インタビュー
“余命”をかけて挑んだ作品――「俺屍2」を作った桝田省治氏の原点を探るロングインタビューを掲載
声優「高山みなみ」の凄さとは
4Gamer:
シナリオのお話が出たところで,ぜひ一度聞いてみたかった質問をさせてください。桝田さんは,声優の高山みなみさんを非常に高く評価されていますけど,具体的にどこに惚れ込んでいるんですか?
桝田氏:
ああ,みなみさんはね。えーっと,なんて言うんだろう。別にみなみさんに限らずなんだけど,例えば,家を建てるときに,安く建てたいけど,家だからすぐ壊れちゃったりとか劣化したら嫌じゃん? となると,柱となる部品は良いものを,信頼できるものを使って,その性能が読めることが大事というか,「これなら絶対に大丈夫だ」って柱を何本か立てておきたいのよ。高山みなみさんというのは,僕にとって「もっとも信頼できる柱」なんだ。だから,彼女にこの役を任せれば,この辺は全部もう読める,安心できるって,そういう感じなんだよね。
高山みなみさんが演じる「黄川人(きつと)」 |
4Gamer:
そんなに上手なんですか?
桝田氏:
みなみさんは上手。本当に上手だよ。あの,凄い声優さんって2つのタイプがあって。1つは,林原めぐみさんとかがそうなんだけど,“巫女さんタイプ”というのかな。
4Gamer:
降りてくる?
桝田氏:
そう。あるいは“引っ張り込む”かな。キャラクターをこっちに引っ張り込むか,自分が乗っかるのかは分かんないけど,そういうのをあまり理屈で考えないでやれる人。もう1つは,純粋に技量や理解力がずば抜けているっていうのかな。
4Gamer:
理解力ですか。
例えば,そうだなあ。「その1本にしたいんだ!」ってセリフがあったとして,普通の声優さんだったら,僕が「したいんだ,の“ん”をもうちょっと何とかしたい,少し切なくしたい」とかって,いろいろな要求をすると,「じゃあ,違う感じで5〜6回やります」と言って,その中で僕のイメージと近かったものをもらうね,みたいなやり方になるんだけど。でも,みなみはね,「したいんだの,ん。これに悲しみを入れてくれ」っていうと,本当にできるんだよ。僕が何を要求しているかっていうのを理解する能力も高くて,どんなに難しいオーダーでもいきなりやってのけて,「こんなんでどう?」みたいな(笑)。みなみさんのスペックは凄いんだってば。
4Gamer:
桝田さんって,セリフの一つ一つにそんなに細かいオーダーを出しているんですか?
桝田氏:
ええと。正確に言うと,少なくとも昔はちゃんとやってた(笑)。いや,今も必要なセリフではきちんとやるよ? だけど今は,そういう細かい部分よりは,全体の尺の方を気にするようになったかもしれない。昔はね,1行1行っていうか,それこそ1文字1文字ぐらいに,全部自分で赤入れてたからね。
4Gamer:
それは凄い。ゲームでの音声の演技って,そこまで細かくやるものなんですか?
桝田氏:
うーん,そこはほら,なんだろう。ゲームの音声って,実は表現の自由度というか,ある意味では幅が広かったりして。いろいろやりようがあるんだよ。
4Gamer:
どういう意味ですか?
桝田氏:
例えば,アニメとかだと,画面の動きがあるから,まずそれが制約になるわけじゃん。尺も決まってるし,その中で伝えたいことを表現しないといけない。だけど,ゲームの場合は,必ずしも画面に動きがあるわけじゃない。テキストと合わせるだけでよかったり,口パクで合わせるにしても,尺の長さとかは比較的自由になるよね。
4Gamer:
なるほど。
桝田氏:
あと,ゲームの特徴って意味では,あれだよ。テキストが一緒に表示されるところなんかは顕著だよね。
4Gamer:
というと?
桝田氏:
つまり,例えば「泣きの演技」があったとして,それがアニメとかだと,メチャクチャ滑舌が悪くて「何を言ってるか分からない」っていうのは駄目なわけだけど,ゲームの場合は,一緒にテキストが表示されたりするから,それを読めば何を言ってるかは伝わるわけだ。ということは,そこで要求されるものっていうのは,「何を言っているのかが分かること」ではなくて,そのキャラがどれだけ悲しんでいるのかを「いかに表現するか」って部分になるわけじゃん。
4Gamer:
確かに。
桝田氏:
逆にゲームはゲームで,ボタンを押す回数が問題になったり,ウィンドウの中の情報量が適切かどうかが問題になったり,違う部分での制約はあるんだけどね。あとゲームには,「二度と聞かないんだけど,もの凄く重要なメッセージ」というのも結構あって。そういうメッセージの中に重要な情報を入れるときは,かなり慎重に言葉を選ぶし,現場でも「これが伏線だから,絶対立てて!」みたいな指示っていうのはやっているかな。
4Gamer:
ほかにも声優さんに指示を出すにあたって,力の入れどころみたいな部分はあるんですか?
桝田氏:
あとは,逆にプレイヤーさんが何百回も聞くような台詞だね。「俺屍2」で言えば,「当主様,おはうぃーす!」とか「ご出陣!」みたいなセリフは,かなり細かくやってる。そうじゃないそうじゃないって,何度もリテイクを出したりしたからね。
その意味で言うと,僕が作るゲームって「声優さんが豪華ですね」とかってよく言われるんだけど,僕に言わせると,あのクラスの声優さんを使った方が,むしろコストパフォーマンスはいいんですよ。何度もやり取りしなくて済むから,収録スタジオにしたって「30分押さえておけばなんとかなるな」とか,いろいろと「読める」からね。結果として,安上がりになってると思うよ。
さくまあきら氏との出会い
4Gamer:
ふと思ったんですけど,そもそも桝田さんって,いわゆる「2」を作ったことって「俺屍」以外では何かあったんでしたっけ?
桝田氏:
天外2(天外魔境II 卍MARU)があるかな。
4Gamer:
でも天外魔境の1の方(天外魔境 ZIRIA)には,(桝田さんは)クリエイターとしてはそんなに関わってませんよね?
桝田氏:
1はね,僕が“ケツ拭いた”んだよね。最後の3ヶ月ぐらいかな? 「グシャグシャになっちゃったからなんとかして」とか言われて。
4Gamer:
あ,そうか。桝田さんがはじめてシナリオを書いたのって,「天外魔境 ZIRIA」でしたっけ。
桝田氏:
うん,そうそう。そのとき,初めて広井さん(※)に会ってね。僕がプロジェクトの立て直しを依頼されたんだ。
※広井王子(ひろいおうじ):漫画,アニメ,ゲームなど,幅広い分野で活躍するクリエイター。代表作「サクラ大戦」シリーズや,「魔神英雄伝ワタル」シリーズなど。
4Gamer:
でも,桝田さんはその時はまだゲームの制作者というわけではなかったんですよね。なんでそこで桝田さんがやることになったのか,いまだに不思議なんですけど。
桝田氏:
天外魔境1の時は,僕は広告の担当者だったんだよ。でも,素材がいつまでたっても来ないもんだから,文句を言いに行ったの。当時あったハドソンの東京オフィスに。そうしたら誰もいなくてさ。電話番の女の子しかいないんだよ。
4Gamer:
ええっ。
「みんなどこいっちゃったの?」って聞いたら,札幌に行ってるとか言われて。札幌に電話したら「実はこういう状況で……」という話になった。で,当時のハドソンは,プロジェクトを立て直すために,さくまさん(※)を巻き込もうと画策してたんだ。あの頃,RPGを作るノウハウを持ってる人も少なかったからね。さくまさんとその一派……というか,僕もその一派の一人だったんだけど,そこに制作を依頼しようとしていたんだ。
※さくまあきら:ライター,作家,ゲームクリエイター。「週刊少年ジャンプ」の読者投稿コーナー「ジャンプ放送局」の構成などを担当しつつ,堀井雄二氏のすすめでゲーム制作の道へ。あの「桃太郎伝説」「桃太郎電鉄」シリーズの生みの親である
4Gamer:
なるほど。
桝田氏:
でも,その頃のさくまさんは凄く多忙で,すでに3ラインくらい抱えてる状態だった。僕は,さくまさんのプロジェクトを管理する立場でもあったから,僕からすると,ここでさくまさんを取り上げられちゃうわけにもいかないじゃない? だから,「もう,バカいってんじゃないよ」って言ってさ,さくまさんへの依頼を蹴り続けていたら,「じゃあお前がやれ」って話にすり替わって(笑)
4Gamer:
実際の話として考えたら,割と笑えない気が。
桝田氏:
うん。普通に考えたら,こんな仕事やりたくないじゃん。だから,断ろうと思って「こんだけ出してくれるんならやってもいいけど?」みたいな感じで,絶対飲めないような無茶苦茶な要求を添えて突き返したんだよ。そしたら……。
4Gamer:
通っちゃったと。
桝田氏:
うん。通っちゃった(苦笑)。あれが転機だったよねぇ。
4Gamer:
でも,それでちゃんと結果を出せたのが凄いですよね……。
桝田氏:
まぁ,運良くゲームを作る適性が僕にあったからよかったよねぇ。
4Gamer:
そういえば,そもそも桝田さんとさくまさんのご縁ってなんだったんですか?
桝田氏:
あれだよ。「桃太郎伝説」の広告。
4Gamer:
ああ,やっぱりそこも広告担当として,なんですか?
※桝田氏は,元々は広告代理店の会社員だった
桝田氏:
いや,正確に言うと,僕の隣の席の人が担当してたの(笑)。僕が所属していた広告代理店って,割とお堅い広告代理店でさ。洗剤とか,そういうのがメインのクライアントで,アニメやゲームだとか,お子様向けの市場に関連するような仕事は全然やってなかった。だけど,当時伸びていたゲーム系の仕事も欲しいってことで,社内で企画を作れって話になって。それで,僕の隣の席の人が,さくまさんと一緒に企画を立てて,ハドソンに売り込んだものが「桃太郎伝説」なんだよ。
4Gamer:
そんな経緯だったのか。
桝田氏:
だから,さくまさんは,僕の隣の席の人としょっちゅう打ち合わせとかをしに来てたんだよ。そうなると,僕も隣の席にいる都合上,挨拶くらいはするじゃん。僕は当時,「少年ジャンプ」とかもあまり読んでなかった人なんだけど,「あ,ジャンプの…」みたいな感じで名刺をもらってさ(笑) で,いろいろ話していたら,家がとても近くだったんだよね。それで「ウチに遊びに来なよ」とか言われて遊びに行ったのが,さくまさんとの付き合いの始まり。だから,さくまさんとは,仕事よりも先にゲーム友達だったんです。
- 関連タイトル:
俺の屍を越えてゆけ2
- この記事のURL:
キーワード
(C)2014 Sony Computer Entertainment Inc.
- 俺の屍を越えてゆけ2 (初回封入特典「レア神様」(男神・女神)プロダクトコード 同梱) 初回限定特典「俺の屍を越えてゆけ スペシャルコミックブック」 付
- ビデオゲーム
- 発売日:2014/07/17
- 価格:¥1,300円(Amazon) / 1350円(Yahoo)