インタビュー
[TGS 2013]「ソウル・サクリファイス デルタ」の共闘は競い合うから盛り上がる。コンセプター稲船敬二氏&ディレクター下川輝宏氏にインタビュー
「ソウル・サクリファイス デルタ」公式サイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。昨年の東京ゲームショウでソウル・サクリファイスをプレイした覚えがあるので,もう新作が遊べるのかと驚いています。本作には新要素がいろいろとあるとのことですが,とくに注目すべき点はどこになるのでしょうか。
前作では“生贄”と”救済”という要素を大きな特徴としていましたが,本作ではこれをより深めていくというのが,一番大きなコンセプトになります。前作では,生贄と救済のどちらを選んでも問題はなかったんですが,本作では生贄派なのか救済派なのかが,はっきり分かれます。
4Gamer:
勢力の要素ですね。
稲船氏:
そうです。ゲームを始めると,最初に「どこの勢力に所属しますか」と問われます。そしてどこに所属したかによって,戦い方やもらえるものが変わってくるので,自分がどこを支持しているのかが明確になります。これは何がしたいかというと,「何党を支持しますか」「どこの野球チームのファンですか」というような構図を作りたいんです。
4Gamer:
と言いますと?
稲船氏:
どの政党を支持しようと選挙には行くし,どのチームのファンであろうと野球は見ますよね。これをソウル・サクリファイスに当てはめると,敵を倒すという目的は一緒なので,自分が生贄派なのか救済派なのか,あるいは中立なのかに関わらず,主義主張の異なる人同士の共闘になるわけですよ。こういうシチュエーションって魅力があるじゃないですか。ドラゴンボールで強大な敵が現れて,ベジータは敵なんだけど,仕方なく手を組む……みたいな。
4Gamer:
敵の敵は味方というか,ライバルと共闘するのは確かにアツいシチュエーションです。
稲船氏:
そういう感情を持ってもらうために,今回は中立を加えた3勢力をウリにしています。タイトルの“デルタ”も,3勢力にちなんでつけたものですね。
4Gamer:
今回,中立の勢力が増えて疑問に思ったのですが,前作では敵の素性やバックストーリーを戦闘中に見せることで,「こいつを助けるべきか,それとも殺すべきか」みたいな選択をプレイヤーに迫っていましたよね。その選択というのは,ソウル・サクリファイスの魅力の1つだったと思うのですが,今回あえて中立という選択肢を用意したのは,どういった意図によるものなのでしょう。
中立は半端というよりは,「どっちも選びたくない」連中なんですよ。システム的には,どっちも選んじゃってる感じはするんですけど(※運に任せてどちらも選ばないというアクションは,生贄と救済のボタンを同時押しすれば発動する)。組織に縛られたくないという連中が中立=グリムなんです。
4Gamer:
そう言われると,中立勢力はなんとなく格好良く聞こえますね。
稲船氏:
組織の方針にあえて逆らうというのもアリですけどね。
4Gamer:
所属は救済組織のくせに,なぜか生贄を捧げまくってるみたいな。
稲船氏:
そうそう。そういうの,格好良いじゃないですか。僕は昔「ロックマンX」で,イレギュラーハンター(暴走しているロボットを止める警察のような組織)の中に「ヴァヴァ」という,「むしろお前が暴走してんじゃん!」というキャラクターを入れましたけど,こういうやつ好きなんですよね。
4Gamer:
分かります。組織の中の異端児って,キャラが立ちますよね。
稲船氏:
僕は,ゲームシステムだけで格好良さが完結してしまうのは嫌なんです。ドラマチックというか,「ああ,このシチュエーション格好良いな」「ここでこういうキャラがいたらいいな」っていうのを想像できるようなゲームにしたい。
ソウル・サクリファイスは,ただモンスターを狩るのではなく,世界に入り込んで「俺はこう生きている」とか,本当は生贄にしたほうがいいけど「こいつはかわいそうだから救済してやりたい」とか,自分の物語を作れるゲームじゃないですか。勢力もそうですが,本作ではプレイヤーの想像力を刺激するために,いろいろな仕組みを入れてあります。
4Gamer:
インタビュー前に試遊版をプレイしてみたのですが,実際にそういうシチュエーションに遭遇しました。たまたま救済派のキャラが選択されたので,基本的には救済していたのですが,どうにもボスの赤ずきんを助ける気にならず「キャラとしては救済すべきなんだろうけど……」と思いながら生贄を選択するという(笑)。
下川輝宏氏(以下、下川氏):
そういうのも全然アリだと思いますよ(笑)。
ソウル・サクリファイスは「コンセプトからズレない限り
自由にゲームを作る」環境で作られている
4Gamer:
そういえば,今回の魔物はグリム童話をモチーフにしたものがいますよね。赤ずきんや白雪姫が,ソウル・サクリファイス流にデザインされていたので驚いたのですが,ああいったアイディアは稲船さんが提案されているんですか?
稲船氏:
いえ,提案自体は僕がしたわけじゃないです。でも,王道を外さずに面白さを膨らませるデザインになっていると思っています。僕は,よく彼ら(下川氏を指し)に「王道」を作るよう言っているんです。やっぱり,モチーフはみんなが知っているものじゃないとだめなんですよね。「響きは格好良いけどなにそれ?」って言われるような魔物は王道じゃない。赤ずきんちゃんを知らない人はいないじゃないですか。だからこそ初めて見たときに「こいつがそうなの!? ああ,でも腹から赤ずきんが出てるのか」みたいな,自分なりの解釈をして楽しめる。
デザインのプロセスとしては,まずは僕がバックストーリーを考えて,それをもとにデザイナーが形にします。それを稲船がジャッジするという流れですね。今回はあまりリテイクはありませんでしたが,稲船はもともとデザイナー出身なので、前作ではかなりのリテイクをもらいました。
4Gamer:
稲船さんは,そういったデザインや世界観の最終決定には厳しいんですか?
稲船氏:
細かな数値の調整とかはさすがにやりませんが,いろいろな部分でジャッジはしています。でも,細かくここを変えなさいというよりは,ズレている考え方を修正するという感じですね。
下川氏:
稲船にはアイデアというより,方法論やポリシーの部分でいろいろなことを言われます。例えば,王道と言うとすごく陳腐に聞こえるかもしれませんが,これは単純に王道を作れという話ではなく,「王道と斬新さを両立させろ」という指示なんですね。つまり,モチーフは絶対に外してはいけないけど,アレンジを加えなければならない。ここからズレるとリテイクになります。
稲船氏:
まあ,王道を作れって言って,本当にすごくキレイな王道ファンタジーを持ってこられたら,「こんなの誰が好むんだ」って矛盾したことを言いますよ。その場合は,なんで斬新さを入れないのか,なぜ斬新さが必要なのかということを伝えてあげれば,どんどん制作が進んでいきます。これはゲーム作りに対する,僕の昔からのスタイルですね。
すべてを自分でやるつもりはないし,すべてを任せるつもりもない。みんなが作ってるゲームのコンセプトがズレないよう,見張る役目です。
4Gamer:
まさにコンセプターというわけですか。
稲船氏:
コンセプトさえ守ってくれれば,自由に作ってくれていいんです。でも,そこがズレたら絶対に許さない。そこからはみ出したら,もう僕のゲームではなくなりますから。ただ,はみ出さなければ,下川も自分のゲームとして自由に作れる。それは下川が指示を出している人間も同じで,コンセプトを守っているのなら,デザイナーも自由にデザインしていいんです。こういった作り方がずっと続いているのが,ソウル・サクリファイスというゲームなんですよね。
心のないゲームはいらない
4Gamer:
最後に,疑問に思っていたので聞いておきたいのですが,本作が発表されたときに,稲船さんが「ただ共闘するゲームではなく,競い合って共闘するゲームにする」とおっしゃっていましたよね。これはどういう意味ですか?
僕が阪神ファンであなたが巨人ファンだとして,東京ドームに巨人阪神戦を見にいくとしますよね。当然,応援するチームは違いますが,一緒に野球を見ます。応援チームがないより,お互い応援しあって野球を見たほうが,絶対に盛り上がるわけです。言ってみれば,これまでのソウル・サクリファイスは,応援チームがない状態で野球を見ていたようなもので,ただ共闘していただけなんですね。
4Gamer:
なるほど。
稲船氏:
本作では勢力があるので,一緒に戦っているんだけど「お前はあまり役に立っていないじゃないか。やっぱり俺のプレイスタイルのほうが正しいんだ。だからこっちの勢力に入ればよかったのに」みたいなことを思えるわけです。逆にうまくいかないときは,「くそ,俺のスタイルが正しいことを証明してやる」ということになると思いますが,そういったシチュエーションを楽しんでもらいたいんですよ。
4Gamer:
昨年「生贄と救済を選択するゲーム」としてソウル・サクリファイスを触ったときにも思いましたが,システム云々というより,感情に訴えかけるようなゲームがお好きなんですか?
稲船氏:
そうですね。むしろそこにしか興味がないです。心のないゲームはいらないですよ。
ソウル・サクリファイスから,SCEJAさんが「共闘ゲーム」という言葉を打ち出していますが,今回のデルタで,さらに共闘が進化するんじゃないかと思っています。共に戦うところに競い合う要素が加わり,より楽しめるようになるはずです。共闘ゲームはいろいろ増えてきましたが,その中の一番として,ソウル・サクリファイス デルタを推してもらえると嬉しいですね。
下川氏:
今回,“新創”ソウル・サクリファイスと銘打っていますが,これには新しいものを用意したという部分と,前作で足りなかった部分をリニューアルしたという,2つの意味を持たせています。ぜひ体験してください。
4Gamer:
ありがとうございました。
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