≫ 注記:繰り返しになりますが、本制作日記は
極めてノンフィクションに近いフィクションです。実在する団体・人物・本編プレイ時間・プロットに悩む作家の七転八倒っぷり・「ゲームをノベライズする事」についての土屋つかさの個人的な意見としての創作論・そしてついに本当に遅刻した編集者(平林さんの事)など(今回は全部登場します)、全て架空という事にしておかないと既に各方面から怒られつつあるのでヨロシク! では“土屋つかさの『那由多の軌跡』制作日記
「ノベライズに至る軌跡」”第3回スタートです。どぞ!
■土屋つかさの『那由多の軌跡』制作日記
第1回:執筆の依頼が来た!
第2回:スケジュールとの格闘!
第4回:議論、そして、執筆へ!
第3回 プロットを書き上げろ!
紆余曲折を経てノベライズ版『那由多の軌跡』の仕事を引き受けた土屋つかさ。しかし、大変なのはむしろこれからなのだ、というのが前回までのあらすじ……だったっけ? ともかく、大変なのはむしろここからなのです――!
◆ ◆ ◆
さて、2012年7月26日。「那由多の軌跡」が発売されました。ほぼ同時に、星海社さん経由でゲーム本編が届きました。
ここからしばらくの土屋の作業は、ひたすらゲームをやり込む事になります。
既にファルコムさんからプロットやシナリオは頂戴していて、一通り目を通してはいるのですが、やっぱり本編を遊び、最初から最後まで通しプレイする事で、プレイヤーがどんな感情を伴って物語を味わうのかを肌で感じたいのです。
ひたすら遊びます。朝食の後の休憩時に、執筆に詰まった時の気分転換に、寝る前のわずかな時間に、移動中はもちろん持ち歩き(携帯型ゲーム機のメリット!)、打ち合わせまでの時間調整で喫茶店に入った時は出来るだけ目立たないように、PSPを起動してナユタとノイの冒険を再開し、物語世界に没入しました。
「那由多の軌跡」
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時間を気にせず一日中プレイ出来るのならばそうしたいのですが、他の(〆切の迫った)執筆の作業もあるので、こういうスタイルになりました。そして「那由多の軌跡」はそれだけ没入するに足るポテンシャルを持ったゲームだという事は間違いありません。実際ここまでのめり込んだアクションRPGはあまり無く、ゲーム画面が夢にまで出てきました。
そして、ついにクリア。
迂闊にも記録を残し忘れた為、どれくらいの期間でクリアしたのかが分からないのですが、無事に一周目を終え、万感の思いを込めてPSPの電源を切った後、その余韻に浸りつつ、土屋は大きく深呼吸してから、呟きました。
「これを小説にするのは、かなり大変だぞ」
事前にプロットを読んだ時にも感じていたのですが、実際プレイしてみて、改めて「那由多の軌跡」のノベライズ作業の困難さに気づいたのです。
◆ ◆ ◆
「ノベライズ」というのは、小説以外のメディアで作られた創作コンテンツを小説の形に変換する作業です。この時、ノベライズ作業には二つの方法を取り得ます。一つは、可能な限り元のメディア(原作と言います)を忠実にトレースし、元のコンテンツの感動を再現する方法。もう一つは、原作を大胆にアレンジする方法です。
ゲームを遊び終えた土屋は、今回のノベライズは、後者の方法になる、いや、ならざるを得ないと感じました。何故なら、「那由多の軌跡」には、ゲームの文脈では問題無く成立しているけれど、小説の文脈では上手く成立させられない物語要素が多数存在していると考えた為です。
こういう場合、原作を忠実にトレースして小説の形に落とし込んでも、逆に物語としての面白さが減衰してしまい、原作の魅力を伝えきれないという事態に陥ってしまいます。なので、原作の魅力を小説の文脈でも表現する為に、原作のテーマや要素は残したままに、物語を大胆にアレンジする必要が出てきます。
あらかじめ強調しておくと、これはメディアの特性の違いの話であって、表現力の差の話ではありません。小説をゲーム化する場合も同じ問題が発生するし、例えば(土屋は経験ありませんが)小説をコミック化、アニメ化する場合も同様でしょう。こういう状況をどう乗り越えるかが、創作者の腕の見せ所となるのです。
もう一つ言っておくと、「文脈をアレンジ無しに移し替えられないのは土屋つかさという作家の技量の問題なんじゃねーの」というツッコミに対しては、2013年現在の科学技術では残念ながら明確な回答を示す事が出来ず、今後よりいっそうの研究発展が望まれます。っていうかごめんなさい。
閑話休題。
では、どういう時に文脈をアレンジする必要があるのかについて、ちょっと大げさかつおおざっぱな例を紹介してみましょう。実際には、もっとミクロなレベルで、個々の事象について事細かく考察をしているのだと思って頂ければ幸いです。
例えば、「『那由多の軌跡』のゲーム中、ナユタがゲームの舞台であるテラを冒険している期間は一体何日間なのか」というのが、ゲーム中では明示されず、上手くぼやかされています。これは「那由多の軌跡」に限らず、多くのRPGで使われるセオリーな文脈です。
数日の冒険と判断するには、ナユタが旅する土地の範囲はあまりに膨大ですし、途中のイベントとの矛盾が起きます。けれど、半年や一年の冒険だとすると、「そんな時間的余裕が果たしてあったのか?」という疑問が生まれます(ネタバレしないように書いているので、よく分からなかったらごめんなさい)。
ノベライズする際には、ナユタの冒険が「数日」だったのか「半年」だったのかを、(ある程度には)明確にする必要があります。また、明確にした事によって生ずる問題を一つずつ解決する必要があります。その為には、元のゲームのストーリーを改修する必要も出てくるでしょう。それがまたストーリーの別の箇所にひずみを作り……と、問題は波状的に広がっていきます。
土屋は色々考えた末、今回のノベライズでは、「『那由多の軌跡』という物語が持つテーマを変えない」と決め、その代わりにストーリーの順序やキャラの設定を大幅に変更するという方針を立てました。そして、この方針に従って、資料を漁り、ゲームをやり直し、攻略本を読み返して、小説版のプロットを一歩ずつ作り上げていきました。
余談ですが、この方針決定によって、ノベライズ版『那由多の軌跡』は、元のゲームとはひと味もふた味も違った作品になったと考えています。ゲームをプレイ済みの人にも「え、このキャラがここで出てくるの!?」と驚いて(かつ楽しんで)もらい、小説を読んだ後で初めてゲームを遊ぶ人にも「全然違うじゃん!」と驚いて(かつ楽しんで)もらえると思います。
どうぞ、二つの「那由多の軌跡」の物語をお楽しみ下さい。
◆ ◆ ◆
さて、そんな感じで、自室で七転八倒しながら、延々プロットを練り続けます。そして、ようやくノベライズ用のプロットが書き上がりました。季節はすっかり秋を過ぎて、冬の足音が聞こえてきていました。平林さんにプロットが完成した旨をメールし、打ち合わせの日をセッティングしてもらいます。
◆ ◆ ◆
11月がそろそろ終わる頃。新宿西口のCOMIC ZIN前の待ち合わせで合流した土屋と4Gamer.netのgingerさんこと田中さん(仮名)は、近くのスタバのオープンテラスで、お互いにたまたま最近遊んでいた自転車創業のPCゲーム「ノベルゲームの枠組みを変えるノベルゲーム。」の話で盛り上がっていました。
「ノベルゲームの枠組みを変えるノベルゲーム。」
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土屋「いやまさか【ネタバレになるので伏せる】だったなんて!」
田中「ホントホント! しかも【ネタバレになるので伏せる】って、【ネタバレになるので伏せる】かよって!」
曇り空に二人の笑い声が吸い込まれ、やがて、二人の間に沈黙が下りました。小さくため息をついた後、土屋が呟きます。
土屋「……来ません、ね」
田中「……そうです、ね」
二人「……………………」
そう。その日、星海社の敏腕編集者である平林さんは、12時半待ち合わせの打ち合わせに、1時間超の遅刻をキメたのであります――
(続く)
■土屋つかさの『那由多の軌跡』制作日記
第1回:執筆の依頼が来た!
第2回:スケジュールとの格闘!
第4回:議論、そして、執筆へ!