レビュー
449ドルの「Founders Edition」は,GTX 970より低い消費電力で,GTX TITAN Xより速かった
GeForce GTX 1070
(GeForce GTX 1070 Founders Edition)
その点,搭載グラフィックスカードが6月10日に発売と予告されている下位モデル「GeForce GTX 1070」(以下,GTX 1070)は,Founders Editionでも北米市場におけるメーカー想定売価が449ドル(約4万9500円,税別)であり,仮に「699ドルが税込10万円」というのと同じ相場を適用した場合でも,6万円台半ばから購入できる計算であり,少なくともハイエンドクラスとしてはずいぶんと手の届きやすい金額になる。
では,GTX 1080の下位モデルは,どれだけの実力を持ち,上位モデルとはどれくらいの性能差があるのだろうか。4GamerではGTX 1070のFounders Editionを入手できたので,発売に先立って性能検証結果をお届けしたい。
GP104のフルスペックでGPCを丸ごと1基削減。グラフィックスメモリには8000MHz相当のGDDR5を採用
シェーダプロセッサ「CUDA Core」32基をひとかたまりとして,8基のロード/ストアユニットと8基の超越関数ユニット,1基の「Warp Scheduler」(スケジューラ),2基の命令実行ユニットなどと組み合わせて1ブロックとし,これを4基まとめたうえでジオメトリエンジン「PolyMorph Engine 4.0」とL1キャッシュ,8基のテクスチャユニットなどとセットで演算ユニット「Streaming Multiprocessor」(以下,SM)を構成する仕様は,上位モデルと完全に同じ。もちろん,5基のSMごとに1基のラスタライザ「Raster Engine」を与えてミニGPU的な「Graphics Processing Cluster」(以下,GPC)とする点も変化はない。
では何が違うのかというと,GP104のフルスペックとなるGTX 1080ではGPCが4基なのに対し,GTX 1070ではGPCがまるまる1基削減された3基となっている。SM数は5基減って15基となるので,総シェーダプロセッサ数は1920基
L2キャッシュ容量は上位モデルと同じ2MB。ROPユニットも同じく64基である。
フルスペックから一部を削った「7」系と聞くと,「GeForce GTX 970」(以下,GTX 970)の「グラフィックスメモリ3.5GB問題」を連想する読者がいるかもしれないが,CUDAの開発キットに付属する,CUDAデバイスの能力を調べるためのツール「DeviceQueryDrv.exe」を実行してみても,L2キャッシュ容量とROPユニット数はGTX 1080と同じだった。
なお,後述するテスト環境で確認したところ,EVGA製のオーバークロックユーティリティ「Precision X OC」(Version Reviewer 4)で,コアクロックは1822MHzまで上昇した。
GTX 1080の持つ約320GB/sの帯域幅と比べると8割に留まる帯域幅が,とくに高いグラフィックス負荷設定時にどういう結果をもたらすかは,後段における注目の要素となるだろう。
そんなGTX 1070の主なスペックを,ここまで名前が挙がったGTX 1080とGTX 980,GTX 970のほか,第2世代Maxwellのトップエンドモデル「GeForce GTX TITAN X」およびその下位モデル「GeForce GTX 980 Ti」,そして,競合の最上位モデルとなる「Radeon R9 Fury X」と比較したものが表1である。
カード自体はGTX 1080 Founders Editionとほぼ見分けが付かないが,電源部の規模は小さく
カード長は実測で約267mm(※突起部除く)で,これはGTX 1080 Founders Editionとまったく同じ。2スロット仕様で,ポリゴンをイメージした三角形の凹凸が目を引く外排気型クーラーのデザイン,そして8ピン
もっとも厳正を期せば,GPUクーラーでGPUの熱を受ける部分が,GTX 1080 Founders EditionだとVapor Chamber(ヴェイパーチャンバー)なのが,GTX 1070 Founders Editionでは銅製ヒートシンクになっているので,クーラーのコストは下がっているはずだ。
また,電源のフェーズ数がGTX 1080の5+1から4+1へと,GPUの規模に合わせて小さくなり,それに合わせていくつかの部材が省かれている。基板自体は瓜二つにも見えるのだが,よく確認してみると,PCI Express x16スロット近くで確認できる型番らしき表記が異なっていた。GTX 1080の「180-1G413-DAAA-A00」に対してGTX 1070だと「180-1G411-DFAAA-A01」といった具合だ。
たとえばレイヤー数など,基板レベルのコストダウンが入っているかどうかまでは何とも言えないが,「上位モデルと似て非なる基板」をGTX 1070 Founders Editionが採用している可能性は高いと筆者は見ている。
GTX 1080のほか,GTX 970以上の従来世代モデル,R9 Fury Xと比較。DX12のテストも
今回,GTX 1070のテスト対象としては,先の表1でその名を挙げたGPUを用意した。GTX 970だけは,リファレンスカードを用意できなかったが,代わりに用意したPalit Microsystems製カード「NE5X970014G2-2041F」は,リファレンスクロックが設定され,かつリファレンスカードと同じ外排気仕様を採用するカードなので,リファレンスデザインに準じたスコアが出ると考えている。
テストに用いたグラフィックスドライバは,GeForce用が,NVIDIAから全世界のレビュワーに配布された「GeForce 368.19 Driver」。一般向けにはより新しい「GeForce 368.22 Driver」と「GeForce 368.25 Driver」がリリースされているが,368.25ドライバはGTX 1070に対応していないので,この点はご了承を。
対するRadeonでは,テスト開始時点の最新版となる「Radeon Software Crimson Editon 16.5.3 Hotfix」だ。
そのほかテスト環境は表2のとおりで,採用するグラフィックスカードとドライババージョン以外はGTX 1080のレビュー時と変わらない。
テスト内容は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション18.0準拠。ただし,GTX 1080のときと同様に,DirectX 12タイトルを前にした性能を探るべく,「Ashes of the Singularity」(以下,AotS)のテストも追加した。
AotSのテストでは,グラフィックス設定プリセット「Standard」あるいは「Extreme」を選択したうえで,ゲーム側に用意されたベンチマークモードを用いる。これもGTX 1080のレビュー時と変わらない。
テスト解像度は,GTX 1070がハイエンド市場向けということもあり,3840
あと,これはいつもどおりだが,CPU「Core i7-6700K」の自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,テスト状況によって挙動が変わる可能性を排除すべく,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化してあるので,こちらもご了承のほどを。
メモリバス帯域幅の狭さが露見する場面もあるが,基本的には「GTX TITAN X以上」と言える結果に
今回掲載するグラフは,一番上にGTX 1070を置き,その下にそれ以外のGeForceを型番順で並べ,一番下にR9 Fury Xという並びにしているが,いずれもグラフ画像をクリックすると,より描画負荷の高いテスト条件におけるスコア基準で並び替えたものを表示するようにしてあるので,見やすいほうで比較してほしいとお伝えしつつ,テスト結果を順に見ていこう。
グラフ1は,「3DMark」(Version 2.0.2067)の総合スコアをまとめたものだが,GTX 1070はGTX 1080の82〜83%程度という結果になった。GPUの規模と動作クロックの違いから,両者のスコア差はもう少し開くと考えていたのだが,GTX 1070は存外踏ん張っている印象だ。
また,1〜4%程度というわずかな違いではあるものの,GTX 1070がGTX TITAN X,つまり第2世代Maxwellの最上位モデルを上回っている点にも注目しておきたい。付け加えると,置き換え対象となるGTX 970に対しては50〜55%程度高いという,圧倒的なスコア差を付けている。
実際のゲームタイトルにおける傾向はどうだろう。グラフ2.3は「Far Cry Primal」のテスト結果となる。
ここでGTX 1070のスコアは対GTX 1080で79〜81%程度と,3DMarkから若干開いた。また,GTX TITAN Xと比べた場合,相対的にはGPUコア性能勝負となる「ノーマル」でGTX TITAN Xの89〜99%程度と置いて行かれる一方,メモリ性能がスコアを大きく左右する「最高設定」で109〜110%程度と逆転を果たしているのが目を引くところだ。
数字上のスペックだけなら,メモリバス帯域幅はGTX TITAN Xの336.5GB/sに対してGTX 1070は256GB/sと勝ち目がないだけに,ここはPascalアーキテクチャで大幅な改善の入ったメモリ圧縮技術が奏功したと見てよさそうである。
続いてグラフ4,5は「ARK: Survival Evolved」(以下,ARK)のスコアをまとめたものとなる。
ARKにおいて,GTX 1070はGTX 1080の78〜91%程度のスコアを示した。4条件を見てみると,3840
3840
グラフ6.7は「Tom Clancy’s The Division」(以下,The Division)のテスト結果だが,ここでGTX 1070はGTX 1080の82〜85%程度。3DMarkと似た傾向だ。
記憶力のいい読者は,GTX 1080のレビュー時と比べて全体的にスコアが下がっていることに気づいたかもしれないが,これは,当該テスト時と今回のテストの間にThe Divisionのバージョンが上がって1.2に変わったのが直接の原因だろう。バージョンアップ告知に,ゲームエンジンやベンチマークモードに関する明確な言及はないのだが,何らかの変更が入ったことで,3840
「Fallout 4」は,とくに「ウルトラ」プリセットでグラフィックスメモリへかかる負荷が非常に大きくなるのだが,グラフ8,9を見ると,果たしてGTX 1070は,対GTX 1080のスコアが2560
ただ,対GTX TITAN Xでは解像度を問わず104〜106%程度と,高クロック化したGDDR5と新しいメモリ圧縮技術効果で踏ん張っている。同じ256bitメモリインタフェースを採用するGTX 980に対しては27〜39%程度,GTX 970に対しては38〜55%程度高いスコアというのも立派だ。
「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)の結果がグラフ10,11である。
「標準品質(デスクトップPC)」の2560
「最高品質」の2560
グラフ10’,11’は,そのFFXIV蒼天のイシュガルド ベンチを平均フレームレートで見たものとなる。最高品質の2560
「Project CARS」の結果をまとめたグラフ12,13だと,GTX 1070はテストした全条件でGTX 1080に次ぐ2番手の位置を確保した。スコア自体は81〜95%程度,かつ3840
グラフ14,15はAotSの結果だ。ここでGTX 1070はGTX 1080の82〜84%程度,GTX TITAN Xの113〜116%程度と,GeForce同士の比較ではおおむね妥当なスコアに落ち着いたが,一方でR9 Fury Xに対しては89〜94%程度と,明確に置いて行かれてしまった。
GP104では,グラフィックス描画のスレッドとGPGPUスレッドの発行を並列に仕掛けた場合,その実行スレッドの切り換えを100μs未満で行うことができるようになり,この効率改善によって,Async Computeをサポートしていないことのデメリットは克服できるというのがNVIDIAの言い分だ。GTX 1080のレビューで筆者は,「GPUのポテンシャルだけで押し切っているように見える」と指摘したが,それを踏まえて今回の結果を見ると,従来比で高い動作クロックを持ってしても何とかなっていない印象を受ける。
DirectX 12タイトルのサンプルが1つなので,断言まではできないが,ひょっとするとこの部分は,Pascal世代においてもGeForceの泣きどころとなるかもしれない。
GTX 970をも下回る消費電力! ワット性能の高さにまた驚く
上位モデルと同じく8ピン
今回も,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用して,システム全体での消費電力を測定,比較してみよう。
テストにあたっては,ゲームでの利用を想定し,ディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とした。
その結果はグラフ16のとおり。
アイドル時のスコアはGTX 1080と同じで,第2世代Maxwellと比べると数W低いといったところだが,より注目したいのはアプリケーション実行時だ。GTX 1070はGTX 1080と比べると41〜55Wと,TDPの値を大きく超えた消費電力低減を実現している。
このスコアは,「GM200」コアのGTX TITAN X&GTX 980 Tiより85〜124W,「Fiji」コアのR9 Fury Xより105〜161W低い。直接の置き換え対象となるGTX 970と比べた場合,DirectX 12タイトルであるAotSだけは,Pascal世代で入った実行スレッドの切り替え効率改善効果か6W高いが,DirectX 11タイトルでは18〜41W低いわけで,消費電力あたりの性能は,GTX 1080に引き続き,GTX 1070も尋常ではないということになるだろう。
最後に,GTX 1070 Founders Editionが搭載する外排気GPUクーラーの冷却能力を見てみたい。ここでは,3DMarkの30分間連続実行時を「高負荷時」として,アイドル時ともども,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.8.8)から温度を取得。その結果をグラフ17にまとめた次第だ。
なお,テスト時の室温は24℃。システムはPCケースに組み込まず,いわゆるバラック状態に置いたときのスコアとなる。
GPUごとに,温度センサーの位置も温度の制御法,GPUクーラーすら異なるため,横並びの比較に意味はない。その点はくれぐれも注意してほしいが,アイドル時のスコアに違いはほとんどなく,おおむね横並びとなった。また,基本的にリファレンスクーラーを採用することもあり,高負荷時の温度もおおむね横並びだ。このあたりは,「いつもどおりの温度制御」が入っているという理解でいい。
GPU温度をより下げて運用したい場合は,いずれ登場する,グラフィックスカードメーカー各社のオリジナルクーラー搭載モデルを待つことになるはずである。
なお,筆者の主観であること断ったうえで,GTX 1070のGPUクーラーの動作音を述べると,GTX 1080とまったく変わらない印象を受けた。つまり,静音性に優れるとは言えないが,うるさくて堪えられないほどでもないということだ。
GTX 1080以上に人気が出そうなGPU。安価な選択肢が出揃うことに期待
しかもそれで,消費電力はGTX 980 Tiからざっくり100Wは低い。ここに大きな魅力を感じる人も多いだろう。
GTX 1070 Founders Editionの北米市場におけるメーカー想定売価は449ドル(税別)。冒頭でもお伝えしたとおり,仮にGTX 1080 Founders Editionと同じ計算式が適用された場合,国内の売り出し価格は税込で6万円台半ばになると思われるが,シリーズ2番手ということを考えると,この金額の評価は分かれるのではないかと思う。
その意味では,379ドルという,非Founders Editionの北米市場におけるメーカー想定売価が反映された5万円台半ばの製品が出てくると,一気に人気が高まるのではなかろうか。
GTX 1070カードが5万円台半ばまで下がると,GeForce GTX 900シリーズをパスして,「GeForce GTX 680」「GeForce GTX 780」あたりで頑張ってきた人にとって,とくに魅力的なアップグレードパスとなってくるはずだ。
NVIDIAのGeForce GTX 1070特設ページ
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