インタビュー
「Fate/Grand Order」が目指す,スマホ時代の新しい物語とは。奈須きのこ×武内 崇×庄司顕仁の3名に聞く,その狙いと手応え
新たな聖杯戦争と新たなヒロイン
4Gamer:
現在明らかにされている部分について,もう少し教えてください。メインビジュアルには,セイバーとジャンヌ・ダルクのほか,新しい女性キャラクターが一人描かれていますね。彼女はどういった立ち位置のキャラクターなんでしょうか。
彼女は今回のヒロインです。「stay night」の顔がセイバー,「Apocrypha」の顔がジャンヌであったように,「FGO」の顔として登場します。セイバーもジャンヌもキーパーソンではありますが,本作においてはあくまで有名な英霊の一人。メインを張るのは,あの盾を持った娘になります。
4Gamer:
あれはやっぱり盾なんですね。彼女のデザインは,武内さんが手がけられたということでいいのでしょうか。
武内氏:
そうです。でも,あの盾子のデザインは,この企画が始まる前から存在していたんですよ。
奈須氏:
世に出ることはなかったんですが,以前スタジオディーンさんが「stay night」をアニメ化されたとき,オリジナルの話を作る予定があったんです。このヒロインは,その時に正式に作られたキャラクターでした。そのまま眠らせておくのはもったいない気持ちがありましたし,「FGO」のストーリーにハマる感触もあったので,今回メインヒロインとして立ってもらうことにしました。
4Gamer:
では,その正体が明らかになるのは,まだ先であると。
武内氏:
今はまだ(笑)。英霊の真名――正体を想像するのも,「Fate」という作品の大きな楽しみの一つですからね。
奈須氏:
「FGO」の場合,キャラクターを手に入れた時点でサーヴァントの正体はどうしたってバレてしまいますから。なので,配信が始まった後もプレイヤーの皆さんにはなるべくネタバレを避けてもらえると嬉しいです。
4Gamer:
分かりました。では,実際の制作はどのように進められているのでしょうか。例えばシナリオであれば,奈須さんのほかに東出祐一郎さんと桜井 光さんのお名前が挙がっていますよね。どういった形で分担をされているんでしょう。
奈須氏:
これは,まず初めに僕の方で全体の草案を切って,こういうゲームにするよというイメージを共有するところから始めました。チュートリアルとオープニング,最終章は僕がメイン担当になって,ほかの箇所を三人で分担する形になっています。東出さんと桜井さんに,この箇所を書いてほしいという指示を出して,上がってきたシナリオに僕が足したり引いたりする感じですね。あとは……キャラクターごとにも大体の担当が決まっています。「このキャラは俺が責任を持って育てるから,こっちの娘はお任せします」という風に。
4Gamer:
東出さんは「Fate/Apocrypha」,桜井さんは「Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ」をそれぞれ執筆されているわけで,その辺りの勘所というか,意思の疎通はスムーズそうですね。
「Fate/Apocrypha」(著:東出裕一郎/イラスト:近衛乙嗣) |
「Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ」(著:桜井 光/イラスト:中原) |
奈須氏:
そうですね。お二人とも,「Fate」の設定や世界観を深く理解されている方ですから。
ただ,「Apocrypha」や「フラグメンツ」の場合は,世界をそれぞれの作家さん達に預け,彼らの作家性を存分に発揮してもらうことが狙いでした。ですが,今回の「FGO」では奈須きのこの感覚に合わせるようにしています。監修として,これまでにないぐらいエゴイスティックに自分のカラーに染め直したりする場合もありました。
4Gamer:
イラストの作業についてはいかがでしょうか。公式サイトには,キャラクターデザインとして50名以上のイラストレイターさんのお名前が挙がっていますよね。こちらは依頼だけでも大変そうですが……。
奈須氏:
もうね,一日が事務作業だけで終わることもあります(笑)。
武内氏:
やはり「Fate」のキャラクターでなければならない縛りがありますから。個々の作家さんにお願いする作業は,どうしても重たいものになってしまうんです。キャラクターを大切にしてこその「Fate」という考えもあるので,それを踏まえた上でお任せできる人にお願いしている感じです。
4Gamer:
武内さんご自身は,イラストとディレクションを同時になされているのでしょうか。
オフィシャルイラストが存在しているキャラは,やっぱりそのオフィシャル絵を担当された方にお願いしています。なので,「フェイト/エクストラ」ならワダアルコさんに,「Apocrypha」なら近衛乙嗣さんに頼むことになるんですが,それでいくと僕は「stay night」に「Fate/Zero」,さらに「Fate/Prototype」も入ってきちゃうんですよね。そこに新キャラまで加わるとなると,さすがにすべては無理だろうって。なので,そこはある程度絞りながら,うまく分担するようにしています。
奈須氏:
僕の仕事もどんどん増えていくんだけど,武内くんの場合,ほかの人の意見を聞いているうちに,「結局,公式のキャラはあなたがやらないと駄目」って話になるんです。そして地獄のようなスケジュールが待っている(笑)。
庄司氏:
実際,凄い作業量ですよ。尊敬します。
武内氏:
僕としては,庄司さんが上げてくる仕様の面倒くささに文句を言いたいですけどね(苦笑)。
奈須氏:
どんどん仕事が増えていく仕様になってるんです(笑)。だけど,それはプレイヤーに「このゲームをやってて良かった」と思ってもらうためには必要な要素ですし,自分がプレイヤーだったとしても嬉しい内容になっている。だからやらざるを得ないんですよ。
武内氏:
やっぱりね,人に楽しんでもらうためには別の誰かが苦労しなきゃいけない。それが分かってるからこそ全力で取り組めるんですが……庄司さんのことは恨ませてもらいます(笑)。
4Gamer:
そういえば,本作にボイスはあるんですか?
奈須氏:
ありますよ。基本的にはこれまで声をあてていた方にお願いしているので,もの凄く豪華なキャストです。正直,予算的にはかなりヤバい(笑)。だけど,すでに決まっている声を僕らの都合で変えるわけにはいかないですし,これは辛くてもやるしかない。
4Gamer:
それはすごい。ああでも,外でプレイする時は聞けないのがちょっと残念ですね。
奈須氏:
移動時は音をオフにしておいて,家でプレイする時に聴くのが良いかもしれません。
4Gamer:
課金システムはどんな形式になる予定ですか。
庄司氏:
これはまだハッキリとはお答えできませんが,大前提として,ゲームの価値はお客様一人一人が決めるものだというのが,僕達の考え方です。
4Gamer:
というと?
庄司氏:
「基本プレイ無料」というのは「タダで遊べるゲーム」ではないと考えています。無料で遊ぶくらいの価値しか感じられなかったお客様にとっては無料のゲームですし,100円出してもよいと思った人にとっては,100円の価値のあるゲームなんです。
4Gamer:
しかし,サービスを続けていくためには,もちろん利益は必要ですよね。
庄司氏:
はい。であればこそ,お客様が納得してお金を払っても良いと思えるだけの価値を,我々は提供していかなければならない。「FGO」の基本設計には「お金を払わなければ絶対にできない要素」は入れていませんし,つまり我々が提供する価値に対して皆さんがどれだけの値段をつけていただけるかが,このサービスの鍵を握っているんです。
4Gamer:
お聞きしていると,これまでに類を見ない課金方式のように聞こえますが,そういうわけではないんですよね?
庄司氏:
いえ,特別なシステムを考えているわけではありません。課金方式そのものはごくオーソドックスなものを想定しています。ただ,その提示の仕方やタイミングによって,印象は随分変わってくる。どんな形になっているかは,実際の発表をお待ちいただければと思います。
ディライトワークスとはどんな会社なのか
4Gamer:
本作が目指すところについては,だいぶクリアになってきました。しかし……本当に期待していいのでしょうか。先ほど庄司さんはディライトワークスは2014年1月に立ち上げたばかりの会社とおっしゃっていました。
ディライトワークスの開発力についての懸念でしたら,そこはご安心くださいと胸を張って言えると思います。本作のために集まってくれた開発スタッフは,スーパーファミコン時代からゲーム開発を行っているベテランから,スマートフォンアプリの開発を専門とする若手まで,いずれもしっかりとした実績を持った者ばかりです。
4Gamer:
そうは言っても,まだ立ち上げから1年足らずの会社なのですよね? 失礼かもしれませんが,庄司さんのこれまでのご経歴についてうかがっても良いでしょうか。
庄司氏:
独立する前までは,スクウェア・エニックスに15年ほど在籍し,直近はグループ会社のタイトーで,取締役本部長としてモバイル事業とアーケード事業の責任者を務めさせていただいていました。昨年,タイトーでの仕事がひと段落したときに,独立してディライトワークスを立ち上げました。
4Gamer:
ああ,なるほど。会社としては若くとも,ゲーム業界とのつながりはかなり深いわけですね。
庄司氏:
気付いたら15年経っていたという感じです。初めはスクウェア(現スクウェア・エニックス)にアルバイトとして入社して,デバッグの雑用係のようなことをやってました。当時は丁度「ファイナルファンタジーVIII」を作っていた頃で,デバッグで使った資料のシュレッダーがけやロム焼きをひたすら行う日々を過ごしてました(笑)。そこから色々なご縁や機会に恵まれて品質管理部門の責任者を任されるようになり,それからPlayOnlineの立ち上げに関わって……。
4Gamer:
おお,「ファイナルファンタジーXI」(以下,FF11)の最初期ですね。
庄司氏:
ええ。あの頃は会社で初のオンライン事業の立ち上げ時期ということもあり,かなりカオスな状態だったので,どさくさに紛れて本当にいろいろなことをやらせていただきました。中でも経験として大きかったのは,運営チームの立ち上げを担当させていただいたことです。あの当時はオンラインゲームにおける運営の重要性が今ほどは認知されていなくて,それこそ,さっき奈須さんがおっしゃっていた,ワクワクする仕掛けを定期的に作るみたいなことも,当時はなかなか理解を得難かったことをよく覚えています。
4Gamer:
今では考えられないですね。ということは,オンラインゲームには元から詳しかったわけですか。
庄司氏:
「EverQuest」のヘビーユーザーでしたので,素人ながらに割と詳しかった方だとは思います。運営チームの立ち上げから間もなく,友人だったSage Sundiがスクウェアに入社してくれたので,運営チームは彼に託して,僕自身は品質管理部門の責任者としてPlayOnlineやFF11のサービスに携わりました。
4Gamer:
ああ,そうだったんですか!
庄司氏:
その後は欧州でのFF11の立ち上げを担当したり,新規事業担当としてスクウェア・エニックスのアーケード事業の立ち上げなどを担当しました。「悠久の車輪」とか「LORD of VERMILION」「ドラゴンクエスト モンスターバトルロード」の頃です。会社としてアーケードへの参入を決めたときに,柴さんたちが手を上げてくれて,無事,市場参入を果たすことができました。
4Gamer:
「LORD of VERMILION」シリーズの柴 貴正氏ですね。いやあ,本当にいろいろやってこられたんですね。
庄司氏:
そこから先はまた新規事業の一環としてStyleWalkerという会社を作って,女性向けゲームの開発を行ったりということを数年やりまして。その後,タイトーに出向してモバイル事業部門を担当することになり,キャリア公式サイトのテコ入れから,ソーシャルゲームへの参入,スマートフォンゲームの展開などを行いました。
この頃に携わった代表的なタイトルで言うと,「スペースインベーダー インフィニティジーン」や「グルーヴコースター」などになります。後半はアーケード事業の責任者も兼務していましたので,あらためて振り返ってみると,コンソール,アーケード,PCゲーム,モバイル,スマートフォンと,ご縁と機会に恵まれて,本当に色々な事をやらせていただきました。おおよそゲームと名のつく事業は,アナログゲームを除き,携わってきたと思います。
4Gamer:
そこまで長くスクウェア・エニックスグループでお仕事をされていながら,なぜ外に飛び出そうと考えたのですか。お聞きしている限り,何か新しいことを始めるにしても,社内でやったほうが簡単だったのでは,という気がしてしまいます。
庄司氏:
組織の枠を超えてチャレンジをしてみたい,というのが大きかったです。組織の中でそこそこの立場になってくると,何をするにせよ,当たり前にまず組織のことを考えなくてはなりませんから,短絡的な思考で自分のやりたいことをやるというわけにもいきません。ちょうど仕事に区切りがついた時に,あらためてこの先の人生を考えて,一度武者修行も兼ねて独立して,チャレンジしてみようと思いました。これまでお世話になったスクウェア・エニックスも含め,もっと幅広くゲーム産業に寄与できる仕事をしようと。
4Gamer:
では,そうして生まれたディライトワークスは,何を目指す会社なのでしょうか。
庄司氏:
創る人を支えて,育てて,増やすという理念を持って活動しています。ビジネスの力でクリエイターやエンジニアの皆さんを支え,より沢山のお客様にゲームを届けることで,ゲーム産業の発展に寄与していきたいと考えています。
4Gamer:
ディライトワークスのコーポレートサイトには,「よろず屋」と書かれていましたね。
庄司氏:
そうです。ゲームに関わることなら何でもやる,まさによろず屋です。僕自身はクリエイターではありませんし,これといって特別なことができるわけではない凡人ですが,15年間ゲーム業界で仕事をさせていただいて分かったことは,凡人には凡人の役割があって,それをしっかり果たすことで,多くの人の役に立つことができるということでした。社名にあるdelightの語に込めたとおり,人を喜ばせ,楽しませることを目指す会社でありたいと思っています。
4Gamer:
なるほど。ただ開発を請負うだけの会社ではないわけですね。実際には,もっと広い範囲を担当されていると。
庄司氏:
ゲームビジネスに必要な事で,そのプロジェクトに求められることは何でも,というスタンスです。「作る」「売る」「伝える」「支える」……あらゆることをソリューションとして提供しています。今回の「FGO」では,誰に,何を,どのように提供し,どうやって価値を生み出していくかというプロジェクト設計から携わらせていただきました。具体的に言えば,誰に向けて作るのか,「Fateらしさ」とは何かを徹底的に考え抜いて,それを伝えるために何をすればいいのか。これらを一つ一つ具体的にしていくところからスタートしていきました。
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