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独特のプレイ感はモーションキャプチャ+手付けアニメーションの手法から?  西川善司が聞く「ストリートファイターV」の技術
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印刷2015/06/27 12:00

インタビュー

独特のプレイ感はモーションキャプチャ+手付けアニメーションの手法から?  西川善司が聞く「ストリートファイターV」の技術

カプコン第二開発部 第二プロデュース室プロデューサーの綾野智章氏
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 E3 2015におけるカプコンブースは,ほぼ全面的に「ストリートファイターV」(以下,ストV。PC / PS4)一色。試遊機につながったMad Catz製のアーケードスティック「Mad Catz Arcade FightStick Tounament Edition 2」の前からは人だかりが絶えることなく,まさに大賑わいであった。
 アメリカでも大人気のストVについて,同作のアシスタントプロデューサーを務める綾野智章氏にインタビューすることができたので,筆者独自の切り口で,ストVの秘密を探ってみたい。

掲載した画面はすべて開発中のものです
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ストVがUnreal Engine 4を採用した理由とは?


 ストVの開発には,Epic Games製のゲームエンジン「Unreal Engine 4」(以下,UE4)を用いて開発が進められている。いくつかの新世代ゲームエンジンがある中で,どうしてUE4を採用したのだろうか。

綾野智章氏(以下,綾野氏):
 まず,前作「ストリートファイターIV」(以下,ストIV)はCEDEC 2011でビジュアル・アーツ賞を頂くなど,ゲームファン並びに業界関係者から高い評価を受けました。ストVにおいても,ストIVで実現した写実的表現ではない「ノンフォトリアル」表現を突き詰めていこうと,方向性を定めました。その上でゲームエンジン選定を検討したとき,当然いくつかのゲームエンジンが候補にあがりました。

 しかし,「独創的なタッチのビジュアルで格闘ゲームを開発する」となったときに,マテリアル(材質)表現やポストエフェクト・ライティングが,フォトリアルからノンフォトリアル方向にまで幅広く対応できそうなエンジンという条件で選定を進め,開発会社さんと検討していく中で,「UE4がいいんじゃないか」という思いが強まってきました。
 Epic Gamesには日本法人もあってサポートも手厚いですし,結果的に,この決断は間違っていなかったと思っています。

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綾野氏:
 2014年の年末くらいまでは,UE4上でも試行錯誤の連続でしたね(笑)。2014年末に実動しているストVをお見せしましたけど(関連記事),あれは「このまま作り続けていって大丈夫そうだ」という目処というか,方向性が定まったと確信できたからなのです。

 ストIVは,美化された「ストリートファイターII」の思い出を現実化する,というビジュアルコンセプトだったわけだが,ストVはどうなっているのだろうか。

綾野氏:
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 最初のストIVが発売されたのは2008年ですから,もう7年も経つのです。当時のストIVは,ユーザーの目にも大きな次世代感を与えられたと思っていますが,ストIVに毛が生えた程度では,もうユーザーは次世代のゲームだとは感じてくれないでしょう。
 目標は,今のユーザーに確固たる次世代感を感じてもらうことでした。ただ,それをどう実現すればいいのか。それを導き出すのには,紆余曲折がありました。

 その紆余曲折とはどのようなものだったのだろうか。

綾野氏:
 たとえば,画家のピカソは,写実画を極めてから,独特なあのキュビズムの境地に辿り着いたわけですよね。我々も似たような道を歩んだと言えます(笑)。
 UE4はやはり,写実的表現が得意なんですよ。「当たり前でしょ」って言われそうですけどね(笑)。まずは,UE4での写実的表現を習得してから,そこで実現可能なノンフォトリアル表現を模索していきました。それこそ,コンセプトアートは何度も起こし直してもがき苦しんだのです。
 その末に導き出されたのが「気跡」という造語のキーワードですね。

 「気跡」とはどういったものなのだろう。

綾野氏:
 なかなか一言で言いにくい抽象的な表現なのですが……。
 Vトリガー発動時が一番分かりやすいと思います。Vトリガー発動時は,キャラクターの周囲に,流体のような気が発現します。オーラを纏うような表現ですね。ストIVのときは,こうした架空のマテリアル表現に水墨画における墨の要素をキービジュアルとして盛り込んでいました。それがストVでは,流体のような気をテーマとしているのです。
 今は,このイメージを開発メンバー全員が共有しており,2016年春のリリースに向けて,キャラクター制作などを含む,さまざまなコンテンツ面の量産体制に突入していますよ。

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 そんなストVだが,開発プロジェクトはいつ頃に始まり,いつ頃からUE4ベースでの開発が始まったのだろうか。

綾野氏:
 いつからというのは,具体的には言えないのですが,実は相当前からです。UE4については,UE4リリースの最初期くらいから触ってはいました。

 UE4はエンジンのソースリストが公開されているわけだが,ストVではそのカスタマイズも行っているのだろうか

綾野氏:
 いえ,けっこう実直にUE4を活用しています。というのも,UE4は比較的早いペースで,機能とパフォーマンスが進化し続けているのです。そのため,たとえば今の時点でカスタマイズして,ストV仕様の亜種にしてしまうと,そうしたバージョンアップの恩恵を受けづらくなるのです。

会場で綾野氏(奥側の白いTシャツ)と手合わせする筆者(手前)
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ストVのグラフィックスは1080/60p

リュウのポリゴン数はストIV比で約5倍に


 ストVのグラフィックス表現についても,詳しく聞いてみた。

綾野氏:
 描画解像度は1920×1080ドットのフルHDプログレッシブ。フレームレートは格闘ゲームなので,60fpsです。PCはともかく,PS4では意外と厳しい選択ではあったのですが,なんとかこのスペックを実現できています。

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 1キャラクターに使われているポリゴン数の具体的な値は教えてもらえなかったが,主人公キャラであるリュウの場合,ストIV比較で約5倍に増量されているという。

綾野氏:
 たとえ話でいうと,ストVでリュウの頭部に使っているポリゴン数は,ストIVにおけるリュウの全身で使ったポリゴン数よりも多いのです。

 ボーン数は,ストIVにおけるリュウと比べても,ほとんど同じくらいであるとのこと。これは,ストIVがPlayStation 3(以下,PS3)&Xbox 360世代のゲームとしては,異常に数の多いボーン構造を採用していたためだ。そのため,ストVでもとくにボーンを増やす必要性はなかったのだろう。

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 ちなみに,ストIVで多ボーン構造が採用されたのは,ストIVが1対1の対戦格闘ゲームだったから。このタイプのゲームでは,メインの表示キャラクターは2体で済むため,GPUの処理能力をキャラクターの表現に潤沢に割り当てることができる。動きの再現品質を重視するために,当時の平均的なゲームグラフィックスと比較して,多めのボーンを仕込んで動かしていたわけだ。
 ストVのリュウのボーン数がストIVとあまり変化がないというのは,7年経った今でも,ストIVのボーン数は,対戦格闘ゲームの表現に必要十分であったということの証明でもある。

綾野氏:
 ボーン数がストIVからあまり変わっていないことの,もう1つの理由は,ストVでは,衣服の動きを付けるために,衣服側にボーンを仕込む必要がなくなったという理由があるのです。
 というのも,UE4にはNVIDIAの「PhysX」による物理シミュレーションが搭載されています。また,頂点ベースの物理シミュレーションは,NVIDIAの「APEX Clothing」がUE4に統合されているので,そちらを利用しています。つまり,ストVにおける衣服や髪の毛といった“揺れもの”の表現は,今のところPhysXベースの物理シミュレーションということになります。ただ,もっと良い表現ができないかと,リリースに向けて研究中です。


モーションキャプチャと手付けアニメーションのハイブリッド手法を採用


 ストIVにおけるキャラクターの動き(格闘時のメインアクション)は,ほぼすべてが手付けのアニメーションによって制作されていた。ストVではそこが変わっているように思う。たとえば,キャラクターの動きに重心の移動が感じられて,接地感や打撃の衝突感が増したように感じるのだ。

綾野氏:
 実のところ,ストVではモーションキャプチャをベースにしながら,手付けアニメーションで修正を加えるという,ハイブリッド的な手法が導入されているのです。
 ストVの制作では,モーションキャプチャによる動きをすぐにゲームに反映して,テストできる制作スタイルをUE4で構築しているのです。キャプチャーしたモーションをそのまま最終仕様のゲームで利用することはありません。あくまでもプロトタイプのアニメーションとして実装し,動かしてテストできることが生産性を向上させることにつながっています。

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 筆者がストVで感じたモーションのリアリティは,モーションキャプチャ+手付けアニメーションのハイブリッド手法から来たものに違いない。

綾野氏:
 モーションキャプチャしたデータをもとに,アーティストの感性とゲーム性に適合したモーションを手付けで修正することで作り込んでいきます。

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 たとえば,パンチを打つ場合,ゲームの仕様に応じてフレーム単位の当たり判定を仕込んでいくのは,ストIVと同じです。このときに,モーションキャプチャで取り込んだ動きの良さを残しつつ,手付けアニメーションによる修正を加えます。最終的には,モーションキャプチャのデータに含まれている「人間的なゆらぎ」(人間臭さ)や「重心移動」のみを使い,すべてのフレームにおいて,かっこいいポーズに見えるよう編集を行っています。
 また,格闘ゲームでは当たり前ですが,ヒットするタイミングの姿勢やポーズは,「ゲーム的に必要な位置に攻撃部位が存在するか」や「高速な動きでも認識しやすいシルエットになっているか」といった具合に,数多くの試行錯誤を行います。そのような部分では,モーションキャプチャデータを消してから,改めてポーズ作成を行い,「人間的な正確さ」に縛られない,格闘ゲームとして必要なポーズ制作を行うよう心がけています。このあたりは前作からのノウハウが活きています。

 6月12日掲載の記事で,“もっさり”と表現されてしまったのは,こうしたハイブリッドなアニメーションのテイストから受ける印象なのかもしれない。

綾野氏:
 そうなのかもしれません。
 たとえば,3フレームで繰り出される小パンチの動きは,ストIVもストVも同じです。ただ,小パンチの腕以外にはモーションキャプチャされた人間の動きが残っているため,ゲーム性には関係しない「見た目の動きとしての情報量」は,ストIVよりも格段に多くなっているのです。また,パンチを当ててからの挙動にも,人体の自然な動きが残っています。
 ゲームには関係のない人体の動き,ある意味ではノイズに相当する部分がストVの味わいとなっているはずなのですが,見た人によっては,もっさりという印象を感じさせてしまったのかもしれませんね。この点は,解消できるよう改善を図りたいと思っています。

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 筆者が見たE3 2015バージョンのストVからは,もっさり感ではなく,アニメーションの情報量が増加したことによる次世代のゲームらしさが感じられた。もっさりに見える,見えないは主観の問題ではあるが,E3 2015バージョンはもっさりと評されたバージョンよりも,動きの表現が改善されているということなのかもしれない。

綾野氏:
 ゲームをプレイしたユーザーがどう感じるかについて,軽視することはできません。そうした意見も持ち帰って,改善の検討をしていきたいと思っています。


ストVのアーケード版は出るのか出ないのか?


 さて,ストVは,PCとPS4用がリリースされる予定であるが,今のところXbox Oneへのリリースは予定されていないようだ。この方針には,どのような理由があるのだろうか。

綾野氏:
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 特定プラットフォームに独占提供うんぬんといった理由ではないですよ(笑)。話はシンプルで,PC版とPS4版とでクロスプラットフォーム対戦を実現して,ストVファンのコミュニティを統一したいという提案をしたところ,ソニー・コンピュータエンタテインメントさんから理解が得られた,ということなのです。

 それでは,アーケード版はどうだろう。本当に出ないのだろうか。

綾野氏:
 現時点では考えていません。ただ,仮にそういう展開になったとしても,今では,PCやPS4ベースのアーケード基板もあるので,技術的な障害というのはないですね。個人的には,青春のほぼすべてをゲームセンターで過ごしてきたので,興味はあります。しかし今はPS4に全力投球です!

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 最後に,ごく個人的な質問をぶつけてみた。
 筆者はストリートファイターシリーズが好きで,今でもよくゲームセンターでは,対戦台に乱入している。「バルログ」をメインに使っているので,彼がストVに出るかどうか聞いてみたのだ。

綾野氏:
 すんごい直球できましたね(笑)。キャラクターは2016年春の発売に向けて,どんどん増やしていく予定です。
 ただ,現在のウルIVのように,44キャラがリリース時点から出揃っている状態が,必ずしも良いとは考えていません。ウルIVの44キャラは,7年間という歴史の中で築き上げられたものですからね。

 今回は,ストVのストーリーにも,想像を巡らせながら楽しみにお待ちいただければと思います。現在,公開されているキャラクターにしても,たとえばベガが白髪になっていたり,バーディーはやや贅肉が多めになっていたりします。ナッシュも,なにやら全身に改造を受けていましたよね。
 リリースに向けてさまざまな情報が明らかにされていくと思いますので,ぜひ今後ともストVにご期待ください。

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