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[COUMPUTEX]NVIDIA私設ブースレポート。NVIDIAの今年の「本気!」は「VR」「GTX 980 Ti」「G-SYNC」の3本柱だ
展示物でホットトピックとなっていたのは,ブランド名が変更された仮想現実(Virtual Reality:以下,VR)向け開発支援ミドルウェア「GameWorks VR」,NVIDIAの最新世代MaxwellによるウルトラハイエンドGPUコア「GM200」ベースの「GeForce GTX 980 Ti」,そしてGPU主導の表示同期システム「G-SYNC」の3つだ。
一通り展示製品を見ることができたのでブースレポートの形でまとめてみることにしたい。
今年のNVIDIAは「VR」に本気!
ブランド名が変わっただけで,機能自体はVR Directから変更はないため,GameWorks VRの基本機能については筆者の過去記事の「VR Direct」解説編を参照いただきたい。
ただ,新たにこのGameWorks VRに追加された機能もある。それは「不均等ビューポートのラスタライズ処理」による「Multi-Res Shading」機能だ。
Oculus VRの「Rift」に代表されるVR対応型ヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)では,レンズの歪みを逆補正した映像を描画することで,レンズの歪みを相殺させる仕組みを実現しているが,その際に視界外周付近を低解像度で描画しようというのが,Multi-Res Shading機能だ。これは「Maxwell世代コアのGeForceシリーズでのみ有効化できる」と説明しており,原理としてはジオメトリシェーダを使った複数視界生成(マルチ・ビューポート・キャスト)を応用したものである。
今回のNVIDIAブースでのVR体験の一部は,この機能を活用したものになっており,Multi-Res Shading機能のオン/オフで映像の見え方がどう違うかを確認することができた。
Multi-Res Shading機能を活用すると,映像外周の描画解像度が低減される代わりに,30%から100%のパフォーマンスアップが実現できるという。
そのオン/オフで,見た目の違いに気が付かなければ「この最適化手法は成功」となるのだが,実際に体験しても,ほとんど違いに気が付くことはなかった。画面外周に高周波(模様のきめ細かい)テクスチャが差し掛かると違いに気が付くのだが,よほど注意深く意識して見ない限りは違いが分からないだろう。
この機能をうまく活用すれば,VRでは極めて重要となるハイフレームレート維持率を上げることができるはずであり,技術としては有望であることを実感できた。
今年のNVIDIAは「GeForce GTX 980Ti」に本気!
GPU製品としてのNVIDIAブースの主役は,6月1日に正式発表されたばかりの「GeForce GTX 980 Ti」(以下,GTX 980 Ti)であった。
GTX 980 Tiは,現時点でのMaxwellコア系ウルトラハイエンドGPUのGeForce GTX TITAN X(以下,TITAN X)と同一コアの「GM200」コアベースの製品で,TITAN Xに対してシェーダプロセッサ(CUDAコア)が256基少ない2816基,テクスチャユニットが16基少ない176基,グラフィックスメモリが半分の6GBとなっていること以外はほぼ同等スペックである。
動作クロック,ROP数,メモリバス帯域幅もTITAN Xと同じなのだから,ピーク性能はTITAN Xにかなり肉迫することになる。それでいて価格は36%安く抑えられているのだから,魅力的な製品だといえるだろう。歴代のNVIDIA製GPUで「Ti」型番が付く製品はお買い得感の強いものが多かったが,今回もご多分に漏れずというわけである。
前述したVRデモのPC実機はほぼすべてがGTX 980 Ti搭載機であり,VR以外のGTX 980 Ti搭載デモ機では4K(3840×2160ドット)解像度の技術デモやゲームプレイを体験できる展示が行われていた。
そもそもWITCHデモとは,スクウェア・エニックスの新世代ゲームエンジン「Luminous Studio」を共同開発している,同社第2ビジネス・ディビジョン(以下,BD2)と同テクノロジー推進部によって制作されたリアルタイムCG技術デモである。BD2は「FINAL FANTASY XV」開発チームでもあるが,WITCHデモは据え置き型ゲーム機の性能からくる制約をあえて無視し,最高のPC環境におけるリアルタイムCGでの究極表現を目指して開発されたそうだ。
de:code 2015の展示では,4K解像度でレンダリングした画像をポストエフェクト処理でフルHDにダウンサンプルして,実質的にフルスクリーンアンチエイリアシング(FSAA)を実現していたのだが,今回の展示では,その処理系を省略して,4Kダイレクト表示としていた。「4K→フルHD」処理の一工程を省略させたことでGPU負荷が多少低減され,GTX 980 Tiの4枚差しで30fps表示ができたというわけである。
FSAA処理がなくなったことで,近寄って見ると若干のジャギーや,時間方向のエイリアシングが確認できるものの,逆に4Kリアル表示となったことで,画面が静止しているときの「くっきり感」が印象的だった。
Project CARSのPC版が動作していたマシンは,GTX 980 Tiの3枚差し! |
4K/60fps設定。アンチエイリアス系設定以外はほぼ最上位の設定 |
前述した二大巨頭タイトルとは違い,マルチプラットフォームで展開されているタイトルではあるが,いずれのプラットフォームにおいてもシミュレーション精度には定評があり,グラフィックスに関しても,各プラットフォームの最大性能を活かすように設計されている。とくにPC版はそのグラフィックスクオリティにおいて最上位に君臨する。
実際にプレイしてみたが,映像の細部まで鮮明に見える4Kグラフィックスにて,2周のラップをカク付きなしのほぼ60fps維持で走りきることができた。今回のデモ機に接続されていた4Kテレビは50インチクラスで画面サイズが大きかったこともあって,4K解像度による精細感の恩恵も分かりやすく,地味ながらもGTX 980 Tiの3枚差しパワーを効果的に体験するよいデモだったように思う。
コスト的になかなかGTX 980 Tiの3枚差し環境を構築できるものではないが,逆に,コストさえ掛ければ,今でも「理想の4Kゲーミング環境」を先取りして実現できることを証明しているわけで,その存在価値は高い。
今年のNVIDIAは「G-SYNC」に本気!
GPU主導の表示同期システム「G-SYNC」は,可変フレームレート状態のゲームグラフィックスを「カク付きなし」「表示割れ(テアリング)なし」でスムーズに表示する手段として,2013年10月に電撃的に発表されたわけだが,その後,異なる実現様式の対抗ソリューションとしてAMDが「FreeSync」を発表し,のちにVESA(Video Electronics Standard Association)が,このFreeSyncを「Adaptive-Sync」としてDisplayPort規格の標準仕様に盛り込むに至っている。
2014年の時点では「互角の戦い」という印象だったが,明けて2015年1月には,韓国メーカーのLG ElectronicsとSamsung Electronicsが,両社製のゲーミング対応液晶ディスプレイの全製品をAdaptive-Sync対応とするとアナウンスしたことから「G-SYNC形勢不利」という見方が強まってきていた。
対するNVIDIAとしては,GPU主導の表示同期システムにおいて問題となる「低フレームレート時のチラツキを低減できる」「可変フレームレート時の液晶画素のオーバードライブ駆動の副作用による階調エラーの最適化」を行っているのはG-SYNCだけ……と,「G-SYNCは死なず」のメッセージを今回のCOMPUTEX 2015で打ち出してきたのである(関連記事)。
韓国メーカー勢はAdaptive-Sync対応の姿勢を崩していないが,COMPUTEXが開催されている地元の台湾メーカー勢は「G-SYNC推し」の立場を取っている。
そんなわけで,今回のNVIDIAブースでは,台湾メーカー勢のG-SYNC対応ディスプレイの新製品の注目株が実際に展示されていた。
とくに注目度が高かったのは,アスペクト比21:9による3440×1440ドット解像度のG-SYNC対応湾曲型液晶ディスプレイ製品だ。
展示されていたのはASUSの「PG34Q」(60Hz,IPS型液晶パネル)とAcerの「X34」(75Hz,IPS型液晶パネル)の2機種。これらはGTX 980 Tiの1枚差し構成で,Project CARSをほぼ最高位設定で動作させていた。こちらがあえて3枚差ししていないのは,もちろん「可変フレームレート表示になってもプレイに支障がない」というG-SYNCの恩恵を来場者に感じてもらうためだ。筆者が実際にプレイした感じは,体感的には常時60fpsに近い印象を持ったが,おそらくそれはG-SYNCの効果であり,実際には40〜50fpsを推移していたのではないかと思う。
アスペクト比21:9ディスプレイは横方向に視界が広く取ってあるために,コーナリング時にコーナーの先の先が見えて運転しやすく,レーシングゲーム向きであると感じる。しかし,3440×1440ドット解像度は4Kほどではないにせよ,GPU負荷は高いはずで,ゲームプレイ時に単発(1枚差し)のGPU搭載マシンでは可変フレームレート表示となるのはほぼ必至である。その意味では,ワイドアスペクトの液晶ディスプレイでのG-SYNC機能搭載の意義は大きい。
また,NVIDIAは,今回のCOMPUTEX 2015のタイミングで,G-SYNCをノートPCにも展開する方針を発表した(関連記事)。
NVIDIAによると,実は,第2世代Maxwell(GM204)コアのGPUには,G-SYNCモジュールに相当する機能が搭載されているそうで,液晶パネルとLVDS接続,ないしはeDP接続した際には,追加パーツなしのMaxwellコア系GPUだけで,G-SYNC機能を実現できることを明らかにされている。
なんでも,G-SYNCモジュール相当の機能ブロックはデスクトップPC版MaxwellコアのGPUにも搭載されているそうなのだが,「GPUと液晶パネルをほぼ直結することができるのは現実的にはノートPCのみ」……ということで「ノートPCにおけるG-SYNC展開」となったのだとか。なお,こうした背景から,NVIDIAは,ノートPCに展開されるG-SYNCソリューションに対して,「G-SYNC Direct」という技術ブランド名を与えている。
ブースには,発表されたG-SYNC対応のノートPCの新製品が4製品展示されており,実際に触れることができた。発表の直後の割には,随分と展示製品が多い印象があったのだが,これには大きな秘密がある。
NVIDIA担当者によれば,よほど粗悪な液晶パネルを組み合わせていない限りは,Maxwellコア世代のGPUを搭載したノートPCは,追加コストなしでかなり容易にG-SYNC対応ノートPCとして構成できるそうだ(※ただし,NVIDIAが「G-SYNC Panel」として認定している液晶パネルは現在3製品のみ)。
これは「G-SYNCは死なず」の巻き返し戦略としては大きな武器となりそうで,プレイヤーが専用(Descrete)GPU搭載型のノートPCを選択する際にもNVIDIA製GPUを選択することの大きな動機付けとして働きそうである。
「G-SYNC対Adaptive-Sync」戦線の状況は今後,もしかすると大きく動くことになるかもしれない。
COMPUTEX TAIPEI 2015取材記事一覧
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GeForce GTX 900
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