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PS4専用タイトル「The Order:1886」をレビュー。最高峰のグラフィックスで「IF」の19世紀と騎士達の活躍を描いた意欲作
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印刷2015/03/04 13:20

レビュー

最高峰のグラフィックスと緻密な世界設定が魅力

The Order: 1886

Text by 稲元徹也


 ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアは,PlayStation 4専用タイトル「The Order:1886」を,2015年2月20日に発売した。本作は,ビクトリア朝時代のロンドンを舞台に,「オーダー」と呼ばれる騎士団の活躍をハイクオリティなグラフィックスで描いた,PS4待望の完全新作となるアクションアドベンチャーだ。
 今回は,歴史に「IF」の要素を加えた本作の世界観の魅力やゲームシステムなどを,レビューで紹介していこう。

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人類がたどってきた事実とは異なる歴史


 タイトルに「1886」とあるとおり,本作の時代背景は19世紀末であり,創作の舞台としても大きな魅力を秘めた時代だ。この時代のロンドンといえば,産業革命による技術革新で飛躍的な発展を遂げる一方,それに伴う過酷な労働を強いられた民衆たちが貧困にあえぐという激動の歴史をたどっていることは,世界史の授業で学んだとおりである。ゲームの舞台として採用されることも多く,さまざまな作品でこの時代を体験したという人もいるだろう。
 本作もそんな作品群の1つとなるわけだが,本作は冒頭でも触れた「IF」の設定により,我々が歴史や創作などで知った世界観とはかなり異なる,いわゆる「スチームパンク」の流れを汲んだSF的な設定が随所に散りばめられている。

主人公ガラハッドが最初に見るロンドンの風景。スモッグに煙り,空には軍用の飛行船がいくつも浮かんでいる
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 本作で描かれるのは,人類とは違う進化を遂げ,霧のロンドンに暗躍する「半獣」達と,貧困にあえぐ民衆が政府に反旗をひるがえした「反乱軍」,そして彼らに立ち向かう,聖杯「ブラックウォーター」の力によって数百年生きられる驚異的な生命力を得た「騎士団(オーダー)」の戦いだ。こういった組織の存在が,フィクションながらこの時代背景にマッチしているだけでなく,その設定もゲームシステムにもうまく生かされているのが面白い。例えば,ブラックウォーターは,主人公ガラハッドら騎士団が瀕死の状態のときに飲む回復薬として登場したり,半獣との戦いでは,銃撃戦だけでなく,本作独自のQTEと近接戦闘がミックスされたアクションが導入され,バトルシーンにアクセントが与えてられていたりといった具合だ。

19世紀末に生きる騎士たちは,最新鋭の装備をもって半獣や反乱軍たちと戦うのだ
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人から獣へと変身する半獣の「ライカン」。普段は人間の姿なので,言葉を話せる
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 騎士団が使うさまざまな装備も,これまであまり味わったことのない感触のものが揃っている。というのも,本作で登場する,半獣と騎士団の戦いに転機をもたらしたという装備の数々は,「産業革命時の科学技術で実現できそう」な設定となっており,ただ強力なだけではなく,見た目や使い勝手が非常に特徴的なのだ。
 とくに,いくつか種類がある中でも「サーマイトライフル」が面白い。これは,[R2]で攻撃力を持たない発火性の金属粉を撃ち出し,[R1]で点火剤を撃って発火させるという武器なのだが,このプロセスが気持ち良く,筆者もゲーム中に何度もムダ撃ちしてしまった。ただ,本作ではこれらの武器は使う場所が限定されていたので,もし同様の世界観の次回作があるならば,武器を自由に選択して進められる仕様で楽しみたいところだ。

金属粉をばらまいて,そこに点火剤を打ち込み発火させるサーマイトライフル。爆発しているところにさらに金属粉を撃てばさらなる爆発を引き起こせる。単純に「撃った場所が爆発するグレネードランチャー」にするのではなく,この時代の武器であるがゆえの不便さと,爆発時の気持ちよさが同居しているのが面白い
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電撃を発射するアークガンほか,独自の武器が数々登場する。これらの一部の新兵器を,なぜか反乱軍も使用してくるのだが,この理由も大いに気になるところだ
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装備だけでなく,騎士団が使う道具も面白い。使うときはそれぞれちょっとしたミニゲーム風の操作を楽しめる
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PS4の表現力を活かした最高峰のグラフィックス


 本作の世界をよりリアルに描いているのが,PS4のスペックを活かしたグラフィックスだ。そのクオリティの高さは,さすがは新型ゲーム機専用のタイトルと思わせてくれる。
 騎士団と反乱軍が戦いをくり広げる19世紀末のロンドンの街並みは,スモッグと塵とゴミにまみれており,一見するとモノクロ映像のような,マットな景観が雰囲気たっぷりに描かれている。その一方,ウエストミンスター宮殿のような上流階級の建造物内部は清潔で気品が漂い,置かれているオブジェクトもきらびやかだ。開発陣はこの街並みを表現するために実際にロンドンへと渡り,数千枚の写真を撮影して参考にしたそうで,その成果は十分に生きていると思える仕上がりである。

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 個人的に興味深かったのは,騎士団が飛行船へと潜入するシーンだ。近代の飛行船とは構造がまるで違う鉄骨が張り巡らされた船内は,かなり細部まで作り込まれていて,ゲームを進めることも忘れて見物してしまった。今でいうエコノミー的な簡素な席(あるいは乗務員席?)からつながる操舵室,絨毯が敷かれた豪華なホール,レバーでイジェクトされる救命用の気球など,空を飛んでいる乗り物とは到底思えない設計で,このギャップもまた,この手のSFならではの魅力なのだろう(実際にはナチスドイツの飛行船「ヒンデンブルク」が,これに近いものだったらしいが)。

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架空と実在の人物達が紡いでいく物語


 本作の世界観を語るうえで外せない存在が,主人公ガラハッドをはじめとするキャラクター達だ。登場人物のほとんどが髭を携えた紳士で,服装のデザインなどもヨーロッパ文化などに思い入れがないかぎり,日本人にはやや馴染みが薄いが,ゲームを始めてしまえば,ローカライズや実力派声優陣による吹き替えなどの効果もあって,比較的すんなり受け入れられるのではないかと思う。彼らが尊ぶ騎士道精神は日本の侍魂に通じるものがあってか,この手のゲームではあまり聞いたことのない「御意」なんてセリフもとくに違和感はなかった。

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 面白いのは,彼ら騎士団の中に,実在した人物が存在するこということ。ガラハッドとともに戦う若き見習い騎士は,アメリカ独立革命とフランス革命で戦ったラファイエット侯爵であり,騎士団の最新鋭装備を作り出す人物は,かのエジソンにケンカを売った大発明家,ニコラ・テスラである。テスラとエジソンの確執は,物語でもちょっとしたシーンに組み込まれていて,エジソンもこの世界のどこかにいることを表しているわけだが,架空と実在の両方の人物が登場することで,互いがどのような立場にあり,プレイヤーの行動が彼らにどんな未来をもたらすのか,物語の先を見たくなる。
 また登場人物のフェイシャルCGアニメーションも実に見事で,その豊かな表情はもちろんのこと,アップになったときの顔のシワや髭一本一本の動きなどにも注目してほしい。

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アクションとアドベンチャーによる,映画のような緩急のある展開


 さて肝心のゲームシステムについてだが,通しでプレイしてみると,メインとなる三人称視点のアクションと,ムービーやQTEが挿入されるアドベンチャー的なシーンがシームレスにつながっているという設計で,終始バリバリと撃ちまくるのではなく,映画のように緩急のある展開で進んでいく。本作がTPSではなく,アクションアドベンチャーとジャンル付けされているのは,こういった作りになっているからこそだろう。
 アクションの部分は,斬新な武器を使った銃撃戦が楽しいのだが,どのシーンでもとにかく敵の数が多い。敵が騎士団の用いる最新武器を使ってくることもあり,シーンによってはかなり難しいところもある。建物の陰に隠れるカバーアクションや武器の切り替えなど,TPSとしての基本的なアクションに加え,ブラックウォーターの力で発揮できる騎士団の特殊能力「ブラックサイト」なども駆使しつつ戦っていきたい。

銃撃戦のシーンはやはり熱くなれる。敵は多数現れるので,物陰に隠れてカバーしながら戦うのが重要だ
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瀕死の状態になるとブラックウォーターを飲めるようになる。敵が近くにいると飲む前に殺されてしまうこともあるので注意
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[L1]を押すとブラックサイトが発動。周囲の時間の流れが遅くなり,敵に対して自動的に照準が合うので素早く複数の敵を倒せる

 一方戦闘の間に組み込まれたアドベンチャーシーンは,PS3の「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」などに近い感触で,フィールドを歩くと特定の場所でアイコンが小さく現れ,そこに移動するとシーンを進められるボタンが表示されるという,ゲームの雰囲気を壊さない仕様となっている。アドベンチャーとはいっても,ストーリー分岐のようなものは,プレイした限りでは見あたらなかったので,あまり余計なことは考えず,ストーリーと派手な戦闘を,映画を見る感覚で楽しむのがいいだろう。

アドベンチャーシーンを進めているとQTE的なアクションが発動することもある。通常のイベント進行は[△]で行うが,このときはそのつど違うボタンとなる
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 もう1つシステムとして印象的だったのが,半獣の「ライカン(人の姿から獣へと変身する怪物)」との戦闘シーンだ。開発陣が「シネメレー」と呼称していたこのシステムが発動しているときは,半獣との接近戦が展開されるので,半獣の周りをぐるぐると回りながらナイフで強弱の攻撃を繰り出しつつ,敵の攻撃に対しては素早く指示されたボタンを押して対処する。システムとしてさほど目新しさはないのだが,半獣の強さを体感する演出として十分なインパクトがあった。

ライカンはファンタジーに出てくる狼男そのもの。とどめを刺さないと蘇ってしまう
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物語は意外な結末を迎える。続編はあるのか……!?


 通してゲームをプレイしてみると,いくつか気になるところも見受けられた。例えばゲーム画面が終始2.4:1のシネマスコープサイズで表示されている点だ。画面の上下にいわゆるレターボックスが常に表示されていて,雰囲気は映画的でいいのだが,せっかくの美しい映像が一部隠れてしまったり,アクションシーンで画面が見づらいことがあったりしたのが少々残念なところだった。
 またゲームはエンディングまで約10時間だったということも事実として表記しておきたい。二転三転するストーリーや美しいグラフィックスによる演出など,ゲーム全体の密度が濃かったため,このプレイ時間が短いとは思わなかったのだが,物語が意外な結末を迎えたことで,やや尻切れという印象はぬぐえなかった。もしこの結末が続編への布石なのであれば,続きを早めに見たいものである。

 いくつかの難点を踏まえつつも,筆者個人としては,史実と創作を融合しつつ緻密に設定された世界観や,半獣や反乱軍との白熱する戦いなど,十分に楽しめむことのできた内容だった。とくにPS4の映像表現において,誰が見ても驚く完成度を誇る作品であるということは間違いない。PS4を持っているなら,ぜひ本作で騎士団の活躍を最高のグラフィックスで味わってほしい。

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