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[CEDEC 2016]「Fate/Grand Orderを支える、“非常識”な企画術。」聴講レポート。FGOが“ソシャゲの常識”を全否定した理由とは?
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印刷2016/08/25 21:33

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[CEDEC 2016]「Fate/Grand Orderを支える、“非常識”な企画術。」聴講レポート。FGOが“ソシャゲの常識”を全否定した理由とは?

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 2016年8月24日から8月26日まで,ゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2016が開催されている。本稿では,8月25日に行われたセッションの中から,ディライトワークスの塩川洋介氏による「Fate/Grand Orderを支える、“非常識”な企画術。」の聴講レポートをお届けしよう。

 「Fate/Grand Order」iOS / Android。以下,FGO)は,TYPE-MOONによるビジュアルノベル「Fate」シリーズを原作としたスマートフォンゲーム。セールスランキング上位に名を連ね続ける人気作であるにも関わらず,有料ガチャの値下げやキャラクター所持枠の無料化など,思い切った施策を行っている。
 本セッションでは,そのような施策の裏にどのような意図が込められているかが明らかにされた。

塩川洋介氏(ディライトワークス FGO PROJECT クリエイティブディレクター)。塩川氏はプロジェクトの方向性を定める開発責任者で,FGOにはサービスの途中から加わったとのこと
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 塩川氏がFGOの開発・運営においてキーワードとしているのは,「KPIより、TPI。」「ソーシャルより、パーソナル。」「継続運営より、新規開発。」の3点だ。講演のタイトルにもなっているが,KPI,ソーシャル性,継続運営といったソーシャルゲームの常識とも言えるキーワードをすべて否定する“非常識”がポイントである。
 塩川氏によれば,これはFateという原作をリスペクトしているからこその姿勢だという。

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「KPIより、TPI。」


 ソーシャルゲームの運営・施策では,ユーザーの課金動向などを示すKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指数)が大きな影響力を持つのが一般的だ。しかしFGOでは,KPIではなく「TPI」という指数を重視しているという。
 TPIとは耳慣れない言葉だが,これは塩川氏による造語で,TYPE-MOON Performance Indicator(型月反応評価指数)の略。具体的には,打ち合わせにおけるTYPE-MOON(愛称:型月)スタッフ達の反応を重要視するということらしい。
 TYPE-MOONのスタッフ達は,Fateシリーズを誰よりも愛していて,同時にFGOの超コアなプレイヤーでもある。そんな彼らが盛り上がるものであれば,FGOユーザー全体が盛り上がるに違いない,というのが塩川氏の考えだ。

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 TPIという判断指標では,KPIのようなデータ,他ゲームでの事例,採算性といった要素は優先されない。「ユーザーはこうした部分を改善すれば喜ぶだろう」「感謝の気持ちを表現する際にユーザーを驚かせたい」という発想により,「これをやればFGOユーザーが盛り上がる」ことが意思決定の重要な指針になっているとのこと。

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 具体的な例として,直近で行われた具体的な施策が紹介された。
 まず,サービス1周年記念の一環として行われたのが,有料ガチャである「聖晶石召喚」の値下げだ。ガチャ1回で聖晶石4個(約480円)から3個(約360円)に恒久的に値下げした。加えて,サーヴァント(キャラクター)と概念礼装(装備アイテム)の所持枠を無料で最大まで開放して課金要素を撤廃。所持枠を開放済みだったプレイヤーには,枠数に応じた聖晶石を返還している。

 また,現在開催中の期間限定イベントでは,ゲーム内で屈指の人気を誇るサーヴァント「スカサハ」の水着バージョン「スカサハ(アサシン)」を無料で入手できる。有料ガチャのラインナップに投入すればセールスが上がるのは分かっているが,「人気サーヴァントをもらえれば皆が喜ぶだろう」との判断から即決されたのだという。

 FGOがセールスランキング上位の常連で,業績が好調だからこそ可能なのかもしれないが,いずれも今までのソーシャルゲームにおける“常識”とはかけ離れた取り組みと言っていいだろう。

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「ソーシャルより、パーソナル。」


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 続いては,「ソーシャルより、パーソナル。」についての説明が行われた。
 一般的にソーシャルゲームと呼ばれるタイトルでは,協力や競争といった形で他プレイヤーとの“つながり”を意識させるソーシャル要素に重きが置かれている。
 しかしFGOでは,奈須きのこ氏が描く物語,世界観,キャラクターがFate作品における一番の魅力であるという認識のもと,パーソナル(個人的)に作品世界へ浸るための要素が重視されるのだという。
 さらに,キャラクター作りとゲームバランスにおいては,こうしたポリシーがとくに色濃く反映されているとのこと。

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 キャラクターに関しては,ボイスやバトル時のキャラクターバリエーションを,レアリティや性別を問わず同じだけ用意する。またバトルでも,すべてのキャラクターにしっかりとした役割を持たせる特徴付けを行っている。
 これは,「プレイヤーそれぞれに好きなキャラクターを見つけてほしい」「設定だけではなくゲームのキャラクターとしても好きになってほしい」という考えによるもの。
 例えば一般的なソーシャルゲームでは,キャラクターのビジュアルや設定に惹かれて好きになっても,性能が劣っているとバトルで活躍できず,結果として感情移入が妨げられてしまうケースが見受けられる。こうした不遇な事態を招かないよう,低レアリティであっても性能向上などを行い,誰もがバトルで活躍できるバランスを目指しているという。

 また,最近では定番施策となっているコラボに関しても,「空の境界」をはじめとしたTYPE-MOON作品を対象とする,TVCMも作品世界の一部という考えから,芸能人などを起用せずアニメーションとするなど,世界観や没入感を損なわないように配慮しているとのこと。

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「継続運営より、新規開発。」


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 前述したとおり,FGOでは個人の没入感を重視していることから,過剰な宣伝活動を行っていない。そのため,FGOユーザー内での反響が外へと伝播するような衝撃をいかにして生み出すか,ユーザーを惹きつける「ネタの衝撃度合い」を重視している。そのために必要になるのが新規開発なのだという。

 具体的には,期間限定イベントは毎回新たな要素を含めて作り込んだ新作を配信し,過去イベントの焼き直しや複数イベントの併走などを行わない。これには,イベントの空白期間が生じるといったデメリットもあるのだが,これまで実施したイベントのクオリティを知っているユーザーは,期待してくれるのだという。

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 インパクト重視の姿勢はアップデートでも同様で,毎回一石を投じているとのこと。最近で言うと「聖杯転臨」などが挙げられる。これは,「聖杯」と引き換えにキャラクターのレベル上限を上げるというもので,低レアリティキャラクターでも使用可能。課金をしなくとも入手できる低レアリティのキャラクターを,高レアリティのキャラクター並みに育成できるわけだ。
 そうなると,売上に影響を及ぼすのではないかという懸念もあるが,「これくらい思い切ったことをやらないと,ユーザーの間で話題にならない」という判断から,実装されることになったそうだ。

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 塩川氏は,FGOを「KPIやソーシャル性,継続運営といったソーシャルゲームの常識を全否定したゲームである」と定義する。
 FGOがこうした“非常識”なゲームになった理由は,FateのIPを借りたソーシャルゲームではなく「TYPE-MOONが贈るFate新作RPG」であるという意識で開発したからだという。よりFateらしくあることが優先された結果として,ソーシャルゲームの常識から離れた施策が行われたのだと語った。

 最後に塩川氏は,ディライトワークスの開発理念である「ただ純粋に,面白いゲームを創ろう」というフレーズを紹介。これは,FGOに関する打ち合わせの際に,塩川氏がTYPE-MOONスタッフに語った言葉が採用されたものだそう。
 塩川氏は,来場者のそれぞれが自分の仕事において,この考え方を生かしてもらえれば幸いであると述べ,セッションを締めくくった。

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 ゲームとはいえビジネスであるため,売上を伸ばすための努力は当然必要だし,それが結果として長期の運営,ひいてはユーザーが長く楽しめる作品になるというのは事実だ。FGOにおいても,原理原則としては“ソーシャルゲームの常識”に則ってはいるが,それ以上にFateという原作へのリスペクト,そしてファンが没入できる世界観を大事にしているところが,人気の秘密なのかもしれない。
 今回のセッションを聴講してとくに印象的だったのが,高レアリティだけでなく低レアリティのキャラクターもバトルで活躍できるバランスを目指しているという点だ。ガチャで高レアリティのキャラを引き当てることが前提になっているゲームが一般的で,FGOのようなバランス調整を行っているゲームは非常に少ない。
 今後,FGOの“非常識”が常識になるような流れが生まれるのか,注目していきたいところである。

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