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[CEDEC 2012]「ドラゴンクエストX」における開発進捗管理法とは? セッション「大規模開発のプロジェクト管理 〜ドラゴンクエストXにおけるマネージメント事例〜」レポート
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印刷2012/08/21 00:00

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[CEDEC 2012]「ドラゴンクエストX」における開発進捗管理法とは? セッション「大規模開発のプロジェクト管理 〜ドラゴンクエストXにおけるマネージメント事例〜」レポート

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 2012年8月20日から22日にかけて,神奈川県内のパシフィコ横浜にてCEDEC 2012が開催されている。本稿では,開催初日に行われたセッションから「大規模開発のプロジェクト管理 〜ドラゴンクエストXにおけるマネージメント事例〜」の模様をレポートしよう。

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スクウェア・エニックス 開発部 ドラゴンクエストX デザインセクションマネージャー 荒木竜馬氏
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 本セッションの講師を務めたのは,スクウェア・エニックス 開発部 ドラゴンクエストX デザインセクションマネージャー 荒木竜馬氏だ。荒木氏は,「ドラゴンクエスト」シリーズや「FINAL FANTASY」シリーズのような,“AAA”と呼ばれる大規模タイトル開発について,他社タイトルにはない魅力や特徴を盛り込むべく,さまざまな職種のプロフェッショナルが集結していること,そして昨今のテクノロジーの進化や専門分野の広がりによって,どうしてもボリュームが増え,開発期間も長引いてしまうことを説明する。

 そうなると,開発組織は必然的に大規模化していくわけだが,おおよそ50人以上の組織にはきちんとした枠組みとルールが必要となり,さらに100人を超える組織になると,スタッフ全員のコンセンサスを得るために,効率的なメソッドの導入やチーム運営の工夫が必要になると荒木氏は語る。
 氏は,チーム内で意思の共有ができていないことから生じる齟齬や認識違いを未然に防ぐという“リスクヘッジ”こそがマネージャーの仕事であると話し,自身が「ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン」の開発で実際に活用したマネジメント手法と,それにまつわるエピソードなどを披露した。

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組織が大きくなると,各スタッフのコンセンサスを得ることが難しくなる
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荒木氏が直接マネジメントしたのは,赤枠で囲まれた部分。主にビジュアルに関する部分である


4つの手法をハイブリッド化した独自のアジャイル開発


 荒木氏が採用した手法のうち,最も特徴的なのは,本来,小規模タイトルの開発に適しているとされるアジャイル開発の手法である。この点について荒木氏は,アジャイルを“不確実なものに対する開発手法”と広義的に捉えたと説明。開発したゲームの各コンテンツを実装し,そのプレイフィールをもとに調整しながらクオリティを高めていく過程は,「ドラゴンクエストX」の開発とも親和性が高かったと述べ,さらに「リスクを最小限に抑えながら,不確実なものを“いい感じ”に開発していった」とも話していた。
 荒木氏いわく,実際のマネジメントは,以下の4つの手法を組み合わせた,いわばハイブリッドモデルだったのことである。

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■毎日15分のミーティング(スクラム)による進捗の確認

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 ゲーム開発は,必ずしも事前に立てたスケジュール通りには進捗しない。その理由には,日々のゲームプレイから生まれる要望への対応によって,本来のタスク遂行に支障が生じること,スタッフ自身がやりやすい作業から着手してしまい,重要な作業が後回しになってしまうこと,そして,いわゆる“声の大きい”ところからのオーダーから着手してしまうことなどが挙げられる。

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 こうした日々刻々と変わっていく開発上の状況を放っておくと,のちのち大きな問題に発展しかねない。そこで毎日15分のミーティングを設けることで,マネージャーが現場を把握し,適切な管理が可能となり,状況の変化に柔軟な対応ができるというわけである。
 荒木氏は,この手法を活用するにあたっては,毎日の手間を惜しまないことが重要であると述べ,セクションごと,イタレーション(アジャイルでは反復する短い開発期間の区切りを指す)ごとにきちんと目標を定めて,それをもとに管理していくことがポイントであるとまとめた。
 なお荒木氏は,できるなら立ったままのミーティングが望ましいとも話していた。氏いわく,座ってしまうとジックリと話し込むケースが多くなるので,必要最小限の話に留めるのであればスタンディングがいいとのことである。

■優先度に則ったタスク管理(狩野モデル)

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 ゲームプレイに基づくコンテンツや機能,調整への実装要望に,「なくては困る」「ないと不満」「あるとよりよい」といったランク付けをする手法である。この基準はディレクターの実現したいことをベースとするため,重要な案件の場合は,マネージャーだけでなく,ディレクター/アートディレクターの判断を仰ぐことも必要となる。

 この手法のポイントは,開発終了までの工程を明らかにし,無理があったり,実現が不可能だったりする部分についてはカットして,本当に必要なものに注力できるという点である。また,あとから生じた要望についても,既存のタスクとの優先度を比較できるので,取捨選択がしやすいというメリットが生ずる。
 ちなみにスクウェア・エニックスでは,タスクの優先度をデータベース化して,作業を進めているとのことだ。

■バッファコントロールでリスクヘッジ(CCPM)

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 荒木氏は,ゲーム開発の工程で起きる「スケジュールどおりに終わらない」「スケジュールに収めるだけの管理になってしまう」「無理にスケジュールに収めた結果,クオリティが落ちる」といった問題は,そもそもスケジュールの立て方に無理があると指摘し,不具合が発生したときの手戻り期間や,実装に至った時点ではまだ終了ではないことについても考慮すべきだと話す。

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 そうしたリスクを回避すべく採用した手法が,CCPM(Critical Chain Project Management,マネージャーが工程表の作り方を工夫することで,スタッフの締め切りを守る意欲を引き出し,期間短縮を図るプロジェクト管理手法)であり,荒木氏の場合は,タスクを“最短”と“最長”の二つの観点から見積もり,その差分をバッファとしてスケジュールに加えたという。

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 また1タスクあたりのバッファは,イタレーション単位で合算することにより,その消費度合いを把握することができる。バッファの消費が速ければ,スケジュール上に何かしらのリスクが発生したと認識できるので,早めのリスケジュールや予算変更を行えるわけである。当然,バッファを消費し尽くしてからでは遅いので,荒木氏は半分から3分の2を消費した時点で対策を取ると話していた。

■ロードマップ

 上記の3つの手法に加え,大まかなロードマップを作成することで,スタッフにプロジェクト全体の流れを把握させ,目標に至るまでのプロセスを意識させると荒木氏は語る。しかし,このロードマップが一般的なそれと異なるのは,状況に応じて随時書き替えられていく点で,氏は大きな変更やリスクが発生した場合に,安易な予算/人員の追加をしないための施策であると説明する。

 このロードマップには,スタッフ各人がどの時期に,どのくらいの期間,何をやるのかが記されており,異動についても記述がある。ここでも上記のバッファの概念は適用されており,発生し得るリスクとバッファの消費度合いを比較しながら,さまざまな調整/対策を行っていく。

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 こうしたロードマップを使った試みには,長期にわたる開発期間の中で「今の頑張りがどこで結実するのか」をスタッフにある程度示すことで,「同じ作業が永遠に続くのではないか」という不安を払拭する効果もあるという。
 しかし「ドラゴンクエストX」では,上記のとおり人員異動の件までもが記されていることを理由に,ロードマップの公開を見合わせたセクションもあったそうだ。そうしたセクションでは,進捗が滞ったり,不満が挙がったりすることがあったとのことで,今後はすべてのセクションで公開していきたいと荒木氏は述べていた。

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 あらためて荒木氏は,「ドラゴンクエストX」でのマネジメントの取り組みにおいて,2種類のリスクヘッジのためのバッファ管理を行ったと話す。すなわち,スタッフ作業のリスクヘッジとしてのイタレーションごとのバッファ管理と,プロジェクトのリスクヘッジのためのロードマップ上のバッファ管理である。
 とはいえ,バッファの過不足が生じないよう,予測と見積もりをしっかり行わなければならない。今回の件では,とくにロードマップ上のバッファの見積もりについて,経験則に頼らざるを得ず,どちらかというと不足気味だったとのことで,荒木氏は,より精度を高めることが今後の課題であると話していた。

 以上をまとめて,荒木氏は,「ドラゴンクエストX」におけるアジャイル開発のマネジメントの要点として,以下の3つを示した。

・組織におけるゴールの共有
・大規模なタスクでの品質管理
・リスクマネジメント



試行錯誤のすえ,2か月になったイタレーション期間

〆日には全員でプレイ会を実施


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 続いて,具体的なマネジメントについての紹介がなされた。まずチーム運用については,2か月に一度,イタレーションの〆日を設けて,スタッフ全員で半日から1日かけてのプレイ会を実施し,内容を評価する。ディレクターはそれらを精査し,次期イタレーションにて新規に実装される要素について,優先度も含めて計画を立てる。つまり,2か月で計画/実装/評価/計画……というサイクルとなるわけだ。なお,この2か月という期間は,プロジェクトを進行していく中で試行錯誤のすえに決まったとのことで,とくに評価のプロセスを重視した結果だという。

 またプレイ会については,スタッフ全員を長時間拘束するため,コスト換算すると莫大な金額になるというデメリットはあるものの,各自がゲームの全体像を把握したり,スタッフ間の意見の一致を図ったり,あるいはプレイヤー視点に近い意見を得たりと,享受できるメリットのほうがはるかに大きいと,荒木氏は述べる。
 なお,長期開発の初期段階ではゴールが見えにくいものだが,「ドラゴンクエストX」においてもそれは同じで,ディレクターを務める藤澤 仁氏の持つイメージをチーム全体で共有できるようになったのは,リソースが揃ってきたここ1年くらいのことだったと荒木氏。それまではイタレーションを重ね,計画/実装/評価の流れを繰り返す中で,徐々に理解を深めることに努めたとのことである。

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 タスクの管理については,まず失敗しやすいスケジュールの例として「前倒し」と「スケジュールを与えて各自に裁量を任せること」が挙げられた。これらは,いずれも個人の資質に依存する部分が多く,思わぬ人的ミスが発生したり,いくつものタスクが終わらないまま締め切りを迎えたりするからである。
 ただし,職人気質の高い少数精鋭チームの場合,上記のようなマネジメントが思わぬ効果を発揮することもあるという。例えば「ドラゴンクエストX」では,アートディレクターおよびエフェクト担当/モンスターのモーション担当チームが尖ったクオリティを叩き出したとのことだ。とはいえ,これらの事例は特殊であり,基本的には画一的な管理がオススメであると,荒木氏は話す。

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 今回,荒木氏は主にデザイナー(アーティスト)のマネジメントを手がけたわけだが,プログラマーなど他職種のマネジメントとは異なる側面があるという。まずタスクを分解しやすいセクションと,そうでないセクションがあるとのことで,それぞれに精度と管理コストのバランスを図る必要が生じるのである。
 そうした事例を踏まえ,荒木氏は今後の課題として,よりセクションの特徴に沿ったタスクの分解を挙げた。

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 また「ドラゴンクエストX」においては,ワークフローの管理を工夫し,無駄な待ちや,下流セクションへの影響が生じないようにしたと荒木氏。具体的には並行作業を可能にし,かつ,ほかのセクションの進捗を気にせず自身の作業に集中できるようなフローを構築したという。荒木氏は,それを「プライオリティの高い決定は先に」「できるだけ並行で作業に集中できるように」とまとめた。

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マップ制作のワークフローでは,テンプレートマップができた段階で,3セクションが並行作業に入る
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キャラクター制作のワークフローでも,異なるセクションが並行作業できるようになっている


不確実な開発のマネジメントには,柔軟な対応とそれを裏付ける現場経験が必須


 セッションの終盤では,荒木氏がマネジメントに対する考察を披露し,「ドラゴンクエストX」における自身の役割を振り返った。
 まず良かった点として氏が挙げたのは,氏がデザイナー出身であるため,現場の実作業を把握しており,デザイナー作業を円滑に進められたことである。
 その半面,プログラマーの作業に関してはあまり知識を持たないため,作業見積もりについてはプログラマーチーフに同席してもらう必要があるなど,時間的/コスト的な問題が生じた。

「ドラゴンクエストX」の開発をマネジメントするにあたり,荒木氏が試みた一連の施策も紹介された
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 以上をまとめて,荒木氏は,マネージャーに求められるスキル──「判断能力/問題解決能力/ワークフロー構築」を習得するには,現場経験がないと難しいと話す。
 また荒木氏は,ゲーム開発をマネジメントするにあたり,以下の点に留意しなければならないとあらためて述べる。

・ソフトウェア開発は不確実であるということ
・スケジュール管理は組み替えることが前提
・プロジェクトマネジメントはリスクマネジメント
・プロジェクトに合ったやり方を組み立てていくことが重要
・いかに合理的な開発を行うか


 最後に荒木氏は,今後も続く「ドラゴンクエストX」の開発に関して,“サービスの開発”にシフトしていくと述べる。そして「マネジメントは人ありき」と語り,同タイトルに携わるスタッフに感謝と賛辞を述べ,セッションを締めくくった。

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