連載
「あんぷらぐど☆げーまーず」第2回:俺が勇者だ。人気アクションRPGがアナログゲームになった「ウィッチャー:ザ・ボードゲーム 完全日本語版」
特筆すべきは,それらが決して安易なコラボレーションの産物ではないということだ。いずれもアナログゲームとしてしっかりと考えられた,じっくり遊べるタイトルになっていて,ジャンルの枠を越えて作品の世界を広げようという意志が感じられるものになっている。
今回紹介するアークライトの「ウィッチャー:ザ・ボードゲーム 完全日本語版」も,そうした「アナログゲームに世界を広げたデジタルゲーム」のひとつだ。5月に最新作「ウィッチャー3 ワイルドハント」(PC / PS4 / Xbox One)が発売された「ウィッチャー」シリーズだが,それに一歩先駆けてボードゲーム版がリリースされている。世界中のファンを魅了するアクションRPGをアナログに落とし込んだら,いったいどんなゲームに仕上がるのか。その魅力に迫ってみたい。
アークライト「ウィッチャー:ザ・ボードゲーム 完全日本語版」製品ページ
勇者となり,危難に満ちた旅路へ
次元の境界を破壊し,世界のあり方を一変させた「天体の合」から1500年。世界はいまだ混沌のさなかにあった。国家間の争いや怪物の脅威から自分の身を守らねばならず,他人への慈悲が己の死を招くことにもなりかねない……。本作の舞台となるのはそんな殺伐とした世界で,プレイヤーはさまざまな技能に長けた勇者となり,危険に満ちた冒険に身を投じることになる。
ゲームはまず,各プレイヤーが自分の操る勇者を選ぶところから始まる。勇者にはそれぞれに個性的な能力があるので,各自の特性を知り,うまく生かすことがプレイするうえで重要になるのだ。たとえば戦闘に長けた「リヴィアのゲラルト」であれば,魔物を次々倒しながら進んでいくことができ,魔法使いの「トリス・メリゴールド」なら,魔法の力で危機を回避しつつ探索を行える,といった具合だ。
勇者,つまりプレイヤーの目的は,各地の拠点を移動しながら与えられた任務をこなして勝利点を集めること。
各プレイヤーは,ゲーム開始時に,自分が果たすべき任務が書かれた「任務カード」を1枚ずつ持ってスタートする。カードには3種類の任務が書かれており,メインとなる主要任務を達成するためには,トークンとして表される「証拠」を手に入れなくてはならない。証拠の収集には,同じくトークンである「手がかり」が必要だ。
つまり,「手がかりを収集→手がかりを証拠に変える→任務を達成」というのが基本の流れになる。
主要任務を達成したら任務カードを捨て札にし,新たな任務カードを引く。誰かが主要任務を3回達成したらゲームは終了。残りのプレイヤーが1手番ずつ行ったあと全員が勝利点の清算を行い,勝敗を決める手はずとなる。
プレイヤーは各手番において,5つのアクションのうち2つを選んで実行し,ゲームを進めていく。アクションのうち4つは各プレイヤー共通で,それぞれ,
- 踏破:拠点間を移動する
- 調査:「調査カード」を引き,手がかりを集める
- 強化:「強化カード」を引き,キャラクターの能力を高める
- 休息:受けた傷を癒やす
となっている。
この中の「強化」については,少し説明が必要だろう。強化カードはキャラクターそれぞれに専用のものが用意されており,例えばゲラルトの場合は,攻撃力を高めたり,敵からのダメージを防いだりといった戦闘時に役立つ効果。ほかのキャラクターには,同エリアにいるほかのプレイヤーが任務を達成したとき,カードを持っていると自分も1勝利点を獲得できるといったものがある。
残り1つのアクションはキャラクターごとに異なる。ゲラルトの場合は「飲み薬」の強化カードにトークンを乗せる(本作では,カードの上に乗せたトークンを消費して使用するタイプのカードがある)「醸造」,吟遊詩人のダンディリオンなら,無条件で2コインを獲得できる「吟遊」といった具合だ。
また,各アクションの間には,手がかりを証拠に変換したり,ほかのプレイヤーと物品を交換したりといった自由行動を取ることもでき,任務達成なども自由行動で行うことになる。ちなみに自由行動の回数に制限はない。
アクションをひととおり終えたプレイヤーを待ち受けているのが「試練」だ。一部の能力を使った場合を除いて,逃れることはできない試練には,大きく分けて「魔物と戦う」「さまざまな不幸が襲ってくる『凶運カード』を引いて,その内容に従う」の2種類がある。
状況次第では,プレイヤーの意志でどちらかを選ぶこともできるが,その選択すら許されない場合もある。「ただ移動したり,休息をとったりしただけなのに……」と思うかもしれないが,放っておいても試練は向こうからやってくる。それがこの過酷な世界の掟なのだ。
恐れず立ち向かえ。栄光はその先にある
そう,このゲームでは,プレイヤーは常に多くの危機や苦難にさらされている。
試練だけではない。たとえば「踏破」で一度に2拠点移動した場合は,試練とは別に凶運カードを引かなければならないし,「調査」で “逆境”のカードを引いてしまったときは,手がかりを得るどころか危機が襲いかかってくるのだ。その結果,プレイヤーが受ける被害はさまざまで,負傷してアクションが一部使用できなくなったり,アクションのどれかに「凶運トークン」(これが置かれたアクションを実行するときは,同時に凶運カードを1枚引かなければならない)が置かれてしまったりする。「遅延」といって,アクションが1回休みになってしまう場合もある。
本作に慣れるまでは,そうした被害からなんとか逃れようと考えるかもしれないが,何度かプレイするうちに,被害からは逃れられないこと,傷を負いながら前に進んでいくしかないことに気づくはずだ。なにせこのゲームでは,ほかのプレイヤーの行動で負傷したり,凶運を背負ったりすることさえあるのだ。すべての不幸を回避することなど不可能であり,プレイヤーはむしろ,「傷を負うことを前提に,傷を最小限にとどめ,いかに早く任務を達成するか」に意識を向けた方がいい。
このゲームの登場人物は,自らの力を頼みに過酷な世界を生きる勇者だ。彼らをロールプレイする以上,なんの障害もない順風満帆な旅路のほうがむしろ不自然というものだろう。
ゲーム中,勇者達はどんな傷を受けても死ぬことはない(あまりに多くの傷を受けた場合は勝利点が減ってしまうが)。まるでゲームシステムそのものが,自ら危機に飛び込むことをプレイヤーに推奨し,何かを成し遂げるためには,相応のリスクを負わなければならないことをプレイヤーに訴えてきているようでもある。
そんなシビアさが表現されている本作だからこそ,冒険の物語を紡ぐプレイヤーの手腕が問われる。危機を乗り越えられるかどうか,栄光をつかめるかどうかはプレイヤーの腕次第だ。
任務をこなし,勝利点を得るための道筋は必ずしも1つではない。任務には,主たる得点源である主要任務のほかにも,得点が少ない代わりに比較的容易に達成できる副次的な任務や,ほかの勇者を手助けする支援任務がある。また調査カードを引けば,新たな得点源が生まれることもある。達成できないリスクを覚悟で,見返りの多い困難な任務に挑むか,リターンは少ないが,達成できそうな任務を選ぶか。判断を迫られる機会は無数にあり,その積み重ねが,プレイヤーそれぞれの物語を作っていくことになる。
濃厚な「ウィッチャー」の世界にどっぷり浸ろう
原作ありのゲームということで,ファン以外は敬遠する向きがあるかもしれないが,シリーズを知らない人にも勧められるほど,「ウィッチャー:ザ・ボードゲーム 完全日本語版」はアナログゲームとしてしっかりと作り込まれている。実際,筆者も「ウィッチャー」の世界に触れるのは今回が初めてだったのだが,プレイを通じて嫌と言うほど思い知らされる“濃い”世界観にすっかり魅了されてしまった。必ずしもシステムが斬新というわけではないが,プレイヤーに「ウィッチャー」のエッセンスを伝えるという意味では,きわめてよくできたゲームだといえるだろう。
このゲームの難点を挙げるなら,とにかく「重い」ことに尽きる。プレイ時間の目安は60〜120分となっているが,慣れないうちはその倍くらいかかると見ておいたほうがいいだろう。そもそもゲームの箱自体が物理的に重く,持ち運びに難があるのもつらいところだ。
だが,そうした難点を乗り越えた先に待っているのは,多くの驚くべき出来事に満ちた,芳醇で奥深い冒険世界だ。あなたも一度,過酷な世界に生きる勇者となって,波乱に満ちた旅路に足を踏みだしてみてはいかがだろうか。
アークライト「ウィッチャー:ザ・ボードゲーム 完全日本語版」製品ページ
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- 関連タイトル:
ウィッチャー ザ・ボードゲーム 完全日本語版
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