インタビュー
HORIがFPS向け製品ブランド「G.E.A.R.」,そして第1弾ヘッドセット「OWL GEAR」で目指すものは何か。キーマンに話を聞いた
今回4Gamerでは,G.E.A.R.ブランドのキーマンにして,OWL GEARの開発担当者でもあるHORIの小西良典氏に話を聞くことができた。4Gamerでヘッドセットといえばこの人,サウンドデザイナーの榎本 涼氏によるインタビューをお届けしたい。
基本的には「ガチゲーマー向け」
イヤーパッドの交換でより広い層もターゲットに
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず確認したいのは,OWL GEARがなぜフクロウ(OWL)なのか,という点です。G.E.A.R.ブランドで発表されている製品は,「STRIKE GEAR」「TACTICAL GEAR」と,“それっぽい”名前なのに,ヘッドセットだけ鳥なのはなぜなのでしょう。
今回はとくに「音質」に注目いただきたいこともあって,あえて「どういう意味なんだ?」と思ってほしかった部分があります。
フクロウというと,「音」や「耳」といったキーワードがあると思いますが,お客さんに,そういうキーワードを連想してもらえるような,そういう名称にしています。OWLというのもあまり使われていないと思いますし,ちょっと変わっている印象を持っていただきたいというか。
実際の軍隊でも,コードネームに動物だったり架空の生物だったりの名前を付けたりするじゃないですか。G.E.A.R.でも,FPSに特化するのであれば,あまり違和感がなく,かつ「ちょっと格好つけてるかな」くらいの方向性で行ってみようかと。
4Gamer:
「耳のいいハンター」的なイメージですか。
小西氏:
そうですね。そんな印象がつけられればなあという。後発ですし,いろいろ特徴がイメージしやすいような形で,親しみを持ってもらえればと考えています。
4Gamer:
そんなOWL GEARはG.E.A.R.ブランドの第1弾製品となるわけですが,コアゲーマー向けのヘッドセットを開発したのは今回が初めて,という理解でいいのでしょうか。
ドライバー(※スピーカードライバー。ヘッドフォンにおいて音を慣らす主体であり,音質を決定する主体でもある)自体,音の波長も含めてゼロからやったというのはこれが初めてですね。従来は「即戦力的に使う」という発想で,“ありもの”を組み合わせてきましたが,今回はFPSに向けた音の作り込みから見ています。
HORIのOWL GEAR製品情報ページより,2種類用意されるイヤーパッドのイメージ |
こちらも製品情報ページより,インラインリモコンのイメージ。「BASS」というスイッチが用意される |
現在,レビューに向けてテストさせていただいていますが,一聴して思ったのは「面白いことやってるなあ」と。イヤーパッドが2種類付属していて,しかも,交換するとえらく音が変わりますね。
あと,ベースブーストも「BASS」というスイッチで用意されていますが,これはアナログですか,デジタルですか。
小西氏:
これはデジタルですね。
4Gamer:
ヘッドフォンアンプあたりで処理している感じでしょうか。
小西氏:
そうですね。ICとドライバーの特性を活かして。
4Gamer:
なるほど。で,このベースブーストなんですが,これの有効無効でも,また大きく音質傾向が変わりますね。
最終の結論ではなく,現時点でのインプレッションを基にお話ししますが,FPSをプレイするときに,合皮のイヤーパッドだと,「BASS」は無効化すると,低音は出ないけどストイックにできるかなと。一方のメッシュタイプだと,「BASS」を有効化すると非常にバランスがよくなっている印象でした。でも,OWL GEARの場合,標準で取り付けられているのは合皮のほうです。「バランスのいいほう」じゃないものを標準にしている理由は何でしょうか。
小西氏:
まず,基本線として「密閉して音を遮断しよう」というコンセプトがあります。そのうえで,スタジオモニターのヘッドフォンに近い,フラットな音質へ,あえて持って行っています。
店頭で販売されている「ゲーマー向けヘッドセット」をいろいろ集めて,波形を取ったりしたのですが,やはり,多少なりとも迫力を持たせてあるんですね。爆発音とか,そういう部分で「あ,いい音だな」と直感的に思う音づくりがなされているんです。
ただ,日本eスポーツエージェンシーという団体があるのですが,そこでプレイヤーに聞いてみると,迫力よりも,足音や銃声といった,細かい音を聞きたいという回答が多かったのです。そしてそれを実現できる音というのが,(音楽制作用の)モニターヘッドフォンのそれに近いことも分かりました。
実際PCだと,モニターヘッドフォンを使ってFPSをプレイしている人が一時期多かったですよね。
4Gamer:
ああ,ソニーの「MDR-CD900ST」とかですか。流行しましたね。
小西氏:
ええ。ですけれども,モニターヘッドフォンは,電気的な仕様が異なるため,PlayStation 3(以下,PS3)やXbox 360では使えません。
4Gamer:
そもそも「マイクどうするんだ」という部分もありますしね。チャットのマイクをPS3ではUSBから取ってますし,360だとゲームパッドから取りますから。
小西氏:
そうなのです。そこで今回は,「モニターヘッドフォン的な音質」に合わせて,PS3やXbox 360に対応するヘッドセットを作ろうという話になっています。きっちりと密閉することで外部からのノイズを遮断し,音を聞き分けやすくしようと。
ただこれは当然のことながら,そういう音の傾向に慣れていない方からは,「ちょっと物足りない」という感想をいただくことになります。音の迫力や低音があまり……。
4Gamer:
ゴージャス感に欠けるとか,そういう感じでしょうか。
小西氏:
はい。そういうこともあるので,ベース音を少し味付けできるように,「BASS」というスイッチを付けさせてもらいました。
4Gamer:
「FPS用の合皮」とは別に,メッシュタイプのイヤーパッドを用意するのも,同じ理由からですか。
そうですね。密閉タイプのデメリットというのもありまして,「長時間プレイしていると,汗をかいて蒸れる」という人もいらっしゃるんです。密閉したい人もいれば,汗をかくから蒸れないほうがいいという人もいるので,であれば選択肢を用意するのが正解ではないかと,今回はメッシュタイプのものも付属させました。
で,メッシュタイプになると,音は抜けます。先ほどご指摘いただいたとおり,当初の「密閉して聞かせる」という方向性からはズレることになるわけですが,長時間装着し続けても蒸れにくいことを重視するならこちらを選んでください,と。
あくまでも標準は「密閉型で『BASS』無効」なのですが,好みに応じて選べるようにしてあるというわけです。
4Gamer:
2×2で4パターンの選択肢がありますからね。いままでも,イヤーパッドを交換できるものはなかったわけじゃありませんが,ベースブーストも含めて4パターンあるというのは珍しいと思います。
ちなみに「イヤーパッドの交換でガラっと音が変わる」と指摘されることは想定内でしたか。
小西氏:
ですね。
4Gamer:
FPS向けかどうかはともかく,メッシュのほうを選ぶとバランスのいい音になる,というところも?
小西氏:
はい,もちろん想定しています。
密閉型に執着し過ぎず,お客さんが求めるところをなるべく提供できるように,という結果ですね。迫力が少し物足りない場合には,少し低音を増すような形を楽しんでいただければと。
買っていただいたところで「あれ,求めていたのと違うな」とガッカリされるところをなくしていきたいというのも,目指すところにはあったりします。
北米のトップゲーマーに話を聞きつつ
無駄を削ぎ落として作り上げたOWL GEAR
4Gamer:
開発にあたって参考になったユーザーの意見というのはありますか。
我々の海外支社で,先日,MLG(Major League Gaming)に持っていったのですが,トップでやっている方からは,北米市場で99.99ドルのOWL GEARについて,「性能からすると非常に安い」と評価いただいています。
そうそう。すごく驚いたのは,ガチなプレイヤーがサラウンドを求めていないということですね。(ゲーマー向けヘッドセットのメーカーは)どこも,「Dolby Surround」のようなサラウンドサウンド対応ヘッドセットを上位モデルに据えていますが,今回話を聞いた人達は,口を揃えて「いらない」と。
「(サラウンドだと)音が聞こえすぎて,自分がターゲットにしているところが聞きづらい」という声もいただいています。
4Gamer:
要は2chステレオで聞き分けていると。
小西氏:
ええ。プロゲーマーは2chステレオで,音源の場所を聞き分けられるんです。僕はプロゲーマーではないので,根幹的なところまでは分かりませんが,おそらく,音の大小で,前や後ろを掴んでいるのでしょう。
そういうプレイヤーさんが,2chのステレオで位置や距離をきちんと掴めるというところを実際に検証して,落としどころを見つけて,音づくりに反映させています。
4Gamer:
コアゲーマークラスであれば,「こういう音だからここで鳴っている」というのが分かる。だから,そこが分かるような音になっているということですね。
「サラウンド対応のヘッドセットをラインナップしなかった理由」を聞こうと思っていたんですが(笑),そういう理由だったわけですか。
小西氏:
メーカーとして,「ラインナップとして高級なものも」という思いはあったのですが,北米のトッププレイヤーだと,サラウンド対応製品は一切使っていませんね。
OWL GEARの設計に入る前には「商品クラスを決めて,どの製品から市場に投入するか」ということを検討していました。売り場を見たり,ユーザーのレビューを見たりして,サラウンドで豊かな音を再現する環境のほうが,没入感という面でメリットが大きいのではないかと考えていたのですが,調べれば調べるほど,「本気のプレイヤーからすると,(サラウンドは)ちょっと過剰な機能なのかな」という考えになっていきまして。
4Gamer:
それで,1製品に絞ったと。
小西氏:
現実的な市場価格へ落とし込んでいくなかで,製品の整合性をいろいろと取っていくわけですが,1製品に絞り込んで,“削り取って”いった結果がOWL GEARですね。逆に言うと,いろいろとそぎ落としたからこそ,MLGの会場でトッププレイヤーの方々から支持をいただけたのではないかとも思っています。
4Gamer:
削り取った結果としての価格が9800円,ということですね。少なくとも安価ではありませんが,この価格設定に至った最大の要因は何でしょうか。
小西氏:
スピーカードライバーの価格が(コストでは)一番大きいですね。先にもお話ししたとおり,アリモノでは無理ということになって,カスタムで作っていったことが大きいです。
我々としても,価格はできるだけ抑え,お客さまに安く提供したいというのを基本理念として持っています。最初は,利益を確保することよりも,より多くの人に使ってもらいたいとも考えているのです。
もちろん,価格帯としては低くない水準になってしまっていますが,それでも,1万円を超えてしまうと,なかなかユーザーさんも手を出しづらい。その下をくぐるような価格にできるよう,何とか頑張った結果ではあるんですよ。
4Gamer:
ちなみに,最大のコスト要因であるスピーカードライバ―ですが,「自分達で開発しなければダメだ」という結論になったのは,いつくらいの話なんですか。
小西氏:
1年くらい前ですね。開発をスタートさせたのは2年ほど前です。
4Gamer:
つまりは2年前から1年ほど基礎検証を行っていたと。
小西氏:
です。当然,他社さんのヘッドセットを聞いたりしますよね。最初の段階で,「作るなら,同じものにしてもしょうがない」というのがありまして。となると,実際に目標となる音というものを決めなくてはならないわけですが,「じゃあどんな音がいいんだ」と,実際に色々と(スピーカードライバーの)サンプルを(集めて)ですね。
4Gamer:
どれくらい集めたんですか?
小西氏:
実際にはスピーカードライバーだけを比較するのではなくて,結局,(ヘッドフォン部を構成するほかの部材と)全部セットなので,30パターンくらいあったと思います。
で,試してみると,やはり良い悪いがあるわけです。先ほどお話した,コアゲーマーの方々の意見も伺いながら,最終的に,低音も高音も同じような音圧で聞こえるフラットな音質こそが求められているのだと分かりまして。
その後,本体の側圧ですとか,軽さ,密閉したときに耳がどれくらい潰れた感じになるかといったことを検証して,イヤーパッドどうしようかといった議論も重ねてきました。
ただ,それらをいろいろと弄っても,目標の音が出ないんですよ。なので「これはもう作ろう」と。
4Gamer:
30パターン全部で,周辺の部材まで組み合わせを全部試して,「全部ダメだ」という結論に至ったと。それは1年かかりますね……。
当然,社内では「いつ完成するの?」と(笑)。
2年くらい前に,コンシューマゲーム機の市場でも,BattlefieldとCall of Dutyの新シリーズが売れるようになりましたよね。その頃に開発を始めたのに,Black Ops 2が出るよ,絶対売れるよと言われるなかで「間に合いません」ですからね……。
ただ,いまの市場においてユーザーさんが求めているところは裏切れない,しっかり作り込むべきだと開発側は考えています。そこをしっかりやれば,少しくらい出遅れても,後でキャッチアップできるんですよ。しかも,その先の製品にもつながっていきますし。
今は「定番になれるかどうかがすべて」みたいなところがあるので,難しいですけれども,そこを狙っていかねばならないなと。
マイクも「ガチプレイ」向けに設計
設計には日本メーカーらしさも見える
4Gamer:
マイクのほうはいかがでしょう。こだわっているポイントはありますか。
マイクもですね,「音質がいい」というよりは,「きっちり聞こえるか」を重視しています。
4Gamer:
やはりそこですか。
小西氏:
あとはノイズ対策ですね。このクラスのマイクは(=1万円以下で販売できるようなヘッドセットで,妥当なコストをかけてマイクを選択すると)ノイズがけっこう乗るんですよ。そこを,できる限りノイズを削減できるよう,協力している業者さんに相当な要望を出しました。試していただくと,ノイズの少なさが分かっていただけるのではないかと思っています。
4Gamer:
マイクは無指向性とされていますが,それでノイズを低減しているというのは興味深いですね。後日検証します。
あと,意外とフロアノイズが馬鹿にならないと思いますが,そのあたりの対策はいかがですか。ファンだったりエアコンだったりの音は,とくにPlayStation Networkの圧縮率が高めなボイスチャットシステムだと,かなりの強敵になると思うんですが。
小西氏:
そういう意味でのノイズは結構難しいですね。さまざまな環境下で試している「つもり」ではいますが,我々が想定している以上の環境が,家庭事情であったり,部屋の事情であったりといった理由によってありますから。
ただ,OWL GEARでは,「過去に弊社が出してきた汎用ラインのヘッドセットで確認できているノイズ」を潰すべく,ドライバーメーカーさんには相当に無茶な要求をしている,とは言えます(笑)。
4Gamer:
あ,なるほど。つまり,OWL GEARのスピーカードライバーを作っているメーカーさんに,マイクも発注しているんですね。
小西氏:
はい。
4Gamer:
メーカーさんと,エンクロージャーから何からの話を詰めていると。このご時世,フルカスタマイズ品は貴重ですよねえ。
小西氏:
我々もゲームパッドなどは得意なんですが,ヘッドセットというか,音に関しては,勉強しながらという部分があります。「音とはなんぞや」から始めるという。
音の特性ですとか,スピーカードライバーはこういう構造であるとか。私はどちらかというと,メカ系の機構設計を担当しているものですから,電気(系が専門)の人間と,一緒に作っていきました。学ぶことが多かったですね。
4Gamer:
ちなみに依頼している先は日本のメーカーですか?
小西氏:
いえ,日本ではないです。最近は海外も非常にレベルが上がっていまして,中国なんですが,日本の大手メーカーさん向けラインの横で作ってたりとかしているところですね。
4Gamer:
中国は,オーディオ系が,ここ十年くらいずっと熱い状態が続いていますものね。
小西氏:
我々もびっくりするんですよね。「え,これもこのメーカーで作ってるの!?」みたいな製品まで担当している。品質は,日本人が想像している以上にがんばっているというのが実情ですね。
4Gamer:
実際,日本人が技術を教えていたりしますからね。
小西氏:
そうですよ,本当にそう。
4Gamer:
日本の家電メーカーを定年退職した,ハードウェアのノウハウをみっちり持ったおじさんとかがいて,弟子の中国人に,スピーカードライバーのコーン巻かせたりしてますし(笑)。
小西氏:
環境とかもすごいですね。音をチェックするためのしっかりした環境も持ってますから,そりゃ,いい製品を作ってくるよねと。逆に国内より海外のほうが,そういう部分は長けているかもしれないくらいです。
4Gamer:
ですよね。いや,日本国内に,HORIさんの要求を聞いて作れるメーカーがあったかなあというのが疑問としてありまして。
小西氏:
ないんじゃないですかね。多分ですが。あったとしても,開発チームは中国,とか。
4Gamer:
製品で伺うことは,あとはインラインのリモコンやケーブルですね。ここでこだわった点があれば聞かせてください。
小西氏:
(インラインリモコンまでの)長さのバランスですね。あと,細かい話なんですが,クリップでしょうか。
クリップ! これがですね,実に素晴らしいのです。大きくて,すごくちゃんとしていて。
小西氏:
ありがとうございます。実は,当初の計画にはなかったんですが,使ってみるとリモコン部がブラブラしてしまって。
4Gamer:
クリップは小さくてすぐ外れるとか,もろくてすぐダメになるものが多いんですよね。でもOWL GEARのはそういう心配がいらない感じの大きさ。
小西氏:
実際に触っていただいた方のファーストインプレッションも,最初は「え,このリモコン,こんなにデカいのをクリップで固定するの?」だったりするんですが,実際にOWL GEARを装着すると,「ここにクリップでとめる必要がある」という体になって,違和感なく付けられるという感じでした。
4Gamer:
ああ,それは分かりますね。しかも,挟んでおいてもズリ落ちない。
小西氏:
ズリ落ちないようよう,かなり神経質に設計しています。
ほかにも,落下試験をはじめ,かなりの数の耐久試験項目がありますね。ほかのメーカーさんが見たら「普通やらないよ」というテストも入ってるんじゃないかと。
4Gamer:
「軽いのはいいんだけど,これ大丈夫かな?」みたいな不安を,OWL GEARの造形からは受けないんですよね。これは日本のメーカーさんの設計らしいところだと思います。
なぜHORIはいまFPSなのか
そしてブランドが立ち上がった理由
4Gamer:
最後に,G.E.A.R.というブランドそのものについて聞かせてください。
最近のHORIさんは,sakoさんと組んで格闘ゲームの大会にも積極的に出て行っていますよね。となれば,最初から「格闘ゲーマー向けに売っていこう」という話になっても不思議ではないと思うんですが,なぜ今回,FPS向けの製品ブランドだったのでしょうか。
小西氏:
おかげさまで,「格闘ゲームのHORI」は,そこそこ認知をいただいていると思うのですが,先ほどお話ししたとおり,ゲーム機の市場でFPSのプレイヤーさんが増えてきました。そこで,その人達のニーズに合うラインナップを用意しようというのが,そもそものG.E.A.R.の始まりです。その流れのなかで,最初にヘッドセットが出てきたと。
4Gamer:
初めから,新規の製品ラインとして用意されたわけですね。
小西氏:
あとは,格闘ゲームの世界だと,「音を意識してコンボをつなぐ」というシステムから,だいぶ離れてきたというのがあります。昔であれば,メガショート押しとかリズム押しとかあったと思うんですけど,今どちらかというと,アドリブ性が強くなったというか。
4Gamer:
なるほど。
小西氏:
実際のアンケートでも,格闘ゲーマー(にとっての優先順位)って,まずアーケードスティックがあり,次はスティックを設置する台なんですよ。それ以外を求める向きはあまり多くないですね。
4Gamer:
ゲームセンターを考えても,たしかにそうですね。
小西氏:
逆にFPSの場合は,生存率を上げるために,「自分がどこにいるか」を掴まねばならないわけで,ヘッドセットの優先度は,最上位グループに入ります。なのでG.E.A.R.でやらねばならないと。
4Gamer:
「いい音」じゃないと,長時間聞き続けるのはつらいかもしれないけれども,そもそもコアなFPSプレイヤーは,「いい音」でプレイしたいと思っているわけではなく,音を情報として扱っているわけですからね。
小西氏:
そのメッセージを,今回「勝つためのヘッドセット」という言葉にまとめています。
4Gamer:
ところでG.E.A.R.って,「Game Enhancing Artillery Reload」の略称とされていますが,これはどういう意味なんでしょう。失礼を承知でお話すると,ぱっと見,後付け感が強い印象も受けるわけですが。
これにはダブルミーニングがありまして。後付けのように見えるんですが,実は違うんですよ。
FPSプレイヤーをターゲットにするとなると,北米市場を意識することになるわけですが,そのとき,北米支社の人間から説き伏せられたのです。「『ギア』にしよう」と。
4Gamer:
製品名の提案を受けたと。
小西氏:
ええ。日本人が格好いいと思う製品名でも,ちょっとしたニュアンスの違いで,海外だと首をかしげられてしまうっていうのは,あるじゃないですか。そこで今回は,北米市場を意識するということから,北米の人間がそうしたいというものを優先したのです。
4Gamer:
製品名などにもHORI USAさんのアイデアが盛り込まれているわけですか。
小西氏:
そうなります。もし北米支社に意見を聞いていなかったら,製品名は間違いなく「FPSシリーズ」になっていましたから(笑)。
4Gamer:
なるほど(笑)。
いや,日本で,「道具」という意味で「ギア」という言葉を使うと,もう少し“広い枠”をイメージすることになるんじゃないかと思うんですね。今回の件でいうと,競技性のあるものを広くカバーするのかな,と。それがFPS用というので「なんでだろう?」と思っていたんです。それがニュアンスの違いというやつですか。
小西氏:
日本人が聞いて,多少の違和感があるのはそういうところかもしれないですね。
4Gamer:
では,Game Enhancing Artillery Reloadというのも,北米チームのアイデアなんですか?
小西氏:
これもそうです。
4Gamer:
それで,日本人からするとあまり馴染みのない単語も入っていたりするわけですね。
そうなんですよ。我々と向こうの「いい」っていうポイントの違いが,そのあたりに出てします。
違いといえば,「ファイティングエッジ」に大きく入った「刃」の文字も,我々としては勇気がいりましたね……。
4Gamer:
どういう意味ですか?
小西氏:
あれ,海外だと猛烈にクールという扱いなんですよ(笑)。ファイティングエッジなどは,北米の格闘ゲームブームを意識した展開をしているときの製品なので。
製品自体は世界共通なんですが,日本で売ったときは風当たりがきつかったですね。
4Gamer:
ダサいと言われるわけですか(笑)。
小西氏:
まあ,製品としての評価はいただいたので,普通にやるよりは逆にインパクトという点ではよかったのかなと,今となっては考えていますが。
4Gamer:
G.E.A.R.というと,もう1つ不思議なことがあります。HORIさんの製品が,こうやって「G.E.A.R.です!」って,ブランドを立ち上げてから製品展開するのが,初めてじゃないかと思うんですね。RAP(リアルアーケードプロ)にしても,気づいたらシリーズとして定着していたという印象で,HORIさんの製品は,そういうものが多かったと思うんですが。
小西氏:
そうですね。実は,「これはマズいな」というところから,ブランドを立ち上げたところはあります。HORIという名前のイメージがあまりにも――とくに国内だと顕著なんですが――ポーチとか保護フィルムまで含んだ,何から何までやってます的なものじゃないですか。一方で,FPSプレイヤーさんには,イメージがけっこう重要で。
4Gamer:
ブランドイメージ必須ですよね。
ええ。とくに,トッププレイヤーは「格好いい」とか,いい意味での「インテリ風」といったイメージを抱かれがちなのですが,それとマッチするようなコンセプト,ブランドを作っていかねばならないと。
4Gamer:
それでブランドを立ち上げたんですね。
小西氏:
ええ。「普段のHORIの製品の1つ」だと,なかなかイメージを持ちづらいというか,とっつきにくくなってしまうので。30年近く続けさせていただいて,結果,どうしても滲み出てしまうHORIのイメージと……。
4Gamer:
これは違うよ,と。
小西氏:
です。結果として「HORIの〜」ではなく「G.E.A.R.の〜」と呼ばれるようになるのが,FPS用デバイスとしては一つの目標ではないかと考えています。
4Gamer:
今後,HORIブランドとG.E.A.R.ブランドというのは完全に分かれていくんですね。
小西氏:
はい。ひとつの勝負としてやっていく感じです。
(※2013年8月収録)
HORIのG.E.A.R.シリーズ公式情報ページ
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G.E.A.R.
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