レビュー
「GP104版GTX 1060 6GB」はGP106コア搭載の通常版と何が違うのか
GeForce GTX 1060 6GB(GP104-150)
(玄人志向 GF-GTX1060-E6GB/GD5X)
しかもこのGP104版GTX 1060 6GBは,組み合わせるグラフィックスメモリも通常版のGDDR5ではなく,GTX 1080およびGTX 1070と同じGDDR5Xとなっている。
では,このGP104版GTX 1060 6GBは,通常版と何が違うのか。今回4Gamerでは玄人志向の「GF-GTX1060-E6GB/GD5X」を同ブランドの販売代理店であるCFD販売から入手することができたので,その実態に迫ってみたい。
GP104コアの4基あるGPCのうち2基を無効化したGPUと考えられるGP104版GTX 1060 6GB
GP104版GTX 1060 6GB。シリコンダイ上の刻印は「GP104-150-KA-A1」だった |
参考までにGP106のブロック図 |
振り返ってみると,Pascalアーキテクチャでは,シェーダプロセッサ32基をひとかたまりとして,8基のロード/ストアユニットと8基の超越関数ユニット,1基の「Warp Scheduler」(スケジューラ),2基の命令実行ユニットなどと組み合わせて1ブロックとしていた。そのうえで,このブロックを4基まとめて,ジオメトリエンジン「PolyMorph Engine 4.0」とL1キャッシュ,8基のテクスチャユニットなどとセットで演算ユニット「Streaming Multiprocessor」(以下,SM)を構成する仕様である。
SMは5基が1セットで,ラスタライザ1基と組み合わされ,CPUでいうところの「コア」に相当するクラスタ「Graphics Processing Cluster」となる(以下,GPC)。GP104ではこのGPCを4基,GP106では2基搭載するというのが大きな違いだったのだが,今回のGP104版GTX 1060 6GBでは,GP104を搭載しつつ,半分にあたる2基のGPCを無効化するという思い切った仕様を採用することで,「GP106的」に仕立ててあるのだ。
ちなみに,GP104とGP106では,
- GP104:L2キャッシュ容量2MB,メモリインタフェース256bit
- GP106:L2キャッシュ容量1.5MB,メモリインタフェース192bit
とメモリ周りのスペックが4:3の関係になっていて,単純にGP104を半分にするといろいろおかしくなってしまうのだが,GP104版GTX 1060 6GBのL2キャッシュ容量とメモリインタフェースはGP106と揃っていた。
そのうえで,通常版GTX 1060 6GBとの間で大きな差別化要素となるのが,冒頭でも紹介したGDDR5Xグラフィックスメモリである。
GDDR5とGDDR5Xの違いについては大原雄介氏による解説記事(を参照していただきたいが,簡単にまとめると信号速度とプリフェッチ,容量,そしてパッケージが異なる。
とはいえ,今回テストを行うGF-
搭載するメモリチップは11Gbps品
アイドル時にファンの回転を停止させる機能やLEDによるイルミネーション機能などはなく,かなりシンプルな印象を受ける。
補助電源コネクタが6ピン
補助電源コネクタは6ピン |
外部出力インタフェースはDisplayPortとHDMI,それにDVI-Dが1基ずつ。最近のカードにしては少ない |
すると,GPUクーラー側では2本のヒートパイプがいずれもGPUのシリコンダイと直に接するタイプであること,そして,そのヒートパイプが直上の放熱フィン部と一体化したデザインであることを確認できる。
カード基板に目を移すと,電源部は4+1フェーズ構成のように見える。GTX 1060 6GBのFounders Editionだと3+1フェーズ構成だったので,1フェーズ分の強化を実現している可能性が高い。
その電源部では,フェーズごとにUBIQ SemiconductorのNチャネル型MOSFET「QN3107M6N」を2基と「QN3107M6N」を1基組み合わせるという,なかなかコストのかかった作りになっている。
電源部は各フェーズごとに2基のQN3107M6Nと1基のQN3105M6Nを組み合わせたものだ。その近くにはuPI Semiconductor製PWMコントローラチップ「UP9511P」の姿も確認できる |
基板裏面には,整流用としてPチャネルMOSFETであるMagnaChip Semiconductor製「MDU3603」が2基実装されていた |
基板にはメモリチップ2枚分の空きパターンがあるので,玄人志向のOEM元メーカーのほうでGTX 1070などの上位モデルと基板設計を共通にしている可能性が高そうだ。
メモリクロックは10GHz動作をあっさり実現
ベンチマークテストへ入る前に,GF-
+1000Hzまでしか設定できないのはAfterburnerの仕様によるものだが,感触としては,メモリチップの仕様上限となる11GHzの指定が行えるなら,それでも問題なく動作しそうである。
※注意
グラフィックスカードのオーバークロック設定は,GPUやグラフィックスカードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,グラフィックスカードやマザーボードなど,構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
通常版GTX 1060 6GBそしてGTX 1070と性能を比較
さて,今回は上で述べたオーバークロックテストの結果も踏まえたうえで,今回,比較対象としては通常版GTX 1060 6GBと,GTX 1070,それぞれの「Founders Edition」を用意した。GF-
グラフィックスドライバには,テスト開始時の最新版となる「GeForce 417.35 Driver」を利用。OSのWindows 10側では「October 2018 Update」を適用し,Windowsの「電源プラン」は「高パフォーマンス」を選択している。そのほかのテスト環境は表のとおりだ。
テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション22.1準拠。テスト解像度は,GTX 1060が1920
通常版GTX 1060 6GBとの性能差は無視できるレベルながら,メモリクロックの引き上げ効果は大きい
以下,スペースの都合から,グラフ中に限りGF-
グラフ1は「Fire Strike」における総合スコアをまとめたものだ。
ここでGF-
Fire StrikeのGPUテストである「Graphics score」,そのスコアを抜き出したものがグラフ2となる。
GF-
事実上のCPUテストとなる「Physics test」のスコアをまとめたものがグラフ3だが,今回のテストではCPUを揃えてあるため,スコアは横並びだ。あえて言えば「Fire Strike Ultra」でGF-
グラフ4はGPUとCPU両方の性能が効いてくる「Combined test」の結果をやはり抜き出したものである。
スコアを見てみると,GF-
また,GF-
3DMarkのDirectX 12テストである「Time Spy」の総合スコアをまとめたものがグラフ5となる。
Time Spyでも,GF-
次に,Time Spyにおける「GPU test」の結果抜き出したものがグラフ6だ。
ここでGF-
対して,「CPU test」の結果を抜き出したグラフ7だと,Fire Strikeと同様,CPUが揃っているため,スコアも横並びになっている。
続いてゲームアプリケーションを用いたテストの考察に移ろう。
グラフ8〜10は「Far Cry 5」の結果だが,注目したいのは,GF-
メモリクロックを10GHz相当化すると,通常版GTX 1060 6GBとのスコア差が13〜20%程度になる点も押さえておきたい。
ただ,そこまで景気よくスコアが伸びても,GTX 1070の背中はまだ遠い印象がある。
「Overwatch」においては,また違ったスコア傾向が出ている。グラフ11〜13でGF-
「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」(以下,PUBG)の結果はグラフ14〜16にまとめたとおりだが,GF-
メモリクロックの10GHz相当化を行うと,通常版GTX 1060 6GBとの平均フレームレート差が10〜15%程度に開くのも,おおむねFar Cry 5を踏襲していると言える。
グラフ17〜19の「Fortnite」は3DMarkに近いスコア傾向となった。まず,GF-
さて,今回のテストで最もユニークな結果となったのが,グラフ20〜22にスコアをまとめた「Middle-earth: Shadow of War」(以下,Shadow of War)である。
とにかく目を見張るのは,メモリクロックの10GHz相当化により,GF-
なお,そういう事情だけに,グラフィックスメモリクロックが揃っているGF-
グラフ23は「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」(以下,FFXIV紅蓮のリベレーター ベンチ)の総合スコアをまとめたものである。GF-
メモリクロックの10GHz相当化を行うと,通常版GTX 1060 6GBとのスコア差は9〜10%程度に広がるものの,GTX 1070にはまるで届かない。
そんなFFXIV紅蓮のリベレーター ベンチにおける平均フレームレートと最小フレームレートがグラフ24〜26だ。
平均フレームレートは総合スコアを踏襲している印象だが,グラフィックスメモリクロックを引き上げても最小クロックはあまり向上していない点に注目したい。FFXIV紅蓮のリベレーター ベンチにおける最小フレームレートは,CPU性能への依存が大きいのだが,CPUを揃えた場合はグラフィックスメモリクロックよりもGPU性能のほうがより影響するということなのだろう。
「Project CARS 2」の結果がグラフ27〜29だ。GF-
メモリクロック10GHz相当化したときのスコア差は通常版GTX 1060 6GBに対して+7〜9%程度なので,おおむねFortniteと似た傾向だと言える。
消費電力はFounders Editionから若干上がる。メモリクロックの引き上げでさらに微増
GF-
今回もまずは,「4Gamer GPU Power Checker」(Version 1.1)を用いて,FFXIV紅蓮のリベレーター ベンチ実行時におけるカード単体の消費電力を測定した。それをまとめたものがグラフ30となる。
GF-
上のデータから中央値を求めたものがグラフ31となる。
GF-
念のため,ログが取得可能なワットチェッカーである「Watts up? PRO」でシステム全体の最大消費電力を比較したものがグラフ32となる。
ここでスコアを求めるにあたっては,Windows 10の電源プランを標準の「バランス」に戻したうえで,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されるように設定。そして,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点をタイトルごとの実行時,OSの起動後30分間放置した時点を「アイドル時」としている。
それを踏まえて結果を見てもらいたいが,GF-
なお,アイドル時だとテスト対象間でそれほどの違いは生じていない。
テストの最後はGPU温度の確認である。
具体的には,「GPU-Z」(Version 2.16.0)を用いてGPUの温度もチェックする。ここでは室温を約24℃に保った環境で,システムをPCケースに組み込まない,いわゆるバラック状態に置く。そのうえで,3DMarkを30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,アイドル時ともどもGPUの温度を取得することになる。
結果はグラフ33のとおりだ。GF-
ただそれでも,GF-
「際立った冷却能力」とは言えないものの,メモリクロックの10GHz相当化を行っても問題なく冷却できている点は評価していいだろう。
なお,筆者の主観であることを断ったうえでGF-
静音性が抜群に優れているとまでは言わないが,少なくともGTX 1060 6GB Founders Editionよりは静かなことは間違いない。
基本的には「通常版GTX 1060 6GBそのもの」だが,グラフィックスメモリのオーバークロックは魅力的
おそらくは,「Pascal世代からTuring世代へとアーキテクチャを移行させる中間タイミングでGP106の在庫が少なくなり,年末商戦期を乗り切るため,急遽GP104をミドルクラス市場へ回した」「GeForce RTX 20シリーズの登場を受けてGP104コアのGPUを在庫処分する必要が出てきた」とか,そんなところがGP104版GTX 1060 6GB登場の理由ではないかと想像しているのだが,いずれにせよ「GP104コアなりの高い性能」をGP104版GTX 1060 6GBに期待すべきではない。
一方で,GF-
そもそもGDDR5Xは,Micron Technology製の場合,10Gbps品以上の高速なものしか用意されていないので,GDDR5X搭載の時点でGP104版GTX 1060 6GBのメモリクロックには大きなクロックマージンの存在する可能性が高い。それを利用することで,(あくまでも自己責任だが)ゲームタイトルによってはかなりのフレームレート向上を実現できるというのは魅力だ。
実勢価格は2万9200〜3万3000円程度(※2019年12月29日現在)。GTX 1060 6GB搭載カードとして,最安クラスではないにせよ安価なほうなのもうれしいところで,GeForce RTX 20シリーズを時期尚早と考えているミドルクラスGPU狙いの人には面白いグラフィックスカードと言えるのではなかろうか。
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