レビュー
台湾からやってきた「多機能な割に安価」な赤軸キーボードはありやなしや
Tesoro Durandal Ultimate TS-G1NL LED Backlit
その名は「Tesoro」(テソロ)。台湾Tesoro Technologyが展開する製品で,国内では主にIn-Win Developmentの販売代理店として知られてきたエム・コーポレーションが取り扱っている。
今回4Gamerで取りあげるのは,すでに国内販売が始まっている「Tesoro Durandal Ultimate TS-G1NL LED Backlit」(以下,Durandal Ultimate)だ。定評あるZF Electronics製キースイッチを搭載し,Nキーロールオーバー対応。LEDバックライトやUSBハブ機能などを搭載し,パームレストまで付属する豪華仕様にも関わらず,実勢価格は1万3800〜1万4000円程度(2012年11月17日現在)に抑えられているのが大きな特徴である。
いわゆる多機能キーボードと比べても,用意されていないのは追加のキーやボタン,液晶パネルくらいで,同じような価格帯のゲーマー向けキーボードと比べると機能の充実が目立つ。果たしてこれは買いなのか,国内新登場のキーボードをチェックしてみよう。
見た目は減点対象ながら
要所の押さえられた日本語109キーボード
国内仕様はUSB接続型の日本語109キー配列だ。設立間もない外国企業が日本市場向けに日本語配列のキーボードを出すというのは相当に珍しい。メーカーもしくは代理店が,かなりの気合いを入れて臨んでいるということなのだろう。
写真だと,キーボード台座の表面部はアルミのヘアライン仕上げに見えるかもしれないが,実際にはオール樹脂製で,樹脂の表面にヘアライン風の模様が入っているだけだ。遠目からの見た目は悪くないのものの,近づいて見ると残念ながら高級感はあまりなく,本体中央手前側のTesoroブランドロゴの仕上げからも安っぽい印象を受ける。
ともあれ,全体のシルエットはよくある日本語フルキーボード然としており,そして,そこから想像できるように,Durandal Ultimateのサイズは実測約457(W)×170(D)mmと,ごく普通のものだ。冒頭で紹介したとおり,標準でパームレストが付属しており,取り付けると奥行き方向の長さは実測約203mmほどになる。
パームレスト装着前と装着後の写真を下に示したが,いずれにせよ上面のサイズはフルキーボードとして大きくもなく小さくもなくといったところだ。
つまり,最も手前側でもキートップまでの高さは31mm程度あるわけだ。個人的には,標準添付のパームレストを取り付けたほうが使いやすい印象を受ける。
この重量だけでがっちりした印象は伝わると思うが,底面には合計4か所の滑り止めゴムが用意され,さらにパームレストの底面にも合計3か所に滑り止めゴムが貼られているので,かなり乱暴にゲームをプレイしてもキーボードがガタガタ動くようなことはなかった。このあたりはイマドキのゲーマー向けキーボードらしいといったところだ。
そのほかの機能面では,USB 2.0ハブ機能を持ち,本体右手奥側にUSB 2.0ポートを2つ用意する点と,その隣に3.5mmミニピン端子によるヘッドフォン出力&マイク入力を用意する点が目を引く。USBハブ機能を持つキーボードはそれほど珍しくないが,「マウス接続用だからUSB 1.1対応」という製品は意外と多い。その意味では,より汎用性の高いUSB 2.0ハブ機能を持つというのは歓迎すべきだろう。
一方のヘッドフォン出力&マイク入力は,キーボード側にUSBサウンドデバイスを内蔵し,それで実現している……というわけではなく,PCと接続するサウンドケーブル経由のアナログ接続となる。
波形を取ったりしたわけでなく,あくまでも筆者聴感上の話だと断ったうえで続けると,キーボードにまでアナログケーブルで引き回しても,ヘッドセット接続時の目立った音質劣化はない印象だ。
キースイッチは“Cherry赤軸”
全キーに赤色LEDバックライトを装備
Cherry赤軸と呼ばれるキースイッチ(以下,赤軸)は,クリック感がなく,バネ圧が軽めで,キーを押す量に応じてバネ圧が徐々に高まるというのが特徴となる。Tesoro Technology USAは公式の押下圧を45gとしているが,錘(おもり)を使った実測では,沈み込みが始まるのは40g強,すべて押し込むには55g以上の重さが必要になる設定だった。
ストロークは8mm程度あり深めながら,スイッチは浅いところで反応するため,軽く押すことが素早い操作を行うためのコツになる。こうした点は,すでに市場に多く流通している赤軸採用のゲーマー向けキーボードと共通である。
キーを深く押し込んでしまうタイプの人だと最初は慣れないかもしれないが,コツをつかめば快適に操作できるようになるはずだ。
すでに語り尽くされている感はあるのだが,あらためて説明しておくと,赤軸の操作感は多くの日本人に好まれるタイプだ。クリック感がないタイプであるため,メカニカルキースイッチの割には押下時の音も小さいというのも,日本の住宅事情にはマッチしている。
ちなみにTesoro Technology USAのWebサイトにはCherry茶軸の表記もあるが,現在のところ,エム・コーポレーションから赤軸以外のモデルが登場する予定はないとのことだ。
キースイッチの台座1つ1つにLEDが埋め込まれている。どうせならキーごとに光り方を制御できると面白そうだが,残念ながらそこまではできない |
テンキー部。基本的にはごく普通のテンキーだが,[8][2]キーにLEDバックライト光量上下が割り当てられている |
もっとも,いま「最大輝度」と述べたとおり,輝度は調整可能。キーボードの[Fn]キーと10キー部の[8]キーを組み合わせると輝度引き上げ,逆に[Fn]+[2]キーの組み合わせで輝度引き下げとなり,最大光量から消灯まで5段階の調整を行える。
5段階の違いは下に写真でまとめたが,写真からも分かるように,4段階あるLED光量の違いは,かなりはっきりと視認できよう。
テスト中,とくに輝度調整を行っていないにもかかわらず,じんわりと輝度が上がったり下がったりを繰り返すこともあったのだが,これがどういうタイミングで発生しているのかは,マニュアルにも記載がなく謎だ。少なくとも,周囲の明るさに応じた自動調整機能ではないことだけは確認済みだが,輝度変化は滑らかなので,輝度調整機構の不具合とはちょっと考えづらい。一種の演出として,こういう動きをするのだろうと思う。この演出を無効化する方法は現状では不明。輝度を固定しておきたい人にとってはマイナス評価の材料となりそうだ。
いずれにせよ,暗いところでもまったく問題なく利用できるだけの光量を持ったLEDバックライトなので,ゲームをプレイするときに部屋を暗くするタイプの人は重宝するだろう。また,対象となるユーザーはあまりいないとは思われるが,LANパーティに持って行ったりしたときも目立つはずだ。
USB接続ながら全キー同時押しに対応
Windows側では2基のHIDキーボートとして認識
では,同時押しは何キーまで対応しているのか。一般的なUSB接続型キーボードの場合,USBインタフェースが抱える仕様上の制限から,Nキーロールオーバーであっても同時押し対応は最大6キーとなるのだが,その結果をバージョン1.0.0の4Gamer Keyboard Checkerで確認してみた。少なくとも30キー以上の同時押しが可能だったので,「全キー同時押し対応」と述べて差し支えないだろう。
Durandal Ultimateは,標準のHIDキーボードドライバ(クラスドライバ)で動作する,いわゆるドライバレス仕様の製品だ。ではなぜUSB接続なのに,USB接続の制限――一度にPCへ送れるキーの数は,修飾キーを除いて6キーという制限――をクリアできるのか。その秘密は,Durandal Ultimateを接続したとき,Windowsが2基のHIDキーボードデバイスを認識するあたりにありそうだ。
「2つのHIDキーボードデバイスとして認識されるなら,6+6で12キーが限度ではないか?」と考えた人もいるのではなかろうか。少しややこしい話になるが,Durandal Ultimateにおける全キー同時押し対応の仕組みを簡単に説明してみよう。
HIDキーボードデバイスで同時押しが最大6キーになる理由は,「一度にPCへ送信できるデータ量が8 bytes」という制限があるためとされている。うち2bytesは[Ctrl]や[Shift]といった修飾キーなどのために使われるため,残る6 bytesで6キー分送るという理屈だ。
一般的なキーボードでは,キー押下の状態が変化したときに限り,一定周期で少量のデータを転送する方式「インタラプト転送」(interrupt transfer)によって,データを8 bytesずつPCへ送るのである。
さらに本機では,「キー押下が生じたときだけ」ではなく,複数のキーが同時に押下されたときにも複数のインタラプト転送を連続させる仕様になっていることも分かった。
インタラプト転送は,その仕様上,送信間隔が10msを下回るとデータの取りこぼしや取得ミスが発生しやすく,連続して行うためには10ms以上の間隔を開ける必要がある。HIDキーボードデバイス1つからなる一般的なキーボードの場合,複数のインタラプト転送を連続して発生させ(ることにより7キー以上の同時押しを実現しようとす)ると,6キーごとに10ms以上の間が空き,それが入力遅延としてユーザーから認識される可能性が高い。一般的なNキーロールオーバー対応のUSBキーボードで同時押し対応が最大6キーなのはこれが理由だ。
そして,Durandal Ultimateにおいても,原理的には13キーごとに10ms以上の間が空いているはずだ。しかし,人間の指が11キー以上を時間差なく同時に押すのはほぼ不可能なので,問題なく同時に押されているように見える,ということなのだと思われる。
[F12]キーのキートップには「G/PC」という表記もあるのだが,これは「Game Mode/PC Mode」の略。[Fn]+[F12]キーで両動作モードの切り替えを行えるようになっており,Game Mode時にはキーボード右上のインジケータ部で「G」の文字が点灯する。そしてこの状態では[Windows][コンテキストメニュー]キーがいずれも無効化される一方で,マクロ機能が有効になるのだ。
いろいろな意味で問題がある
マクロ&プロファイル機能
[Fn]キーと組み合わせることでプロファイル切り替えに利用できる[F7]〜[F11]キーには,「PF1」〜「PF5」という表記もなされている |
ちなみにDurandal Ultimateでは,[F1]〜[F6]キーに,サウンド出力のミュート機能オン,オフと音量調整,メディアプレイヤー制御機能が割り当てられている |
4Gamerでは,マクロはゲーム側の規約で許可されていない限り使うべきではないという立場を取っているので,アンチチートツールをくぐり抜けられるDurandal Ultimateのマクロ機能を推奨しない。よって簡単な紹介に留めるが,機能としては,ほぼすべてのキーから任意の10キーに対してマクロを登録でき,10個のマクロセットを1プロファイルとして,合計5プロファイル保持できるので,最大50のマクロを登録できることになる。
「ほぼすべてのキー」から外れるのは,[Fn]キーと,[Fn]キーとの組み合わせでプロファイル切り替えに用いる[F7]〜[F11]キー,そしてGame ModeとPC Modeの切り替えに用いる[F12]キーだ。
これは設定ツールのアップデートでなんとかなると思うかもしれない。だが,そのほかにも,
- 登録方法は一本道で,途中でやり直したいと思ったらまた最初からになる
- 登録したマクロを試せるのは最後の最後でフラッシュメモリに保存した後になるので,動作検証が面倒
- 日本語IMEの有効/無効切り替えは機能しないことが多く,日本語の単文をマクロに登録するのは(不可能ではないが)かなり難しい
- 5つあるプロファイルのうち,「いまどれを選択しているのか」を知る術がキーボード側に用意されておらず,確認するためにはマクロ登録用アプリケーションのメイン画面を開く必要がある
といった具合で,使い勝手はお世辞にもよいとはいえない。
どうしてもキーマクロを使いたいという人はいるだろうし,物理的に使えるか使えないかでいえばDurandal Ultimateのマクロ機能は使えるのだが,設定周りは相当に茨の道なので,その点は覚悟しておいたほうがいいのではなかろうか。
なお,本機におけるキー割り当て変更機能は,ゲーム以外の用途も想定されており,たとえばカット,ペーストなどといったWindows標準操作も割り当てられる。もっとも,マクロ専用キーが用意されていないので,こういった機能を使いたい場合は,キーボード上にあるどれかのキーを“潰す”ことになる。[Pause]キーを使わないからここに割り当てる,といったような使い道が考えられる程度だろうか。
ゲームで必要な性能と機能が確実に盛り込まれた製品
外観の安っぽさが気にならないなら有力な選択肢になる
赤軸は,押し込むに連れてバネ圧が上がるタイプなので,柔らかく指を受けてくれる。指に対する負担が軽くなるというわけだ。リニアなバネ特性を持つ,黒軸と呼ばれるキースイッチと比べるとバネの反発力は全体的に軽いため,常に力一杯キーを操作する人だとキーが底について指を痛めるといったことはあると思われるが,注意すべき点は,そういった,好みや適性による部分くらいである。
あえて不満点を挙げれば,残念感のある外観くらいだろう。また,フラッシュメモリに登録できるキーマクロをどうしても使いたいという人からすると,設定ツールの使い勝手がよろしくないのも減点材料だと思われるが,せいぜいその程度である。
エム・コーポレーションによれば,11月17日時点において本製品を扱っているのは,Amazon.co.jpとパソコン工房,Faith,東映無線電機,サウスタウン437のみだそうで,入手性はやや低めだが,探してみる価値はあると言ってよさそうだ。
それにしても,設立から2年も経たないメーカーのキーボードとしては,かなり隙のない製品であり,正直,感心させられた。Tesoro Technology USAの次回作にも期待したい。
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Tesoro Technology USA公式Webサイト(英語)
エム・コーポレーション公式Webサイト
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