インタビュー
美少女達とソーシャル機能で構成された萌えの総合プラットフォーム「萌。(もえたま)」は,どこを目指すのか
とはいうものの,「萌。」とは,はたして何なのか。これまでのニュースでは,美少女がしゃべって動く「Live2D」アバターや,「萌えつきない世界へ。」というキーワードなど,断片的な情報は明かされているものの,その全容はいまだ判然としない。
一方で「萌。」のティザーサイトで公開されているLive2Dアバターを見ればやたらと気合が入っており,参加するクリエイターが,駒都えーじ氏,藤真拓哉氏,八重樫 南氏,深崎暮人氏とくれば,その本気度は疑いようがない。いったいここで何が行われようとしているのか?
今回は「萌。」を制作するディオンエンターテインメントの「萌。」統括ディレクター常田賢太郎氏と,ディレクター兼デザイナーの梅田雅嗣氏に話を聞いてみた。
ディオンエンターテインメント 萌。統括ディレクター常田賢太郎氏 |
ディオンエンターテインメント 萌。ディレクター兼デザイナーの梅田雅嗣氏 |
本日はよろしくお願いします。まずは,それぞれ「萌。」でどのような部分を担当されているのか教えていただけますか。
常田賢太郎氏(以下, 常田氏):
統括ディレクターの常田です。「萌。」の開発全般の統括をしています。
梅田雅嗣氏(以下,梅田氏):
ディレクター兼デザイナーの梅田です。Live2Dアバター関連を担当していまして,声に合わせてモーションを作成したり,演出の指示を出したりしてます。
4Gamer:
まず,「萌。」とはひと言でいうと何なのでしょう? 断片的な情報は出ているんですが,実体が掴めていない読者も多いと思いますので。
常田氏:
「萌。」とは,「萌え」に特化したSNSかつポータルサイトで,Live2Dという技術によって作られたアバターを,ゲームをしたり,ニュースを読んだりしていくことで育成していきます。すべてブラウザ上で動作しますので,クライアントプログラムをインストールすることなく,基本無料で楽しんでいただけます。
梅田氏:
Live2Dとは「2Dの絵を立体的に動かす」サイバーノイズさんの技術です。2Dの1枚絵が自然に動くというのが特徴で,すでにスマートフォンなどで女の子のキャラが出てくる系のアプリでよく使われているほか,いろいろなゲームソフトにも採用されてます。描いたままのイラストがそのまま動き出すんです。
4Gamer:
バンダイナムコゲームスさんの「俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブル」や「僕は友達が少ない ぽーたぶる」,コナミさんの「ときめきメモリアル Girl's Side 3rd Story」などにも使われていますね。無料版もありますから,一度はLive2Dに触れたことがあるという人も多そうです。
元々「アバター」という言葉は「プレイヤーさんご自身を現したもの」というニュアンスが強いのですが,「萌。」におけるアバターは,プレイヤーさんが育成していくパートナーに近い立ち位置ものとなっています。
また,SNS機能も用意していますので,「萌。」にくれば,萌えコンテンツに関する情報を手に入れたり,同好の士を探したりできるわけです。萌えに関する総合的なポータルサイトにしていければいいなと考えています。
4Gamer:
プレイヤーさんのそれぞれが自分好みの女の子を作れるわけですね。
常田氏:
はい。また,アバターには「カスタムアバター」と「オリジナルアバター」の2種類をご用意させていただいています。
カスタムアバターは,髪型,服装,声などを自由にカスタマイズすることができる,自分だけの女の子です。例えば,目だけで20種類以上のパーツがあり,総組み合わせ数は100億を超えます。これは世界人口を上回る数なんですね。朝・昼・夜と時間帯に合わせて衣装を着替えさせる設定も可能です。パーツの原画は八重樫 南さんに担当していただきました。
オリジナルアバターはその逆で,キャラクター設定があらかじめ決められていて,その女の子の世界に触れていただくことができます。
キャラクターが固定ですので,性格設定なども細かくなっています。声優さんの演技もぜひ聞いていただきたいですね。現在は,駒都えーじさん,深崎暮人さん,藤真拓哉さんによる3人の女の子を用意していますが,今後もいろいろな作家さんによるオリジナルアバターが増えていきますし,将来的には着替えも可能となる予定です。実は,すでにいろいろといい衣装も用意してありますので,早く発表したいところなのですが(笑)。
織乃坂綾陽(原画:駒都えーじ) |
桃崎未夢(原画:藤真拓哉) |
姫島 エルゼ ベルネット(原画:深崎暮人) |
この2系統のアバターは,どちらが優れているというものではなく,コンセプトが違うものですので,どちらも愛していただければと思います。また,女の子は最大3人まで一度に育成でき,一つのチームにしていろいろなゲームを遊んでいきます。カスタムアバターとオリジナルアバターの混成チームもできますよ。
4Gamer:
アバターの動きはどうやって作られているんですか?
梅田氏:
イラストレーターさんから動きの始点と終点のイラストをいただいて,我々が中間となるモーションを手動で作成しています。
例えば,腕を上げるような動きがあるとしたら,最初の部分である「腕を下に垂らした状態」と,最後の「腕を上げた状態」の絵をそれぞれ用意していただきまして,その間の動きを我々が作るんです。Live2Dを使ったキャラクターは非常によく動くのですが,それだけに設定には時間も労力もかかりますし,人的リソースも必要で,とても大変な作業ですね。
常田氏:
その分,作り手のこだわりを表現できる手法でもあります。
梅田氏:
それぞれのアバターのキャラクター性を,動きでも見せているんです。ちなみに,カスタムアバターの場合は,ツンデレ系,元気系,お嬢様系など,ボイスのタイプを変えるとモーションも変わります。
4Gamer:
ボイス選択の部分でアバターの性格が決まるわけですね。
常田氏:
はい。ボイスの中には方言も用意されています。最初はいわゆる京都弁が実装されているのですが,今後も各地の方言を随時追加していく予定です。
4Gamer:
一度作成したアバターに手を加えたり,作り直したりということはできるんでしょうか。
常田氏:
カスタムアバターの場合,髪型やボイスを変えるといったことは随時できるようになっています。一度に使える女の子は,1チーム最大3人までですが,たくさんのアバターを作ってコレクションするといったことは可能です。ちなみに,禁断のリセットアイテムも存在するとかしないとか(笑)。
4Gamer:
アバターの育成要素について教えてください。
常田氏:
「萌。」の基本は「女の子を育てる」というところにあります。成長のきっかけとしてゲームやSNSなどが連携していきます。「ゲームに参加させる」「ニュース記事を読む」「ショップで買い物をする」などの行動,つまりポータルに参加することで,経験値やカスタムアバターの髪型や衣装などが手に入ったり,アバターが成長したりするわけです。
4Gamer:
なるほど。そうやって育てたアバターとSNSはどのように結び付くのでしょうか。
常田氏:
誰しも「自分が育てた女の子をお披露目したい」「ほかの人が育てた女の子を見たい」という心理があると思いますので,ほかのプレイヤーさんのアバターをずらりと一覧にして見ることができるようになっています。見かけた女の子が気に入った場合には,挨拶をするシステムもあります。Facebookの「いいね!」ボタンのようなものですね。ボタンを押すとアバターに挨拶をしたことになり,アバターが反応を返してくれます。もちろん,自分のアバターが挨拶をされることもあります。
4Gamer:
アバターの女の子をきっかけとした交流ができるんですね。
常田氏:
そうです。
また,ゲームは,競い合ったり,助け合ったりするものなので,プレイヤーさん同士がコミュニケーションをスタートするきっかけとして有効であると考えています。よりコミュニティを形成しやすいよう,ゲームの側でイベントを行ったりということも考えています。
アバターがコミュニケーションを促進し,萌え好きな人が仲間に巡り会えるという場所にしていきたいですね。
女の子と育て,触れあうゲーム
ゲームはどういったものが実装されていくのでしょうか。
常田氏:
いわゆるオンラインゲーム的な同期型,ブラウザゲーム的な非同期型の,両方のものが随時追加されていきます。オープンβテストの時点では,麻雀と探索ゲームが実装されます。
麻雀は4人打ちの同期・非同期型で,プレイヤー同士で遊ぶこともできますが,面子が集まらなくても一人で打つことができます。探索ゲームは非同期型で,アバターをいろいろな場所へ探索に送り込んで,しばらく時間が経つと彼女らがアイテムを持ち帰ってくるといった内容になります。
また,非同期型のカードゲームも準備していまして,アバターのそれぞれが独自に持つカードデッキで対戦していきます。実装時期は未定ですが,プレイヤーさんが「萌。」に接続していなくてもゲームが進行するような仕様となる予定です。
そのほかにも,ゲームはいろいろと実装していきます。例えば,麻雀以外のギャンブルが好きな人に楽しんでもらえるようなゲームが近いうちに実装される予定です。
プレイヤーさんがアバターの女の子達と一緒にゲームを楽しむことも,女の子のみをゲームに参加させ,その様子を見守ることもできます。女の子とプレイヤーさんが一体となってゲームを楽しめるんです。
例えば,麻雀だと女の子ごとに打ち筋が違うといった個性があって,レベルが低いうちは麻雀がヘタでも,成長度合いによって打ち方が変わってきます。女の子によって成長速度に違いがあったりしますが,育てていけばどの女の子もちゃんと麻雀がうまくなりますよ。女の子同士で麻雀させることもできますので,プレイヤーさんが集まって,どの女の子が強いかを決めるような遊び方もできます。
また,女の子ごとにパラメータがありまして,例えば,この子はこっちのゲームはダメだけど,別のゲームなら強いみたいな違いがあります。プレイヤーさんと女の子の相性もさることながら,ゲームと女の子の相性も大事ということですね。
4Gamer:
なるほど。多種多様なゲームの開発が進行しているようですね。
常田氏:
はい。そこは少しだけ大変ですが,プレイヤーの皆さんに「萌。」ならではのゲームを楽しんでいただけるよう,スタッフ総出でアイデアを振り絞って頑張っています。
4Gamer:
「萌。」はアバターたちが住む女子寮という設定のようですが,女子寮ならではの特徴などはありますか。
常田氏:
「萌。」は全体として,プレイヤーが女子寮で暮らしている女の子達の生活を垣間見るような構成になっています。女子寮の時間は現実の時間と同期しており,時間帯によってパジャマ姿だったり,制服姿だったりします。ただ,夜でもアバターが寝ているということはなく,夜ならではのセリフを聞くことができます。もちろん,生活の時間帯がマッチしないという方もおられると思いますので,プレイヤーの意見次第では時間に関わる追加機能も検討していきたいです。
4Gamer:
スマートフォンとの連携が予定されているとのことですが,そちらについても教えてください。
常田氏:
今後,育てた女の子をスマートフォンへ移し,一緒にお出かけできるようにする予定です。職場や学校などでコミュニケーションを取れるほか,タッチパネルで「触れる」ような機能が搭載されますので,いつもとは違った反応も楽しめると思います。また,お出かけするとPCにいるときと同様に各種ポイントを獲得できます。
萌えの同士が集まれる場所を目指して
ゲーム+SNS+ニュース,かつ萌え特化というのはかなり大きなコンテンツですが,「萌。」を開発しようと考えられたきっかけはどういうものですか?
常田氏:
弊社は昨年12月に設立されまして,「ディスガイア魔界コレクション」というソーシャルゲームを開発・運営してきたのですが,「自社コンテンツがほしいよね」という雑談で出てきた話から企画がスタートしました。
社内にはオンラインゲームや萌えコンテンツの開発や運営に関わっていたスタッフもおりまして,「我々にできるもの,そして今の世の中にないもの」というテーマで話し合った結果,「萌えに特化したポータルサイトでゲームも楽しめるもの」という,現在の形になりました。
4Gamer:
今回,SNSという形となったのはどうしてなんでしょうか。
常田氏:
当初,「萌。」の企画はPC版のソーシャルゲームという位置づけではありました。ただ,将来的には多くのコンテンツを内包した形を目指していきたいという方向性がありましたし,PCなら,より多くの情報にアクセスでき,より深いコンテンツが楽しめるのではないかと考えたんです。
4Gamer:
PCであれば,リンク先などに飛ぶにしても制限が少なく,扱えるデータ量も多いということでしょうか。
常田氏:
そうですね。
4Gamer:
お話を伺っていると,「萌えを愛する同好の士と集まりたい」というニーズがあるように感じられるのですが,やはり同好の士というのは集まりにくいですか?
常田氏:
我々は,萌えとは日本の文化であると考えています。一過性のブームではないかと言われつつも,しっかり定着していると。萌えが好きな人は,その「好き」をもっとオープンに外へ表現してもいいと思うんです。そのためには仲間と,仲間を集める場所,萌えが好きな人が,もっともっと自分を出していける,そんな場所が必要なのではないかと考えています。将来的には「萌。」を,日本の萌え文化を発信できる場所にしたいと思っています。
萌えが好きな同好の士が集まりにくいとすれば,目的が分散しているからではないかと思います。好きな作品も,萌え系コンテンツに求めるものも違うんですね。「萌。」ではアバターをカスタマイズできるという部分が入口として存在しています。プレイヤーさんが何を求めているかをカスタマイズで表現できますし,また,皆さんそれぞれのアバターをゲームとして育てていくという連帯感もありますので,そこでうまくつながっていただけるのではないでしょうか。
自分も,萌え系の同士って,少し集まりにくいと思ってます。常にオープンなわけじゃなく,イベントがあったら外へ出て,その後に自分の世界へ戻る……ということを自分自身が繰り返してますし。
4Gamer:
それでも,同好の士が集まることは必要であると考えているんですね。例えば声優さんのコンサートだと,周囲はすべて自分と同じようなファンですよね。そういう場所にいるのは,やはり気持ちよかったりしますか?
梅田氏:
すっごく気持ちいいですね。その集まりの中だと,普段できないことまでできちゃうんです。自分でも「こんなことしちゃってるよ」と思うようなことを。そういう集まりや連帯感というのは絶対に必要なものだと思いますね。
4Gamer:
イベント初心者の頃は,なかなか自分を出せないことがあったんですか?
梅田氏:
ありましたね。最初にコミケに行ったときなんかは会場を一回りしただけで帰ったりもしてました。イベント参加を繰り返すうちに慣れましたけどね。
人間なんで,同士とのつながりはほしいですし,必要です。そういう部分を「萌。」で提供していけたらとは思ってますね。
4Gamer:
ちなみに,自分を出せるようになるきっかけというのは何だったんですか?
梅田氏:
自分の場合は,インターネットを通じて同好の士がいろいろなことをやっているというのを知りまして,それを見ていたら我慢できなくなって,自分を出すことができるようになりました。雑誌を見ていたのではこうは思わなかったんじゃないでしょうか。ネットで生の声を聞いたことが大きかったですね。
常田氏:
萌えが好きだということを,なかなか外に発信できないという方もおられると思います。「萌。」で,これを後押しするのが,ゲームや運営サイドが開催するゲームのイベントだと考えています。同じように女の子のアバターを育てているという共通認識,そしてイベントの高揚感というのを提供できればと。
我々が場を提供し,「萌。」というサイトの使い方をプレイヤーさんにも考えていただく,二人三脚のような形が理想ですね。
4Gamer:
今後の方向性などについて教えてください。
常田氏:
今後はカスタムアバターとオリジナルアバター以外に,アニメやゲーム作品などからキャラクターが参加してくるようなコラボ展開も予定しています。
また,オリジナルアバターには,かなりしっかりした背景付けなども行っていますので,彼女達の過去やさまざまな側面など,将来的にはSNSやゲームだけでは100%表現できない部分を,マンガや小説,アニメなどのメディアで表現できればと思っています。
4Gamer:
なるほど,いろんな萌えIPから女の子がやってきたり,この作品からたくさんの萌えIPが派生していく,萌えのプラットフォームになるわけですね。
では,最後に4Gamer読者にメッセージをお願いします。
常田氏:
ゲームも随時新しいものを追加していきますし,今後はオリジナルアバターによる,ゲームの枠を越えた展開なども考えています。プレイヤーさんと二人三脚で機能を充実させていきたいと思っていますので,オープンβテストが始まりましたら,ご要望などをいただければ嬉しいです。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
自分好みの女の子をプレイヤーの数だけ提供できるプラットフォームとソーシャル基盤を用意したとはいえ,そこでどんなことができるのかは,まだ未知数である。ゲームに加え,女の子のカスタマイズや育成も楽しめる――加えて,それに留まらない大きな可能性も秘めている。野心的なコンセプトの「萌。」がどうなるか,まずはオープンβテストの反響に注目してみたい。
「萌。」公式サイト
- 関連タイトル:
萌。
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(C)DiONE Entertainment 2012