージとか,言っておきたかったなということがあればお願いしたいと思います。
上床氏:
ええと,これはこういう場で話していいものか分からないんですけど,ウチの直近の課題は,なんといってもリクルートなんですよ。
4Gamer:
えっ。……そういえば人手が足りないとか,さっきおっしゃってましたね。
中村氏:
ええ。自分でこんなゲームを作りたい! という夢のある人はぜひバンダイへ! と言いたい(笑)。
4Gamer:
えーと,それはプランナーを募集ということでいいんでしょうか(笑)。
上床氏:
ゲームを作れる人は貴重ですね。でも仕事の内容からいえば,プランナーというよりプロデューサーに近いと思いますけど。
中村氏:
僕もゲーム会社で「自分の企画をやりたい」といつも思ってましたけど,ゲームのプロジェクトって大人数ですし,自分の作りたいゲームなんて,なかなか通らないじゃないですか。でも,今のバンダイならできます。当然責任は重いんですが,任される範疇が広く勉強になりますし。
4Gamer:
よくよく考えれば,ゲームクリエイターで転職を考えてる人でも,あまりバンダイは視野に入ってない気がしますね。同じバンダイなら,素直にバンダイナムコゲームスの方に行ってしまうでしょうし……。
中村氏:
僕は超奇跡的でしたね。たまたまサイト見たら「ゲームプロデューサー募集」って書いてあるのを見つけて。バンダイもいいですよー,ゲーム作れますから(笑)。
4Gamer:
確かにプリミティブなゲームが好きな人なら,今はカードゲームのほうが,はるかにゲームの核の部分に携われますよね。今回のお話しを聞いていると,いろいろな挑戦もできそうですし(笑)。
上床氏:
カードという媒体にいろんな魅力と可能性を感じてくれる方と一緒に働きたいですね!
中村氏:
じゃあ上床のメールと携帯番号を下に載せておいてください(笑)。
上床氏:
ちょっとちょっと(笑)。
次の機会があったら,中途採用ページに載せますので……。
4Gamer:
ともあれ,本日はありがとうございました。
遊びという分野においても,アナログとデジタルの有機的な融合――アナログ的な喜びとデジタルな要素をどう組み合わせるかというのは,これまでにもいろいろな取り組みがなされてきたわけだが,カードゲームは,そのなかでも最先端を走る分野である。
今回話題に出ていた「ネットカードダス」にしても,今までのアナログTCGやアーケードのカードゲームとはまた違う広がり方をしているのが,とても非常に興味深い。
ゲーム業界のそれとはまた違った考え方,あるいは戦略で実施されていることがよく分かるインタビューとなったと思うが,いかがだっただろうか。
もちろん,現物のカードをある種の課金アイテム兼プロモーションとして扱う手法などは,食品やおもちゃ業界への強力な営業力と販売網を誇るバンダイだからこそできることではある。
しかし,とかく“キャラクター”がフォーカスされがちな同社のビジネスだが,長年培ってきた業界/流通への営業力や商品化力,それらすべてを組み合わせた総合的なインフラこそが真の強みなのではないか。ネット時代といわれる今だからこそ,逆にそうしたアナログ的な強みが生きるのかもしれない。
自社の強みを生かしながら,ゲーム業界とはまた違う方面から,“面白さ”のあり方を模索する老舗バンダイ。TCG市場の今後も含めて,その動向に注目したい。
「サイバーワン」公式サイト
- 関連タイトル:
ネットカードダス サイバーワン
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