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[CEDEC 2012]48時間で,長期にわたるゲーム開発のほぼすべてを体験できる――GGJからプロのゲーム開発者が学んだこと
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印刷2012/08/23 20:20

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[CEDEC 2012]48時間で,長期にわたるゲーム開発のほぼすべてを体験できる――GGJからプロのゲーム開発者が学んだこと

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 CEDEC 2012の3日目(8月22日),「GGJからプロのゲーム開発者が学んだこと」と題したパネルディスカッションが開催された。パネリストはマッチロックの後藤 誠氏,バンダイナムコスタジオの湊 和久氏,フリーランスの開発者である石川将光氏。モデレーターはIGDA日本の小野憲史氏である。
 GGJとはGlobal Game Jamの略称で,詳しいことはこちらの記事をご参照いただきたいが,簡潔に言えば「その場に集まった参加者がいくつかのチームを作り,あるテーマに基づいたゲームを48時間以内に作る」というイベントである。インディーズゲームを作っているアマチュアやゲーム開発者を目指す学生の参加も多いイベントだが,このパネルディスカッションは,GGJに参加した(あるいは「何度も参加している」)開発者がGGJから得たものは何か,というテーマで進められた。

左から湊 和久氏,石川将光氏,後藤 誠氏
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ゲームジャムという「屈辱」


モデレーターを務めたIGDA日本の小野憲史氏
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 三氏がGGJに参加したきっかけはそれぞれだが,GGJに「ハマった」きっかけとして,後藤氏と湊氏は「一度参加してみたら,面白いのと同じくらい悔しかった」ことを挙げている。プロのゲーム開発者であるから,30時間ないし48時間という短期間の開発期間であってもそれなりのものが作れるはず,作れて当然――という自負が打ち砕かれてしまったためだ。
 これについて湊氏は「2011年に初めて参加したゲームジャムではひどいゲームを作ってしまい,社内報告会をしたときに作品を見せたのだけれど,居合わせた社員から失笑すら起きなかった」と語る。湊氏はこの「屈辱の記憶」をバネに,当時はまだ英語が主体だったUnityのドキュメントを社内勉強会を通じて日本語化し,さらにはUnityの本まで書いてしまったのだから,転んでもただでは起きないというか,さすがはプロと言わざるをえない。

湊氏が参加したチームが作ったSuper Stronghold Shooter。バランス調整には微妙に失敗したらしい
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成功の要はチーム作りと適切な睡眠?


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 ゲームジャムにおける大きな特徴は,やはり制限時間である。短い場合は30時間,一般的には48時間の厳しい制限時間の中で,テーマに即したゲームを作らねばならないという環境は,想像以上の負荷となる。
 このため,「実際のゲームジャムにおける心得」として,この48時間をどう使うかというテーマがしばし語られた。具体的には作業手順の確立と,睡眠時間の確保である。
 作業の手順としては,なによりもまず今回のチームにどんな人物がいて,どのようなスキルを持っているかを確認,チーム内部のすり合わせを優先すべしという意見が提示された。これについて石川氏(ちなみに氏はゲームジャム仙人の異名を取る常連)は,「いきなりどんなゲームを作ろうかという話をしているチームよりも,まずは食事に行って,銭湯に行ってといったところからスタートしたチームのほうが成果を出すことが多い」と指摘する。チームプレイとなるゲームジャムにおいては,まずなによりもチームビルドが重要ということであろう。
 また,作業進行としては全員「そんなにうまくはいかないが」と前置きしつつ,「2日目までにはいったん完成させ,3日目は調整に充てるのが望ましい」と語った。

ゲームジャム仙人と呼ばれる石川氏が作ってきた作品。なお右の写真は,賞金が出るゲームジャムにおいて氏が一人で制作し,「遺憾ながら過去一番うまくいった作品」とのこと
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 睡眠時間の確保というかなり現実的な話に関しては,これまたゲームジャム仙人・石川氏が「いままでいろいろな寝方を試してきたが,1日4時間,夜のうちに寝ておくのがベスト」と語る。「いままでいろいろな寝方を試してきた」というあたりに何か感じるものがあるが,含蓄のある言葉である。
 後藤氏もまた「4時間が理想」と言いつつ,「でも寝たことがない」と語る。横になっても「あれをしなくては,これをしなくては」という考えが首をもたげてくるので,眠れないということだ。これまた実感を伴った逸話である。
 湊氏は「理想の睡眠時間と言うならゼロですよ」と会場を笑わせつつ,やはり1日4時間というラインを提示した。また,社内でゲームジャムを行うことがあるが,そのときは企画とプログラマーが交代して寝るという体制がうまく機能したそうだ。あまり日常的に機能してほしくない体制ではあるが。
 いずれにしても石川氏の「健康管理は各自がきちんとなすべきで,イベントで体を壊したというのではダメ」という発言は,重要な指摘といえるだろう。


ゲームジャムとゲームエンジン


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 近年ゲームジャムが開催される頻度は明らかに多くなっているが,この背景にはゲームエンジンの発達と普及があるという説がある。これについて,実際の参加者はどう考えているのだろうか?
 湊氏は,「ゲームエンジンなしでのゲームジャムは厳しい」と語る。またゲームエンジンを利用しない場合,どちらかと言うとプログラムコンテストの趣が強くなりすぎるのではないか,と思っているとのことだ。一方,エンジンに依存しすぎるとMODコンテストになってしまうことも考えられるため,このあたりのさじ加減は難しいと語った。
 一方,後藤氏は30時間しかない福島ゲームジャムで「Java Appletを使ってガチでプログラミングをした」結果,「少し何かがうまく行かなくて,Googleで対処法を検索していると簡単に1時間が過ぎると述べた。チームメイトが作った成果物をマージしようとすると,これまたマージの手順だけで1時間かかる。ゲームロジックに専念するには,ゲームエンジンの使用が欠かせない」という結論に至ったそうだ。
 また石川氏は,ゲームジャムはとにかく時間との戦いになりがちなため,「技術的に新しいことをするのではなく,ゲームのロジック的に新しいことを目指したい」と語るとともに,ゲームエンジンの別の効用として,チームでゲームエンジンの話をすれば,チームメイトとの共通項が分かるというメリットを指摘した。

福島ゲームジャムで,後藤氏が参加したチームが作った作品「Kirikiri-Nyokki」
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ゲームジャムとゲーム開発業務


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 ところで,ゲームジャムは普段の業務にどのような影響を与えるのだろうか。また近年何かと話題に登る「ラピッドプロトタイピング」(ここでは,ゲームのプロトタイプを短期間で作り上げることを指す)に対して,短時間で動くものを作るというゲームジャムのシステムは有効なのだろうか?
 まずラピッドプロトタイピングとゲームジャムの関係については,有効ではあるが留保されるべき部分がある,というラインがパネリストの見解であった。ゲームジャムはスポーツ的な側面(テーマが決まっているなど)があること,また「とにかく最終的に動けばいい」という部分が残らざるを得ないため,これをそのまま業務に持ち込むことは難しい。
 一方,ラピッドプロトタイピングをゲームジャムに持ち込むという視点においては,石川氏は「48時間というのは,営業日で言えばだいたい6日。作っては壊しを繰り返すサイクルとしては短すぎる」と指摘した。

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 ゲームジャムと通常業務との関係という点においては,「長期間の開発期間の中で感じること,起こることが,ゲームジャムの48時間で体験できる」ことがその共通点として語られた。後藤氏は「『もう自分にはこれ以上は思いつかない』という限界にぶつかり,そこから足掻きながらゲームを生み出していくという経験が,ゲームジャムの48時間の中にある。これを経験できることは非常に重要」と指摘。また石川氏は「48時間でゲームを作りきるには,タスク管理やチームマネジメントが重要になるが,これは通常業務と変わらない」と述べた。
 一方で大きな違いとしては,業務であれば,それぞれの部署にそれぞれプロフェッショナルがいて,文字通りプロの仕事をしてくれるが,ゲームジャムでは今そこにいる人材だけでやりくりをしなくてはならないという課題があることが強調されていた。これについて湊氏は「まだスキルを身につけていない,若い参加者さんとチームを組むと,普段一緒に仕事をしている他職種の人たちに対する尊敬の念を取り戻す」と冗談交じりで語っていた。
 また,ある意味で「48時間のうちに,数年かかるゲーム開発で起こることがすべて起こる」の派生だが,湊氏が「業務でも開発中盤になると,突然今までとはまるで逆のことを言い出す者がいる。これはきっと開発に時間がかかるため起きることだと思っていたが,48時間という制限があってもなぜか同じことが起こる」と語り,これに対し会場から苦笑ともため息ともつかない悲痛な笑いが沸き上がっていたのはたいへん印象的だった。
 とはいえ石川氏と後藤氏は「自分たちはゲームジャムでは広げた風呂敷をたたむことに必死で,そういうケースに直面したことがない」と語り,後藤氏は「『開発中盤でひっくり返したくなる病』は,うまくいっているチームの落とし穴」と指摘した。「暇になるとひっくり返したくなるのかもしれませんね」という湊氏の言葉に,会場がもう一度どっと沸いたのは言うまでもない。

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ゲームジャムから得られるもの


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 さて,いかにもゲームジャムの楽しげな雰囲気が伝わってくるパネルディスカッションだが,ゲームジャムにプロが参加するメリットはどこにあり,そしてプロはそこから何を得ていくのだろうか?
 三氏が共通して語るのは,「自分のスキルを(あるいはスキルのなさを)確認できる」という点だ。普段の業務であれば,難局にぶつかっても,高いスキルを持った誰かが助けてくれる。
 だがゲームジャムではそうはいかないし,調べている時間もない。普段ならGoogleで1時間も調べれば分かる,その1時間が重くのしかかるのがゲームジャムなのだ(これを指して石川氏は「ゲームジャムでは,Googleゲタがない」と語る)。
 結果として「自分はこれくらいできる」という思い込みは簡単に粉砕されるし,自分ができる範囲についても認識や理解があらためられるという。なお湊氏の「最近は仕事がいろいろうまくいっていたので徹夜せずに済んでいたが,2011年のゲームジャムで久しぶりに徹夜をして,あらためて『徹夜仕事はダメだ』と認識した」という言葉には,会場が大いに沸いていた。

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 これ以外に,とくにプロがゲームジャムで得られるメリットとしては,どうしても「プロ」ということでチームのまとめ役を期待されるため,総合職としてのスキルが問われるという点が挙げられた。近年のゲーム制作はチームプレイであり,そこでマネージメント系のスキルを実地で学べる(あるいは自分にそれが欠けていることを認識する)機会として,ゲームジャムの効果は大きいようだ。

 また三氏とも,「ゲーム作りはこんなに楽しいことなのだ,ということを再認識する」効果は大きいと指摘する。後藤氏は「22年目にして,ゲーム作りの楽しさを再確認した。もっとゲームを作りたくなった」と語っており,ゲームジャムがもたらすモチベーション向上効果がいかに大きいかを強調している。


ゲームへの熱意


 さて,ここまで楽しい楽しいと言われると,ゲームジャムに参加してみたくなるのが人情だが,ゲーム開発の技術を習得していない人間が,ゲームジャムに参加して良いものなのだろうか? あるいは参加したとして,プロも参加するイベントの中で,何ができるのだろう?
 後藤氏は「何かできることがあれば強みになるが,意欲だけでもいい。集まったメンバーでできる最高を引き出すこと,ゲームへのエネルギーを引っ張りだすのがリーダーの能力だ」と語る。
 石川氏は「どうしても企画が八方美人になりがちなので,決定ができる人,ビジョンを示せる人は大事」と語る。チーム全員の意見を取り入れようとして破綻するという事態を避けることもまた,重要なポイントなのだ。
 湊氏は,「初日の企画段階までは普通に参加してもらえるし,そこから後は作っているゲームを通しでプレイしてくれる人が欲しい。1ステージ遊びきりのパズルであればともかく,ゲームが複雑化して,ステージが積み重ねられるタイプのゲームだと,みんな目の前の課題解決に必死で,ゲーム全体のバランスが分からない」と語った。湊氏の同僚もゲームジャムに参加しているが,そこで氏の同僚は「無謀にも」(湊氏)RTSを選び,ラスボス出現までに40分くらいプレイが必要となる大作を作ってしまった結果,最後の最後までバランス調整に苦しんだという。

 ちなみに,今回モデレーターを務めた小野氏はゲーム開発の技術をほぼ有していないそうだが,ゲームジャム参加者である(本人曰く「ゴミ拾いであるとか,忙しくしている雰囲気を出す係だった」らしい)。「やってみるかなぁ」よりも「やってみた」からスタートする,それもまたひとつのスキルかもしれない。

小野氏が参加したチームが作った作品「Rise of Beetle」
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