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印刷2015/08/29 13:10

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[CEDEC 2015]「消滅都市」の新機能「巨大ボス接近戦」がお披露目。セッション「お客様に驚きを提供する運営 -消滅都市の事例から-」をレポート

 2015年8月26日から28日にかけて,日本最大のゲーム開発者会議CEDEC 2015がパシフィコ横浜で開催された。本稿では,27日に行われたセッション「お客様に驚きを提供する運営 -消滅都市の事例から-」をレポートしよう。

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「消滅都市」公式サイト


左から下田翔大氏,櫻井慶子氏
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 本セッションでは, グリーのWright Flyer Studiosでスマートフォン向けタイトル「消滅都市」iOS/Android)のリードゲームデザイナーを務める下田翔大氏と,シニアアーティストの櫻井慶子氏が,同タイトルにおける「ほかのアプリにはできない驚きの提供」をテーマとして行われた事例を紹介した。

 サービスインから1年と数か月が経過し,データでは右肩上がりの成長を続けている「消滅都市」だが,下田氏によればその裏側は困難の連続だったという。このセッションの前半では,その道のりが「コンテンツ不足期」「運用スタイル確立期」「CM〜成長期」「安定運用期」の4つに分けて紹介された。

このグラフは30日後の継続率を示すもの。プレイヤー数の増減ではないことに留意してほしい
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 「消滅都市」ではサービスイン直後に,すぐにコンテンツ不足期が訪れたと下田氏は述べた。というのも,そのときはプレイを開始してから実装されたストーリーをすべてクリアするまでの所要日数が約21日,というボリュームだったからだ。プレイヤーは,3週間でやることがなくなってしまったのだ。

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 プログラマー達が新機能を開発する一方,データを制作する下田氏ら2名のスタッフは,イベントコンテンツを作ることに明け暮れた。しかしそこから作った3つのイベントは難度の調整がうまくできなかったり,数回で飽きられたりと,プレイヤーからの評価は必ずしも高くなかった。

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 しかし,そのあとに制作した2つのイベントが「消滅都市」の方向性を決定づけることとなる。
 その一つ「呪われし廃工場からの脱出」は,長期間遊べて,かつ飽きさせないことを目標に作られており,謎解き要素とTwitterを使った演出が話題になったことから,「消滅都市」ファンの増加に大きく貢献した。
 また,もう一つの「超存在ツキ降臨」は,息の長いコンテンツを目指して,批判を覚悟のうえで超高難度に設定したのだが,その狙いが当たり,今でもプレイヤーの目標になっているという。

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 以上のような,飽きさせないイベントと目標を追加したことにより,「消滅都市」の評価は次第に上昇し,懸念されていた継続率も目に見えて引き上げられていったという。

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 そして,「既存の概念にとらわれず,お客様に驚きを提供」「ドラマとゲームが一体となった体験を提供」という運営コンセプトが固まったのが,運用スタイル確立期となる。
 コンセプトに基づき,ランキングイベントでは常時張り付きマラソンプレイをしなくとも参加できるハイスコア制を導入。またストーリー第4章は,それまでのロードムービースタイルをやめて,映画「メメント」のような時間軸トリックを導入したり,バトル中にカットシーンを挿入するといった演出の改善を施したりするなど,いくつもの新しい試みを行った。

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 またこの時期には,システム上の小さな改善を重ねたことで,安定運用が可能になっており,さらに一段階成長した感じがあったという。

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 続くCM〜成長期では,テレビCMの放映開始とともにプレイヤー数が大幅に増加したとのこと。下田氏によると,このCMには下田氏とプロデューサーが全面的に関わり,広告代理店とコミュニケーションを取りながら制作したという。

 同時に,理想的なゲームプレイの継続モデルを想定し,それに合わせてゲーム序盤の改善を試みたのもこの時期だ。具体的に取り組んだのは,CMを見たときに抱いた気持ちのままにプレイできる「エモーションの接続」,第1章のバランスを調整する「攻略要素の明確化」,そして「攻略方法の拡充」の3つだった。これらの施策により,1日後継続率も劇的に改善した。

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 その一方で,それまでの反省を活かし,第5章ではゲームの新たな軸となる「緊張と解放による,ナラティブな体験の提供」にもチャレンジした。これは「ゲームの面白さと気持ちよさは,緊張から解放されることによって生まれる」という考えに基づくもので,具体的にはプレイヤーに生死ギリギリのバトルを体験させて,あるタイミングでダメージ計算を変更し,さらにお助けキャラによるサポートが加わるという演出込みの展開を用意したというものだ。

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 その結果として,プレイヤーから非常に高い評価を得られ,下田氏は「複雑な仕組みを考えるよりも,むしろ従来のゲームの文法を使って展開を作ることで,効果的に物語を体験してもらえる」ことを実感したという。さらに下田氏は,「プレイヤーが抱く瞬間瞬間の感情を想像し,ゲームを設計すること。そして信頼できる仲間と,テストプレイを通じて何度も意見交換することが重要」とも話した。

CM〜成長期に展開したイベント
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 またこの時期には,「NARUTO -ナルト-」など多数のコラボレーションを展開している。いずれも単なるキャラクターコラボではなく,世界観に踏み込んだ内容を提供しおり,これらの結果として,継続率もさらに上昇していった。

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 最後の安定運用期には,ランキングイベントの月4回開催体制を確立したり,ランキングイベントを通じてキャラクターを掘り下げつつ,「タマシイ」を上方修正したり,あるいはテレビCMと連動したコラボや成長サイクルに絡んだイベントを実施したりといった試みがなされた。その結果,現在に至るまでプレイヤーを増やしつつ継続率も伸ばすことができているという。

会場では,「ハローキティ」とのコラボイベントをピックアップして紹介。このコラボを実現できたのは,「消滅都市」が伝えたいメッセージを,サンリオウェーブが理解してくれたからとのことだ
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安定運用期に展開したイベント
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 続いて,本作の狙う「感情を揺さぶるシステム」についての紹介が行われた。
 感情を揺さぶるシステムを作るにあたって,最初に考えるのはコンセプトと流れだ。「消滅都市」の根底にあるコンセプトは,他人だった二人がストーリーの進行に伴って築いていく「信頼」だという。そして「消滅都市」チームは,プレイヤーがその信頼をもっとも強く感じる瞬間を,二人がともにピンチを切り抜けて解放感を覚えるタイミングと定義した。

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 上記の流れをより効果的にするのが「チェインシステム」だ。このシステムでは,プレイヤーがゲーム内で一連の「スフィア」を獲得するとチェイン数が増え,進行が有利になったり,より爽快なプレイを楽しめたりする一方,ミスをするとチェイン数が減少する。
 またチェイン数が増えるほどステージは複雑化していくが,そのぶんクリア時にはよりよい報酬が用意される。

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 このように「消滅都市」では緊張と解放を軸としたシステムがいくつも用意されているのだが,そのすべてが実装当初から受け入れられていたわけではない。
 例えばエネミースキルとして追加された「状態異常」は,プレイヤーにストレスを与え(緊張),それを乗り越えたときにとき(解放)に「ピンチを逆に利用した」という爽快感を得られるよう設計したはずだった。

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 しかし実際には,ストレスに対抗する手段が少なかったため,乗り越えたときの爽快感が低く,結果としてユーザーは不満だらけになってしまった。

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 それを避けるためには,例えば状態異常に陥った場合には攻撃力が大幅に上昇するなど,明確にピンチをチャンスに変える改善が必要だと下田氏は述べた。

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会場では,新機能を追加する際にユーザーインターフェイス面から留意すべきポイントも示された
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 セッションの後半では,新機能として開発中の「巨大ボス接近戦」が紹介された。コンセプトは「今までにないドラマチックなバトル」「物語とゲームの完全融合を実現」というもの。具体的には,従来のボスよりも格段に大きく,体力も多い強敵との一騎打ちで,「遠距離」と「近距離」の二つのフェーズで戦い,かつ時間制限がある。

巨大ボス接近戦
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巨大ボス接近戦もまた,近距離戦にて緊張と開放が演出されていく
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ストーリーは巨大ボス接近戦内のカットシーンで展開する
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 「消滅都市」チームは,この巨大ボス接近戦の開発でも課題に直面したという。その原因は,文字で書かれた仕様を,スタッフ各自がそれぞれ感覚的に認識していたために,イメージが共有しきれていなかったことにあったとのことで,とくに演出関連で問題が発生したそうだ。

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 櫻井氏は,こうしたイメージの共有を図るためには踏み込んだコミュニケーションが必須であるとし,より良い演出を作るために「ブレない」「遠慮しない」「(無責任に)信頼しない」「RESPECT」の4つを掲げた。

●ブレない
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●遠慮しない
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●(無責任に)信頼しない
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●RESPECT
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 下田氏は最後に,「消滅都市」チームが「タマシイのインフレ」や「ガチャイベントの数」に対する意見などプレイヤーからのフィードバックをもとに日々検討を重ね,バランス調整やイベント運営方針をアップデートしていると語り,今後も「消滅都市」でしか得られない感動を届けていきたいと述べてセッションを締めくくった。

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