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機械学習の成果をドローンの飛行に応用も可能。Tegra X1搭載の小型コンピュータ「Jetson TX1」発表会レポート
NVIDIAによるメーカー想定売価は発表されていないのだが,先行発売した米国では,Jetson TX1モジュールは1000台ロット時における1台の価格が299ドル,Jetson TX1 Development Kitは599ドルで販売中だ。国内では,法人向け販売を菱洋エレクトロが,個人向け販売はオリオスペックが担当することになっており,オリオスペックにおけるJetson TX1 Development Kitの価格は,9万3798円(税込)だ。
ゲームには関係ないテーマではあるが,Tegra X1を使った開発者向けコンピュータで何ができるのかに興味がある読者もいると思うので,本稿では3月1日に開かれた記者説明会の概要をレポートしよう。
Jetsonシリーズの2世代めは,カードサイズで小型機器への組み込みも容易に
Jetsonシリーズは,NVIDIAが開発者向けに提供している組み込み向け開発キットだ。「Tegra K1」を搭載して2014年に登場した「Jetson TK1 Development Kit」(関連記事,以下 Jetson TK1開発キット)も,菱洋エレクトロやオリオスペックから国内販売されている。
新しいJetson TX1は,Jetsonの2世代めにあたる製品で,機器に組み込めるコア部分がカードサイズの小型モジュールになっていることが,前世代との大きな違いだ。このモジュールを使えば,開発者は自前の機器にJetson TX1を比較的簡単に組み込むことが可能になる。
もう1つのJetson TX1 Development Kitは,PCに必要な汎用インタフェースを搭載するベースボードに,ACアダプターといった付属品をセットにした製品だ。開発者は,Jetson TX1 Development Kitを使ってソフトウェアやハードウェアを開発して,最終製品にはJetson TX1モジュールを組み込むといった使い方をNVIDIAでは想定している。
ディープラーニングを武器に組み込み用途での普及を狙う
先代のJetson TK1開発キットでNVIDIAは,組み込み分野におけるビジュアルコンピューティング用途での利用をアピールしていた。一方,新しいJetson TX1では,ディープラーニング用途での利用に的を絞っている。
そうした画像認識には,相応の演算能力が必要となるが,「Intelの最も性能の良いCore i7は,65Wもの電力を消費するので,大かかりなバッテリーや放熱システムが必要になってしまう」(Clayton氏)ことが問題であるという。
一方,Jetson TX1ならば「1TFLOSの性能を持つGPUを搭載しつつ,消費電力はわずか10Wだ」と,その電力効率の高さをアピール。Jetson TX1ならば,ドローンのサイズにも無理せず容易に組み込めると,Clayton氏は語っていた。
ちなみに,この1TFLOPSというのは,2015年1月にTegra X1が発表されたときのもので,16bit半精度浮動小数点演算を実行した場合の性能を示している。
また,Jetson TX1にはカメラを接続できるので,カメラから得た映像を新たな学習素材にして,新しい物体を認識できるようにしたり,認識精度を上げたりといったことが,Jetson TX1だけで可能となるのも利点だという。
さらに,画像認識よりも大きな演算能力が必要で,Jetson TX1では時間がかかってしまうほど大規模な機械学習には,「GeForce GTX TITAN X」やTeslaシリーズのGPUを搭載したNVIDIAのシステムが使えることも利点であると,Clayton氏はアピールしていた。つまり,学習から認識までの一貫した処理を,NVIDIAのハードウェアとソフトウェア環境上で実行できるというわけだ。
Jetson TX1による機械学習をドローンに応用
現在のドローンは,基本的に人間が操縦するものだが,「操縦者が,不審なドローンをカメラで見ながら追いかけるのは,非常に難しい」と,Yen氏は説明する。そこで,市販されている各種ドローンの形状を学習したデータを組み込んだJetson TX1をドローンに搭載し,Jetson TX1が,不審なドローンを画像認識で見分けて自律的に追いかけることで,操縦者をアシストするという方向で開発を進めているそうだ。
先代のJetson TK1開発キットは,グラフィックス性能が高い以外は小型コンピュータの域を出ない感じで,組み込み用途では使い道が限られるという印象を受けた。それに対してJetson TX1は,ディープラーニングという明確な用途を見出したことで,応用事例がイメージしやすくなったように思う。ディープラーニングによる画像認識は,産業分野における最終製品の品質検査といった用途で,実際に利用されるようになっている。その点でも,Jetson TX1は,Jetson TK1以上に注目を集めるそうだ。
ディープラーニング用途以外でも,組み込み向けSoCとしては強力なグラフィクス機能を備えた小型コンピュータでもあるので,グラフィックスに重点を置いた用途で使うのも面白い。完全に動作するUbuntu 14.04やOpenGL,CUDAといった開発環境一式が提供されているので,興味がある人は,一般向け販売が販売が始まったら入手してみるのもよさそうだ。