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バンタングループの学生達による「箱庭のフォルクローレ」シナリオコンテスト開催。受賞作品はイベントシナリオとして導入予定
箱庭のフォルクローレは,誰でも知っている「童話」の世界を独自の切り口で描いた物語が人気のシミュレーションRPGだ。このコンテストは,シンデレラや赤ずきん,白雪姫,眠り姫といった童話のキャラクターを使ったオリジナルシナリオを,専門学校でゲーム制作を学ぶ学生達に作ってもらおうという趣旨で実施されたものとなる。
コンテストの司会進行は,「ハンゲ太郎」としてお馴染みのNHN PlayArtゲーム本部イベントチームマネージャーの荒井 淳氏が担当し,箱庭のフォルクローレの「PR大使」も応援に駆けつけコンテストに華を添えていた。
なお,当コンテストの審査員は,ディレクターの星野忠行氏,NHN PlayArt 経営戦略チーム広報 野尻清美氏,そして,PR大使が務めている。
9人のコンテスト参加者が,自分で資料を作ってプレゼン
NHN PlayArt「箱庭のフォルクローレ」運営ディレクター 星野忠行氏 |
バンタンゲームアカデミー 石井優樹氏 |
シナリオコンテストに先立って,星野氏が学校を訪れてオリエンテーションを行っており,学生達はそれぞれアイデアを出してコンペ資料を作成している。コンテスト当日は,その資料を使ってNHNの関係各位に向けてプレゼンテーションを行った。なお,星野氏から学生に出されたテーマは「ホラー」もしくは「SF」で,学生が制作に要した時間は1か月半程度だという。
続いてバンタンゲームアカデミーの石井優樹氏からコンテストの開会宣言が行われた。石井氏によると,今回のコンテストは,NHN PlayArtとバンタンゲームアカデミーの協力体制により実現した企画だという。
では,発表された作品を順番に見ていこう。各作品とも細部まで設定にこだわっており,15分という発表時間をフル活用してアピールしてくれた。ただし,ここでは,スペースの都合もあり,概略のみの公開であることを,あらかじめご容赦願いたい。
「私が二人になったなら」
シナリオライター・ノベル専攻 児玉翔矢さん
児玉さんの作品は,SFをテーマにしたもので,妄想癖のあるシンデレラと裏表のはっきりした白雪姫にスポットを当てている。児玉さん自身,二人のキャラクター性に興味を引かれてシナリオを起こしたという。
物語は,シンデレラと白雪姫が,触ると自分の姿になる“マネキン”を発見したところから始まる。「もう一人の自分がいたら」という,誰もが一度は考えたことのある妄想を現実にした二人。最初はマネキンを使って楽をしたり,いたずらをしたりして楽しく過ごすも,次第にマネキンの使い方がエスカレートしていく。そしていつしか,自分の居場所がなくなっていくように感じてしまい,最後は,自分の行いを反省しつつも普段の生活も悪くないと,二人は前向きになるのだった。
トップバッターということもあり,少々緊張した様子だったが,発表は堂々としたものだった。星野氏からは「『もう一人の自分がいたら』という身近なテーマを見事に作品にしましたね。ワクワクする感じがうまく表現できていると思います」と評された。PR大使の有川知里さんは「ファンタジーの世界観の中にSFというテーマを落とし込んだときに違和感が出るのでは思っていたのですが,この作品は見事に落とし込めていて,さすがすごいなと思いました。ステキなシナリオですね」とコメントしていた。
「シンデレラ夢想紀伝〜私,世界を救います〜」
シナリオライター・ノベル専攻 末原拓郎さん
シンデレラの妄想癖が発想の原点とのことで,主人公はやはりシンデレラ。作中では“妄想が暴走”してしまうらしい。そのほかのキャラクター達も,それぞれSF的なポジションで配役されているが,細かい設定が個性的で会場の笑いを誘っていた。なお,物語の目的は「世界を支配しているアニーラを倒すこと(もちろん妄想で)」とのこと。
SFの本に吸い込まれてしまったシンデレラ達。本の中は機械に支配されていて,妄想を具現化する研究から「リアルドロップ」というリングの開発に成功していた。そのリアルドロップを悪用するアニーラを倒すためには,たくさんの“妄想力”が必要となるのだ。シンデレラ一行の旅は,妄想から始まり妄想で終わる……のかもしれない。
シンデレラのキャラクター性を爆発させたこの作品。野尻氏は「妄想するといろいろな世界に旅立てます。新しい楽しみ方ができるよう,箱庭のフォルクローレの中で妄想を具現化していただきたいと思います」と語った。また,アイシスさんは「キャラクターの性格を壊さずにSFの世界にちゃんとマッチさせていて,好みです」とコメントを残してくれた。
「家出の先は底の底」
ゲームプランナー専攻 二ノ宮真央さん
実際にゲームをプレイしてみて,箱庭のフォルクローレに登場するキャラクター達に魅力を感じたという二ノ宮さん。そのキャラクターの魅力を活かすため,全17キャラのオールキャストを登場させるシナリオを考えたという。その中で注目してもらいたいのは,“王子レイの女装姿”だとか。なお,プレゼン資料には,プランナー専攻ということで,衣装の差分表記などもしっかり明記されていた。
シスとケンカをしてしまったサファが,仲直りをするためにプレゼントを探していると,洞窟の入口を見つけてしまう。この洞窟の先には地底世界が広がっていて,サファとガーネは地上の人々と似ているようで似ていない“地底人”と交流していく。はたして目的のプレゼントを見つけることができるのだうか……。
コンテストでは,全体的に今風のライトノベル的な設定のシナリオが多く見られたが,二ノ宮さんの作品はどちらかというとジュブナイル的というか,本人が読んでいるかどうかは定かではないがハヤカワSF文庫の香りがする設定だ。男子には地底世界という設定だけで心躍る人もいると思う。ちなみに,女子の荒木奈々さんは「王子の女装見てみたいです!」と,別の設定が刺さっていた様子だった。
「BLOODY†GARDEN〜愛と狂気の箱庭〜」
シナリオライター・ノベル専攻 麻生結依さん
麻生さんは箱庭のフォルクローレをプレイし「さまざまなキャラクターの視点から物語を見れる」点に魅力を感じたようだ。シナリオは王子レイの視点で語られることになるが,プレイヤーにはかわいいキャラクターたちを救いたい,守りたいという気持ちでプレイしてもらいたいという。
コンセプトは「洋館ホラー×執着型ヤンレデ王子」。ホラーらしい怖さと人間の強い感情,本当に怖いのはどちらか──狂ってしまうほどに愛おしい感情を持ってしまう王子様と,そんな王子様に監禁されてしまうお姫様。二人の物語は,いったいどんな展開を見せるのか。ファンタジー世界に生きるキャラクター達を,いかにサイコスリラー風の物語に溶け込ませるのか。
詳しくは紹介できなかったが,全8話分のあらすじも決められていて,全編シリアスに話は進む。コメントを求められた叶恵まそらさんは,その点を評価し,「コメディにオチがつく話が多いなかで,シリアスなシナリオになっているところがよかったです」と語っていた。
「スイーツ ファン死ー タイム」
シナリオライター・ノベル専攻 串木聖治さん
串木さんが箱庭のフォルクローレをプレイし始めるとすぐ,腹黒でツンデレな白雪姫に興味を持ち,同時に虐めがいのあるキャラクターだとも感じたようだ。プレゼンでは,最初に「怯えたり,泣いたりしている女の子ってすごく魅力的だと思いませんか?」という作品のコンセプトを披露。性癖の独白とも取れるような発言に,会場は笑いに包まれる。
登場人物は,たぶん怯えたり泣いたりするであろう白雪姫を筆頭に,シンデレラや眠り姫など主要なキャストは全員登場する。ただし,白雪姫以外はゾンビとして。なお,ここでいうゾンビは,箱庭のフォルクローレのファンシーな世界観を壊さないよう,スイーツやらお菓子やら甘いものが大好きな“甘党ゾンビ”という設定になって,縫われたヌイグルミのようなツギハギの姿が特徴だ。
物語の最終目的は,ゾンビのいる世界から歪みを取り除いて脱出すること。ツギハギだらけのゾンビ達から逃げながらも,白雪姫達は歪みの原因が洋館にいる魔女コロネだと知り,立ち向かうことを決意する。しかし,一行を待ち構えていたのは“最恐”の大剣使い,赤ずきんのゾンビだった……。
この赤ずきんゾンビとの対決シーンでは,思わず泣き出してしまう白雪姫が萌えポイントになっているそうで,シナリオ中最も力を入れて書いたのだとか。
笑いあり,萌えあり,そしてゾンビありのホラーコメディ。白雪姫を担当しているPR大使の橘結衣奈さんは,「白雪姫は大好きなんですが,泣いてる顔も見てみたいと思ってしまいました」とコメント。また,プレゼン資料の最後に書かれていた白雪姫の「ほかの脇役達は全員ゾンビだなんて,かわいそすぎて涙がでちゃう」というセリフが,白雪姫らしくて気に入ったとのこと。
「シンデレラのクリスタル・ウエポン」
シナリオライター・ノベル専攻 宇路正敏さん
ホラー作品ということで敵役としてゾンビが登場するが,好きな人のことを思って作られた“愛の力”が込められた物(武器)でなければ,そのゾンビ達を倒せない。ここでは,王子様のために作ったシンデレラのアップルパイが武器になる。
物語の目的は,突如発生してしまった“謎の黒い霧”を封印すること。どうやらこの黒い霧がゾンビ出現の鍵を握っているようだ。その目的達成までの道筋は,義妹達がゾンビ化したり,唯一の武器であったアップルパイがなくなったりと,ホラーのお約束を押さえてはいるが,基本的にはコメディタッチで進む。なお,黒い霧を封印して目的は達成された……と思わせておいて,最後に大どんでん返しも用意されている。ゾンビを巡る事件の真犯人は……。
霧という得体の知れない物がジワジワと這いよってくる恐怖を,コメディタッチに一つの作品に仕上げていた。星野氏は「私自身ゾンビ物は好きでして,ゾンビといえばショットガンでヘッドショットしたいところですが,そこはあえて『愛の力』にして,箱庭のフォルクローレをプレイしているお客様でも読みやすくしてくださった点は良かったです」と評価した。シンデレラを担当するアイシスさんは「どのくらいシンデレラが好きなのか,伝わりました。私自身シンデレラは好きなキャラクターですので,実際にゲームになったシナリオを読んでみたいです。アップルパイが食べたくなってしまったので,帰りに買って帰ります(笑)」とコメントを残している。
「アンドロイドは魔女が好き」
シナリオライター・ノベル専攻 中路 歩さん
邪悪な魔女を目指すコロネが殺人用アンドロイドと出会い,力を合わせて白雪姫を抹殺しようと頑張る。コロネは根っからの善人で,ことはうまくは運ばない。そんなコロネと,無感情に殺戮を行おうとするアンドロイドが見せるドタバタ劇が繰り広げられる。
基本的にはコメディタッチで物語は進むが,コロネと一緒にいるうちに無感情のはずのアンドロイドにも変化が起こり,いつしかお互いのことを気遣うようになっていく……。笑いだけでなく,泣ける要素も加わっているのだ。また,黒幕であるマザーコンピュータの正体を推理しながら読むことができるのも,プレイヤーにとっては楽しみの一つになりそうだ。
実際のゲーム内では脇役であるコロネの特異な性格と役割に注目し,彼女を主人公とした物語を構築した中路さん。物語はかなり練りこまれていて,思った以上にスケールが大きい印象だ。野尻氏から「少しストーリーが長いかなと思いますので,緩急をつけるようにインパクトをつけると,もっと面白くなるかもしれません」とアドバイスされていた。暗殺されそうになった白雪姫役の橘結衣奈さんからは「魔女とアンドロイドの間に友情や絆が生まれていて,話が深いですね。気に入りました」とのコメントが寄せられた。また,魔法使いロゼッタ役の有川知里さんからは「魔女を扱ったメインシナリオはありませんので,こうして掘り下げていただき,同じ魔女役として嬉しいです。わくわくするストーリーで長編アニメで見てみたいですね」と高い評価をしていた。
「ドリーム・クロック」
シナリオライター・ノベル専攻 吉田彩子さん
ワガママでマイペースな眠り姫だが,吉田さんの分析によると,実は孤独や疎外感を感じていて“切ない”かわいさがあるという。そこで用意したのが,夢に逃げようとしていた眠り姫に,友達がいる幸せに気づかせて夢から目覚めさせようというシナリオだ。
規則正しい生活を強要されて息が詰まりそうな眠り姫は,自分が住む城の片隅で不思議な柱時計を見つける。眠り姫がその柱時計に触れると……見慣れた城内が一変し,彼女の夢が現実の世界にあふれ出してしまう。柱時計は“夢を現実にする機械”だったのである。ちなみに,眠り姫の描く夢世界は,七人の小人が「テレビショッピングのお時間ですよ〜」と通販番組風に登場したり,学園コメディ風の演出がある。
どこから夢でどこから現実なのか。夢を現実にする機械というキーワードを中心に物語は進み,SFのショートショートを彷彿とさせる展開ではあるが,最後は眠り姫らしい,かわいらしいオチがついている。
コンテストも終盤に差し掛かり,ようやく眠り姫を主人公にしたシナリオが発表された。眠り姫担当の荒木奈々さんは「眠り姫は基本的に寝てばっかりで,何を考えているのか分からないことも多いのですが,夢の中を覗けるところは面白いと思いました」とコメント。叶恵まそらさんは「夢の内容が通販番組とか個性的で面白いですね。ラストも眠り姫らしいハッピーエンドで良かったです」とのことで,とくに女性から高い評価を得られる作品といえそうだ。
「一番怖いのはだぁれ……?」
シナリオライター・ノベル専攻 福田泰佑さん
(見た目は)か弱き乙女の白雪姫が,日本の会談に出てくる妖怪達と出会い,そのおどろおどろしさに翻弄される……かと思いきや,白雪姫がその腹黒さで上手をいって,逆に妖怪達を怖がらせてしまう。
箱庭のフォルクローレでは,最近「桃太郎」の話が実装されたとはいえ,基本的には西洋の童話がメインである。その中に,あえて日本の妖怪を登場させると,面白い“あべこべ感”が生まれるのではないかと,福田さんは考えたそうだ。
登場人物は,「四谷怪談」のお岩役としてアニーラ,「耳無し芳一」の芳一法師役で王子レイ,そして「番町皿屋敷」のお菊役としてシンデレラが抜擢され,腹黒い白雪姫と対決する。また,いじわるな妖怪として,座敷童(赤ずきんちゃん),雪女(ヴァネッサ),あかなめ(コロネ)といった面々もシナリオの脇を固める。具体的な話の流れは割愛するが,妖怪らしく振舞うキャラクター達と“腹黒スイッチ”が入った白雪姫の掛け合いは,痛快で見どころがありそうだ。
「ゲゲゲの鬼太郎」の大ファンだという福田さんの作品に対し,野尻氏から「日本の物の怪と西洋のストーリーをマージ(融合)させる発想はすばらしいと思いました。これからも期待しています」と高い評価を得ていた。また,アイシスさんは「妖怪のコスプレをしたキャラクター」に興味があるようで,ぜひ見てみたいと語っていた。
以上,全9名の発表が終了したところで星野氏が登壇し,コンテスト作品,そしてプレゼン内容に対する総評が語られた。
「皆様お疲れさまでした。大勢の視聴者がいる前でのプレゼンというのは,あまり経験されたことがないと思いますが,皆さん軽快に,要点を押さえて発表されており,素晴らしいなと感じました。皆さんにお願いしたテーマは『SF』と『ホラー』ということで,難度が高いかなとは思っていたのですが,ゲームに登場するキャラクターのポイントを押さえて,自分なりにアレンジしていただきまして,すでにプロの作品であると感じました。このたびは貴重なお時間をいただき,アイデアを出していただき,この場で発表していただけたこと大変嬉しく思っています。ありがとうございました」(星野氏)
最優秀賞を獲得したのは,中路歩さんの「アンドロイドは魔女が好き」
では最後に,気になる受賞作品の発表と審査員ならびに受賞者からのコメントを紹介しよう。
・最優秀賞 中路 歩さん「アンドロイドは魔女が好き」
星野氏からは「アンドロイドはSF的には定番ではあるのですが,その中で話の起承転結がまとまっていたのが良かったですね。プレゼンの資料もきれいに作れられていましたが,それが人によってはくどいと感じてしまうこともあると思いますので,要点を簡潔にまとめて伝えることが今後の課題になると思います」と,さらなる高みを目指してほしいという期待を込めて,やや厳しめのコメント。
中路さんからは,「話の内容もプレゼンも自分なりには自信を持って挑んだのですが,実際にこうして賞をいただけると嬉しいです。ありがとうございました」との喜びの声を聞くことができた。
・優秀賞 二ノ宮真央さん「家出の先は底の底」
二ノ宮さん本人からは「たった一人のプランナーから参加でしたので,アウェー感があって緊張しました。まさか賞をもらえるとは思っていなかったのでびっくりしています。これを持ち帰ってプランナー課に凱旋します!」というコメントをもらった。
・PR大使賞 串木聖治さん「スイーツ ファン死ー タイム」
「箱庭のフォルクローレ」公式サイト
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