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[E3 2013]次世代ゲーム機に採用されずともGeForceは死なず? NVIDIAがPS4やXbox Oneの登場を歓迎する理由とは
新GPUの発表は5月にあらかた済ませてしまったので,とくに目新しい発表があったわけではない。基本的には,ごく最近にリリースされたPCゲームや,E3で出展されているPCゲームのいくつかをチョイスして,実機デモやムービーを披露したり,開発者が登壇してフリートークをしたりするといったイベントで,半ばパーティーに近いものだった。
本稿では,そのイベントの中から,見どころが多かった内容を選んでレポートしたい。
次世代ゲーム機の登場でPCとの性能ギャップが縮まり,
ゲームが作りやすくなる
Tamasi氏が最初に触れたのは,E3 2013の主役となった「PlayStation 4」(以下,PS4)と「Xbox One」だ。とはいえ,この両機種にNVIDIAが直接何かを提供しているというわけでは,もちろんない。Tamasi氏が述べたのは,これら次世代ゲーム機がPCゲームにもたらす,ポジティブな影響という話である。
そもそも振り返ってみれば,NVIDIAは「PlayStation 3」(以下,PS3)のGPUとして,「GeForce 7800 GTX」をベースとした「RSX」を提供していた。その前の世代でも,「GeForce 3」ベースのチップセットを初代Xbox向けに提供するなど,各世代のゲーム機に同社のアーキテクチャを提供し続けていたのである。ところが,任天堂の現世代機や,ソニーとMicrosoftの次世代機では,すべてが,AMDのGPUコアアーキテクチャを採用することになったのは,すでにご存じのどおりだ。
それでもTamasi氏は,NVIDIAのアーキテクチャが3種類の据え置き型ゲーム機に採用されなくても,次世代ゲーム機が登場したことは歓迎できるという。理由は明確で,PS4とXbox Oneの登場により,ゲーム機とPC用GPUの性能差が,一気に縮まるからである。
Tamasi氏は,「2012年の時点で比較した場合,PS3とハイエンドGPUたる『GeForce GTX 680』の間には,13倍以上の性能差があった。これだけ性能差があっては,どちらのプラットフォームにおいても満足できる品質のゲームを,開発するのは困難だ」と振り返っていた。
しかも,PCゲームを支えるグラフィックス技術はDirectX 11.0世代であるのに対して,PS3やXbox 360はDirectX 9.0c世代と2世代以上の開きがあったため,ゲームにおけるグラフィックス表現は,どうしても世代の低い方に合わせて低く抑えられてしまう傾向がある。PCで可能な表現と,ゲーム機で可能な表現の格差が,グラフィックス技術の停滞を生んでいたわけだ。
もちろん,次世代機ですべてが解決するというわけではなく,PS4やXbox Oneといえども,スペックだけを見れば,PC用の単体GPUにおけるミドルクラス〜ハイクラス程度の性能しかない。NVIDIAによれば,2013年のハイエンドモデルとなる「GeForce GTX TITAN」のGPU性能は,PS4の2.5倍高いとのことだ。しかし,少なくともDirectX 11.x世代のグラフィックス技術が使えるようになるという意味において,両者の持つ表現力のギャップは極めて小さくなる。
また,性能差が13倍もあると,PCゲームとゲーム機用ゲームでグラフィックスの根幹設計を共有することは難しかったが,これが性能差2.5倍に縮まるのであれば,現在のPCゲームが標準的に対応している,「異なる性能のPCに合わせたグラフィックス設定調整の範囲内」でチューニングすれば事足りるだろう。
つまり,次世代ゲーム機でNVIDIAのGeForceが採用されなかったとはいえ,
では,そのPCゲームは,現在どれほどの市場規模があるのか。そして,ゲーム開発コミュニティはPCゲームをどう捉えているのか。Tamasi氏はこれについても言及していた。
下のスライドは,ゲームの市場規模と,ゲーム開発者が開発に従事しているプラットフォームの比率とを,市場調査会社がまとめたものだ。世界規模での売上高で見ると,ゲーム機よりもPCゲームのほうが市場規模は圧倒的に大きいという結果になっている。また,プロのゲーム開発者の過半数は,PCゲームの開発に従事しているという。
つまりNVIDIAとしては,次世代ゲーム機にGPUを供給できなくても,PCゲーム環境が安泰なので,大した痛手ではない……と主張しているわけである。
一口にPCゲームと言っても,ゲーム機以上の3Dグラフィックスを駆使するものから,シンプルなブラウザゲームまで範囲は極めて広く,Forbesのコラムがどのようなゲームをイメージしていたのかは分からない。しかし,「PCゲームがあるから大丈夫」と主張したいNVIDIAにとっては,有力経済誌にこうしたコメントが載るというのは,ありがたい援護射撃なのだろう。
「NVIDIAは負けないぜ」とグラフを並べてアピール
続いてTamasi氏が説明したのは,NVIDIAのゲーム開発コミュニティに対する貢献だ。
ゲームグラフィックスに応用が利くリアルタイムグラフィックス技術は,これまでにもさまざまなものが提案されてきたが,そうした技術の多くを,NVIDIAが提供してきたとTamasi氏は主張する。
もちろん競合であるAMDも,旧ATI Technologies時代を含め,少なからずリアルタイムグラフィックス技術を開発し,コミュニティに対して提供している。しかしTamasi氏は,AMDの貢献を認めつつも,「実際のゲーム開発に採用された事例は極めて少ない」と,複数のスライドやグラフを提示して訴えた。
これまでに実用化されてきたリアルタイムグラフィックス技術(左)のうち,重要なものの多くはNVIDIAが開発,あるいはNVIDIA製GPUによって初めて実現された(右)と主張するスライド |
単体GPU市場のシェアだけでなく,自社の技術がゲーム開発に活用される割合でも,NVIDIAのほうが圧倒的に優勢なのだそうだ。
下に示したスライドにあるグラフは,「各PCゲームにおけるグラフィックス技術採用事例数比較」。長年NVIDIAのカンファレンスに参加し続けてきた筆者でも,過去に見たことのないようなグラフまで引っ張り出してきているあたりは,注目に値しよう。
今回のイベントでは,いつもの冷静なNVIDIA流プレゼンテーションとは打って変わって,やや強引な主張も交えながら,「NVIDIAは負けないぜ」というアピールに徹していたのが興味深かった。
AMDは最近,「3社のゲーム機向けGPUは,すべてAMD製となった。ゲームグラフィックス技術のリーダーシップをとっているのはAMDである」といった主張をするようになっている。NVIDIAとしては,そうした認識が一般ユーザーに広まってしまう前に,メディアに向けた対策を打ってきた,といったところだろうか。その効果があるかどうかには,正直疑問を感じなくもないのだが……。
NVIDIA技術が採用された最新ゲームを実演
まず1つめは,PC版「The Witcher 3: Wild Hunt」に登場する,狼のモデルを使った体毛レンダリングのデモだ。最初は無毛状態から始まり,体毛が生えた状態に変化。最終的には疾走する狼の動きに合わせて,慣性の法則に基づき体毛が揺れ動くというシミュレーションが披露された。
2つめのムービーは,PC版「Tom Clancy's Splinter Cell: Blacklist」を用いたものである。残念ながら,この場で披露されたデモは,DirectX 11.1世代の要素を無効化した,DirectX 9ベースでのものだったが,リアルタイム生成される影や,「Horizon-Based Ambient Occlusion」(HBAO)による環境遮蔽陰影などが,NVIDIAの技術協力があって実装された部分だということだ。
最後のムービーは,PS4版も出ることになった「Warframe」のデモだ。登壇者が自虐的に「NVIDIAのシェーダコードをたくさんコピペして使ったよ」と言っているように(ムービーの1:20秒あたり),かなりの表現がNVIDIAの技術をベースとしているようだ。なかでも,レンダリング結果に対してポストプロセス的アプローチで2.5D的なレイトレーシングを行い,局所的な鏡像を作り出す「Screen Space Local Reflection」(1:30あたりから)が,見どころの1つであろう。
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