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公式ストーリー「Dreadnought Episodes」
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連載企画:TCG「ドレッドノート」公式ストーリー「Dreadnought Episodes」第3回
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印刷2015/07/21 00:00

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連載企画:TCG「ドレッドノート」公式ストーリー「Dreadnought Episodes」第3回

 KADOKAWAから発売中のトレーディングカードゲーム「ドレッドノート」の世界観を,小説形式でお伝えしていく連載企画「Dreadnought Episodes」の第3回をお届けする。今回は,青の組織「I2CO」からマルコ・ベイカー,黄の組織「リグ・ヴェーダ」から常盤シャンティ,そして黒の組織「salomo」からレオナ・メリタの,3名のキャラクターが登場する。

 青の組織の一員でありながらも,八幡学園都市で教鞭をとるマルコと,こちらも自分の組織に属しながら,学園都市の中等部に通うシャンティ。そして何かの任務を受け,この地に降り立ったというレオナ……。
 それぞれがどのような思惑を持って動き,そしてどのように物語が展開していくか,期待して読み進めていただきたい。


画像集 No.001のサムネイル画像 / 連載企画:TCG「ドレッドノート」公式ストーリー「Dreadnought Episodes」第3回

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マルコ・ベイカー 理論武装のリサーチ #1


画像集 No.002のサムネイル画像 / 連載企画:TCG「ドレッドノート」公式ストーリー「Dreadnought Episodes」第3回
 マルコ・ベイカーはI2CO所属でありながら八幡学園都市に暮らし、おもに高等部や大等部で、神醒術を受け持つ教師として勤めている。
 この仕事はI2COからの指示で、八幡学園都市も認知している。
 日本と米国は親交が深い。神醒術組織として世界最高の技術力を持つ八幡学園都市と、世界最大の規模を持つI2COは、表面上、友好的な関係だ。
 マルコの役目は、そのふたつの組織を繋いで、互いに利益を提供させ合うことにある。I2COはマルコという監視の目を通して八幡学園都市のさまざまな内部事情を把握し、八幡学園都市はマルコが教えるI2CO流の神醒術を市民たちに吸収させる。言い換えるなら、ふたつの組織間に亀裂が生じた場合、その裂け目に足をとられて奈落に落ちかねないのがマルコの立場だ。
 しかし、マルコは組織を恨んでいない。むしろ、よい環境を用意してもらったと感謝すらしている。
 すべては研究のためだ。
 マルコが神醒術に求めているのは、社会常識の大変革だ。まだ世間では神醒術を「電気に代わるエネルギーでどうのこうの」「戦争の道具としてうんぬんかんぬん」などと、既存のものさしで測っている節がある。しかし神醒術にはさらに尊い価値――万有引力や地動説のように人類にとってパラダイムシフトとなり得る可能性が秘められている、とマルコは考える。発電所も兵器も、どうだっていい。海の果てが奈落への滝でないことをマルコは証明したい。
 そのためには、組織間抗争ごとき多少のアクシデントは起きたほうが望ましいくらいだ。術式の資料は多いほど研究に役立つ。そしてありがたいことに、そのようなアクシデントは、マルコが予想もしない、直接的な形で発生した。

 学園都市の政策企画局長が、命にかかわる重傷を負った。
 政策企画局長とはおおざっぱに言うなら、八幡学園都市の運営指針を決める、実質上の指揮官だ。倒れれば街の機能が少なからず弱る。
 一般的にはただの交通事故と報道されているが、事故当時に政策企画局長が乗っていた車には人為的な工作がしかけられていた。さらに、事故とほぼ同じタイミングで学園都市には、犯行声明が届いている。

“学園都市が世界に隠している『本』の情報を、世界に公開せよ
 さもなくば重要施設をひとつずつ潰す
                     ――青き代弁者”

 つい吹き出しそうになる。なんとも演技がかったチープな文章だ。しかし実際に要人が怪我を負っている以上、笑いごとでは済ませられない。
 それに、見たところ素人の仕業でもないようだ。
 文中にある『本』。これが何をさすかマルコには見当がつく。日本のどこか――おそらくは八幡学園都市に隠されているとされる「とある情報群」のことだ。もし実在するなら、世界でもっとも高価な秘宝に間違いない。なにせ神醒術ですら、その情報群に記載された技術の一部にすぎないという説もあるのだから。すべての情報が公開されれば、それこそパラダイムシフトが起こり得る。
 だが、あれの存在について知っている人物は、神醒術士の中でも各組織の中層以上に位置する人間だけのはずだ。エリートと呼ばれてきたマルコですら、組織に入りたての頃は噂すら知らなかった。今でも、実在に確信はない。
 犯行声明文には、具体的な締切日も書いてあった。
 犯行声明の7日後。今日から数えると3日後。それまでに学園都市は情報を公開するのか。対応がとても楽しみだ。
 マルコは学園の教師として、I2COから監視を任された刺客として――そしてなにより研究者として、この事件に関わらずにはいられない。

常盤シャンティ 眠れるピース #1


画像集 No.003のサムネイル画像 / 連載企画:TCG「ドレッドノート」公式ストーリー「Dreadnought Episodes」第3回
 神醒術士はふつう、母国を拠点とする神醒術組織に所属する。国籍と似たようなもので、多くの場合は、その地に生まれたから以外の大きな理由はない。
 でも、それが組織とのぎくしゃくした関係を生むこともある。
 常盤シャンティはインド出身の神醒術士なので、所属はインドを拠点とする神醒術組織リグ・ヴェーダだけれど、今は日本に住んで、学校も八幡学園都市の中等部に通っている。両親が国際結婚をして、最終的な居住地に日本を選んだからだ。貴重な人材として大事にされているシャンティから組織にお願いして、移住の許可をもらった。
 ただ、この状況がリグ・ヴェーダにとっては本来、望ましいものじゃないらしい。
 リグ・ヴェーダは神醒術組織であると同時に宗教団体でもある。基本的な活動は、内々での宗教集会や一般人への奉仕活動。世界の中で、もっとも無害な神醒術組織と言われているのだけど、その姿勢をとっている理由は世界情勢に対して「不干渉」を好むからだ。身内を囲い込み、他者を拒む傾向が強い。そのせいで、他国に渡ったシャンティたちも組織から良い顔をされなかった。
 平穏を守るための不干渉だ、と組織は言っている。
 ただこういった体質のせいで、むしろ世界から敵視されている節もある。リグ・ヴェーダは他勢力同士の争いに加担しないけれど、被災地の救援などにも同じく協力しようとしない。さらに、他組織が自組織に関わろうとすると、それが好意的なものでも排除しようとする。そのため、しばしば問題を生んでいる。
 だから組織の指針がすべて正しいとは、シャンティには思えない。
 なら平穏って、どうしたら守れるのだろう?
 
 最近、八幡学園都市の中等部ではあやしげな噂が広まっている。
 魔王の会。
 聞くところによると自己啓発系の集会イベントだ。ここ1週間もしないうちに3度、開催されている。参加費は無料。初回で200人程度が集まった。人数は徐々に増えていて、これまでに合計1000人弱が参加しているらしい。今もっともアツいイベントだ、と特に学園の生徒のあいだでは話題になっている。
 最初に多くの人が集まったのはライブハウスを会場として利用したからだ。ライブ目的で集まったお客さんを相手に開いたらしい。そこからさらに、短い期間で急激に有名になったのには別の理由がある。魔王の会に行くと、老若男女だれもが、あらゆる悩みを忘れられるような「快感のひととき」を楽しめるというのだ。ただし、開かれる場所は毎回違い、既存の参加者から誘われないと開催場所を知ることすらできない。
 ……どうにも、うさんくさい。そんなものが本当に存在するのだろうか?
 オカルトとか都市伝説とか、仮に実在しても詐欺の類じゃないかと思える。もしくは――
「新興宗教?」
 とシャンティは首を傾げた。
 向かいあった少女が、手を顔の前でわたわたと振る。
「違うよ! そんなあやしいもんじゃなくて、本当にすごいんだって!」

 昼休みが半分ほど過ぎたころ、前の席に座る同級生の手取川さん――通称テドちゃんが、ふいに声をかけてきた。ひと言めは「ねえ、昨日のダウトデラックス見た?」だった。
 テドちゃんはバラエティ番組やドラマ、アイドル、お化粧やファッション、占いにも詳しい。シャンティが持つ彼女への印象は「今どきの女の子」だ。
 いっぽうのシャンティは学校ではいつも目立たないし交友関係も広くない。シャンティとテドちゃんがとくに親しいということはなく、授業以外で会話した回数は10回に満たない。だから話しかけられるのは珍しい。きっと、よほど暇をしていたのだろう。せっかく話しかけてくれたので、できるだけ聞き逃さないように、不愉快な思いをさせないようにしなきゃとシャンティは姿勢を正した。
 喋ってみるとテドちゃんは、言葉が次から次へと無限に溢れてくる子で、さきに挙げたような話題を弾丸のようにまくしたてた。ただシャンティには知識がない話ばかりだったので必死に相槌をうつことしかできなくて、もうしわけなかった。
 そうして、うんうんと頷き続けていると、テドちゃんはどんどんテンションを上げたすえに、こう切り出した。
 ――魔王の会って知ってる?
 どうやらテドちゃんは最初から、この話題をふるつもりで話しかけてきていたようだと、そのときになって気づいた。

「でも聞くだに怪しいんだけど……なにがすごいの?」
「えーっと、とにかくすごいんだって。知っとかないとヤバいよ! 遅れるよ!」
「遅れる? なにに?」
「トレンドに!」
 流行というのは人が動くからできる流れであって、その流れにそって動かなければならないわけじゃないとシャンティは思う。
 けれど、そう返すとテドちゃんを不快にさせる気がしたので、代わりに訊いた。
「テドちゃんは行ったことあるの? その集会」
「ないよ!」
「ないんだ」
「でも他の子たちも参加してるし、それでわたしだけ特別に、次の開催場所を教えてもらったんだよね。だからさ!」
 と、そこでテドちゃんはいったん、軽く息を吸った。
「シャンティちゃんも一緒に行かない?」
 え……? とシャンティは小さく漏らす。少し身を乗り出したテドちゃんの瞳は、きらきらと輝いている。
 その目を見て、なるほど、と納得する。テドちゃんは「魔王の会」に行きたいけれどひとりだと心細かったのだろう。だから、誘いを断らなそうなシャンティに声をかけてきた。
 シャンティは、顎に手をやってから、こくりと頷く。
「うん、いいよ。私も行ってみたい」
 テドちゃんとは深い知り合いでは全然ない。でも、こうして話しかけてくれたクラスメイトがもしも怪しい宗教や詐欺の被害にあったら悲しい。だからシャンティは動くと決めた。
 本当の平穏は、不干渉を貫いているだけじゃ得られない。たとえ自分の庭を守れても、隣人が泣いている横では笑えない。
 シャンティの右手を、テドちゃんが両手で包んで「ありがとう!」と笑った。

レオナ・メリタ デキる女のナリッジ #1


画像集 No.004のサムネイル画像 / 連載企画:TCG「ドレッドノート」公式ストーリー「Dreadnought Episodes」第3回
 神醒術組織salomoは、ドイツの地下に拠点を作り上げている魔術結社だ。
 国際的には表向き当たり障りのない対応をしているが、裏では非道な所業をおこなっているとの噂が絶えない。
 その目的は「知識収集」とされる。神醒術の基盤を黒魔術とするsalomoは、万物の真理を知る、というような一般的には理解されにくい目的を本気で掲げている。
 salomoは日本やアメリカなど世界各国に支社を設けている。支社では何らかの「知的な実験」が行われていると思われている。
 だが真実は公には不明だ。実状を調査に向かった者が帰還したという話も表向き、一切ない。支社の多くは文化的に高い価値を持つ要所――各国の巨大図書館など――を隠れ蓑にして、その地下を本体としていることが多いため、他勢力であっても立場上、情報を探るのが難しい。

 レオナ・メリタはsalomoの優秀なメンバーだ。今回「ある任務」のため、日本へ渡るメンバーに抜擢された。
 選出の理由は、どんな仕事でも正確にこなす点が評価されたからだと自負している。
 任務に就くさい、現地ですでに数年を過ごした大堂ヴォルフという男の簡単なデータを渡された。案内役兼相棒として同行してもらうという。ごく自然な流れだ。神醒術士はふたり組で行動するほうがなにかと都合がいい。
 けれど、彼と出会って早々わかったことだがヴォルフには、人格面で大きな問題があった。彼は独自の世界観で生きている。
 わかりやすく言えば、個性が強すぎる。
 レオナは夜の路地裏をひとり歩きながら、すこし前に彼と出会ったときのことを思い出していた。

 八幡学園都市の駅前に出たレオナに、ヴォルフはまず言った。
「クックック……組織がよこしたオレの右腕というのは貴様か。せいぜい足を引っ張らないように頼むぞ」
 彼は待ち合わせスポットである犬の石像に背を預け、片方の手のひらで顔を覆い、その手の端から覗く唇の端を上げてニヤリと笑っていた。
 初対面からいきなり、個性の強い男だった。
 でも話しかけてくれたおかげで、彼がヴォルフに間違いないと確認できた。歪な笑みを不気味に思いながらも、レオナは返す。
「……えーと、いちおう最初に言っておくけれど、別に私は貴方の部下ではないからね? 神醒術を使ううえでツーマンセルの方が都合がいいから、こうして組むだけであって」
 ヴォルフは手のひらで顔を隠したまま、クックックとまた笑う。
「なるほどな、そういう解釈もあるか」
「そういう解釈しかないわよ。上からメールで説明があったでしょう。まさか読んでないの?」
「ああ、来ていたかもな。しかしソウルのこもっていないリリックはオレの心には響かない」
「リリック?」
「歌詞のことだ。その程度も知らないのか、常識だぞ」
 そういえばヴォルフは普段ミュージシャンをしている、と上からの資料に記載があったような気がする。でも、かといってそんな情報は今この状況ではどうでもいい。それよりもレオナは「互いがどんな神醒術を得意とするのか」「逆に短所はどこか」といった、仕事に関係深そうな情報を優先的に覚えている。この時点で、レオナの脳内ノートにはヴォルフの項目に「情報把握がおろそか」と、短所が追記された。
 ため息まじりに返す。
「……いえ、仕事の連絡なんだから頭に入れておきなさいよ。それこそ最低限、常識でしょう」
「クククッ、貴様はなかなか勝気なのだな。そういったロックは嫌いではないぞ!」
「あ、そ。私は貴方のこと、あまり好きになれそうにないわ。任務だから仕方なく組むけれどね――とりあえず、これからペアとしてよろしく」
 レオナは一応の定型として、握手の意味で右手をさしだした。けれどヴォルフはその手を握り返さず、肩をすくめてフッと笑う。
「オレに触れるのはやめておけ。この右手は呪われている。後悔することになる」
「…………」
 あ、そ、と再び嘆息して、レオナは手を引っ込めた。
 言われるまでもなく、後悔ならこの時点で既にしていた。神醒術士なんていうのはみんな特殊な人間で、どこかしら一般人とは違う性質を持っているものだけれど、中でも彼は度が過ぎているように思う。
 ただ、それでもレオナは、今回の仕事も完璧にこなすつもりだった。
 どんな状況でもどんな任務でも、涼しい顔で満点の結果を残してこそ、デキる女なのだから。

文/河端ジュン一

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