インタビュー
シリーズ再始動を告げるスピンオフ小説「BLAZBLUE ブラッドエッジ エクスペリエンス」。ここから始まる新展開について,森Pと著者・駒尾氏に聞いてきた
「BLAZBLUE」といえば、格闘ゲームとしてはほかに類を見ない複雑な世界設定を持つタイトルとして知られており,アーケードで軽く触れた程度では,恐らくその背景すべてを把握するのは難しい。さらに家庭用ゲーム機版では,ノベルゲームと見紛うほどのボリュームを持ったストーリーモードを搭載するなど,格闘ゲームとしては珍しい“ストーリー”と“世界観”に大きなウェイトを置くタイトルでもある。
「BLAZBLUE―ブレイブルー―ブラッドエッジ エクスペリエンス」は,2012年に完結を迎えた「BLAZBLUE フェイズ」シリーズに続く,BLAZBLUEスピンオフ小説の新シリーズだ。スピンオフとしては6冊目,本編のノベライスを加えると10冊目の刊行に合わせ,今回,4Gamerではシリーズファンにはお馴染みのプロデューサー・森 利道氏と,各種ノベライズシリーズの執筆を担当し,今作でも筆を取る駒尾真子氏に,アークシステムワークス本社にて話を聞いてきた。
各作品の制作秘話から,メディアミックスを成功させる秘訣,そして今後のBLAZBLUEシリーズが目指すところまで,たびたび脱線しながらも語られた,両氏の作品愛の数々を,本稿では余さずお届けしていこう。
「BLAZBLUE」シリーズポータルサイト
富士見書房「BLAZBLUE」シリーズ特設サイト(試し読み公開中)
「BLAZBLUE―ブレイブルー―ブラッドエッジ エクスペリエンス<上>」をAmazonで購入する(Amazonアソシエイト)
もうひとつのBLAZBLUE「ブラッドエッジ エクスペリエンス」
4Gamer:
6月20日に発売となる小説「BLAZBLUE―ブレイブルー―ブラッドエッジ エクスペリエンス」(以下,ブラッドエッジ エクスペリエンス)についてお聞きしたいと思います。これって一体どんな話なんですか?
ブラッドエッジ エクスペリエンスは,僕が描きたかった「もうひとつのブレイブルー」です。Webラジオの「ぶるらじ」に出演したときにも少し話しましたが,ゲーム本編でこれまで展開してきた“蒼の物語”を,もう一回やり直すつもりで企画したものなんです。
4Gamer:
ということは,これまでBLAZBLUEシリーズを遊んだことのない人向けの小説,ということなのでしょうか。
森氏:
それもコンセプトの一つではあります。難しい用語なんかは極力排除し,ゲーム本編を知らないと楽しめない,なんてことにはならないように配慮したつもりです。シリーズではお馴染みの“蒼”や“ドライブ”という用語は登場しますが,それらの意味も作中で細かく説明していますし,初めてシリーズに触れるという人でも,問題なく読み進められるハズです。
4Gamer:
少しだけ読ませていただきましたが,むしろ,用語については本編よりも詳しく説明されているくらいでしたね(笑)。とはいえ,まったく本編と無関係というわけでもない。
森氏:
本編や外伝である「XBLAZE CODE:EMBRYO」(PS3 / PSV,以下,XBLAZE)を知っていれば,初見の方とは違った面白さを体験できるネタもちゃんと用意しています。最後まで読めば,「なるほど!」と納得がいく結末が待っていますので,楽しみにしていただければと。
4Gamer:
となると「フェイズシフト」シリーズや本編のノベライズとは,かなり異なる雰囲気になりそうですね。物語の舞台も現代ですし……。
森氏:
「フェイズシフト」シリーズは本編の前日譚ですから,最初から最後まで構想がガッチリと決まっていました。なので,最終的には本編とつながるようにしなくてはならない。となると,どうしても色々な説明が必要になるんです。今回はそれもなかったので,以前よりも良い意味で“ライトノベル的”になっています。
駒尾真子氏(以下,駒尾氏):
……というと今までのはライトノベルじゃなかったのかって言われそうですけど(笑)。でもとくに本編のノベライズは重厚な雰囲気のシーンが多かったですし,今回はなるべく会話劇でストーリーが進むように心がけました。あまり頭を悩ませずに“軽く読める”,と言う意味では,確かによりライトノベルっぽいのかも。
4Gamer:
駒尾先生は,これまでBLAZBLUEシリーズの小説を長く手がけてらっしゃいますね。今作を書くにあたって,なにか苦労などはあったでしょうか。
駒尾氏:
それがですね……森さんから最初にいただいたプロットがものすごく長くて。分量にして,完成版の3分の1ぐらい。
森氏:
ご,ごめんなさい(笑)。そのままではさすがに入り切らないので,色々と頑張って調整しました。おかげさまで,上下巻構成ではありますが,それぞれがかなりの厚さとなっております。
4Gamer:
執筆自体はスムーズに進んだのでしょうか。
駒尾氏:
いや,実はそれがそうでもなくて。私,馴染まないキャラがいると,どうしてもそのキャラクターが出てくるシーンで引っかかってしまうんです。今回はハルカのキャラクターにどうしても馴染めなくて……。
森氏:
ハルカについては,かなりアドバイスをしたよね(笑)。
駒尾氏:
そうですね。キャラクターがフワっとしたまま執筆を始めてしまったので,その“フワっと”感が抜け切らないまま,ずるずると進んでしまい。そこで手が止まる度に,森さんにアドバイスをいただく感じでした。逆にスピナーなんかは,楽しんで動かせたんですけど。
4Gamer:
読ませていただいたところまでだと,ハルカは典型的なヒロイン気質の女の子でしたね。主人公のナオトにラブラブで……今後どうなってしまうのかちょっと心配ですけども。一方で,スピナーは本作の敵役といえるキャラクターですが,確かに彼の登場シーンは,生き生きとしていたように思います(笑)。
駒尾氏:
スピナーは“蛇”をイメージしたキャラクターなんですが,彼のシーンはとにかく書くのが楽しかったですね。台詞もまるで引っかかることなく,スラスラと出てくるんです。
森氏:
ねっとりと,長い舌で何かに巻きついているような仕草が,容易に想像できるんだよね。あの場面は,読んでいて「ああ,この人は本当にド変態なんだ」と思いました。
駒尾氏:
設定は森さんが作ってるんですから,罪は半分こですよ!
森氏:
いや,確かにそうだけども(笑)。
黒鉄ナオト:本編の主人公。両親を亡くし,マンションで一人暮らしをする高校生。基本的には平凡な男子高校生だが,人の生命力を数値化して“視る”ことができる「狩人の目」を持つ |
スピナー:蛇を思わせる容姿と,長い舌が特徴的な男。素性など,詳細は一切不明 |
駒尾氏:
そのほかにも,シリーズファンならよくご存じのキャラクターも登場しますのでお楽しみに。主人公とは,ちょっと違う立ち位置から物語に絡んでくるので,必見です。
森氏:
“V”なんとかさんと“R”なんとかさん,あと“C”がつく人のことですね!
駒尾氏:
あの人達,なんで若い頃からあんな恰好してるんですかねえ(笑)。
4Gamer:
なんだか意味深ですけども(笑)。でも,BLAZBLUE本編を知らずとも楽しめるというのは,確かにその通りだと感じました。ラケルは世間知らずでカワイイし,ナオトはこれぞ今時の主人公という感じで,ラノベのお約束的に楽しめると思います。
森氏:
そうそう。そこにプラスして,アニメやゲームで予備知識があったりすると,さらに楽しめる,みたいな。色々と言えないことが多くてもどかしいんですが,なにより伝えておきたいのは,これは僕自身が確信を持って「面白い!」と思える作品だということです。僕を信じてもらえるなら,絶対買って損はないと思います。
4Gamer:
おお。ちなみに下巻の発売はいつ頃になるのでしょうか。
森氏:
2014年内を予定しています。絶賛執筆中ですので,下巻もぜひご期待ください。最後まで辿りつけば,とくにBLAZBLUE本編を隅から隅まで知り尽くした人だったら,これだけでご飯8杯くらい行ける内容になってますから(笑)。お楽しみに!
過去と今をつなぐ「フェイズシフト」シリーズが生まれたワケ
4Gamer:
BLAZBLUEシリーズのメディアミックス展開についても話を広げて聞かせてください。そもそもなんですが,格闘ゲームであるBLAZBLUEに,これほど深い世界設定を用意したのってなぜなんでしょうか。
森氏:
これはもう,格闘ゲームに新しいファン層を取り込みたかったからってことに尽きますね。僕は格闘ゲームが大好きですけど,内向きに閉じてしまって広がりがない部分だけは許せなかった。だから,まず誰かに興味を持ってもらえるような,外側を用意することにしたんです。
4Gamer:
確かにストリートファイターのストーリーなんか,あってないようなものですし。格闘ゲームでここまで広がりのある世界観を持ったタイトルは珍しいですね。
森氏:
ええ,メディアミックスについても同様で,より外の世界に作品をアピールするための手段なんです。大事なのは,なによりキャラクターや世界観をブレさせないことです。せっかくメディアミックスから興味を持ってくれた人がいても,そこにギャップがあって本編を楽しめないようでは,本末転倒ですからね。
4Gamer:
BLAZBLUEシリーズのメディアミックス作品をリストアップしてみたのですが,こうしてみるとかなり幅広いですよね。これを,森さんがすべてお一人で監修しているんですか。
■BLAZBLUEシリーズ メディアミックス作品一覧
◯ノベル
「BLAZBLUE―ブレイブルー― リミックスハート」3巻
- 「BLAZBLUE―ブレイブルー―フェイズ」シリーズ 全5巻
- 「BLAZBLUE―ブレイブルー―カラミティトリガー」上下巻
- 「BLAZBLUE―ブレイブルー―コンティニュアムシフト」上下巻
- 「BLAZBLUE―ブレイブルー―ブラッドエッジ エクスペリエンス<上>」(続刊中)
◯コミック
- 「BLAZBLUE―ブレイブルー― リミックスハート」1〜4巻(続刊中)
- 「BLAZBLUE」全2巻
- 「BLAZBLUE CHIMELICAL COMPLEX」全2巻
◯アニメ
- 「BLAZBLUE ALTER MEMORY」DVD&Blu-ray 全6巻
◯ゲーム(スピンオフ作品)
- PS3/PSV「XBLAZE CODE:EMBRYO」
◯ラジオ/ドラマCD
- 「ぶるらじ」シリーズ ニコニコ動画で配信中
- 「ぶるどら」シリーズ 全2巻
森氏:
基本的に僕の名前が入っているものは,すべて僕の原案を基に制作してもらっています。お客さんがガッカリするような体験は,絶対にさせたくないですから。もちろん,それには担当する各作家さんの頑張りも必要ですけど。
4Gamer:
これらのメディアミックス展開の中で,もっとも初期にスタートしたものの一つに,駒尾先生が手がけられた小説「フェイズ」シリーズがあるわけですが,これは先ほどもおっしゃったようにゲーム本編の前日譚――六英雄の活躍を描いたものとなっています。なぜこれを小説の題材とされたのでしょうか。
森氏:
小説でのメディアミックスについては,前々からやりたいと思っていたんですよ。そんな折に,富士見書房の編集さんから声をかけていただけて。念願叶って企画がスタートすることになりました。前日譚を選んだのは,「せっかく小説をやるなら新しいものを作りたい」という僕のわがままから。
4Gamer:
わがままで(笑)。
森氏:
だって「BLAZBLUE CALAMITY TRIGGER」(以下,CT)のノベライズをただ出しても,あまり面白くないじゃないですか(笑)。だからお話としては,2014年時点での最新作である「BLAZBLUE CHRONOPHANTASMA」(以下,CP)で進める予定だったストーリーの一部を掘り下げた形になっています※。
※小説「フェイズ0」は2010年8月の発売。ちなみにCTは2009年6月,CPは2013年10月に発売(いずれも家庭用ゲーム機版)。
4Gamer:
CPのストーリーは「クロノファンタズマ編」「第七機関編」「六英雄編」に分かれていますが,そのうちの「六英雄編」を中心に,ストーリーを深く掘り下げたのがフェイズシリーズ,というわけですね。
森氏:
簡単に言うと,そうなりますね。
4Gamer:
なるほど。かなり遠大な計画があったんですね。
森氏:
BLAZBLUEのストーリー展開は,かなり初めのうちから計画していました。とはいえ,もともと暗黒大戦時代の設定は,CPでは少し触れる程度の予定だったんです。その周辺のドラマをしっかりと描けたのは,フェイズシリーズがあったためです。
4Gamer:
……ちなみに小説の中で登場した,ナイン以外の十聖にあたるキャラクターやその設定は,小説のために作られたものだったのでしょうか。
森氏:
いえ。フォーやセブンなどの十聖も,設定自体は最初から用意していましたよ。ただ,フェイズシフトシリーズがなければ,それは裏設定のまま日の目を見ることはなかったでしょう。
クズの美学を見たければフェイズシリーズを読め!
4Gamer:
そのフェイズシフトシリーズですが,駒尾先生に執筆を依頼することになったのは,どんな経緯からだったのでしょうか。駒尾先生がシリーズのファンだったとか?
いや,そういう訳ではないですね。きっかけとしては,赤尾でこ先生※に紹介してもらって,森さんとお会いしたのが最初でした。
赤尾でこ……アニメ関連作品で活躍する脚本家,構成作家。代表作に「Yes!プリキュア5」「謎の彼女X」など。
森氏:
赤尾でこ先生には,CTのストーリーモードを手伝ってもらったことがあったんだよね。小説版を立ち上げるにあたって相談してみたら,「いい人? いるよおぉぉ〜」って。あの嬉しそうな顔と声が忘れられない(笑)。
駒尾氏:
うわぁ,容易に想像できますね(笑)。
森氏:
駒尾先生と最初にお会いしたときは,なんか「お前はどこの田舎から出てきたんだ」ってくらいキョドりまくってて,正直「この人で大丈夫かな?」って印象でしたけど(笑)。でも任せて良かった。
駒尾氏:
あの時は仕方がなかったんです! だって赤坂の喫茶店なんて普段足を運ばない場所を指定されたうえ,道に迷ってオロオロしながら辿り着いてみたら,こんなサングラスの怪しい人が座ってるわけじゃないですか。そりゃあ怯えるってものです。
4Gamer:
なるほど(笑)。フェイズシリーズについて,もう少しお聞きしたいのですが,駒尾先生のTwitterを拝見していると,テルミへの愛が格別強いように感じます。これは……やっぱりお好きなんですか?
駒尾氏:
ええ,まあ(笑)。でも今でこそテルミを書くのは大好きですが,最初は苦手なキャラクターだったんですよ。とくに,テルミが初登場する「フェイズシフト1」の頃は,何をしゃべらせても台詞がテルミらしくならなくて,苦労しました。
森氏:
最初の頃は,テルミの台詞に僕がかなり赤を加えたよね。それこそ「どこのチンピラだこいつ」って感じだったので。ただ,一度アドバイスをしたら,次からはしっかりテルミのキャラクターを掴んでくれて,今では僕以上にテルミらしいテルミを書いてくれるようになりました。
4Gamer:
こういってはなんですが,テルミって基本的に“同情の余地のない悪人”じゃないですか。お二人は,彼のどのあたりに魅力を感じているのでしょうか。
森氏:
テルミは“悪の華”なので,徹底的な外道であること自体が魅力だと思っています。むしろ同情されてしまったら,テルミはテルミではなくなる。彼のモデルって,実は「バットマン」のジョーカーなんです。すごく自己中心的で,人として異常であるという。テルミの行動基準もそれに近いものがあるので,彼を動かすときは,常に異常であることを意識しています。
駒尾氏:
私も,そんなクズみたいなテルミが大好きですね(笑)。
森氏:
クズな人間を見たかったらフェイズシリーズを読め! と自信を持って言えるくらい。このシリーズには駒尾先生の“クズ愛”が詰め込まれています(笑)。
4Gamer:
具体的に書いていて楽しかったシーンはありますか?
彼に関するシーンならたくさんあって,例えばテルミさんがゲロったシーンとかすごく楽しかったですけど。でもあえて真面目な場面を挙げるなら,ハクメンが生まれた経緯が語られるシーンですね。あのシーンは,心から好きだと思えます。当時も,取り憑かれたように書いていましたね。
森氏:
ああ,あれは格好良かったよね! ネタバレになるからあまり深く語れないけど,僕も大好きなシーンです。
4Gamer:
CPではついにプレイアブルキャラクターにまでなったテルミ(ユウキ=テルミ)ですが,そんな風に小説から本編に逆輸入されたキャラクターや設定なんかもあるんでしょうか。
森氏:
いっぱいありますよ。中でもとくに影響が大きかったのはセリカですね。彼女は当初,あそこまで前に出てくるキャラクターとはこれっぽっちも思っていなかったですから。
4Gamer:
セリカについては,森さんは小説のあとがきでも「“ヒロイン”とはなんたるか!? を教えて頂いた気持ちです」と書かれていましたね。
森氏:
フェイズシリーズでは,駒尾先生にプロットのほか,キャラクターの設定資料も揃えてお渡しするんです。セリカについても色々設定は書きましたが,最後に書いたのが「とにかく“ヒロイン”を書いてください!」というもので。
駒尾氏:
ありましたねえ。
森氏:
白状すると,“ザ・ヒロイン”って感じの女の子って,僕はどうも書けないんですよ。どうしても変化球のキャラクターになってしまう。それこそ,駒尾先生の描くセリカを見て「なるほど,これが正統派ヒロインなのか」って納得してしまったくらい。
ツバキの前世は百合キャラだった!?
4Gamer:
ちょっと話題が変わりますが,駒尾先生の来歴を拝見していると,女性同士の恋愛モノ,いわゆる百合がお得意なのかなと思えるのですが,どうなんでしょうか。
駒尾氏:
これまでの作品だとそうなりますね。でも,それしか書けないわけではないので。もちろん,好きではありますけど(笑)。
4Gamer:
でも,残念ながらというか,BLAZBLUEには百合っぽいキャラクターはいません。これは一体どういうことなのかと(笑)。森さん,ぜひ百合キャラをお願いします!
森氏:
……僕ね,百合ってよく分からないんだよね。今だから言いますけど,実はツバキは最初,百合キャラの予定だったんですよ。もう「ノエル大好き♥」っていう。
4Gamer:
え? ええっー!?
森氏:
その設定で途中までストーリーは書いたんだけど,どうにもしっくり来なくてね。最終的には,ツバキの気持ちはジンに向け,その間を取り持つマコトを登場させることで,現在の形になりました。どうやら,僕には百合は書けないみたい。
4Gamer:
あ,なるほど。その過程でマコトが生まれてきたわけですか。
森氏:
いやほら,ラグナとジンの関係とか,一部の人には“そう見える”って言われるじゃないですか。「狙って書いてます?」って直接聞かれたこともあるんだけど,僕としては一切そんな気はないですから! 男は競い合う生き物なので,あれはその中で自然に生まれる兄弟同士のいがみ合いなんですよ。
駒尾氏:
いやいや。男性が本気で男の友情を描くと,そういうアンテナを持ってる女性には,だいたいBLに見えるものなんですって(笑)。
4Gamer:
ん? ということは,逆に女性が女性同士の友情を描くと,男性からは百合に見えたりも? いや,それはないか……。
駒尾氏:
ありえますね。男性にとっての友情と,女性にとっての友情って,同じ友情でもまったく質の異なるものなのかも。男同士の友情は,実は女性にとっては愛情に見え,逆に男性にとっての愛情が,女性には友情に近しいものだったりとか。そういう相容れない世界観の違いが,それぞれ「BL」「百合」という文化になった……としたら面白いかも。
4Gamer:
深いですね。でも今のノエルとマコト,ツバキの関係は,恐らく誰から見ても「女の友情」に見えますよね。なぜなんでしょう。
森氏:
それはたぶん,その3人が全員,ちゃんと自分の未来を見据えて動いているからですね。見つめる先はそれぞれ違いますが,相手の意思はしっかり尊重し合う。その姿が凄く健全だからこそ友情に映るんです。
4Gamer:
ああ,なるほど。お互いが依存関係にあると,不健全になって恋愛っぽくみえるのか。なんだかちょっと分かってきた気がします(笑)。
森氏:
あと関係ないけど,駒尾さんの得意ジャンルは百合もそうですけど,恐らくグルメ小説です。「フェイズシフト1」の,カズマがゆで卵を食べるシーンとか最高ですから!
4Gamer:
ああ。確かにあのシーンは,カズマのキャラクターが定着した名シーンですね(笑)。
森氏:
まさか,ゆで卵を割るだけで半ページ以上も使うとは……。優しく卵を割ってから,繊細な手つきで殻を剥いていく絵が目に浮かぶようで,カズマの「ゆで卵にかける情熱」がすごく伝わってくるという。
駒尾氏:
恐縮です(笑)。
森氏:
あの食事シーンへの情熱は,一体どこから湧いてくるのか。その秘密は,一緒にごはんを食べに行ったときに氷解しました。こいつ,どんだけ食うんだよ! と。
駒尾氏:
あ,あれはちょっと多めだっただけで……。
森氏:
何……だと……? あれで“ちょっと多め”って,普段どんだけ食ってるんですか。でもそれはもう美味しそうに食べるんで,これだけ食べ物に対する愛が強い人なら,もう納得ですよ(笑)。
メディアミックスを支える作り手の愛
4Gamer:
メディアミックスそのものについて,もう少し聞かせてください。先ほど森さんはメディアミックスを行う理由について,「外の世界に作品をアピールするため」とおっしゃっていましたね。その点でBLAZBLUEはかなり成功している例だと思いますが,ただ一方で,世の中にはファンが望まないメディアミックスというのもありますよね。これってなぜ起こってしまうんでしょう。
森氏:
製作規模の肥大化による意思疎通の失敗や,チェック漏れだと思います。要するに,誰がクオリティを保証するのかってことで。BLAZBLUEの場合は,それを僕がやっているわけですが,そこが破綻すると確実にほころびが生まれますよ。
4Gamer:
最近,とくに人気原作でマルチメディア展開がなされるときに,「原作に忠実であるべきか否か」がファンの間で議論になりがちじゃないですか。森さんご自身,そこはどうお考えなんですか?
原作に忠実である必要は,一切ないと思いますね。メディアミックスで必要なのって,なんといっても作品に対する“愛”なんですよ。その有無次第で,傑作にもなれば駄作にもなる。
4Gamer:
では愛さえあれば,原作からガラっと変えてしまって構わない?
森氏:
だって,作り手側の「僕は作品の良さをこう解釈しました」という部分がないと,メディアミックスする意味がないでしょう? 仮にアニメだったとしたら,「それって監督必要なの?」ってことになりかねない。
4Gamer:
おっしゃることはよく分かります(笑)。でもこれは恐らくですが,今の受け手の中で,そう考える人はあまり多くないのでは,という気もします。
森氏:
例えば今川泰宏監督が作ったアニメ版「ジャイアントロボ」※なんて,原作とはまるで違いますよ。でも最高に面白い。原作という素材を使って,最高の表現をしている。それができるなら,いくら手を加えてもらったって構わない。
※「ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日」……1992年に第1巻が発売されたOVAシリーズ。全7話。特撮版ジャイアントロボを原案としながらも,原作を手がけた横山光輝氏の他作品から,多数のキャラクターが登場する。
4Gamer:
確かにジャイアントロボは傑作で,個人的にも大好きです。でも原作通りにやりたくないのなら,オリジナル作品をやるべきだ,という人もいる。
森氏:
監督が「原作に忠実にした方が面白い」と判断したのであれば,それはそうすればいいんです。もし,仮にやむにやまれぬ事情で変更を余儀なくされたとしても,「作品の面白さを伝えよう!」という気概さえあれば,原作ファンには認められるハズですから。
4Gamer:
なるほど……。しかしそれは,ブレにつながることになりませんか。森さんは,先ほどメディアミックスにおいて,ブレないことが大事だとおっしゃっていました。
森氏:
原作から離れることと,ブレることはイコールじゃないんです。例えばコミックの「BLAZBLUE リミックスハート」なんかはギャグが中心なので,重たいストーリーが続く本編と比べたら,かなりかけ離れた作品といって過言ではない。でも,軸となるキャラクターのあり方に,一切のブレはありません。
4Gamer:
このキャラならこういうときこう考える。こう行動するはずだ,といったような。
森氏:
そう。世界の在りようがどうあろうと,キャラクターが持っている行動原理,魂の部分だけは絶対に変えない。世界観についてもそれは同じで,ファンタジーだろうと現代モノだろうと,その根本にあるルールだけは変えてはダメなんです。
4Gamer:
少し分かってきた気がします。
森氏:
その意味で言えば……正直なことを言うと,BLAZBLUEのアニメについては,僕はいつかもう一度挑戦したいと思っています。自分の作品について,誰かに一部でも任せようと考えた時期がありましたが,その考えももう捨てました。
4Gamer:
と言うと?
森氏:
ゲーム版のボイス収録のときだったんですが,僕の忙しさがピークに達してしまい,収録に立ち会えないかもしれない,ということがあったんです。それでヴァルケンハイン役の清川元夢さんに「人に任せざるを得ないかもしれない」という旨の話をしたんですが,笑いながら「それ,たぶん無理だよ」って言われちゃって。
4Gamer:
え。それってどういう意味なんですか?
森氏:
「結局納得がいかなくて,自分で手を出すようになっちゃうから」って。そして結果としてそのとおりになってしまった(笑)。自分ができない仕事だったら,それはまた違うんです。でも,自分ができてしまうことだと,もう人に任せてはいられなくなる。どうやらエヴァンゲリオンの庵野監督もそうだったみたいで。やっぱり,年長者の言うことは聞いておくべきだなって,思いましたね。
2014年はシリーズ充電の年に。ここから始まる新展開に注目
4Gamer:
では最後,に今後のBLAZBLUEシリーズについてうかがわせてください。ゲームとしてはCPの家庭用ゲーム機版が発売され,そして今回ブラッドエッジ エクスペリエンスも発売となりました。ファンはそろそろ次の展開が気になっている頃だと思うのですが。
森氏:
今はまず,本編のプロットを書く時間がほしいです! いや,これは冗談でもなんでもなく,ガチな話で。CPが発売されXBLAZEも出てアニメも終わり……今は引き出しを全部開け放した状態のようなものです。だから今年は,新しいものをインプットする年にしたいなあ,と。
4Gamer:
ということは,本編である格闘ゲームについては,しばらくお休みになるわけですか。
森氏:
僕は自分が面白いと思っていないものは,絶対人にも勧めたくないと思っているんです。最新作のCPは,自信を持って「良い作品だ!」と言えましたが,今,次回作を作っても,「これが現時点で最高のブレイブルーです!」とは言えそうにない。それだけは絶対に避けたいので。というわけで,待っていくださるファンには申し訳ないですが,今年は「最高のブレイブルー」を作るための充電期間にさせてください。
4Gamer:
格闘ゲームという意味では,今年はいろいろと新作があります。アークシステムワークスからも「アルカナハート3 LOVE MAX!!!!!」(PS3 / PSV),「UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late」と続けざまに発売されますし,年末には「GUILTY GEAR Xrd -SIGN-」(AC / PS4 / PS3)の家庭用ゲーム機版もひかえています。格ゲーファンにとっては,むしろ今出されても困るくらいかもしれない。
森氏:
ええ。格闘ゲームはBLAZBLUEだけではありませんし,弊社のほかの格闘ゲームでも,それこそ他社さんのタイトルでも構わないので,遊んで待っていてほしいですね。そもそもBLAZBLUEは,格闘ゲームそのものを好きになってほしくてスタートしたプロジェクトですから。
4Gamer:
他社作品でもいいんですね(笑)。
森氏:
もちろん構わないですよ。それこそ鉄拳でも,ストIVでも,KOFでもいんです。どんな形であっても格闘ゲームに触れてもらって,格闘ゲームを好きになってくれれば,それで良いんですよ。
4Gamer:
なるほど。では,これはもう妄想のレベルでも構わないのですが,BLAZBLUEシリーズで,この先新たなスピンオフ作品が生まれるとしたら,どんなものがやりたいでしょうか。
あ。これは富士見書房さんに現在打診中の企画なんですけど……ココノエのスピンオフ漫画をやりたいなあって思ってるんですよ。
4Gamer:
なんだ,あるんじゃないですか(笑)。しかもココノエなら,ファンとしても待望のスピンオフと言えそうです。でも時系列的には,どの辺りを考えていたんですか?
森氏:
ざっくり言うと,「ココノエが暗黒大戦後の70年間で何をしていたのか」というお話ですね。ロードムービー的な感じで,これまでのシリーズとは毛色の違う物語をやりたいと思っていたんです。実は設定はもう完成していて,あとはGoが出るのを待つだけなんですけど……(チラッ)。
富士見書房の編集氏:
……(汗)。
森氏:
まあ冗談はこのくらいで(笑)。でも今回のブラッドエッジ エクスペリエンスの売り上げ次第では,可能性もあるかなとは思っています。ファンの皆さんの声援次第では,僕と加藤(BLAZBLUEシリーズ・キャラクターデザインの加藤勇樹氏)がデザインしたココノエの子供時代の姿が見られるかもしれません。というわけで,なにとぞ応援よろしくお願いします!
駒尾氏:
よろしくお願いします!
4Gamer:
期待しています(笑)。本日はありがとうございました。
ゲームから始まり,漫画,小説,アニメと幅広いメディアミックス展開を積極的に行ってきたBLAZBLUEシリーズ。そのどれもが高い評価を得ている理由には,森氏や駒尾氏が作品に込めてきた愛あればこそと言っていいだろう。新展開を迎え,さらなる広がりを迎えるBLAZBLUEの今後の展開にも,ぜひ期待したいところだ。
なお,本日発売となった「BLAZBLUE―ブレイブルー―ブラッドエッジ エクスペリエンス<上>」は,富士見書房の特設サイトにて,試し読みのPDFが公開中だ。プロローグから第一章まで,まるまる読むことができるので,内容が気になっている人は特設サイトを訪れてみよう。森氏がインタビュー中でも語ったように,本作はBLAZBLUE本編の予備知識がなくとも,充分に楽しめるものとなっている。第一章まででも,作品の雰囲気はしっかり伝わるはずなので,このインタビューで本作を初めて知ったという人は,ぜひ一度読んでみてはいかがだろうか。
「BLAZBLUE」シリーズポータルサイト
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