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「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた
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印刷2019/02/09 12:00

インタビュー

「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた

白沢氏に聞いた,セレステ篇(8章〜9章)


4Gamer:
 セレステ篇の8章では,精霊島に戻ったセレステたちが帰宅途中,セレステ排斥派のオストラと対話しました。そこで「セレステは外界にいるほうが安全だ」「セレステを味方する奴が個人的に嫌い」「ラウトが怖いから従っている」など,排斥派にもいろいろな考えの森妖精がいることを知ります。

白沢氏:
 排斥派も決して一枚岩ではありません。「セレステをよく知らないから,いなくなってほしい」という者がいるくらいにです。そして一枚岩ではないからこそ,これまでも大群で襲ってくることがなく,逆に排斥派を一網打尽にすることもできずでした。

4Gamer:
 同じ場面で現れた,ウミヘビの加護を持つ「猛毒の使い手ヒルダ」と,カメレオンの加護を持つ「姿無き者メレーナ」の言い分もよかったです。彼女たちの場合は「セレステは天敵だから」という,より原始的で生物的な見解だったので。

風術師氏:
 私もそこが面白いと思いました。人間社会を舞台にしていたら書けそうにはない,森妖精ならではの理由って感じがしますよね。

白沢氏:
 同じ毒使いでも,毒が効かないセレステを大好きなラーナがいたりするんですよ。こういうところも生物的に,思想的に,多種多様さを目指しました。

吉川氏:
 レアーオもセレステの味方になったり,敵になったり,立ち位置がコロコロと変わっているように見えますが,言動は一貫しているんですよね。傲慢な王のような振る舞いはすべて,彼女なりに精霊島のバランスを考えてのことなのがよく伝わってきます。

4Gamer:
 最近はいろいろ大活躍でしたもんね。金色にゃんにゃんと銀色わんわん。

S氏:
 かわいい(笑)。

4Gamer:
 作中ではユグドに近況報告をしていたところ,エシャルたち「砂の薔薇」の一座が精霊島に訪れました。彼らは芝居に興味深々なクーシャンを見て,一緒に人形劇をやろうと提案してきます。この話は島中に瞬く間に広がり,多くの森妖精が観劇しにくることになりました。先に進む前にひとつ,ねちっこい質問があるのですが。

白沢氏:
 なんでしょう。

4Gamer:
 作中でも触れられていましたが,長命長寿な森妖精は「物語を語り継ぐことが少ない」とのことで。長命な森妖精の昔話などは,おそらく団欒の席での談話として,酒のつまみにでもされているのだろうと想像していますが,そのうえで森妖精というのは「創作意欲を持ち辛い種族」なのでしょうか。「物語への興味関心」は後ほど消化するとして。

白沢氏:
 森妖精は原則,文化的な活動や,無から有を生み出すことを考えない種族です。生物的な強さや高みを目指すなど,種としての文化はあれど,普遍的な思想は「自分が今持っているものがすべて」といったものです。逆に,文明的で文化的な豊かさを求めた森妖精は,島の外へと出ていきます。ムジカやドゥルセなどがそれに当たりますね。そして種の多様性という意味では,ロスカァやサナオーリアなどの例外もいます。

4Gamer:
 分かりやすい。では世界樹の図書館についてはいかがでしょう。人形劇の演目となった本のように,ほかの物語も所蔵されているのでしょうか。

白沢氏:
 世界樹の図書館には,島の内外に関する情報,そして物語も所蔵されています。けれど,それが開かれることはないんです。

松永氏:
 誰も読まないんだよね。文化的蓄積というものを求めていないから。

白沢氏:
 ですね。森妖精にとって,本は興味関心が向くものではありません。そもそも「図書館」という施設についても,我々にとっては勉強・読書するところですが,森妖精にとっては“ユグドがいる場所”以上の意味はないと思われます。

松永氏:
 だから僕が印象的だったのは,ユグドが本を使って,子供たちを勉強させているシーンでしたよ。「あっ,本ちゃんと使ってる!」って思って(笑)。

白沢氏:
 本の概念を知らないまでいくと,物語の障壁になってしまうため,ユグドの教育には「本の概念を知ってもらう」の意味合いも含んでいると思っていただければ。そうしないとチェインクロニクルを理解できず,世界観的にも怪しくなってしまうので(笑)。

画像集 No.017のサムネイル画像 / 「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた

4Gamer:
 文化の軽視ではなく,意味を求めない感じなんですかね。文化に対する反応というのは,そのままセレステに対する考え方とも言えるはずなので,気になっていたんです。

白沢氏:
 あるいはの話ですが,長命長寿も影響しているかもしれません。森妖精であれば同じ個体が何百年,何千年となにかしらの研究をできてしまえるので,人間とは比べ物にならない成果を生み出すことができます。そうなっていないのは,長命種ゆえの倦怠や忘却だったり,それを阻害しているなんらかの理由だったりがあるからかもしれないです。

松永氏:
 これまでも「長命長寿だけどそのぶん成長性が高くない」というのは,種としての基本ルールにしてきました。例外としては,戦ったぶんだけ学んで強くなれて,剣聖になれてしまったアグダラとかがいます。もし人間と同じ速度で成長できたら,そこまで強くなれてしまうという良い例かなと。

白沢氏:
 創作の都合で言うのならば,「森妖精は森妖精らしく,今の状態でいてくれるのが一番かな」って考えも,なきにしもあらずでしたが(笑)。

4Gamer:
 でも,変化もありました。島に伝わる「黒い魔法使いのお話」を人形劇で演じたところ,観覧席では諍いがあったものの,舞台は大成功します。さらに,それを見ていたリンセとメーリアが「私たちもやりたい」と小道具を引き継ぎました。作中でラシルが「変化は興味から起きる。興味を失えば集団は停滞する」などと口にしていましたが,劇は森妖精の興味を刺激し,新しい小さな文化につながった。そんな一場面が描かれていました。

白沢氏:
 リンセとメーリアは出自が半分人間ですし,興味があった森妖精しか見ていなかったかもしれないですし,全面的に無から有が生まれたとは言いきれませんが,それでも「森妖精も変化できる」と示唆したかった場面です。これはその後のクーシャンとシーシャンや,森妖精たちの意識の変化にもつながりますし,なにより第3部では「変わらないことの良さ」と「変わることの可能性」の両立を見せたかったのもあります。

4Gamer:
 メッセージ性がありますね。ところで,森妖精はいつから「大人」なんでしょう。年齢なのか,間柄なのか。リーニャがクストディオを子供扱いし,からかっている場面をちょくちょく目にしましたが。

白沢氏:
 年齢っていうのはなくて,それぞれの氏族の基準や試練を乗り越えることで一人前扱いされる。そんなイメージでやっています。

松永氏:
 リーニャの弄りに関しては単純に,年上が年下にやるやつだよね(笑)。

白沢氏:
 普段クストディオが子供たちにやっていることを,リーニャにやり返されているんです(笑)。

4Gamer:
 よくあるやつだ。その後,人形劇を経験したクーシャンは「なにかを変えるには,きっかけが必要」と思い立ち,さらに周囲に変わってくれと言う前に,自分たちが変わっていき,その姿を“誰かの変化のきっかけ”にしたいと考え,「守人の試練」に挑みます。そこでクーシャンは正義を「守りたい」と,シーシャンは命を「救いたい」と答えました。2人の答えは願いの原点でしかありませんでしたが,決断という苦しみを乗り越えたことで島に認められます。保護される子供の立場からの巣立ちって感じでした。

白沢氏:
 クー&シーは外界に出てから,さまざまな物事を吸収してきました。2人が成長していく姿は,プレイヤーさんも物語をとおして見てきてくれたはずなので,なるべく分かりやすい,一旦の結論を出しておこうと思って。ただ分かりやすい明快な答えを出そうとは考えず,またそれをどのような試練で見せるべきかは,結構ギリギリまで悩みました。

4Gamer:
 どれをテーマに選ぶかだけでも,頭が痛くなりそうです。

白沢氏:
 ええ,だから悩んだ末,これまで書いてきた場面で描きたかったことに立ち返り,彼らが実際に突きつけられた選択を提示し,それに答えてもらうのがしっくりくるだろうと考えました。「妹を助けるために妹を突き放す」など,その選択肢を選ぶ責任,あるいは選ばない意味。それを選んだから正義で,選ばなかったら正義じゃないのか。彼らが悩んできた道のりに一度,「選ばないからって間違いじゃない」という答えを出しました。

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4Gamer:
 2人ともかっこよかったです。クーシャンが口にした「未来のことは、未来の俺が決める」という言葉には,自分が成長していない未来なんてない,そんな覚悟を感じました。私がよく口にする「来週の俺に任せた」とは重さが違います。

西氏:
 それとは違うかもしれないですね(笑)。

白沢氏:
 自分が成長しないなんてことは考えられない。そうやって思い込める,若さが当然のように備えている根拠のいらない自信です。「明日の自分は今日の自分よりも背が高くなる」みたいな。

西氏:
 眩しいですよね(笑)。

白沢氏:
 ほんと眩しいです(笑)。でも,クー&シーは子供なんだから子供っぽくてもいい。子供が一人前でなにが悪い。堂々とそう言える一歩を踏み出せたと思っています。

西氏:
 前にも話した気はしますが,セレステは出自や身体の問題もあり,彼女を通して普通の子供の成長を描くのは難しい面があります。そのぶんをクー&シーに担ってもらうというのは,セレステ篇を書き始める前から白沢さんが考えていたことだったので,2人がこういう形にたどり着けたのはよかったです。

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4Gamer:
 そういえばクー&シーの両親についても少し触れられていましたが,その存在はなにかのキーになっているのでしょうか?

白沢氏:
 2人の両親は先代の守り人ですが,「とてもモブ」です。彼らの両親は特別な力を持たず,普通の幸せの中で子供を育てて,守り人として黒の軍勢に立ち向かい,亡くなりました。いわば,この世界における普遍的な存在です。そんな家族と生きてきた2人だから,その成長と活躍がより特別に見えてくる。そういった意図を込めています。

4Gamer:
 なるほど。それと,子供たちの成長に関わる質問がもうひとつあります。今から読み上げるのは作中で使われていた台詞となりますが,

■ポテンシア
 「主張は間違っていない。だけど主張は行動を正当化しない」

■エバノ
 「いくらでも足踏みしなさい。間違った道に進むくらいなら、その場に立ち止まったほうがよほどいいのだから」

■レアーオ
 「自分の正しさを押しとおすことは、誰かの正しさを押しつぶすことになる」

いい言葉です。それゆえに,セレステ篇はほかの主人公の物語とはまた違った,名言ジェネレータ的な苦しみがあるのではないかと。

白沢氏:
 まさに「あんまアホなこと言えない…」と思いながら書いてます(笑)。

西氏:
 森妖精は人生が長いですからねえ(笑)。

海富氏:
 台詞ひとつで人生経験が出ちゃいますしね(笑)。

白沢氏:
 何百年や何千年と生きている存在が,なんかこう,軽そうなことを言っていたら嫌じゃないですか。

4Gamer:
 ベンチャー感のある名言とか言われても,ちょっと嫌だなぁ……。

白沢氏:
 意味が伝わらない横文字が多めのやつですか,嫌ですよね……。

海富氏:
 そのせいか,白沢さんのデスクにはいつも難しそうな本が積まれてるんですよ。

白沢氏:
 はい。ひたすら言葉を取り込みつつ,仕事してます。

4Gamer:
 素晴らしい姿勢です。しかし物語は急転し,九領の軍勢が精霊島に攻め込んでくるとの報告が入ります。鷲獅子ヴォルクリスがいなくなったことで,島への上陸を阻むのは難しくなっていましたが,各氏族はさまざまな策をもって,鬼の船団を妨害しました。

白沢氏:
 一応ですが,物量も勘案して書かせてもらいました。鬼の人口がこれくらいだから,精霊島の広さがこれくらいだから,大型の船が50くらいで,中型の船が100からこれくらいで,さらに小さいのがワラワラいるだろう,などとイメージして文章にしています。

4Gamer:
 白沢さんが書かれたというヨシツグ伝でも,同じような構図や思慮が見えましたね。

西氏:
 九領と精霊島の戦争は元々,セレステ篇で書こうとしていたネタなのですが,それから間もなく伝承篇が始動したので,過去でも戦争を書くことにしたんです。もしも順序が合致していなかったら,いずれもまったく異なる内容になっていたかもしれません。

白沢氏:
 書き分けで言うのなら,伝承篇は真面目な方向で書いたから,本編はちょっとふざけていいやとしました。

海富氏:
 似たような話が続くと,それはそれで退屈になってしまうので,差別化についてはそれなりに相談しましたねえ。

4Gamer:
 その結果,今回の戦争の悲しみを背負った「セレステvs.アイリ戦」が生まれたんでしょうね。とてもかわいそうです。

松永氏:
 あれはよかったよね(笑)。

海富氏:
 戦闘とは違うベクトルで,互いに傷ついただけという(笑)。

白沢氏:
 あれは悲しみしか生まない戦いでした(笑)。

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4Gamer:
 そんな戦いは尻目に,世界樹にたどり着いたシュザは,因縁のラファーガとの死闘を繰り広げていましたが,決着前にユグドによって収められました。ユグドはオロチが復活した九領へ行くと宣言し,シュザもまた裏の目的「ユグドを九領に招く」を達成します。このシュザの「ユグドが必要だが頼むのは性に合わない。戦争する」な姿勢ですよ。

海富氏:
 そこは九領と精霊島の関係から理由を擦り合わせましたよね。クーシャンのような新世代なら「話しにくればいいだけじゃん」と思うかもしれませんが,長きにわたる遺恨はそれを許しません。シュザの矜持や九領の格など,大人の政治で戦争をするのはバカげた話ですが,それこそが現実です。ユグドも精霊島にいますが,クロニクルの管理者として,この大陸に生きる生命を等しく愛しているので,片方の言い分だけを汲み取るわけにはいきませんでした。だから,ギリギリまで妥協した結果が,あの幕引きだったんです。

白沢氏:
 執筆中に思い浮かべていたのは,「保育士のユグドさんが,喧嘩してるシュザ君とラファーガ君の首根っこを掴んでいる絵面」でしたが(笑)。

4Gamer:
 ちなみに,シュザとラファーガはもう互角と言っていいんですか?

白沢氏:
 ほぼ互角と言っていいです。どちらが勝ってもおかしくありませんから。シュザも鬼の成長で考えると,今が全盛期ですしね(※鬼は人間と同等の寿命だが,人よりも活動期が長く,戦える年齢も長い種族のため)。

風術師氏:
 森妖精にとってラファーガはもはや伝説的な存在ですが,そこに数十年の積み重ねで上りつめられるのが,鬼と森妖精の構図の面白さですよね。

4Gamer:
 疑問が解けました。さて戦争は終結したものの,その裏ではナランハとビオレータによる暗躍「C計画」がはじまりました。ラストシーンでは,まさかのインデペンデンス・デイからの世界樹炎上です。

白沢氏:
 そこから先が10章となりますが,今後はさらにワッシャワッシャとかき回していく予定で,いろんな物事をひっくり返していこうと思っています。それを象徴するインパクトとして,今回のラストシーンで「まずは一発かましておこう!」としました。

4Gamer:
 というと,ここからは第3部の開始当初にも予想されていた“セレステ篇らしい方向性”が,より顕著になっていくと。

白沢氏:
 はい。これまではどちらかと言うと,セレステを取り巻く人たちの物語でした。しかし,これからようやく「セレステの物語」がはじまります。

4Gamer:
 本命のお出ましですね。そして驚くことに,私たちも今,セレステの話はまったくしていませんでした(笑)。

白沢氏:
 たしかに(笑)。

4Gamer:
 またの機会がありましたら,彼女の謎にも迫っていきましょう。ということで,続いてはアマツ篇をお願いします。

海富氏:
 もう2時間経ってますけど(笑)。


海富氏に聞いた,アマツ篇(8章〜9章)


4Gamer:
 アマツ篇の8章では,王都にいたアマツがメルティオールに誘拐され,アリーチェと一緒にクロニクルの欠片の調査をさせられました。そこでアマツの欠片が「抗う力」だと判明します。魔力しか効かない相手には魔力のようなエネルギーを,魔法が通じない相手には純粋なパワーをと,敵に合わせた異なる力を生み出す。これはアリーチェと似ているようで,その作用は異なっていそうですが。

海富氏:
 アリーチェと交差したことで,両者のコンプレックスが際立って見えてきて,よりしっくりくる欠片の性質にたどり着けました。アマツは角なしの鬼であり,以前の生活も荒んでいて,世の中の理不尽には体ひとつで抗ってきました。つまり,アマツは主体的な考え方で生きてきたわけではなく,常に“なにかに抗って生きてきた”と言えるんです。

4Gamer:
 物語の展開とも合致する場面は多いですね。

海富氏:
 アマツの灼角は「角がある鬼になりたい」といった単なる願望の発現でも,ただパワーが増すだけのものじゃありません。これは理不尽に打ちのめされるだけの自分ではない,ちょっとでもいいから抗ってやりたい,その気持ちをストレートに反映させたものであると,このときに再解釈しました。アマツは実のところ,相手を圧倒できないんです。この力は勝ちたい,負けたくないではなく,とにかく抗ってやりたいというものなので。

4Gamer:
 自身と相手を踏まえた,相対的な力を引き出すものであると。

海富氏:
 ええ。そのため,アマツはどれだけ強い相手に立ち向かっても,絶対に泥仕合に持ち込めるわけです(笑)。

松永氏:
 実際,アマツは1章からずっとそうなんだよね。つねに泥仕合(笑)。

海富氏:
 相手を超える力でもなく,勝利を保証する力でもなく,ただ抗うという姿勢を表す力が手繰り寄せるのは,いわば精神力勝負です。強すぎる相手に勝てはせずとも,黙って圧倒されてはやらない。ずっとそうやって生きてきた彼にはピッタリのものでしょう。

画像集 No.022のサムネイル画像 / 「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた

4Gamer:
 いいですね,泥仕合。当のアマツとアリーチェの交差では,彼女の独白を聞いたアマツが,自分たちは似た者同士であると気づきました。後々の場面でも「自分と似ているアリーチェには頑張ってほしい」と,内心でエールを送る彼の姿を見られます。この関係性もまた,運命の交差によるミックスアップで生まれてきたんでしょうね。

海富氏:
 表面上の雰囲気からしてまったく違う2人なので,アリーチェも最初は「アマツとなにを話せばいいのか分からない」と考えていましたが,両者が抱えているコンプレックスが掘り下げられると,さまざまな共通点が見えてきました。それを反映した結果ですね。

4Gamer:
 ちょうどそのあたりから,アリーチェやエシャル,さらにフォルテナータも該当しますが,空振りも含めて「アマツに恋する乙女的なドキドキ演出」みたいなのがちらほらとありましたよね。ユグドのトレンドはオラオラ系ですか。

S氏:
 ちょっと匂わせましたね(笑)。アリーチェの場合はまったく違う意味での「胸がドキドキ」でしたが,フォルテナータについてはガッツリやっちゃいました。

海富氏:
 それと言うのも,隊長やヘリオスって最初から相手が決まっているようなもんじゃないですか? その点,アマツのヒロイン枠には想像の余地があるんですよ。だから,主人公の中でも例外的にそういうポジションが似合うというか。

吉川氏:
 あとチェンクロには善良なキャラクターが多く,アマツのように「相手の懐に直球でドーン」とする人は少ないので,これまでにない描写をしやすいってのもありますよね。

西氏:
 まあ,そのへんをやりすぎてしまうと今後の展開が不安になるので,監修する立場としては「そこは,分かってますよね……?」という感じですが(笑)。

4Gamer:
 いいじゃないですか,第3部ラブコメ篇。続く場面では,アマツがヒトリたちと再会し,九領へ戻りました。第九領でツルにオロチ復活の異変を相談したあとは,第四領に向かいますが,一行は度重なる旅路で路銀が乏しくなっており,ベニガサが「金策するぞ」と提案します。そこで甲斐性なしのアマツは,役立たずのヒトリと一念発起し,武芸大会で賞金を狙います。彼は暴力が絡まない,純粋な労働をしたことはあるんでしょうか。

海富氏:
 ないでしょうね。それこそ1章のように殴って,奪って,巻き上げてだったり,山で狩りをしてその日をしのいだりが,今までの彼の生き方でしたから。まったくもって労働に向かないタイプと言えます。ですがベニガサと出会い,さまざまな経験をしてきたことで,ようやく「お金の稼ぎ方は知った」くらいは学べている……と思いたいです。

白沢氏:
 それに角なしだから,これまでまともな仕事はさせてもらえなかったでしょうし。

4Gamer:
 たしかに。そして一攫千金を狙うアマツでしたが,試合では武者修行中のトウカが立ちはだかります。同じ義勇軍の仲間ながら,本気でぶつかり合う両者でしたが,トウカの無音の剣を前に,アマツの灼角が無意識で反応してしまいます。純粋な力試しの場で,欠片の力を使ってしまったことを恥じたアマツは降参を宣言しましたが,トウカとサコンに「自分の力を使ってなにが悪い」と諭され,持ち前の不敵な態度を取り戻します。

海富氏:
 アマツはよく根暗と言われますが,元からウジウジ悩む青年です。欠片の影響を知ったことでの悩みも当然避けられなかったので,鬼らしい鬼であるトウカとサコンに助力してもらいました。今までも反則まがいなことをして生きてきたアマツでしたから,すぐに開き直りましたね。とはいえ,再スタートである8章で,欠片に根差した願いを早々に解決させようとは思っていませんでした。かといって「ずっとウジウジされても困る」と考えたため,一旦の折り合いだけつけさせてもらった形です。

白沢氏:
 そこを読みながら「やっぱ面倒くさい人は面倒くさい人を知るんだな」って思いました。

4Gamer:
 トウカが丸くなったのも,今でこそですもんね。

海富氏:
 彼女も悩みが根深かったから,今こうやって説得力が出てくるんですよ。

4Gamer:
 さて,第四領に着いたアマツたちはオウシンと再会し,シロガネの手がかりが第八領にあると知ります。そこでオウシンの妹スオウがお目付け役として同行,さらに道中でロクショウと再会し,一緒に行くことになりました。まずオウシンについてですが,彼はこの後,精霊島の戦争に参加します。そこでさまざまな強者の戦いを目にして,アマツがどんな世界で戦ってきたのかを実感しました。このときの心情は「俺もまだ見ぬ世界で強敵たちと出会いたい」的な解釈もできますが,どうなんでしょう。

海富氏:
 今のオウシンは第四領を背負う立場ですし,性格や信条からしても,そうはしないでしょうね。「自分が持っていないものを持っている奴への憧れ」がある双方ですが,かといってフラフラと旅に出るのはオウシンらしくありません。ただ彼は現状,アマツに対して0勝2敗を喫していますから,ライバル意識がより強いのはオウシンで間違いないです。

4Gamer:
 一方で再登場のスオウも,アマツと相変わらずのコンビ芸を見せていました。

海富氏:
 スオウとアマツの掛け合いは書いていて楽しいんですよ。

松永氏:
 書いてるとき,超楽しそうだよね。

海富氏:
 暴言吐かせまくりで楽しいです(笑)。この2人は絶対にカップルにはならないけど,悪友感覚のある男女って感じがいいんですよ。

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4Gamer:
 しかし,スオウのキャラが立ちすぎると,ミユキの存在感がどうしても希薄に。

海富氏:
 すみません! ミユキも書いていて楽しい女の子なんですが,それで言うと現状はちょっとピンチですね。

4Gamer:
 ミユキもアマツガールズの一員として,ぜひともテコ入れを期待しております。

S氏:
 アマツガールズ(笑)。

西氏:
 なんか嫌ですねー,その呼び方(笑)。

4Gamer:
 最後に,親友枠と言っていいだろうロクショウですが,彼はあれですね。いろいろとしがらみがありそうな,「いつか空を飛べる鳥になりたい」的なことを言いそうな,まるでロックスターのような悩みを抱えている描写が節々で見られますね。

海富氏:
 そういう気質はありますね(笑)。飄々としているけど,屈折しているみたいな。ロクショウについてはこれからが本格的な出番となります。あらためてになりますが,アマツ篇ではベニガサに対するシロガネ,ヒトリに対するコロミと,それぞれの過去と向き合う人物が存在しています。だから,アマツに対するロクショウなわけです。

4Gamer:
 でも,こう,「どこでフォースの暗黒面に落ちるんだろう」みたいな。

海富氏:
 そうですね。物語の論法だけで語ると,彼はどちら側にも転べる人物像です。兄貴分として信頼できる仲間になる,どこかのタイミングで裏切って敵になる,どちらも想像しやすいこともあって,その意味深さにハラハラしてもらえる嬉しい存在なんです。

西氏:
 もちろん,このままフワフワするだけはないですよね? なにかありますよね?

海富氏:
 そこはもう頑張ります(笑)。出番が少なかったにも関わらず,5周年の人気投票NPC部門でも,歴々のサブキャラが集まる中で5位に入りましたから。注目度の大きさに負けないような展開を練っていくつもりです。9章でベニガサとシロガネの因縁を明かしたように,ロクショウもアマツの過去を補完していく人物として,今後活躍させていきます。

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4Gamer:
 アマツ篇の本日のメインディッシュがきましたね。魑魅魍魎が巣食う第八領に到着した一行は,ベニガサが第八領出身であったことを知ります。そして八領主イザナミとの謁見時,ベニガサの祓い巫女であった過去と,さらにシロガネとの因縁が明かされました。

海富氏:
 ようやくです。

4Gamer:
 ベニガサは,イザナミの妹クチナシに憑依していたシロガネに憑りつかれ,記憶を共有されてしまい,信頼していた第八領の民と,自身の妹スズシロの許嫁を,その手で斬殺してしまいます。スズシロは姉を救うべく,自らの身体をシロガネに憑依させ,姿を消しました。惨劇の場にひとり残されたベニガサは,怒りと憎しみを胸に,シロガネ殺しの旅に出る。チェンクロでは,凄惨な過去を持つ者ほど魔神になってしまうケースが多いですが,ベニガサは危険な力を宿しながらも人として活動している,稀有な存在と言えます。

海富氏:
 ベニガサの場合,シロガネに憑依されているにせよ「妹が生きている」という事実があるのが大きいです。ベニガサにとって,シロガネは憎むべき復讐の対象であると同時に,身代わりになった妹の身体でもある。すべて良い方向に転ぶのか,そこに保証はありもしませんが,それだけが彼女が人の身から堕ちきれなかった最大の理由と言えます。

4Gamer:
 合点がいきます。

海富氏:
 それでもギリギリには違いありません。普段は理知的で,アマツにとって頼れる姉御な一面を見せていますが,時折出すシロガネに対する剥き出しの敵意も,彼女の本性ですので。今のベニガサは妹の身体ごとシロガネを斬り伏せる覚悟があり,同時に「そうしたくない」という気持ちも抱えています。彼女がどのような結論を出し,因縁のシロガネとの決着を迎えるのか。これが当面のアマツ篇における,最大の見せ場となっていきます。

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4Gamer:
 アマツ篇の特殊性は,ストーリーラインを“ベニガサが背負っている”ところですよね。この見方は今だけなのかもしれませんが。そして,どの主人公の仲間たちも存在感は大きいのですが,ベニガサのそれはさらに大きな割合になっていると見受けられます。

松永氏:
 アマツ篇の物語設計は,当初のアマツには主体性がなく,なにかに抗って生きていたという,それまでの人生観を反映したものになっていました。彼自身の物語は,セレステと同じく「これから」なんです。ただ,セレステと異なるのは,セレステ篇は精霊島にいるすべての森妖精が中心にいると言えますが,アマツ篇ははっきりと“ベニガサとシロガネが中心にいる”と言えるので,ほかの主人公の物語と比べてもイレギュラーなんです。

海富氏:
 当初,ベニガサは目的を持たないアマツを利用しようとしました。そこからヒトリを加えた3人で旅をしたことで,アマツは仲間を知り,気がつけば道筋を照らしてくれたベニガサの因縁をどうにかしたいと考えるようになります。なので今のアマツは主体性がないわけでも,ベニガサに引っ張られているだけでもなく,自分の意志で「ベニガサとともにシロガネをぶっ飛ばしたい」と思っています。シロガネという現象は,自分の都合だけで世の中を狂わせていく究極の理不尽ですから。それに抗うのがアマツって奴なんです。

松永氏:
 当初は「ベニガサをどのような存在にすべきか」で相当揉みました。ベニガサはアマツにとってお姉さん的存在ですが,彼女に先導させすぎてしまうと「ヘリオスにとってのカイン」のように,義勇軍のレジェンド勢と立ち位置が被ってしまうんです。だから,アマツを先導するけど,アマツたちと同じように悩み,苦しんで成長する。海富君がその過程をすごく練り込んでくれて,ベニガサは今までにない深みのあるキャラになりました。

海富氏:
 決して,最初から今の状態を狙っていたわけではないです。物語を紡いでいく中で,ベニガサもアマツもヒトリも,自然とこうなっていたというのが本音です。それでも,理不尽に迫られて選択肢を取り上げられてばかりだったアマツが,自分の意志で敵を決めて,戦うことを選べるようになったのは,僕自身も非常に感慨深いです。

松永氏:
 アマツ篇も6章,7章でチェンクロの物語に合流させて,8章からあらためて仕切り直しをする面が強かったのですが,物語がうまく流れているのはヒシヒシと感じます。次の10章でも,いよいよな対決が待っていますからね。

海富氏:
 いよいよシロガネと決着? みたいな? ベニガサの台詞のように「このイタチごっこもそろそろ仕舞いにしようじゃないか」と。

松永氏:
 ガチ対決です。10章のベニガサには正直シビれますよ! この記事が載るころには公開日が近づいているはずなので,皆さんぜひ期待していてください!

画像集 No.026のサムネイル画像 / 「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた

4Gamer:
 次章への期待につながったので,砂の薔薇との合流はエシャル篇に回すとしましょう。ただ,9章ラストでは「九頭龍オロチ」の封印が解けてしまったようですが。

海富氏:
 九領とオロチについて説明しておくと,九領にある9つの火山は,大昔にオロチの首が出現した場所です。過去にオロチが現れたときは,9つの頭がすべて出現し,しっちゃかめっちゃかになりましたが,鬼と妖怪が手を組んだことで封印されました。そのときから九領は火山と等分である,九つの領地に分けられています。領主というのは本来,オロチの封印を見張る番人であり,責務を果たすために強くあらねばならかったんです。今ではそれも形骸化し,本来の役割を知っている者はごく僅かになった,という背景です。

風術師氏:
 オロチは島サイズの敵ですから,めちゃくちゃ大きいんですよね。

海富氏:
 現状では1/9が復活しています。残りの首がどうなるのか,その先に待ち受けるのは混沌なのか。第3部の後半戦は,どの主人公も「8章で再スタートし,9章で助走をかけて,10章から終わりなき全力疾走」として準備してきましたので,アマツ篇にかぎらず,セレステ篇のような怒涛の展開が待ち受けているものと思っていてください。

4Gamer:
 待ちわびております。といったところで,4番手のエシャル篇に移りましょう。残り30分です。

吉川氏:
 もう絶対に時間内に収まらないやつですよね(笑)。


吉川氏に聞いた,エシャル篇(8章〜9章)


4Gamer:
 エシャル篇の8章では,砂の薔薇が王都で義勇軍記を公演していました。そこでシャディアはエシャルに並び立てないことを悔やんで練習に打ち込み,エシャルは世界と一体になるくらいの演技をすることに生きる意味を見い出し,練習に打ち込みます。舞台の盛況とは裏腹に,エシャルの演劇に対する熱意は苦しみと表裏でした。しかし,その姿勢はどんなに苦しんで見えたとしても,周囲の人間には止められない意志と言えます。

吉川氏:
 2人の対比は,6章までに意識して形作ってきたものです。シャディアが抱えているのがライバルに追いつきたい秀才の苦しみだとすれば,エシャルが抱えているのは天才の孤独です。エシャル篇は7章で物語が一旦途切れたのもあり,今後の展開を踏まえて,あらためて描いておきたいと考えていました。

4Gamer:
 話を続けると,舞台を見ていた三日月族の族長から,シャディアは代々守り継がれてきた詩の一片を託されました。そしてヘリオスの勧めもあり,残った月の一族を探す前に,まずはエシャルの欠片のことを深く知るため,精霊島のユグドに会いにいきます。島に向かう船上では,ジブリールの身を案じる朔の一族の少年「ワシャク」が現れました。このワシャクですが,物語に登場させた意図を教えてもらってもいいでしょうか。

吉川氏:
 ええと,エシャル篇では今後,はるか昔に存在したと言い伝えられている「黄金の都市ビアルジャ」が焦点になっていきます。そんな中,シャディアも歌をとおしての関係性を持っていますが,それは小さいころに亡くなった祖母からの言伝でしかなく,文化として身についているものではありません。そのため,現代まで黄金の一族の知識を引き継いでいるキャラクターとなると,砂の薔薇ではジブリールしかいないんです。

4Gamer:
 そう言われるとたしかに。目的との関連性を持つ人物はそれなりにいますが,問題と身近な人物となると少ないですね。邪推すると,解説役だったりが。

吉川氏:
 はい。ジブリールを舞姫と崇める黄金の一族にしても,一族ごとに思惑は異なっています。そういう両面性があることを,敵味方の構図だけでなく論じていきたいと考えたので,黄金の一族の象徴である舞姫を信仰し,その一方で湖都に住まう竜の民を嫌う,一族の人間としては普遍的な思想を持つ,ワシャクを登場させました。

4Gamer:
 なるほど。すみません。男性陣が中年で,女性陣が美少女なので,そのパーティにさらにツンツン男子を投入したところに,吉川さんなりの“意気込み”があるのだろうと疑ってしまっていました。「バランスよりも尖りだ」みたいな。

S氏:
 「おっさん」「おねえ」「しょうねん」ですもんね(笑)。

吉川氏:
 間違いではないです(笑)。ただ僕の意図は,砂の薔薇の“大らかさ”を描きたいというところにあります。どんなに変わった人や難題が現れても,懐深く受け止め,居場所を作り出してしまう。例えば,2017年実施の魔神ファルズフのイベントでは,魔神になりたい少女ナフヴァムがいました。彼女はこの世界の普通で考えたら,どこにも受け入れられ難い存在と言えますが,砂の薔薇はそんな少女も迎え入れ,仲間にしてしまいました。

4Gamer:
 憶えています。

吉川氏:
 ナフヴァムだけじゃなく,エシャルやラール&ニール,新登場のワシャクも,普通ならどう考えても面倒なイレギュラーな存在ですよね? でも,砂の薔薇では彼女らの苦難や問題をまとめて「弄って」,シリアスで厳しい問題も,柔らかく身近なものに変えてしまう。こういう懐の広さが砂の薔薇の「強さ」で,僕が描きたかったものです。

画像集 No.027のサムネイル画像 / 「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた

海富氏:
 ジブリールも当初と比べると,砂の薔薇の一員らしい一員になってきましたよね。砂の薔薇ととも外の世界を旅したことで,視野も広くなっていて。そんなジブリールだから,ワシャクにも自分が見てきた世界を伝えてあげたいと頑張っているところですし。

吉川氏:
 ジブリールは比較的,柔軟な思考で外の世界に飛び出したからですね。一方でワシャクは,ジブリールが竜の民に連れ去られている,だから連れ戻さなければならないと,黄金の一族と竜の民に横たわる,根深い対立問題を体現しています。そんな彼がいると,今後のための状況説明を兼ねつつ,主人公側の視点も一方に傾倒せずに済むんです。

4Gamer:
 あえて聞いておいてよかったです。そしてワシャクを加えた(?)砂の薔薇は精霊島にたどり着いたものの,いつもどおりと言いますか,森妖精から過激に歓迎されます。

吉川氏:
 もうそこは,白沢さんとの相談案件ですよね。白沢さんは先ほど話していたように,精霊島と森妖精に対するこだわりが半端じゃないので,僕は「精霊島に触れる=白沢さんにおうかがいを立てる」ことにしてきました。

4Gamer:
 「白沢さんは精霊島だった」?

吉川氏:
 ええ,白沢さんが精霊島です。自分の物語の持ち味を生かしながら,どうやって精霊島をリスペクトしていき,どうやって土地を踏むべきか,毎度考え込みます。なにも考えずに「キャラクターをこう動かしたい」と言うと,「精霊島にはそぐわない」と言われます。ご存じのとおり,僕と白沢さんが創作のことでコミュニケーションを取ると,争いが生まれるので……(※ストーリーインタビュー第4弾 エシャル篇を参照)。

白沢氏:
 ああー……(笑)。

西氏:
 そこも切磋琢磨と言い換えときましょう(笑)。

4Gamer:
 (白沢氏を見つつ)土足では立ち入らせないぞと(笑)。

吉川氏:
 僕と白沢さんから剣呑な雰囲気が漂ってくると,西さんや海富さんが「これ以上,事が大きくなるようなら――」の顔で,背後に立って   るんですよね。

海富氏:
 まあでも,精霊島は本来「外の者は受け入れない島」ですから。物語の視点を持つキャラクターではない,一般人の視点で見たら,今も変わらず閉鎖的な土地には違いありません。自由に出入りしているように見える義勇軍や主人公たちも,過去には例外なく襲われてきましたし。

白沢氏:
 私の頭の中では,「ストーリーではカットしているけど,実は上陸時に毎回バトってるかもしれない」まで考えています。

4Gamer:
 ナイスカットです。そんなこんながありつつ,一座の噂を耳にしていたビエンタからの提案で,砂の薔薇は森妖精たちの警戒心を和らげるため,演劇を披露することになりました。鬼と森妖精による過去の戦争の一幕を演じたそれは,森妖精たちの心を見事に射止め,一同は拍手喝采を浴びます。

白沢氏:
 森妖精は感性が幼いというわけではありませんが,食って飲んで寝るといった生理的欲求とは違う娯楽も,面白いと思ったら素直に「面白い」と言いますからね。

4Gamer:
 その後の場面では,セレステたちと一緒にやることになった人形劇の稽古中,エシャルは自身の不器用さに苦戦しながらも,ひとりでヒリヒリと練習するのとは違う,みんなでひとつを作る喜びを感じていました。

吉川氏:
 人形劇に関しては,精霊島だからこそのお芝居をと考えました。セレステたちと一緒にやれるものというのもありますが,純粋な森妖精たちを相手にするからこそ,エシャルの圧倒的な演技を見せつけるより,ひたむきに不器用に頑張る姿のほうが届くだろうと。

4Gamer:
 シーンを変えると,ユグドに欠片について相談したところ,エシャルの能力とされる天候を変えてしまうほどの奇跡は,人にはあまりにも大きな力で,このままでは記憶のみならず,心そのものを消し去ってしまうと警告されます。ユグドのクロニクルで深く調べようにも,エシャルの無意識の想いはそれを拒絶します。それでも無理やり強行しようとするエシャルでしたが,自身を犠牲にするやり方を周囲にたしなめられました。

吉川氏:
 エシャルの力や欠片の影響の真相は,まだこれから先の話となりますが,これまで彼女が発揮してきた力は「みんなを笑顔にしたい」という,漠然とした願いによって放たれてきたものです。そんなふうに具体的ではない,規模が大きすぎる願いが根本にあるからこそ,その効果も奇跡としかいいようがないものになっていたわけです。

4Gamer:
 「お金持ちになりたい」と願っても,「どんな過程と結果でお金持ちになるのかは分からない」といったやつですね。

吉川氏:
 ええ。そしてその願いは,ひとりの少女が背負うには大きすぎるものです。しかし,エシャルは目の前のことを見捨てられません。これまでもずっとそうでした。そのため,彼女はそれらを必ずどうにかしようとし,最終的に奇跡の力を発現させてしまう。これは周囲から見れば強迫観念とすら言える,もはや呪いに等しいリスクです。

4Gamer:
 その部分とあわせて深めたいのが,ドゥルダナがエシャルの強力すぎる力を封印すべきだと主張し,仲間と分かれて裏で奮闘して,森妖精ジャカレイとカラコフを連れてきた場面です。彼に力を封印してほしいと告げられたエシャルは,悩む素振りすら見せずに「いいよ,任せる」と返答し,自身の力を貝殻の中に閉じ込めました。このとき,任せると言ったエシャルの気持ちは一体どういうものだったのでしょう。

吉川氏:
 そうですねえ……。エシャルはこれまで,自身の衝動とそれを叶えられる力を武器に,意識せずとも舞台や人助けを成功させてきました。8章前半では「もっと」を望む姿も見え隠れしています。しかし,精霊島に来て“それ”を心配する,周囲の存在に気づかされました。

 少し前に自己犠牲をたしなめられたように,無理して走っているだけではダメなんだと,支えてくれる人がいるから自分は歩んでいけるんだと思い至り,仲間を信頼しているからこそ,力を封じることを受け入れました。一方的に「みんなを笑顔にしたい」と願って力を行使しても,笑顔になれない仲間がいることを一連の流れの中で知ったんです。だからエシャルはこの場で力を封印し,よりよい未来を模索することを選びました。

海富氏:
 エシャルのはじまりは,記憶喪失でなにも持っていなかった自分です。そんな彼女ですから,知らずとも手にしていた力すら,これ以上は絶対に手放せないという固執がありました。しかし,砂の薔薇と旅を続けて,いろいろな人と出会っていく中で,いつの間にか自分の中に力以外の大切なものがたくさん詰まっていることに気づくんですよね。

 そして大切な仲間に「お前のために力を封印したい」と言われたので,大切な力を引き換えにしても,素直に受け入れられたわけです。ここは逆に悩んでしまってはダメなんです。もし悩んでしまえば,それは仲間よりも自身の力を大切にしていることに気づくエシャルの姿になるので,本来描くべきエシャルらしさが崩れてしまいますから。

4Gamer:
 なるほど。それを踏まえたうえで,後ほどのアマツとの会話の解説にも期待しております。一応,宣言しておきますが,エシャル篇は「このときの彼女の気持ちを答えなさい」といった,現代文のテストみたいな質問がままありますので,お気をつけください。

吉川氏:
 うわ,覚悟しておきます(笑)。

画像集 No.028のサムネイル画像 / 「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた

4Gamer:
 さて,砂の薔薇はまたもや中年キャラのジャカレイを仲間に加え,九領へ向かっていると,海上でゼルザールと遭遇します。ムハバードはそこで憧れの女性「フィッダ」と再会しました。以降はアマツ篇のベニガサのように,ムハバードが中心になっていきます。

吉川氏:
 ようやく彼の見せ場ですからね。昔,キャラクター担当と相談して作り上げていった,ムハバードの「根は男」の魅力をやっと出せたのが,今回の9章です。

4Gamer:
 ピンチはまだ去っていません。船上で次々と倒れていく仲間の姿を目にし,エシャルの力が暴走すると,一同は黄金の都市ビアルジャへと飛ばされていました。このビアルジャ行きは後述するシエラスエスの送別のように,現実として訪れたものなのでしょうか。

吉川氏:
 いえ,現実ではなく,エシャルの欠片に内包されている世界です。欠片も元はクロニクルの記述ですので,それを参照して,歴史の一場面に飛んだというイメージです。

4Gamer:
 そっちでしたか。ビアルジャ行きで歓喜に震えるゼルザールを前に,またも窮地に陥る一同でしたが,突如として現実世界に引き戻されます。次にエシャルが目を覚ましたのは,目的地の九領でした。どの主人公も紙片を取り込んできた影響か,8章からは欠片の力がこれまで以上に当たり前のように出てしまう現象が見られますね。

吉川氏:
 それもあります。ただこの場面で重要なのは,ゼルザールがクロニクルの欠片を利用して,その干渉によってビアルジャに飛んだというところです。

4Gamer:
 あれ,ゼルザールの目的って欠片じゃなかったですよね?

吉川氏:
 そのとおりです。ゼルザールは“どこかのタイミング”で欠片の存在を知り,それを使えば彼自身の目的を果たせるかもしれない,そういう思惑を隠し持っていて……と,このあたりは今後の展開で明かされていきます。

4Gamer:
 一体どんな預言者が教えたのか……話を進めると,九領に弦月の一族がいると聞きつけたドゥルダナは,役者仲間のユキノジョウを頼り,彼が仕切る芝居小屋「門松屋」に向かいます。門松屋は現在,精霊島との戦争の影響で客が立ち寄りませんでしたが,月の一族を示唆する台詞を散りばめた「歌舞伎」を公演し,探し人を見つける算段を立てました。その舞台の主役が,ムハバードです。

吉川氏:
 順序としては,先に「9章はムハバードの話にしたい」の想いがあって,次により魅力的なシチュエーションをと考えていきました。海富さんと「ムハバード」「お芝居」「日本的」なものを相談していった結果,「それ歌舞伎じゃね?」となったんです。

海富氏:
 ここの面白いところは,ムハバードはオネエキャラクターなんだから,普通に考えたら女形(男性が演じる女性役)を演じさせるはずなんですよね。でも,吉川さんがここから描きたいのは「ムハバードが男を見せる」ことだったので,オネエがあえて男役をやり,これまで隠してきた男心を出す,そういう配役になっている部分なんです。幸い,ユキノジョウが女形だったのもあり。

4Gamer:
 ああー,言われて気づきました。

海富氏:
 要素を取り上げて,組み合わせを並べていたら,意図せずしっくりと固まったんですよ。この「九領 ムハバード 慕情篇」は。

松永氏:
 ムハバード慕情(笑)。

4Gamer:
 個人的には「ロマンス篇」と考えていましたが,そっちのほうがいいですね(笑)。

吉川氏:
 それにいつもどおりのお芝居だと,女性の演者が多い砂の薔薇ですから,エシャルやシャディアが表に出てくるのが当然ですし,裏方のムハバードを引っ張り出すのは無理がありました。その点,女性が出てこない歌舞伎という伝統様式なればこそ,ムハバードが表に出てくる必然性が生まれたんです。

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4Gamer:
 歌舞伎を描くにあたって,文化や演出は勉強したんですか。

吉川氏:
 実際に観に行きました。

4Gamer:
 どうでしたか。

吉川氏:
 長かったです。

(一同笑)

4Gamer:
 学生のころに「なにやってるんだかわかんない」となったので,よく分かります。

吉川氏:
 僕が観たのは三幕の舞台で,それぞれ別の物語をダイジェストのように演じていくものです。話の大枠を楽しみながら,手元の資料でも補完しながら追うのが,初心者には大変でした。

S氏:
 歌舞伎はいろいろと前提を知っておかないと,難しいですからね。

吉川氏:
 それでも,歌舞伎の形式美を凝縮した一場面は,ムハバードがこれまで覆い隠してきた奥底にある感情を吐露させるのには最適でしたので,体験しておいてよかったです。作中の演目「すすきの原心中」も,若い男女の心中物語として有名な「曽根崎心中」を参考とし,世の中でうまくいかなくて命を絶つしかなかった男女をイメージして作りました。

4Gamer:
 ムハバードが出演を決心したそのころ,エシャルは彼にフィッダのことを尋ねました。そこで,軍隊に入隊したばかりの新兵であったムハバードには,力なき民の剣を掲げるフィッダの姿が,特別に映っていたと知ります。しかし,フィッダは上官のゼルザールのことを……と。好きな人が自分じゃない誰かに想いを抱いているけど応援してしまう。さらに私情を隠して15年。再会が叶わなかった想い人は今は敵。なんと儚い。

吉川氏:
 劇団のお母さん的ポジションにいるムハバードですが,15年前の事件からドゥルダナとともに過ごしてきました。ですが,それは決して穏やかなだけの日々ではなかったはずです。2人とも業を背負ってきた男たちですから。そして砂の薔薇は“みんなが過去と向き合って生きている集団”なので,彼だけ例外というのも筋がとおりません。

4Gamer:
 表面だけだとコミックリリーフに捉えられかねませんしね。必要な重さであったと。

吉川氏:
 はい。

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4Gamer:
 一方で,エシャルはクチナシを探しにきたアマツと再会し,自身の力を封印したと伝えました。すると,ブレないアマツは「みんなのためにって,なにヘラヘラしてんだ」と噛みついてきます。この場面ですが,どうも理解できている振りなところもあり,感情の動きを的確に捉えきれなかったので,「このときのエシャルの気持ちを答えなさい」。

風術師氏:
 テストですね(笑)。

吉川氏:
 うーんと,うーんと,そうですねえ……。

海富氏:
 思案中にアマツ側からいいですか? 僕はこの場面について,吉川さんに「精霊島の一件に対するカウンターにしたい」「エシャルの本音を引き出したい」と相談を受けていて,「アマツだったらどう返しますか?」と尋ねられました。想像したところ,仮にドゥルダナやシャディアであればエシャルに気を使う,そうじゃなくても絹一枚を被せた返答になってしまうだろうと思いましたが,アマツはそういうキャラじゃないよなって。優しいから言えないことも,アマツであれば真正面から体当たりで聞いてくれるだろうと。

吉川氏:
 僕もそこに頼ろうとしたんです。

海富氏:
 それに,アマツはこの場面で怒っているように見えますが,本気で怒っているわけではないんですよ。彼は彼なりに,ドゥルダナやシャディアたちの優しさや不安も分かっていて,エシャルの冴えない顔も気になっていたので,カマをかけただけなんです。

吉川氏:
 僕も整いました。エシャルは天真爛漫な少女ですが,これまでの旅路をとおして強くなってきています。そして強くなったがゆえに,みんなを心配させまいと悩みを隠して,表面を取り繕えるようにもなりました。ある意味,記憶を持たない彼女なりの人格形成と言えるでしょう。

 しかし,自分では器用にできると思っていたら,それほど器用ではなくて,無理が生じていた。エシャルはアマツに痛いところを突かれ,泣きながら「今は太陽だったころの自分を演じているかのよう」と口にしました。力を失くしても仲間がいるから大丈夫だと思っていたけれど,やはり不安はあったんです。こういう,自分の弱い部分と向き合ってもらいたかったんですよ。

4Gamer:
 ふむふむ。

吉川氏:
 エシャルが力の封印を拒まなかったのは,先ほど話したとおりですが,これも一種の自己犠牲なんですよね。「みんながそれがいいと言うから」という。彼女の選択は決して間違いではありませんが,これは自身の意志で納得したことではなく,大好きな仲間の望みを受け入れただけのものだったんです。だけど,その決断はエシャルの核となる想いや才能を封じて,また空っぽな自分を受け止めなければならない,そういう苦しみの決断でもあった。

 そこでの苦しさや葛藤をひた隠しにして,大丈夫な振りをしていたら,アマツが正面から抉り込んできたため,自覚しきれていなかった本心が表面化しました。力を封印してよかった,よくなかったではなく,彼女には自分自身のこともしっかりと考えられるようになってもらいたいと,このシーンを書かせてもらったんです。

4Gamer:
 なるほど。おかげさまでちゃんと理解できました。

吉川氏:
 あっ,よかったです(笑)。

4Gamer:
 エシャルの心が晴れたその脇で,話を立ち聞きしていたムハバードも,アマツの言う,自分本位の生き様に共感します。それは糧となり,歌舞伎の公演がはじまると,ムハバードの演技は日に日に磨かれていきました。彼の情念は鬼たちにも響き,戦時中の九領にありながら,千秋楽は満席となりました。舞台のことは弦月の一族の耳にも届き,一同は目的地の集落にもたどり着きます。しかし,そこには先回りしていたフィッダの姿が。

吉川氏:
 9章の山場ですね。

4Gamer:
 歌舞伎をとおして,偽っていた本心に気づかされたムハバードは,15年間も隠してきた想いをフィッダにぶつけます。それでもなお,凄惨な道を歩もうとする彼女でしたが,砂の薔薇の協力によって止められ,戦いの幕は閉じます。ムハバードの「根は男」を最大限まで引き出した,本当に素晴らしいシーンでしたね。

吉川氏:
 ありがとうございます。とても嬉しいです。

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西氏:
 感情が乗っていましたよね,いつも以上に。……これはプライバシーに関わることなので,あまり大きな声では言えませんが,どうやら吉川さん,これを書いているときに女性に振られた直後だったらしく――。

吉川氏:
 おいおーい! 完全に言っちゃってるじゃないですか!

西氏:
 マズかったらあとでカットしといてください(笑)。ただ,とにかくベストタイミングすぎて感情移入がいきすぎてしまったらしく……初稿の段階ではムハバードの言動に,ウェットな自分の気持ちが漏れ出ちゃってたんですよね。

S氏:
 あっはっはっはっは(笑)。

海富氏:
 重なっちゃったんですよね。ちょっと生々しすぎたんですよね(笑)。

4Gamer:
 これはノーカットですねえ……。吉川さんの魂である砂の薔薇らしく,シリアスな現実も「弄って」吹き飛ばしましょう。それでそれで。

西氏:
 9章の初稿を見せてもらったら,明らかに普段と雰囲気が違うんですよ。そこで事情を聞いたら思わず笑いそ,心配になってしまったので「ここまでいっちゃうとプレイヤーさんが共感できないから抑えて抑えて……」「ムハバードが魅力的に映るギリギリのギリギリのところまで頑張って……」とカウンセ,お願いをして,調整してもらいました。最終的にはとても素晴らしいお話になったと思うので,結果オーライです!

吉川氏:
 「これじゃあムハバードがただのストーカーになっちゃうから……」と注意されました。

松永氏:
 あのときかー。西君がムハバードを重点的に直したあとにさ,僕のところに監修が回ってきたのよ。そしたらさ,ムハバードは良くなってたんだけど,仲間の言動がおかしくって,敵であるはずのフィッダとの恋をすごい前向きに応援してたんだよね。「ドゥルダナの立場でそれ言っちゃう!? お前の因縁は!?」とか,「女性陣も目の前で村人が傷ついてるのにピュアに応援しちゃだめだよ!」みたいな,2人へのエールがすごくて(笑)。

西氏:
 「かけてほしい言葉」だったんでしょうねえ……。吉川さんはウチのライター陣の中でも,とくに物語の文法や法則を重視するタイプで,「自分が漏れ出す」ことってこれまで全然なかったんですよ。しかし,恋は盲目と言いますし,周りの見方や,周りからの見え方も分かりづらくなっちゃったんでしょうねえ。まあでも,このときに生々しい体験をしていたからこそ,ムハバードに最高の活躍をさせてあげられたわけですし。

吉川氏:
 認めたくはないですけど……。

(一同笑)

S氏:
 これは今日イチですね(笑)。

吉川氏:
 僕の中では,5章の竜湖祭がよく書けたと思っていて,それからも「今後はあの水準で出し続けたい」と考えてきました。ただ,5章はそれまで積み重ねてきた伏線があればこその展開だったので,毎回あれをやるには,どこかからなにかを捻り出さないといけないんですよ。そこにちょうど失恋というエッセンスが現れたことによって,ただしく使えていたのかは判別できませんが,使えるものはなんでも使うという姿勢に至りました。

4Gamer:
 体験や人生すらもアウトプットしてしまう,クリエイターの業ですね……。体験しようにも気軽にはできませんし,すべて創作のためになっていますよ。きっと。たぶん。

S氏:
 創作のために(笑)。

画像集 No.032のサムネイル画像 / 「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた

西氏:
 繰り返しになりますが,皆さんにお届けしたシナリオは,純粋にムハバードたちのことだけを考えて,時間をかけて手直ししたものになります。その点はご安心ください!

4Gamer:
 大丈夫でしょう。今の話を聞くまで「ははーん,このライター失恋しているな?」とは1ミリも思いませんでしたし,ちゃんとムハバードの物語になっていました。そして作中ではフィッダがいまだ目を覚まさず,それぞれの恋がどのように転ぶのかも分からないものの,いい着地点は見えてきたんじゃないかという雰囲気です。

吉川氏:
 フィクションの中はですけどね。

4Gamer:
 やめてください(笑)。ゴホン,そして弦月の一族の詩を手に入れた一同は,最後の詩を探すために砂漠に戻ります。そこでドゥルダナは,これから先の危険を考えて「湖都に帰ったら一座を解散する」と告げました。しかし,すでに砂の薔薇から離れるつもりのメンバーは誰もいなかった。こう巧みに締められると「次からどうなるんですか」って質問をできないんですが,今後の意気込みとなると。

吉川氏:
 はい。エシャル篇ではこれから先,砂の薔薇だけではなく,人と人とのつながり,結束,絆が大きな力になっていきます。これはチェンクロのメインテーマでもありますので,それを表すためにと,9章のラストシーンではドゥルダナと砂の薔薇のメンバーがあらためて結束を固める,そんな場面を描きました。ほかの主人公たちと同様,エシャル篇も怒涛の10章に向けた準備を整えられましたので,どうぞご期待ください。

4Gamer:
 期待しております。さてと,大変お待たせしましたが,いよいよ最後のヘリオス篇です。ラストスパートといきましょう。すでに延長戦ですが。

風術師氏:
 3時間でもダメでしたね(笑)。


風術師氏に聞いた,ヘリオス篇(8章〜9章)


4Gamer:
 ヘリオス篇は風術師さん,松永さん,元担当ライターの西さん,それぞれお話しいただいても結構です。まぁ,「まだ言えません」が多々あるのは察しておりますので,そのつもりでいきます。

風術師氏:
 どこまで喋っていいのか,なんて説明すればいいのかで,難しいんですよね(笑)。

4Gamer:
 ヘリオス篇の8章では,「白の預言者」が持っていた,「白のクロニクル」の行方を追い,ヘリオスたち義勇軍が王都から旅立ちました。その道中,白のクロニクルの記述とされる「白の紙片」を見つけたところ,謎の白ずくめの男たちに包囲されてしまいます。

風術師氏:
 ここではまだ謎の集団でした。

4Gamer:
 まずヘリオスについては,王都での経験をとおして,自分が憧れていた義勇軍がただ華々しく活躍していただけでなく,その裏にはさまざまな葛藤があって,伝説に至ったんだと知りました。一歩ずつ着実に成長している印象です。

風術師氏:
 ええ,義勇軍に憧れる少年ヘリオスは,出会いと憧れのままに旅をはじめましたが,伝説の義勇軍に入ってから彼らと実際に対話し,彼らなりの苦悩を知ったことで,またひとつ成長しました。物語としても,5章で自分たちが抱える使命に気づきましたが,再スタートとなった8章からはさらに,クロニクルの欠片の問題,トロメアのクロニクルの謎,消えてしまったシャロンの行方などを,義勇軍とともに追っていくことになります。

4Gamer:
 最初の目標となったのは「白の紙片」でしたが,デザインが禍々しいですね。ひと目でヤバそうなのが分かりますが,「ヤバそうな感じで」とかオーダーしたんですか。

風術師氏:
 白の紙片は,白のクロニクルの直接の1ページであり,白き異形が紙片になったものとは比べ物にならない力を秘めています。そういう危険性を示せるよう,直感的に分かりやすい差別化を図れるようにと,デザイナーさんにお願いしました。

画像集 No.033のサムネイル画像 / 「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた

4Gamer:
 なるほど。それと最初に物言いなのですが,義勇軍の隊長が加わってから,場の雰囲気でなんとなく察していますが,隊長が場面にいるのか判別しづらいんですよね。以前のように「そもそもいる」の視点で見るべきなんでしょうが,第3部も思えば長くなり,これまでの俯瞰視点に慣れていたのか,まだピントが合っていないようで。そのうち時間が解決してくれるだろうと思いますが,選択肢で呼びかけられると思わず「あっ,いたんだ」とハッとしてしまったり。

風術師氏:
 ヘリオス篇は原則,常に隊長がいるイメージでやってはいるのですが,明確に「隊長がいない視点」も混ざっているのは確かです。

西氏:
 例えばですが,ヘリオスとトロメアが夜の海辺でしんみりしているシーンがあったとして,そこが隊長が黙ってジッとしている視点だったら嫌ですから(笑)。

風術師氏:
 まだ描写の書き分けが不足しているのかもしれません。監修でも「ここはもっと隊長がいる感じで」と指摘を受けることがあるので,今後はさらに洗練させたいと思います。

4Gamer:
 あと半年くらいは「今は隊長います! 隊長視点です!」を表す,補助ランプとか欲しくなりました。

西氏:
 隊長アイコンですか(笑)。

4Gamer:
 個人的には,フィーナやピリカなどの伝説組がいるときは「これはいる」と断定し,ヘリオスやトロメアがフォーカスされているときは「もしかしたらいない」と判断しているかも。細かいことを気にせず,雰囲気で読んだりもできますが,そうすると気づかぬうちに読み方が浅くなってしまうかもなので,ここも重箱の隅をついておこうとの次第で。

松永氏:
 そうですね。今おっしゃっられたような部分も含めて,現状でもルーリングはしているのですが,プレイヤーの皆さんにもっと気持ちよく安心して読んでもらえるよう,今後の課題として精度をより高めていきたいと思います。

4Gamer:
 ゲームならではの一人称と群像劇の融合,期待しています。話を戻すと,ヘリオスたちは街での証言を頼りに,街外れの森林に足を運びました。するとそこで,世界を救うと宣言する,先の白ずくめの集団「救済教団」と,彼らを率いる十七聖人「シエラスエス」に遭遇します。彼女の“世界を破壊と再生の輪廻の中に戻すべき”という主張は,まさに第2部ラストの決断に対するアンチテーゼと言えます。

画像集 No.034のサムネイル画像 / 「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた

風術師氏:
 おっしゃるとおりで,第2部ラストで義勇軍がした決断は,世界を前に進めるため,破壊と再生の理を消滅させることでした。しかし,その結論を誰しも素直に受け取ったかというと,そうではなかった。ヘリオス篇ではこれまで謎とされてきた十七聖人が次々と登場していますが,その中だけでも,新たに歩みはじめられたリリスもいれば,義勇軍を憎悪するエンブラントもいます。義勇軍にとって既存の世界は理不尽なものでしたが,理の側にいたものにとって,それは“救済”だったからです。

海富氏:
 行いはどうあれ,シエラスエスたちの考え方自体は筋がとおっていますからね。むしろ,十七聖人として使命を果たそうと人生をかけていたのに,義勇軍によってはしごを外され,その活躍も広く認知されたことで,彼女が身を捧げた世界が間違いで,今の世界が正しいという世論になったのですから,他意はあって当然でしょう。それに今の世界では,生命が自由や尊厳を手に入れたとは言えても,世界がいつまでも続くかの保証はありません。義勇軍は第2部であの結論にたどり着きはしましたが,ゲームの内外でシエラスエスのような考え方をした人が他にもいると思うので,それが代弁されたとも言えます。

4Gamer:
 正義と悪ではない,正義と正義って感じですね。見方によっては英雄とも破壊者とも映ると。難しい。

風術師氏:
 世界という大きなものを変えたのですから,目の届く範囲以上の多大な影響があって然るべきです。そして5年を経て,あらためて提示されたこの問題に,ヘリオスたち義勇軍はどのような結論を出すべきなのか。これがシエラスエスの登場によって生まれた,チェンクロの物語が避けてとおれない課題と言えます。

4Gamer:
 当のシエす,シエラスエス。呼びにくい……(笑)。

風術師氏:
 分かります(笑)。

4Gamer:
 シエラスエスはかなりの強敵でした。便宜的な言い方ですが,あらゆるものをワープさせる異能「送別」,王都を覆っていた白い光による防御能力,さらに精強な教団騎士たちも従えています。彼女らに苦戦する義勇軍でしたが,オルドレードの決死の突撃により隙が生まれ,ヘリオスと隊長の剣はシエラスエスに届きました。しかし,ここではエンブラントが乱入してきたことで,シエラスエスたちに逃げられてしまいます。このあたり,ちょっと面倒くさい質問をさせていただくのですが。

風術師氏:
 なんでしょうか。

4Gamer:
 シエラスエスの異能「送別」は本来,世界の滅びのとき,(聖人だった)リリスが選んだ人々を,チェンクロの年表でいう“次の世界への入口”に送るものですよね?

風術師氏:
 はい,そうです。

4Gamer:
 とくに決まっていなかったら本当にいいのですが,世界に滅びが差し迫っているとして,送別のゲートをくぐる場所が「現在の世界」だとして,ゲートをくぐった先が「間もなく破壊されて再生する未来の世界」だとして,このときゲートの対象座標とか,現在と未来の世界の時間差とか,仮にシエラスエスが死んでしまってもゲートは残り続けるのかとか,それはいつ消えるのかとか……どうなんでしょう。ただのSF的な思考実験ですけど,どうしても気になってしまい,夜も眠るのがちょっと遅くなってしまうんですが。

松永氏:
 その角度のつっこみがくるのは予想外でしたね(笑)。

白沢氏:
 一応ですが,「次の世界までの道筋」という設定自体は,理系脳的なロジックでも用意していて,別のところで送別の能力をフォローするような構想はあったはず……。先々の展開でスルーの判断もありえるので,なんとも言えませんが(笑)。

松永氏:
 それと十七聖人の力については,「滅びの時」のまさにその瞬間に発現する力と,平時に使える力に差異がある者もいる想定です。たとえばシエラスエスも,今のタイミングでは新しい世界へのゲートを開くことはできません。彼女の力だけとっても,現時点では決まった物差しで測りきることはできないんです……とか,いろいろ細かな設定を詰めてはいるんですが,ストーリーの表に出す機会はなかなかないという。

風術師氏:
 リヴェラや十七聖人なども昔から設定は存在していましたが,それに迫る場がなかったので明かせなかっただけですしね。その点,世界の真相に踏み込んでいくのがヘリオス篇ですので,ぜひチェンクロの根幹に徐々に迫っていってください。今の質問に答えられるほどの情報量を盛り込めるかは別として(笑)。

画像集 No.035のサムネイル画像 / 「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた

4Gamer:
 早く寝られる日を楽しみにしています。その後,重傷を負ったオルドレードは,アリーチェを探していたベルタたちの助力で一命をとりとめました。それから一行はアリーチェ探しに協力していたところ,またもや救済教団に襲撃されましたが,今回は善戦します。しかし,そこに突如現れたのが謎の双子「エノシュ」と「メトセラ」でした。ヘリオスをお兄ちゃんと,トロメアをお姉ちゃんと,白の預言者をお母さんと呼ぶ,さらなる謎の敵ですが……詳しくは来年とかでしょうかね(笑)。

風術師氏:
 ええっと……なるべく早く明かせるよう,善処します(笑)。

松永氏:
 双子の登場からが,ヘリオス篇の後半戦の幕開けですので,よろしくお付き合いください。

海富氏:
 どういうボスにしようかと考えていたとき「子供がいいんじゃね」ってのは決まっていて,そのあと松永さんが「双子はどう」って言ったんですよね。

松永氏:
 そうだったかも。なんでそんなことを言ったかというのは,もろにネタバレにつながるので言えませんけど……(笑)。

西氏:
 情報だけ整理しておくと,7章で撃退された白の預言者は現在,どこかに消え去りました。なので,ヘリオス篇は8章開始時点ではボスが不在となっていたのですが,そこにエノシュとメトセラが現れました。

風術師氏:
 白の預言者は,その姿や言動だけ見ても「なにか裏がある」と分かりますが,まだ隠された謎が多いです。それらの裏にたどり着くのに,白の預言者を直接介するのではなく,違う語り手を用意したという形です。預言者と双子の間につながりがあるのは明白ですので,今後は彼らをとおして,その先にいる彼女の思惑に迫っていくことになります。

4Gamer:
 じゃあ,白の預言者は現状「(7章で一旦)退場した」と考えてもいいのですか?

風術師氏:
 そこはー,フワッと捉えてもらえると(笑)。白の預言者は死亡を確認したわけでも,死体が残っていたわけでもないので,生死も不明です。

松永氏:
 いろいろ謎を残したままですが,7章でヘリオスたちと義勇軍の一同が,白の預言者の凶行を打ち破り,退場させたのは間違いないです。いろいろな謎を残したままですが。

4Gamer:
 預言者も双子も教団も,白の関係者らはまだ意味深なことしか言ってませんしね(笑)。物語では,双子たちがその場を去り,ヘリオスたちもあらためてアリーチェを探します。しかし,その最中に別の場所で,新たな脅威を感じ取りました。後ろ髪を引かれつつ別れた義勇軍が向かうと,そこは救済教団を信奉する村でした。教団が語る滅びを受け入れる村民たちに,間違っていると言えないヘリオスは歯がゆさを感じます。なんでもそうですが,正否のないものになんやかんや述べるのは難しいですね。

風術師氏:
 このあたりの対比を強めるため,ヘリオスは6章,7章,8章と続けて「前向きに生きる姿勢」を持たせてきました。しかし,ここではヘリオスが感銘してきた考え方とは異なる,真逆の発想に触れます。なんでそんなことを言い出すのか,まったく理解できないけれども,対話しようにも打ち切られてしまう……という場面はクエストにヘリオスv1を連れていくと見られるSPシナリオで確認できるので,ぜひともご覧ください! ヘリオスv1はヘリオス篇 7章のクリア時に入手できます!

S氏:
 突然の宣伝(笑)。

松永氏:
 ナイスアピール(笑)。

4Gamer:
 仕事しますねえ。その晩,ヘリオスは双子に村外れの砂丘へと呼び出され,義勇軍の仲間と向かいました。そこで,トロメアがこのままチェインクロニクルを継承したら,彼女は大きな力に耐えきれず死ぬと宣言されます。さらにエノシュは「これから見せる,もうひとつの可能性の世界を避けるために自分たちが存在している」と口にし,ヘリオスとトロメアをどこかに連れ去りました。ここは核心なので,次の場面も足しましょうか。

風術師氏:
 そうですね。

4Gamer:
 エノシュが見せたのは,アポロやカインと出会うことなく,トロメアがチェインクロニクルを継承し,世界中のクロニクルが彼女の元に集まって停止した,荒廃後の世界でした。そこでは多勢に「クロニクルの簒奪者」「この世界を未来を返せ」と罵られ,その身を追われる3人の姿があります。そして逃亡中,トロメアを狙った民衆の剣は,彼女を庇ったヘリオスの身体を切り裂き,ヘリオスはトロメアの目の前で絶命しました。失礼に思われたら申し訳ありませんが,心の中の第一声は「デビルマンや!」でした。

S氏:
 (大ウケ)。

4Gamer:
 というのは置いといて,このシーンに至るまでは,何度もリライトを重ねてきたのではないでしょうか。

画像集 No.036のサムネイル画像 / 「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた

風術師氏:
 松永さん,西さんと何度も何度もキャッチボールさせていただいた場面でしたね……(笑)。「クロニクルってのはこういうものだ」「この世界にはこういう関係性があって」と,チェンクロの深い部分の設定を,自分の中であらためて咀嚼し,この周辺を描いていきました。実際,手直しも結構な量になってしまいました。

松永氏:
 ここは揉んだよねえ。

風術師氏:
 シナリオの土台の書き直しもそうでしたが,明かすべき設定や謎を切り替えたり,公開する情報の取捨選択をしたりと,完成稿まで非常に長かったですね。

海富氏:
 物語の核心ですもんね。書き方ひとつで全部分かってしまうなんてことにもなりかねないですし。

風術師氏:
 それが大変で大変で……。

松永氏:
 設定の整理も大変でしたが,整理した設定をただ見せるだけでは話としてつまんないんですよね。やはり,登場人物の感情のドラマがあって初めて熱くなるんです。それで言うと今回は,エノシュとメトセラの想いをしっかり描くことに注力しました。双子がただ強いだけのテンプレな強敵だとつまらないので,まだ謎だらけだけど,その謎は謎のままに,彼らの生の感情をしっかりと伝わるようにしようと。さらに,それを一方的に言い捨てるだけじゃなく,ちゃんとヘリオスたちの感情ともぶつかってつながるストーリーを目指しました。でも,それを設定の提示と並行してやろうとしたので大変だったわけです。

風術師氏:
 ただ超常的な存在なのではなく,彼らにも思考や思惑があって,論理だけではない感情もあってと,「そういうものがヘリオスの心情と真正面からぶつかるような構図にできればいいね」と相談してきた結果でした。

松永氏:
 プレイしてくれた方々に「ヘリオスたちの気持ちも伝わるし,双子たちの気持ちもなんか伝わった」と感じてもらえていたら,成功だなと思えます。第3部の大きな方針は“群像劇”です。だから,第2部の観念的な敵であった「黒の根源」とは対照的に,第3部の敵キャラクターたちもそれぞれドラマを抱えています。ヘリオス篇はまだ謎が多い段階ではありますが,白の預言者や双子も主人公たちと同じように感情を持ってもらいたい,そうやって敵味方含めて“群像劇らしく”を心がけてきました。

 「そうしていきたい」の気持ちだけでどこまで持っていけるのかは,未だに担保されてはいませんが,彼らの運命がぶつかって交わっていく様子が,謎がほどけていくほどに熱く感じられる――そういう物語にしていきたいと思っています。これはヘリオスだけじゃなくて,エシャルやアマツたち,各主人公の物語すべてに言えることです。

画像集 No.037のサムネイル画像 / 「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた

4Gamer:
 プレイヤーとしても「現時点で白の関係者らを敵と断ずると,あとで手のひらをクル―ッとしなきゃいけないかもしれないから,分かっている感を出しつつ,静観する」というポジションにいます。

白沢氏:
 私はヘリオス篇を読んでいて,「ああーこういうふうに書いたのか。これだとこっちは“あっち”をもっと深くしないとダメかも」と思っていました。

風術師氏:
 「あっち(意味深)」ですよね。

白沢氏:
 ストーリー全般の内容や公開時期も踏まえて,「あっちの物語はあっち方面に行ったから,こっちの物語はこっち方面を伸ばすか」の判断もできないと,似た展開で被ってしまうこともありますしね。

4Gamer:
 考えることが多い……。それでは話もラストです。ヘリオスとトロメアが生き残る未来はひとつもないと告げるエノシュに,ヘリオスは「今の俺たちは大切な仲間たちと出会ったんだ」と力強く返答し,メトセラとの一騎打ちに臨みます。しかし,目の前に立つメトセラは,ヘリオスと同じ「白い剣」を持っていました。

 心の強さが力になる剣で,どちらの心がより強いのかとぶつかる2人。そして,ヘリオスの欠片であり,命でもある白い剣は叩き折られました。そのまま絶命してしまうヘリオス……かと思いきや,彼は死ぬはずの身で立ち上がります。それに興味を抱いた双子がどこかに消え去ると,ヘリオスは再度倒れ伏し,呼吸が止まりました。「絶対に死なせない!」と叫ぶトロメアは,その手に白の紙片を持ち――ヘリオス君,また死んでしまいました。

西氏:
 いえいえ! 「絶対に死なせない!」なので,まだ死んでいるかどうかは不明です!

松永氏:
 まだです。

風術師氏:
 まだなんですよね。

4Gamer:
 紙片が禍々しすぎて,良い予感はしませんが……。

西氏:
 ヘリオス篇もほかの主人公たちと同じく,次の山場となる10章に向けて準備を整えてきました。8章と9章で加速してスピードをつけ,そのスピードを保ったまま10章に突入していく。そういう姿勢を見せるための「引き」です。そうして迎える第3部10章は,全ルートが今までで一番面白いはずです!

風術師氏:
 ハードル上げますね……。

S氏:
 一番手はアリーチェなんですけど……。

海富氏:
 アリーチェ篇も最高に盛り上がっていきますよ!

西氏:
 大丈夫です。もう全篇面白いですから! それに10章がピークなのではなく,そこからもずっと上昇し続けていきますし!

松永氏:
 もしも10章が終わったあとにインタビューしていたら,「次の11章はさらに半端ないですからね!」とか言いますしね(笑)。

西氏:
 今後はずっと言い続けると思います(笑)。

4Gamer:
 例年のペースから察するに,2019年も各主人公で3章ずつ,計15章の配信が目標ですか。

松永氏:
 正直,どうしようかと相談中です。というのも,ここから物語が佳境に入っていくにつれ,相応のクオリティまで高めて,ボリュームもギュッと詰めて,プレイヤーの皆さんにきちんとしたものを届けたいと考えているので,練りこむための時間はもう少し必要になるかなと。さっき言った「ここから先はずっと上昇していく」というのは本気なので。

4Gamer:
 単純な話,シナリオ執筆のためのエネルギーがどんどん上がっていくわけですもんね。今までにしてもそうだったでしょうし,その上昇曲線を保っていこうと心がけているだけでも,すごいことです。

風術師氏:
 「常に今が一番きつい」でしたねえ。

松永氏:
 永遠に上がっていくスタイルだからねえ。

4Gamer:
 ですよね。こんな環境での1年はいかがでしたでしょうか,錬金王さん。

錬金王氏:
 妙に答えづらい質問ですね(笑)。毎回皆さんがいろいろ考えてシナリオを書いていることは,見ているだけで分かります。とはいえ,私も「大変そうだなー」と見ていられるかというとそうでもなく,イベントやコラボごとの単発でまとまった物語を捻り出すのに毎回苦心しているので,傍目で見られるほどの心の余裕はないかもしれないです。

画像集 No.038のサムネイル画像 / 「チェインクロニクル3」ストーリーインタビュー第5弾。リヴェラ伝で描いたこと,第3部9章までの解説を,松永氏ら8名に聞いてきた

西氏:
 一緒に大変な思いをしてますよね(笑)。チェンクロはメインストーリーに負けず劣らず,イベントやキャラクエのシナリオ量もボリュームがありますし。

松永氏:
 コラボはコラボで,メインストーリーとはまた違う苦労がありますから。直近だと「とある魔術の禁書目録III」コラボを担当してもらいましたし,今この瞬間も次の「転生したらスライムだった件」コラボを抱えてもらっているしね。こちらのストーリーもかなり楽しいものになっているので,皆さんぜひともご期待ください。

西氏:
 クオリティ高まってます! インタビューの最初のほうでも言いましたが,チェンクロのシナリオチームは「メイン専門」「コラボ専門」と担当分けはせずに,その時々の全員野球で勝負しています。しかし,それを踏まえても,今後は錬金王さんにもっともっと頑張ってもらうことになるんじゃないかと……(笑)。

4Gamer:
 つまるところ,みんな余裕ありませんね……(笑)。

海富氏:
 大変なのは間違いありません(笑)。けれど,3部も10章まで続けていると,今までの積み重ねもあって,制作の大きな流れが自然とできてきたのを感じます。

松永氏:
 ストーリーを作っていると毎回「このタイミングで偶然出てきた奇跡」に出会うもんね(笑)。でもそれは,みんなが大きな流れに乗っかって書けているからだと思うし,そのライブ感と計算したストーリーが生み出している熱さこそが,第3部の物語の大きな魅力と言えるので。これから先もその“熱さ”をプレイヤーの皆さんに感じてもらえたら,大変嬉しいなと思います。それと,最後にいいですか?

4Gamer:
 どうぞどうぞ。

松永氏:
 大きな流れという点では,7章で明かされたクロニクルの欠片により,主人公たちの物語にもゴールのようなものが見えてきました。彼らがどんな答えにたどり着くのかは,第3部の大きな見どころとして,これからも括目していただければと思います。それと7章でフィーナが言った「それぞれの願いを果たすことで,クロニクルの欠片をひとつにできる」って説明。あれって実は,第3部の制作をはじめるとき,僕がライターのみんなに説明した物語構成の基本ルールそのまんまなんですよ。それをなんか思い出しました。

西氏:
 たしかに,そういう説明からスタートしましたね。懐かしい。

松永氏:
 逆に言うと,スタート時の統一ルールはそれくらいだったんです。主人公たちがどんな願いを抱いているのか。それを叶えるため,クロニクルから託される力はどんなものなのか。それくらいからはじまった各主人公のドラマや想いが,それぞれ担当しているみんなの中で今でも練りこまれ続けているのが,今日たっぷり時間をとって話してもらえたことで,すごく伝わってきました。僕はそう感じられて嬉しかったので,この熱量がインタビューを読んでくれた方々にも同じように伝わっていたら,もっと嬉しく思います。

 第3部もようやく本筋が見えてきて,主人公たちの物語も自分自身の願いと向き合うことで本格的に動きはじめ,ここからは各々が全精力を注いで,それこそ自身の恋すらもアウトプットするという,クリエイターとしての魂で勝負してもらう段階にやってきました! 今後は現状の盛り上がりに,さらなる盛り上がりをのっけていきますので,2019年のチェンクロのストーリー展開も,おおいに期待していてください!

4Gamer:
 ありがとうございます。綺麗な締めもいただけたことですので,今回はここまでといたしましょう。2019年の第3部の物語も,引き続きじっくりと楽しませていただきます。

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