レビュー
君が市長だ! 「シムシティ」好きにもオススメの都市計画ボードゲーム
シティビルダー 完全日本語版
デザインを手がけたのは,「究極の人狼」などで知られるTed Alspach氏で,2012年にBezier Gamesより発売されて以来,欧米を中心に大人気となり,類似作品が続々と発売されているタイトルでもある。今回はその人気の秘密に迫ってみたい。
「シティビルダー 完全日本語版(Suburbia)」公式サイト
タイルによる都市計画で,街の人口増加を目指せ
本作の目的は非常に分かりやすく,六角のタイルに描かれた「コンビニエンスストア」「公園」「住宅」「工場」「高速道路」などの施設を並べながら,市長である自分の収入と評判を高め,ひたすら街の人口を増していくというもの。ゲームの流れも明快で,各プレイヤーは自分のターンに以下の手順を繰り返しながら,ゲームを進めていく。
- 「不動産市場」からタイルを1枚購入し,自分の街に配置する。
- 配置したタイルによって,自分の「収入」と「評判」が上下する。
- 「収入」に従って自己資金が増減する。
- 「評判」によって街の「人口」が増減する。
- 空きができた「不動産市場」に,新たなタイルを補充する。
このサイクルをまわしながら各人が街を拡大していき,ゲーム終了時にもっとも人口が多かったプレイヤーが勝利となる。ただし,市長が思うがまま,自由に街を拡大できると思ったら大間違いだ。実際の都市計画がそうであるように,さまざまな障害が待ち受けている。
まずタイルの購入から見ていこう。
タイルを配置するためには,まずそれを不動産市場から購入しなくてはならない。不動産市場には常時7枚のタイルが並べられており,この中から好きなものを選べば良いのだが,左のものほど追加コストがかかり,値上がりが発生する仕組みになっている。
タイルには「商業」「居住」「産業」「公共」の4種類があり,それぞれ色分けがなされている。
「商業」を示す青色のタイルは,オフィスやレストランなどの商業施設のことで,街の重要な収入源となる。
緑の「居住」タイルはいわゆる住宅地で,これを増やすことは人口の増加に直結する。
黄色の「産業」タイルには,工場や高速道路,空港といったものがあって,「商業」と同じく街の収入源となってくれるだろう。ただし,「居住」タイルなどとは相性が悪く,隣り合うように置いてしまうと,クレームが出て市長の評判が下がってしまうことになる。
最後の灰色は「公共」タイルで,公園,役所,学校など,住民の生活環境を改善することで,「産業」とは逆に評判を上げる効果を持っている。
これらのタイルを駆使して街の規模を拡大していくわけだが,資金が少ない序盤では,不動産市場のタイルが高すぎて買えない場合もあるだろう。そういうときは,いつでも買える(そして安い)タイルである「工場」「住宅地」「公園」を購入して,資金を増やしていくのが良い。この3枚は汎用性が高い基本タイルなので,序盤のみならず,都市計画のひずみを修正するために,中盤以降も活躍するはずだ。
基本タイルの「工場」「住宅地」「公園」。この3種類は各プレイヤーに初期配置として1枚ずつ与えられるほか,不動産市場の上部からいつでも購入できる |
中央の水色のタイルは「湖」タイル。不動産市場にあるタイルを裏返して使用する「湖」は,無料で購入・配置でき,一時的な収入にもなる。序盤の金欠対策にもうってつけだ |
不動産市場から購入したタイルを街に配置すると,前述のとおり,さまざまな効果が発生する。基本的には,タイルの効果によって収入が変動すれば,手番の終わりにその分だけ資金が増減し,評判が変動すれば,その分だけ人口が増減するのだが,一つのタイルは往々にして別のタイルにまで効果を及ぼすため,ゲームが進んでいくと,隣接するタイルを始め,自分の街のすべてのタイル,さらには,ほかのプレイヤーの街のタイルまでチェックする必要が出てくる。
このあたりの采配が,街を大きくする上での鍵を握るポイントというわけだ。
こうしてゲームを進めていくと,いつしか不動産市場に「残り1ラウンド」タイルが並ぶことになる。このタイルが登場すると,次の1ターンでゲームは終了し,ゲームの勝者を決める最終決算に移ることになる。
先にも述べたとおり,本作の目的は街の人口を増やすことなので,最終決算では各プレイヤーの人口を比較することになるのだが,その前にまず,各プレイヤーが隠し持っていた「目標タイル」によるボーナスを解決する。次に手元に残った資金5ドルごとに,1万人の人口を上乗せし,この段階で最も人口が多かった街のプレイヤーが,勝利となる。
なお筆者のプレイした限りでは,序盤は「収入」重視で資金を貯めながら,「人口」の増加は無理のない範囲に留めておくのがコツのようだ。最終的には「人口」を増やさなくてはならないが,「人口記録ボード」の「レッドライン」を越えることによるペナルティは,思いのほかダメージが大きい。終盤に近づくほど,高額かつ効果の大きいタイルが出てくるので(タイルの山札がA/B/Cに分かれているのはそのためだ),人口増加に励むのは,それからでも遅くはない。序盤は「収入」確保を優先し,中盤に基幹となる産業を固め,終盤で一気に「人口」増加へ走るのが,理想的な流れとなるだろう。
街づくりは楽しいぞ
「シティビルダー」の特徴は,まず第一に非常に分かりやすいゲームであることが挙げられるだろう。さまざまな街の施設の効果は,最終的に「人口」をめぐる競争に一本化されるので,何をすればいいのかが理解しやすく,初心者にもとっつきやすい。
また「カタンの開拓者」を始めとする旧来の街作りゲームが,「地形をヘックス(六角形)タイルとし,その上に木のコマなどで街を作る」ものだったのに対し,本作ではタイルそのものを建物としたことで,プレイアビリティの大幅な向上に成功している。そう聞くと単純な仕掛けのようにも思えるが,タイル自体を建物として扱うゲームは,筆者が知る限りこれまでは存在しておらず,ここが本作のキモとなっている。
本作が欧米で人気を博した理由も,恐らくこのプレイアビリティの高さゆえのことだろう。とくに近年は,いわゆるワーカープレイスメント系(各プレイヤーが手元のワーカーコマを盤面に配置することで,行動を選択するタイプのゲーム)の“重たい”ゲームが流行していたこともあり,そこに登場した本作の“軽さ”が,ボードゲーマー達のニーズにマッチしていたのではないだろうか。
とはいえ,本作が単純なゲームかというと,そういうわけでもない。タイル1枚が街の状況を大きく揺るがし,その配置に頭を悩ませるのがまた,もどかしくも面白い。ボードゲームとしてうまく簡略化されているにも関わらず,できあがった街を俯瞰すると,苦悩の跡が見られるところが,いかにも都市計画っぽくて,これまた楽しいのだ。
あえて欠点を挙げるとすれば,プレイに広めの机が必要なことと,初回プレイ時の準備に,やや時間がかかること。あとは1枚のタイル効果が広範に及ぶため,慣れていないと状況を把握するのが大変,といったところが考えられる。そうはいっても,都市計画をモチーフとする以上,これはどうしたって仕方がない。むしろそこが面白いゲームなのだから,がんばって慣れていただくほかないだろう。
価格のわりに中身も豪華で,何度も繰り返し遊べる傑作都市計画ゲーム。興味のある人には,ぜひ一度プレイしていただきたいタイトルである。
ちなみに本作には,ソロプレイ用のルールも2つ用意されている。その一方が,デール君というダミープレイヤーを動かしつつ遊ぶというものなのだが,これがなかなか強敵で面白い。決められたルールで動くだけのデール君なのだが,タイル購入に優遇があるために,高価なタイルをバンバンかっさらっていってしまう。ゲームに慣れるためにも,まずはデール君を倒すところからはじめてみても,いいのではないだろうか。
「シティビルダー 完全日本語版(Suburbia)」公式サイト
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