レビュー
第一次世界大戦に翻弄される4人の主人公と1匹の犬が描く熱いドラマ
バリアント ハート ザ グレイト ウォー
ユービーアイソフトが2014年7月31日の配信開始を予定しているパズルアドベンチャーゲーム,「バリアント ハート ザ グレイト ウォー」(PC/PlayStation 4/PlayStation 3)は,第一次世界大戦下のヨーロッパを背景に,4人の登場人物と1匹の犬が繰り広げるドラマを絵本風の2Dグラフィックスで描いた作品だ。
「バリアント ハート ザ グレイト ウォー」公式サイト
独特のグラフィックスがまず目をひくが,それ以外の見どころも多くある本作を事前にプレイできたので,ここでゲームの内容やプレイフィールについてお伝えしたいと思う。今回プレイしたのはPlayStation 4版で,そのため,操作系などについてはそれに準じている。また,テスト版と製品版との違いもあるかもしれないので,その点はあらかじめご了承願いたい。
リアルな戦場の様子が,ドキュメンタリータッチで描かれる
ゲームの背景となるのは,2014年7月に開戦から100年を迎える第一次世界大戦。オーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者がサラエボで暗殺された事件を引き金に,やがてヨーロッパ全土を巻き込む世界戦争へ発展していった歴史の流れの中,生まれも境遇も異なる4人の男女と,彼らと共に行動する1匹の忠実なドーベルマンの物語が描かれる。
筆者が本作について興味を持つきっかけとなったのは,2013年10月23日に掲載した記事でお伝えした開発者によるプレゼンテーションで,そのときに見せられたゲーム画面に魅了されてしまったのだ。
本作には,同社が独自開発した2Dゲーム専用のエンジン「UBIart Framework」が使用されているが,同じエンジンを使ったRPG「チャイルド オブ ライト」の,水彩画のような表現ではなく,アウトラインがクッキリしたアメコミ(フランスだから,バンド・デシネと呼ぶべきか)やアニメを思わせるタッチで描かれている。とはいえ,アニメーションは非常になめらかで,戦闘シーンに登場するキャラクターの数も多く,さらにカットインや独自のエフェクトによる演出なども相まって,迫力ある戦場を再現しているのだ。
登場キャラクターは全員4頭身ほどにデフォルメされ,大人はすべて前髪やかぶり物などで目が隠れている。子供向けの絵本に登場してもおかしくない,愛嬌があって動きもコミカルなキャラクター達だが,舞台が実際に起きた戦争で,さらに史実と同じ戦場が背景ということもあり,彼らが銃撃や爆撃で次々に死んでいく姿や,折り重なった死体が山を築いているといった,かなり生々しいシーンも登場する。
なかでも塹壕に毒ガスが使われるシーンは,筆者がその事実を知らなかったこともあって,かなり衝撃的だった。ゲームで毒ガスは,明らかに体に悪そうな黄土色の煙で描かれ,主人公が触れれば当然ながらミスになってしまう障害物の一つになっている。
兵達が泥と土にまみれて戦う塹壕戦や,戦火が広がるにつれて廃墟となっていく街並み,飛行船や戦車など,グラフィックスの第一印象からは想像できないような,史実に基づくリアルな情景が次々と描かれていくが,そのリアルさをさらに後押ししているのが,物語の進行に合わせて見られる「史実」のページだ。
このページでは,第一次世界大戦を扱ったドキュメンタリー番組などから提供された,当時の貴重な写真と共に,ゲームで進行している戦闘の背景や登場する兵器,戦術などについての解説が読める。ゲームの背景としてはあまり出てこない第一次世界大戦だが,それがどれほど凄惨なものだったのか,ゲームを進めることで少しずつ分かるようになるという,資料的な価値も高い作品だといえる。
なお,ゲーム中にはナレーションが流れるのみで,登場するキャラクターはフキダシが出るときに一言二言話すのみ。それもかろうじて聞こえるかどうかの小さな声(おそらく,それぞれの母国語)になっているため,映画やドラマではなく,むしろドキュメンタリーを見ているような雰囲気だ。ピアノの旋律が美しいBGMをバックに,バタバタと兵士が死んでいくような場面が淡々と描写され,強い印象をプレイヤーに与えてくれる。
4人の立場が異なることで,ゲームにメリハリを与える
主人公は,1914年から1918年の西部戦線でさまざまな役割を担った人物達で,プレイヤーはそれぞれのキャラクターをゲームの進行に応じて操作し,物語を進めていくことになる。例えば,最初のプレイヤーキャラクターになるエミールは,フランス軍に召集された老兵で,戦場でドイツ軍の捕虜になり,その後救出されて再びフランス軍に合流して,塹壕掘りの工兵を務めている。
そんな彼が戦場で行方を探しているのが,ドイツ軍兵士のカールだ。カールはエミールの娘マリーの夫としてフランスで暮らしていたが,戦争の勃発により強制的に国外退去を命じられ,のちにドイツ軍の兵士として,戦場で捕虜となった義理の父エミールと再会するものの,すぐに離ればなれとなってしまった。
このように,主人公4人は運命的な出会いと別れをくり返し,それぞれの関係を深めていくことになるのだが,ここで興味深いのは,エミールと彼の友人のフレディがフランス軍所属なのに対し,カールは敵対するドイツ軍に所属している点だ。
エミールやフレディでプレイしているときは,圧倒的な強さを誇っているように感じられるドイツ軍だが,いざカールの立場でプレイしてみると決してそうではないことが分かる。また,中立的な立場にいる従軍看護婦のアンナでプレイすると,両軍が激しく消耗しつつ,膠着状態に陥っていることが理解できるのだ。そのようにして,立場の違った複数のキャラクターの視点から,第一次世界大戦を立体的に体験することができるのも,本作の特徴だ。
ゲームでは彼らの運命が戦場で交錯し,戦争に翻弄される場面が順を追って描かれる。プレイヤーが操作できるのはそこに登場する1人のキャラクター(主人公キャラクターが2人登場することもあるが,動かせるのは1人で,切り替えはない)で,その物語を進める過程がアドベンチャーになっている。
例えばフレディの序盤,マルヌ会戦のシーンでは,橋の上に設置された敵の銃座を破壊すべく,[手榴弾を投げて土嚢を破壊]→[銃撃の合間にハシゴを上がり銃座の後方に移動]→[ドイツ兵が後ろを向いている間に橋の下へ降りる(敵兵は背後から殴って気絶させることも可)]→[残りのダイナマイトを設置]→[起爆スイッチを入れる]といった手順を踏むことで先へ進めるといった具合だ。もちろんこれは一例であり,ゲームが進むにつれて手順はより複雑になっていく。
キャラクターが4人いるため,単純に行ったり来たりしてパズルを解くだけでないのも面白いところ。エミールとフレディはそれぞれ能力が異なる工兵で,アンナは看護婦,そしてカールはドイツ軍から脱走した捕虜で,それぞれの立場に沿ったアクションが用意されているため,謎解きにはメリハリがついている。
個人的に好きなのはアンナで,彼女がケガや病気の治療を施すとき,リズムゲーム風のミニゲームが始まるのだ。心電図をイメージしたものらしいが,予想もしなかった演出に初見時は面食らってしまった。こうしたミニゲーム的な演出も数多く盛り込まれており,それぞれが自然な流れで出現するが,ゲームそのものは難しくなく,ミスしても直前からやり直しとなるだけなので,演出の一つとして楽しめる。
なお,開発者が意図したことなのかどうかは分からないが,主人公が銃器を持って戦うシーンがまったく登場しないことも特筆しておきたい。
演出やゲーム進行のアクセントになる救助犬ウォルト
そんな主人公達に寄り添うように活躍するのが,犬のウォルトだ。もともとドイツ軍の救助犬として働いていたが,飼い主と離ればなれになってしまったウォルトは,成り行きで4人の主人公達とかわるがわる行動を共にすることになるのだ。
ウォルト(雌雄不明だが,たぶん雄)にできることは,小さなアイテムの運搬やスイッチのオン/オフ,けが人の救助などで,人が通れない狭い通路を移動できたり,小さなゴンドラに乗ったり,敵兵の気を引いたり(本作に登場する人間はみんな犬好きな模様)といった独自の能力を持っている。ウォルトが一緒にいるときに[R1]ボタンを押すと,画面がモノクロになり,そこで表示されるボタンを押すことで,その場所での行動を指示できる。主人公の行動が手詰まりになってしまったときは,彼に頼ってみるとそのシーンの突破口を開くことができるかもしれない。
感情を表情に出さない(ように描かれている)主人公達と比べて,ウォルトは実に表情豊かで,殺伐とした戦場にあって,強く人間性(犬だが)を感じさせる存在になっている。[×]ボタンでなでられるので,たまには可愛がってあげてほしい。
シンプルながら
物語もゲームもしっかり楽しめる高い完成度
独特の2Dグラフィックスと演出でプレイヤーを楽しませ,感触のいいパズルとミニゲームを用意し,悲惨な歴史的事実に主人公達のヒューマンドラマを重ねた本作は,第一次世界大戦という,筆者とってあまりなじみのなかったテーマに少しずつ興味を抱かせてくれる。開発者へのインタビューでも,ゲームの目的は「第一次世界大戦の真実を描くこと」だと語られており,その試みはうまくいっているのではないかと筆者は思う。戦争を舞台にしつつ,単純なラブ&ピースを主張するものになっていないことも個人的には好感が持てた。
戦場に光るものが見えたときは,そこにコレクションアイテムが落ちている。アイテムをすべて入手すると勲章がもらえる |
ゲームの各チャプターは,シーンごとに細かく区切られており,再プレイが可能。物語を読み直すのもいいし,アイテムを探してみるのもいいだろう |
一定時間,同じ場面でとどまっているとヒントが表示されるなど,カジュアルなプレイヤーに配慮されているが,その一方でヒントが表示されない「ベテラン」モードの存在や,戦場に隠されたコレクションアイテムなど,ベテランのゲーマーでも楽しめる要素も用意されている。
筆者は今回,エンディングまでゲームを進めてみたが,個人的には最後にシナリオ的にもう一押しがほしかった気もしている。主人公キャラクターや,それ以外の登場人物の後日談的なエピソードや,なにより第一次世界大戦のその後の歴史についても知りたいので,例えば,DLCのようなものでもいいので,配信を希望したい。
とはいえ,価格以上の遊びごたえと,資料的な価値の高さを感じさせてくれた本作。本稿を読んで興味を抱いた人は,ぜひプレイして,100年前に本当に起きていた悲惨な戦いに思いを巡らせてみてはいかがだろうか。
「バリアント ハート ザ グレイト ウォー」公式サイト
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