インタビュー
「LA-MULANA EX」が本日発売。ピグミースタジオとNIGOROのメンバーに,その見どころと思い出のエピソードについて聞いてみた
PS Vita向けダウンロード専用ソフト「LA-MULANA EX」が,ピグミースタジオより本日(2014年12月17日)発売される。本作は,考古学者のルエミーザ博士となって“生命の秘宝”が眠る謎の古代遺跡「ラ・ムラーナ」を探検するという横スクロールアクションだ。
2006年に完成したオリジナル版「LA-MULANA」は,古き良きMSX風のグラフィックスとBGM,KONAMIの名作「ガリウスの迷宮」を彷彿とさせるハードな謎解きとアクションが高い評価を受け,国内外で数多くのファンを持つ,日本のインディーシーンを代表する作品の一つである。
2011年には,グラフィックスがアレンジされ,ゲームシステムや謎解きに調整が加えられたWiiウェア版が発売されているほか,2012年にはこのWiiウェア版をPCへ再移植したリメイク版も発売されている。これまでにさまざまなバージョンがリリースされてきた「LA-MULANA」だが,携帯型ゲーム機への移植は初ということで,「LA-MULANA EX」の発売を楽しみにしていた人も多いのではないだろうか。
今回4Gamerでは,ピグミースタジオの“工場長”こと小清水 史氏,オリジナル版を手掛けたNIGOROの楢村 匠氏(ディレクター/ゲームデザイン),鮫島朋龍氏(プログラム/サウンド),蛯原隆行氏(プログラム)に,そんな「LA-MULANA EX」について,あれこれ話を聞いてみた。
「LA-MULANA EX」公式サイト
これぞ「LA-MULANA」の最終調整版!
4Gamer:
「LA-MULANA EX」がいよいよ発売されますね。
小清水 史氏(以下,小清水氏):
ええ,大安の日です(笑)。以前から,12月発売とはお知らせしていましたが,ようやく皆様のもとにお届けできるようになりました。
4Gamer:
無事,発売を迎えた今の心境はいかがですか?
楢村 匠氏(以下,楢村氏):
これでやっと,「LA-MULANA 2」に取り掛かれますね。
4Gamer:
そっちですか! 確かにそちらのほうも気になっていたんですが(笑)。
楢村氏:
今回,移植の作業自体はピグミースタジオさんにほぼお任せしていましたが,それでも自分で触って確かめないといけない部分が多々ありましたので,なかなか時間的に厳しくて(笑)。
4Gamer:
そんな「LA-MULANA EX」ですが,今回の移植にあたっての大きなポイントについて,改めてご紹介いただけますか。
小清水氏:
大きなところとしては「図鑑」が追加されていますが,そのほかにも細々としたチューニングを行っています。ゲームそのものが“簡単”になったわけではないのですが,これまで分かりにくかったところなどを微調整しました。それと,もちろんトロフィー機能にも対応しています。
4Gamer:
図鑑には,どのようなものが記録されていくんでしょうか。
楢村氏:
基本的には,倒したモンスターの情報が記録されていきます。アイデア自体は,アマチュア時代にオリジナル版の「LA-MULANA」を作っていた頃からあったのですが,その時にはゲームがほとんど完成していたので,あとから仕込むのは無理だったんです。長年,念願の機能だったので,それがやっと実現したという感じです。
4Gamer:
(実機のプレイ画面を見ながら)こうして改めて見ると,こんなにたくさんのモンスターがいたんだなと驚かされますね。
小清水氏:
楢村さんには今回,ドットからイラストにするという,通常とは逆の作業を行ってもらいました。
楢村氏:
すべてのモンスターについてイラストと紹介テキストを用意していて,全部で200体以上います。僕はアートディレクターも兼任しているので,頭の中に浮かんだものをすぐにドットに描き起こしてしまうんですが,そのせいで“中間”の素材がないんですよね。
4Gamer:
つまり,ラフ的なものは最初から存在しないと。そう考えると膨大な作業ですね……。
小清水氏:
ファンにとってはたまらない要素ですけどね(笑)。
楢村氏:
考えてみると,「LA-MULANA」ではこれまで敵キャラの紹介をすることがなかったんです。ゲーム内のヒントには敵キャラの名前が書いてあったりもしたんですが,「LA-MULANA EX」ではそれが図鑑に登録されるようになったことで,攻略にも役立てやすくなっていると思います。
4Gamer:
私も今これを見て,初めてモンスターの名前を知りました(笑)。
ちなみに「LA-MULANA EX」では,謎解きやステージ構成について,手を加えた部分はあるんでしょうか。
楢村氏:
あります。これまでは,ディレクターやグラフィッカーなどを兼任していて,時間的にもゲーム全体を通してプレイすることがなかなかできなかったのですが,「LA-MULANA EX」ではほぼ初めて,最初から最後まで自分でプレイしてクリアしてみたんです。まあ,デバッグ用の“無敵モード”を使っていますが……。
4Gamer:
あっ,そこは使うんですね……。
楢村氏:
それで,自分で面倒だと感じた部分や,プレイ動画を配信している人達のプレイを見てつまずきやすい部分などについては,こっそりと近道を用意したり,分かりやすく誘導するようにしたりといった修正を加えています。
4Gamer:
それは嬉しい変更ですね!
楢村氏:
まあ,ここまで言っておいて,直でヒントを出すようなことは一切ないんですけどね(笑)。ただ,こちらが想定していないようなところで勘違いしていたり,その時点では絶対に勝てないボスに挑んでいたりするのを見ると申し訳ない気持ちになるので,例えばボスに負けたときにはメールでアドバイスが届いたりするようにしました。
4Gamer:
これまでの基本姿勢は崩さずに,より遊びやすくなるように調整したと。
楢村氏:
そうですね。一方で,ただやさしくするだけでなく,ヒット率が低かった罠にもっと確実に引っかかるようにしたり,力押しで突破できていた部分をきちんと手順を踏んで謎を解かないと進めないようにしたりといった調整も行っています。「LA-MULANA EX」は言ってしまえば,これまで気になっていた部分を一気に修正した,「LA-MULANA」の最終調整版なんです。
4Gamer:
携帯機で遊べるというのも大きいですし,すでにWiiウェア版やPC版をプレイした人でも新鮮な気持ちで遊べそうですね。
キャッチコピー「今こそ、アナコンだ!」の意味とは?
4Gamer:
携帯機への移植は今回が初となりますが,手応えはいかがですか。
楢村氏:
PS Vitaは画面が綺麗で,思った以上に細かいところまではっきり見えるので,「LA-MULANA EX」との親和性が高いですね。寝っころがりながらのプレイもできるので,向いているハードだと思います。
小清水氏:
PC版の画面をギュッと凝縮してもぼやけたりしないで,密度が上がったことでむしろ綺麗になったように見えるんです。
4Gamer:
グラフィックス面で修正した部分はあるんですか?
楢村氏:
何か所か,PS Vitaの画面で見分けるのは無理だろうと思っていた細かい壁の模様の違いなどを少し手直ししています。また,地上にある温泉(回復施設)が分かりづらいという声があったので広くしたり,看板を立てたりしました。
4Gamer:
ビジュアルといえば,発売日の発表と同時に公開された公式サイトでは,寺田克也氏が描き下ろしたメインビジュアルと,「今こそ、アナコンだ!」というキャッチコピーが掲載されていますが……。
小清水氏:
「アナコンだ!」は,アナログコントローラと大蛇という意味のアナコンダを掛けています。まあ,あんまり自分で解説するのもアレですが(笑)。
4Gamer:
ダジャレだったんですね(笑)。ただ,あえてツッコミたいんですが,MSXやファミコン時代のコントローラはむしろデジタルですよね……。
小清水氏:
確かにそうなんですが,最近のスマホゲームで流行している,いわゆる“こすり系”のゲームとの対比として,この年末年始はコントローラを使って遊ぶ,ガチガチのアクションゲームを楽しんでほしいという思いを込めて,あえてレトロ感のある“アナコン”という表現を使っているので,あんまり深くツッコまないでいただければと(笑)。
4Gamer:
分かりました(笑)。では,新たなメインビジュアルに寺田氏を起用した理由について教えていただけますか。
小清水氏:
これは私個人の印象かもしれませんが,NIGOROのメンバーが2Dアクションゲームへのこだわりを貫いている姿勢をロックだと思っていて,寺田先生の絵柄に通じるものがあると感じたのが理由です。今回はさらに,その“ロック”なイメージを強調して描いていただいたので,もしかしたらいつもの絵柄と少し違った印象を持つ人もいるかもしれませんね。
4Gamer:
公式サイトでは英語の吹き出しが付いているのもちょっとアメコミ風で,いい雰囲気ですね。早くPS Vitaで遊びたくなってきました。
小清水氏:
PS Vita TVでもプレイできるので,難しくて思わずコントローラを放り投げちゃう人はそちらがお勧めです。
4Gamer:
ああ,分かります。昔のアクションゲームのお約束とはいえ,「LA-MULANA」はダメージを受けるとノックバックするのがイヤらしいですよね。
楢村氏:
しかも,こっちはノックバックで穴に落としてやろうとしてますから(笑)。
4Gamer:
そうそう。だから,高い足場をジャンプで渡ろうとしている時に敵の攻撃を食らったりすると本当に大変で……。子供の頃だったら,コントローラをへし折っていたかもしれません。
楢村氏:
でもPS Vitaをあんまりねじりすぎると,本当の意味で“アナコン”に……。
4Gamer:
あっ,そういう意味だったのか!(編注:たぶん違います)
「LA-MULANA 2」の設定が生まれた意外すぎる理由
4Gamer:
ところで,楢村さん,鮫島さん,蛯原さんの3人は,これまでずっと一緒に活動されてきたんですよね。
蛯原隆行氏(以下,蛯原氏):
そうですね。
鮫島朋龍氏(以下,鮫島氏):
何だかんだで,もう10年以上になります。
4Gamer:
「LA-MULANA」はオリジナル版から始まって,これまでに何度かリメイクも行われてきましたが,開発に当たって心がけてきたことや,印象的なエピソードはありますか。
鮫島氏:
サウンドに関して言えば,オリジナル版では当時のゲーム音源をスロー再生で聴くなどして分析して,MSXの実機の音を再現することにこだわりました。リメイク版のときは,効果音を“リアルにしすぎない”ことを意識していて,デフォルメした音でありながら,音源っぽさもあまり残さない,“低解像度のサンプリングをもう少しゲーム寄りにした感じ”を狙っています。
蛯原氏:
自分はサウンドには直接タッチしていないんですが,鮫島に苦労をかけてしまったなと思ったのはラスボスの曲ですね。オリジナル版を開発していた当時,私のリクエストで曲にアレンジを加えてもらったんですが……。
鮫島氏:
そうしたら,ラスボスの曲がめちゃくちゃ長くなってしまって,どうしようと(笑)。
蛯原氏:
それで結局,曲の長さに合わせてボスの動きを全部直したんですよね。
4Gamer:
えっ,そうだったんですか。
鮫島氏:
しかも楢村に言わずに,勝手にやっちゃったという。
4Gamer:
当時,楢村さんはそのことをご存じでしたか?
楢村氏:
確かに,自分が最初に指定したものより長くなっているなとは思ってました(笑)。それともう一つ,ラスボスにダメージを与えると中心に光の玉が集まっていくというグラフィックスを蛯原が付け足したんですが,その玉が胎児のように見えたんです。
それを見て,最後に胎児が生まれて空に逃げていくという設定を思いついて,ちゃんとグラフィックスも胎児に描き直して,これを「LA-MULANA 2」につなげてしまおうと。だから,蛯原が勝手なことをしなければ「2」の設定は生まれていなかったんです。
蛯原氏:
それは私も初めて知りました(笑)。
4Gamer:
なんとも意外すぎるエピソードですが,それがチーム制作の面白さですよね。
鮫島氏:
そうですね。一人では全然思いつかなかったようなことが生まれます。
楢村氏:
オリジナル版では,2人にそれぞれ1ステージずつ制作をお願いしていて,それをほぼそのまま,そのあとのバージョンにも入れています。で,プレイヤーの間ではそれが「LA-MULANA」の中でも最悪の謎解きステージと,最強のアクションステージと呼ばれているんですよ。
蛯原氏:
私は「迷いの門」というステージを担当したんですが,2人とも「クリアしたあとは二度と行きたくない」って言うんです。ひどいと思いませんか。
鮫島氏:
でもあそこは,ルート的にも二度と行く必要がないしね(笑)。私は「巨人墓場」というステージを作ったんですが,床が滑るステージがなかったので,じゃあ全面氷張りにしてやろうと……。
4Gamer:
まあ,どちらのステージも同じくらいひどいということで(笑)。ところで「LA-MULANA 2」の話が出たので少しだけ制作状況をお聞きしたいのですが,2015年には間に合いそうですか?
楢村氏:
一説によれば,そういう話もあるようですが,ようやく本格的に動き出せるようになってきたところですね。でも,どうだろう,またこのあと1年くらい沈黙を続けるかもしれません(笑)。
4Gamer:
何となく予想はしていましたが,まだ完成までしばらくかかりそうですね(笑)。では最後に,読者に向けてひと言ずつコメントをお願いします。
楢村氏:
新しいものを作っている間はいつも,プレイヤーさんを楽しませるようになるまで,まだまだ時間がかかってしまうことを残念に思っているので,このタイミングで「LA-MULANA EX」を発売できることを本当にありがたく思っています。
「EX」はネタバレも含めて自由に実況プレイをしてもらって構わないので,「LA-MULANA 2」に備えてゲームを遊んだり,あるいは実況プレイを見たりして,一緒に盛り上がって楽しんでもらえればと思います。
蛯原氏:
「LA-MULANA EX」は,「LA-MULANA 2」につながる修正が入った唯一のバージョンなので,「2」を楽しみにしている人は「EX」で改めて復習して,初めて遊ぶ人はこの物語がまだ続いていくんだというところを実感してほしいですね。
鮫島氏:
おそらく,初めてこの手のアクションゲームをプレイする人にとってはびっくりするぐらいボリュームがあるゲームなので,初プレイの人はたっぷり苦労してください(笑)。また,すでに何回も「LA-MULANA」をプレイしている人は,モンスター図鑑を楽しみにしてください。本当にヒドイ内容で,これを作った人達はバカじゃないのかと思えるようなものになっていますので。
小清水氏:
「LA-MULANA EX」はNIGOROのメンバーにしっかりと監修してもらって,これまでの集大成ともいえる自信作に仕上がっています。年末年始にじっくりと遊び込むのに最適なゲームなので,この機会にぜひ手に取ってみてください。今こそ,アナコンだ!
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「LA-MULANA EX」公式サイト
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