インタビュー
「キングダムカム・デリバランス」まさかの日本語版発表はどのような経緯で決まったのか。Warhorse StudiosとDMM GAMESにインタビュー
4Gamerでは東京ゲームショウ2018の期間中,本作を開発するチェコのデベロッパ・Warhorse StudiosのPRマネージャーであるTobias Stolz-Zwilling氏と,DMM GAMESのプロデューサーである松本卓也氏にインタビューする機会を得た。どのような経緯でローカライズが決まったのか,どのように本作の完成まで漕ぎ着けたのかなどを聞いてみたのでお伝えしよう。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介からお願いします。
PRマネージャーのTobiasです。2014年からWarhorse Studiosに参加してます。実は英語版のボイスアクターも担当しています。私はドイツ人なのですが,本作で「周りの国からボヘミアに集まってきた人間」を描くのに,ドイツ語アクセントの英語をしゃべる人間が必要だったので,私がやることになりました。
松本卓也氏(以下,松本氏):
私はDMM GAMESのプロデューサーを担当しています。ずっと「エルダー・スクロールズ・オンライン」に携わってきて,自分自身でディレクションみたいなことをするのもエルダー・スクロールズ・オンライン以来なんですが,自分がプレイしたいゲームをローカライズするので,それはもう魂を込めてやりますよ。
4Gamer:
本作はコアな洋ゲーというだけでなく,文章量が多いタイトルですし,正直に言いますが,遊びたくても日本語版は出ないだろうなと思っていました。なので,今回の発表は非常に驚いたのですが,どういった経緯でローカライズが決まったのでしょうか。
松本氏:
英語版が発売されて,私も4Gamerさんの記事を読んでいたんですが,これはプレイするしかないと思ったんです。剣が好きですし,中世が好きです。「Skyrim」や「ウィッチャー」も好き。そういう人間向けのゲームだと思います。自腹でゲームを買って,サウンドトラックを買って,アートブックを買って,よし会社で遊ぶぞと。
4Gamer:
「会社」で(笑)。
松本氏:
仕事なので(笑)。でも,プレイを始めて10分ぐらいで,これは日本語じゃないと分からん! となったわけですよ。この時点で,日本語にできたらいいなと考えていました。
一方で,たまたま別件の,私の知らないビジネス側の話として,「DMMでパブリッシングとローカライズをしないか」という話が存在していたんです。それで私に相談しようという話になり「なんだ,持ってるじゃん」と。そんなの,やるしかないですよね。
4Gamer:
トントン拍子で決まる規模のローカライズには見えないのですが……。
ボリュームは大きいですし,史実がベースなので間違ったローカライズはできないというプレッシャーはありますけど,そのぐらいですよ。
もちろん社内で「フルボイスでローカライズするの? マジで?」って話はありましたけど,ビジネスでの妥当性なんて,日本の皆さんに届けるのに成功させてから考えればいいんです。本作を,開発のみなさんが思っている本物の完成度でローカライズして,一人でも多くの日本のユーザーさんに届けることができれば,後からついてくるものなので。
4Gamer:
洋ゲー好きとしては,ありがたい限りです。でも,エルダー・スクロールズ・オンラインもそうでしたけど,「ありがたいんだけど,DMMさんはなんでここまでコアなものをローカライズしてくれるんだろう」と不思議にも思っています。
松本氏:
DMMって,ほかと違うことをしないと生きていけないと思うんですよ。エルダー・スクロールズ・オンラインのときも,よく「本当にローカライズするの?」と言われましたけど,実際にやりました。PUBGにしても,いろいろな施策を動かしていますが,これもビジネスがどうこうってだけのものではありません。今回に関しても,同じように全力でローカライズするだけです。
Tobias氏:
私達のような小さなデベロッパにとって,DMMさんのような会社に協力してもらって日本語版が出せるというのは,すごく光栄なことです。とくに,本作はボイスが非常に重要なゲームなので,そこまで含めてやっていただけるのはありがたいですね。
4Gamer:
ローカライズにあたって,雰囲気を重視するためにボイスはそのままで,字幕だけ日本語という選択肢もあったかと思うのですが,あえてフルボイスを選んだのはなぜでしょう?
松本氏:
このゲームって,周りで話しているNPCのなにげない会話とかにヒントがあるんです。それがカメラの中に納まっているならサブタイトルが出るんですが,カメラ外の情報は声でしか聞こえないので,字幕では表示しきれません。それを,字幕対応で済ませるわけにはいかないですよ。
4Gamer:
フルボイスで遊べるのを楽しみにしています。
海外でのリリース時,2週間で100万本を超える好調なスタートだったと記憶していますが,プレイヤーからの反響はいかがでしたか?
Tobias氏:
良い反響をもらえました。中には10点中5点という声もあったのですが,そういう場合でも,中世ヨーロッパのリアルな情景を描くというコンセプトそのものが悪いのではなく,バグがあるといった指摘でしたので,それなら直せます。
とくに嬉しかったのが,Twitchで非常に多くの方に配信してもらえたことです。オンラインゲームではなく,シングルプレイのRPGであれだけ盛り上がってもらえたのは,大きな自信につながりました。
でも実は,リリースしてユーザーの皆さんが喜んでいるのを実際に目にするまで,我々は本当に緊張して,ナーバスになっていたんです。
4Gamer:
そうなんですか? これだけ尖ったゲームを作り続けてついにリリースしたのですから,「やってやったぞ!」みたいな雰囲気なのかと。
Tobias氏:
そんなことはないですよ。どのぐらいのユーザーが気に入ってくれるのか分からなかったので,リリース時にはプロジェクタにSteamの画面を映して,爪を噛むような思いでみんなで見ていました。社内でのリリース記念パーティも,もしリリース後にボロクソ言われていたら辛いので,リリース前にやったぐらいです。
本作はWarhorse Studiosの処女作ですし,リリース時には100人のスタッフがいたんですが,そのうちゲーム業界での経験があったのは30人だけだったので,緊張もします。
4Gamer:
え,では残りの70人は?
Tobias氏:
ゲーム業界が初めての新人ばかりです。私自身,初めて就職したのがWarhorse Studiosですよ。だから,リリース後の盛り上がりは,みんな感情的になって本当に喜びました。
4Gamer:
初めて情報が出てから4年間,本作を開発していくにあたって,ゲーム業界の経験がない人達ばかりの会社で,よくモチベーションを保って完成まで漕ぎ着けましたね。
Tobias氏:
もちろん,大変なこともありました。
プロジェクトを2014年にスタートする前,2011年に会社を立ち上げ,最初の3年は資金繰りとパブリッシャ探しに注力していました。しかし,パブリッシャというパブリッシャにあたって,世界中で探しましたけど,「Facebookのゲームを作れば?」とか「そんな歴史もののゲームなんて」という反応で,あまり感触が良くなかったんです。まだPS4やXbox Oneが出る前でしたし。
資金繰りに苦しんでいる間に倒産しかけたこともありましたし,我々にあったのは熱意だけです。
4Gamer:
その状況から,どのように開発に着手していったのでしょう。
Tobias氏:
一生懸命ひねり出したアイデアと熱意のおかげで,チェコの“石炭王”みたいな人が資金援助してくれたんです。
4Gamer:
せ,石炭王!? それもすごい話ですね……。
Tobias氏:
とはいえ,彼らにはちゃんとしたビジネスプランを提示しなければなりません。そこで,Kickstarterでの展開を思いついたんです。石炭王からの条件は,Kickstarterで最初に30万ポンドの資金を集められるようなら援助するというもので,届かなかったら諦めるしかなかったのですが,幸い,目標の30万ポンドは48時間で達成できました。
4Gamer:
リアルな中世を描くというコンセプトが刺さったゲーマーは,大勢いたわけですね。最終的には,目標額を軽く超える資金になっていましたよね。
Tobias氏:
110万ポンドも集まりました。この資金を使って人を雇って,最初の20人からもう20人と開発規模を広げ,ようやく開発が始まったという流れになります。
4Gamer:
コンセプト部分についてなのですが,剣を持って冒険するオープンワールドRPGとなると,魔法やモンスターはつきものですが,そこを廃したタイトルは,発表から数年が経った今でも珍しいものです。本作でリアルさをウリにしたのは,なぜなのでしょうか。
Tobias氏:
本当に新しいものを作りたかったからですね。剣と魔法のRPGというのは普通すぎますから,実際にあった生活をリアルに見せる方向にフォーカスしようと考えたんです。
日本だってそうだと思うんですよ。私は「ナルト」が大好きですけど,ナルトの忍術はきらびやかで魔法のようなものです。でも,きっと実際の忍者はもっと地味で,隠密行動をとって暗殺や諜報をする存在だと思います。そういう「実際はこうだった」というものを描くタイトルには,きっとまた別の面白さがありますよね。
4Gamer:
確かに,別ジャンルとしてどちらも楽しめると思います。
中世ヨーロッパといっても,場所や年代に幅がありますが,本作ではなぜ15世紀のボヘミアを選んだのでしょう。
Tobias氏:
リアルなゲームを描くと決めてから,ヨーロッパの歴史を見てみたのですが,話が大きすぎると作りきれないんです。かといって,小さすぎてもつまらないので,ゲーム性が広がるところを選んだ結果,16km四方の地域での,2つの国の争いを描くことにしました。
それと,先にお話ししたとおり新しいものを作りたかったんですけど,ほかの地域のメジャーな歴史があるところは,すでにゲームになっているので,それを避けた結果でもあります。
4Gamer:
ゲーム性という点で,15世紀はどのような戦いが繰り広げられる時代なのかが気になります。
Tobias氏:
15世紀初頭は,中世の騎士達の時代です。相手よりも大きな武器と頑丈な鎧を,ひたすら突き詰めていた時代ですね。もうちょっと後の時代になると,鎧や両手剣が重すぎて動けないから,目の前で8の字に動かして攻撃することしかできないみたいなことになるぐらいです。
本作で扱っているのは,武器と鎧がどんどん強くなっていく中で,剣士が一番面白い時期だと思います。
4Gamer:
あまり時代が進んでしまうと,銃が出てきてしまいますしね。
Tobias氏:
そうなんですよ。日本の場合は,侍の文化があって,師匠が弟子に剣術を教えて,その弟子がまた師匠に……と受け継がれているので,もしかしたら第一次世界大戦前まではその文化を引き継いでいる人がいたかと思うんですが,ヨーロッパだと,銃が出てきてからは剣の出番がなくなってしまうんです。
やっぱり,中世を描くなら騎士同士の近接戦闘ですよね。メイスにアックスに,ポールウェポン。そしてみんな大好きなハンド・アンド・ハーフソード(バスタードソード)。武器のことを話すと,すごく長くなるんですけどいいんですか?
4Gamer:
ものすごく聞いてみたいですが,残念ながら今回のインタビューに使える時間がもうすぐ終わってしまいます……。
今後の展開も教えてください。現在は,DLCの追加を行っているようですが。
Tobias氏:
これから1年をかけて,フリーコンテンツと4つのDLCを導入していく予定です。最後には,MODに対応させるところまでやっていきたいと思っています。
4Gamer:
日本で発売するタイミングでは,DLCはどのぐらい対応する予定なのでしょう。
松本氏:
もう配信されている第1弾,10月に出る第2弾は確実に入ると思います。3もいけると思いますが,4は英語版の開発状況次第ですね。できるだけ対応していきますし,MODなどももちろん同じ仕様でやっていきたいと考えています。
4Gamer:
最後に,日本語版の発売を楽しみにされている方々にメッセージをお願いします。
Tobias氏:
本作は,今までにみなさんが遊んだことのあるゲームとはまったく違うものです。RPGの“ロール”という部分がすごく重要になるので,ゲームの中でどういう選択をして,どのように進んでいくのかを楽しんでほしいです。
松本氏:
この時代に,こういう状況で,こういう場所で,こういう音が聞こえて,じゃあ,あなたのヘンリーは何を選ぶのか。好戦的なのか,そうではないのか,女好きなのか,お堅いのかなど,いろいろなヘンリーを演じられる幅が用意されています。
Tobias氏:
ファストフードではなくおいしいステーキだと思って,よく噛んでじっくり味わってください。
松本氏:
DMMとしては,Warhorse Studiosのやりたいことを,そのまま日本のみなさんにお届けします。死ぬ気で翻訳しますので,ご期待ください。
4Gamer:
ありがとうございました。
「キングダムカム・デリバランス」公式サイト
- 関連タイトル:
キングダムカム・デリバランス
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キングダムカム・デリバランス
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Published by EXNOA LLC,(C)2019 and developed by Warhorse Studios s.r.o., Kingdom Come: Deliverance(R)is a trademark of Warhorse Studios s.r.o. Co-published by Koch Media GmbH, Austria. Deep Silver is a division of Koch Media GmbH, Austria. Deep Silver and its respective logos are trademarks of Koch Media GmbH. Co-published in Japan by ZOO Corporation. All other trademarks, logos and copyrights are property of their respective owners. All rights reserved.
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