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【西川善司】FreeSync 2でゲームは何が変わる? 対応ディスプレイと対応ゲームで確認してみた
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印刷2018/11/30 15:31

テストレポート

【西川善司】FreeSync 2でゲームは何が変わる? 対応ディスプレイと対応ゲームで確認してみた

西川善司 / グラフィックス技術と大画面と赤い車を愛するジャーナリスト

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(善)後不覚

blog:http://www.z-z-z.jp/blog/


 「FreeSync 2」の使用感を「Far Cry 5」(邦題 ファークライ5)で確認してほしい」という依頼があったのは2018年4月のことでした。しかし,いざ機材が届いてFar Cry 5を実行してみると,その時点のFar Cry 5がなんとFreeSync 2非対応。機材をそのまま遊ばせておくのはもったいないということで,前回は“無印”のFreeSyncを評価する内容をお届けした次第です。

 で,「E3前には」「いやE3後には」といった話を経て,待たされること3か月。「Far Cry 5でFreeSync 2に対応するパッチ」をUbisoftが7月にとうとうリリースしました。
 しかしご存じのとおり,今年の7月以降はそれこそAMDなど半導体メーカー各社の新製品ラッシュで,ボクとしても当然,そちらを優先するほかありません。なかなか作業できないまま,借りた機材を「Forza Forizon 4」のレビューで使ったりもしながら,現在に至りました。

 というわけで待望の(?)FreeSync 2検証レポートをお届けしてみたいと思います。

FreeSync 2検証中の筆者
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そもそもFreeSync 2とはなにか


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 まずは,FreeSync 2そのものの基本情報を整理しておきましょう。
 FreeSyncを名乗る技術としては,“無印”のFreeSync(以下,便宜上「FreeSync 1」と表記する)と,本稿の主役でもあるFreeSync 2があるわけですが,「2のほうが偉い」というわけではありません。

 「AMDの提唱するディスプレイ表示改善技術」である点においてFreeSync 1とFreeSync 2は共通なのですが,両者は異なる分野でディスプレイ表示の改善を行うのです。
 5月掲載の記事でも簡単にお話ししましたが,具体的な違いは以下のとおりです。

  • FreeSync 1:可変フレームレートの映像,とくに60fps(=60Hz)を大きく超えた映像の表示を美しく滑らかに表示するための技術
  • FreeSync 2:映像のHDR表示や広色域表示を出力先のディスプレイに最適化する技術

 FreeSyncというと,FreeSync 1の「フレームレートにまつわる技術」のイメージが強いと思いますが,FreeSync 2は「HDR映像表示にまつわる技術」なので,似たような名前でもまったく異なるわけです。

 さて,ならFreeSync 2はユーザーにどんな恩恵をもたらしてくれるのでしょうか。
 技術的な詳細を知りたい人はボクの連載バックナンバーを参照してもらえればと思いますが,今回のメインテーマですから,エッセンスだけでも紹介しておきましょう。

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 FreeSync 2の効果,1つは「ディスプレイデバイス側で生じるHDR処理遅延の隠蔽」です。
 現在のゲームで採用されているHDR映像の主流規格であるHDR10では,最大1万nitの輝度まで取り扱えるように規格化されているのですが,実際に市販されているHDR表示対応ディスプレイやテレビだと,最大輝度はハイスペックモデルでも1000〜1500nit程度となっています。最新マメ知識的な情報も提供しますと,今年,シャープが発売した80v型の8Kテレビ「8T-C80AX1」(実勢価格200万円)は,民生向けテレビとしては初めて最高4000nit表示が行えますが,それでも規格上の最大輝度には遠く及びません。

 なので,現在流通しているHDR表示対応ディスプレイやテレビ製品(以下,ディスプレイデバイス)では,搭載する映像エンジンの側で最大1万nitまでのHDR映像信号を受けつつ,それを当該ディスプレイデバイスのHDR表示能力に合わせて調整する場合がほとんどです。
 たとえば,そのディスプレイデバイスが1000nitまでの表示に対応する場合は,受け取った映像信号の0〜800nitまではそのまま表示しつつ,801nit以上の輝度を持つ映像信号は1000nit以下に抑え込んで表示するようなことを行います。800nitというのはあくまでも一例で,実際にどういう処理を行うかはメーカーや製品ごとに異なりますが,イメージとしてはこんな感じです。

 これを「ディスプレイトーンマッピング」(Display Tone Mapping)と言いますが,FreeSync 2は,この処理をディスプレイデバイス側の映像エンジンに成り代わって担当するのです。

FreeSync 2はディスプレイトーンマッピング処理をGPU側のディスプレイエンジンで肩代わりする。この処理系をAMDは「FreeSync 2 Transport」と呼んでいる
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 ……ちょっと待ってください。
 「ディスプレイトーンマッピング処理をディスプレイデバイス側の映像エンジンに代わって担当する」にあたってFreeSync 2は,表示に用いるディスプレイデバイス側がどういうHDR映像表示性能を持つか把握しておかねばなりませんよね。最大1万nitのHDR映像信号が流れるわけですから,そうした信号をFreeSync 2側で把握していないと,「何nitまではそのまま表示して,何nit以上は輝度と階調の圧縮を行う」といった判断が行えません。

 なのでFreeSync 2には,「ディスプレイデバイス側のHDRスペック取得」という機能があります。
 具体的には,対象となるディスプレイデバイス側の輝度スペックだけでなく,色スペックなども把握します。具体的には「sRGB(REC.709)とRec.2020,DCI-P3どの色空間に対応しているか」とか「当該色空間のうち,どこまでの色を出せるか色域性能があるか」といった情報も取得できるのです。
 FreeSync 2は「接続してあるディスプレイデバイスの表示性能を活かしきる形でHDR映像を表示する」機能をユーザーへ提供することになります。

FreeSync 2は,接続されているディスプレイデバイス対応する色空間や最大色域などのスペックを把握し,当該ディスプレイデバイスごとに最適化した映像を表示できる……というのがAMDのメッセージだ
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 ちなみにAMDは「FreeSync 2がHDR映像処理を肩代わりするので,HDR処理遅延を低減できる」という主張もしているのですが,ボクが複数のテレビメーカーのエンジニア達に話を聞いた限り,すべてのエンジニアは「ディスプレイトーンマッピングの処理系で遅延が発生するような製品は,うちにはない!」と異口同音に語っていました。
 この部分におけるAMDの主張は話半分で聞いておいて問題ないと思います。

もともとディスプレイトーンマッピングの処理で遅延が発生するようなディスプレイデバイスはほとんどないと思われるが,AMDは「FreeSync 2を活用するとHDR処理が低遅延になる」と言っている
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アップデート後,Far Cry 5ではHDR設定から「FreeSync 2」が選べるように


FreeSync 2対応のC49HG90。32:9アスペクト,解像度3840×1080ドットという基本仕様だ。詳細は前回の記事を参照してほしい
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 というわけで,FreeSync 2対応版のFar Cry 5を試してみることにしたわけですが,今回使用した機材は前回と同じです。
 ……と言っても5月のことですから,あらためて紹介しておきましょう。ディスプレイのほうはSamsung Display Solutions(以下,Samsung)製ゲーマー向け49インチウルトラワイドモデル「C49HG90」で,PCのほうは「Radeon RX Vega 64」搭載の自作機です。
 Ubisoftから7月に提供されたFreeSync 2パッチは,ゲームランチャーであるUplayが(半)自動的に適用してくれるので,難しいことはありませんでした。

 FreeSync 2の有効化も簡単です。
 ゲームを起動して「オプション」画面を開き,「HDRを有効にする」の設定項目を「FreeSync 2」とするだけです。ちなみに,アップデート前だと「HDRを有効にする」設定は「オン」「オフ」の二択でしたが,アップデート後は「HDR10」「FreeSync 2」「オフ」の三択に変わっています。

FreeSync 2対応アップデート配信後は,「オプション」−「映像」の最下段にある「HDRを有効にする」設定から「FreeSync 2」を選べるようになった
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 HDR10は2015年にCTA(Consumer Technology Association)が策定したHDR映像規格です。「4K Blu-ray」こと「Ultra HD Blu-ray」用の映像規格として有名ですね。事実上の業界スタンダード的なHDR映像規格とも言えます。FreeSync 2対応化アップデート前のFar Cry 5にあったHDR有効/無効切り替えは,事実上のHDR10有効/無効切り替えだったわけです。

 さて,実際にゲーム内をうろつき回って,さまざまなライティング局面でHDR10とFreeSync 2の設定を交互に切り換えて見比べてみたのですが,結論から言うと「FreeSync 2のほうが圧倒的にいいじゃん!」とはなりませんでした。ただこれは,「HDR10のままのほうがいいじゃん!」という意味ではありません。別に優等生ぶるつもりはないのですが,「どっちもきれいだよね」という感じなのです。

 それでも,じっくり見比べた結果として,傾向の違いは以下のとおり感じ取ることができました。

  • HDR10:暗部を見やすくしており,全体的には明るさ重視の画質設計
  • FreeSync 2:暗部はやや抑えめで,明部はかなり明るめ。全体的にコントラスト感を重視した画質設計

 実際の映り具合がどう違うのかを記事上で示すのが難しいので,どうしようかと考えたのですが,雰囲気だけでも伝えるのはこれがいいだろうということで,デジタルカメラのHDR撮影モードを使って撮影してみることにしました。

 デジタルカメラのHDR撮影モードは,異なる露出設定で複数枚の写真を撮影したうえで合成して,暗いところから明るいところまでを表現するというものです。デジタルカメラの“HDR写真”は,写真データ自体はHDRでもなんでもないただのSDR(Standard Dynamic Range,HDRの対義語で,標準的なダイナミックレンジであることを指す)写真なのですが,「HDRな景色を人間の目で見た光景に近い写真」が得られるのは事実です。
 というわけで,C49HG90に表示したFar Cry 5のHDRゲーム画面を,私物のニコン製一眼レフカメラ「D5500」のHDR撮影モード「オート」で撮影してみた結果が下の写真です。

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 繰り返しますが,以上の写真は「C49HG90に表示したFar Cry 5のゲーム画面を撮影したもの」であって,かなりの量の情報が失われています。ただそれでも「見た目の違い」はよく捉えられていると思いますが,どうでしょうか。

 見比べてみると,HDR10設定は暗いところの階調がよく見えるので,「情報量が多い」印象になっていますよね。対してFreeSync 2を有効化したほうの画面は,明暗の対比が強い,ハイコントラストなものになっているのが分かります。映像として見た場合は「くっきりあざやか」な印象です。


HDR10とFreeSync 2はどっちがいいの?


 「今後,FreeSync 2対応ゲームが増えてきたとき,HDR10との間で切り換えるとコントラストに違いが出るのか」と考えた読者も多いと思います。

 しかし,そういうことではありません。
 というのも,Far Cry 5のHDR10設定は,「Far Cry 5のゲームアプリケーションとして,映像をHDR10規格の信号で出力する」設定に過ぎないからです。その映像を最終的にどう表示するかはあくまでもディスプレイデバイス側の判断に委ねられます。つまり,今回テストに用いたC49HG90ではたまたま上の写真のような見映えの表示傾向になったというだけのことなのです。

 FreeSync 2のほうはどうでしょうか。
 Far Cry 5のFreeSync 2設定では,FreeSync 2が接続対象となるディスプレイデバイスのスペックを読み取り,その情報をゲームアプリケーション側に渡すので,ゲームアプリケーション側では,その情報に従って各種トーンマッピング,カラーグレーディング処理などといった「絵作り」を行うことになります。
 なので話だけだと,映画ソフトのディレクターズエディション的な「クリエイターが映像の表示の仕方までをデザインした」みたいに聞こえますが,ゲームデベロッパはC49HG90実機を見てチューニングしたわけではないでしょう。FreeSync 2はあくまでもスペック情報から調整しただけですから,「これがゲーム開発者の表示したかったHDRグラフィックスだ」と断言できるかと聞かれると,「分からない」としか答えられないのです。

 なので,今回のテスト結果というのは,

  1. Far Cry 5のグラフィックスにおいて
  2. Samsung製ディスプレイであるC49HG90と組み合わせて
  3. Far Cry 5のHDR10設定とFreeSync 2設定を見比べた

ときのものだという,条件付きの評価になると思います。

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C49HG90でFreeSync 2を利用するためには,ディスプレイ側のOSDメニューにある「FreeSync」設定項目から「究極のエンジン」に切り換える必要があった
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FreeSync 2有効時には,C49HG90のOSDメニューにある「インフォメーション」にFreeSync 2のロゴが出てきた。2018年5月にリリースされた「1017.1」以降のファームウェアでないと,このロゴは出てこない

 ユーザーとしての疑問は「じゃあ,HDR10とFreeSync 2,どっちを使えばいいのさ?」というところにあるかと思います。ただ,ボクとしては「気に入ったほうを使えばいいと思う」としかお答えしようがありません。
 というのも,HDR10出力,そしてFreeSync 2出力はどちらも,「ちゃんとしたHDR映像を表示するためのメカニズム」になっているからです。

 HDR10設定の場合,ゲームアプリケーション側はHDR10規格に則って映像を組み立てて出力しているわけですから,どこにも間違いはありません。これを受けて表示するディスプレイデバイスも,入力されたHDR10映像信号を自前の映像エンジンで搭載するパネルに最適な色や輝度に調整しますから,ここにも間違いありません。

 FreeSync 2の場合だと,ゲームアプリケーション側ではFreeSync 2の機能を通じて取得したディスプレイデバイスのスペックに合わせて,色や輝度の調整を行って出力します。そしてそれを受けたディスプレイデバイス側ではFreeSync 2の規格に則ってこれを表示します。なので,処理の流れとしておかしなところはないのです。

 ただ,こうして見てくると「あなたは誰を信じますか」という問いかけをされているような事態であることに気が付きます。
 前者は,HDR10映像規格に則った表示パイプラインですから,HDR10規格を信用し,なおかつディスプレイデバイス側の映像エンジン(≒ディスプレイデバイスメーカー)を信用した仕組みとなります。
 後者は,FreeSync 2で取得したディスプレイデバイスのスペックを基にゲームアプリケーション側がHDR映像を組み立てるので,ディスプレイデバイス側にある映像エンジンのHDR映像処理はそれほど活用しません。ただし,ゲームデベロッパ側が市場にあるすべての「FreeSync 2対応ディスプレイデバイス」の実機上で実際の映りをチェックしているというのは考えにくいので,いろいろな「想定」を多分に含むことにはなるでしょう。

 となると,どっちがいいかは「ユーザーが実際に見て決めるべき」となり,場合によっては「ゲームタイトルとディスプレイデバイスの組み合わせによっても変わってくるかもね」とさえ言えるかもしれません。

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 ではAMDはなぜFreeSync 2を用意したのかと言うと,おそらく,HDR映像表示エコシステムの底上げが目的です。
 今回評価に用いたディスプレイは,世界市場でトップシェアを誇るSamsung製のものですから,HDR10映像規格の映像信号をSamsungなりの解釈でちゃんと映像パネルに表示できていました。なので「HDR10とFreeSync 2では見た目の印象がちょっと違うだけ」という結果になりましたが,たとえば今後,「聞いたこともないような無名メーカーの,格安なHDRディスプレイ」が出てきたときに,内蔵する映像エンジンがいいかげんで,HDR10設定ではまともな映像表示にならない場合,「FreeSync 2に切り換えるとなんとかそれっぽい表示が行える」といったケースは考えられます。

 認知度の高いメーカー製で,かつHDR10対応のものであれば,FreeSync 2に未対応であっても納得のいくHDR表示が得られるはずです。
 しかし,「このメーカーの製品,使ったことないんだよね」というとき,保険を掛ける意味で「FreeSync 2対応」の製品を選ぶというのは,憶えておいて損はしないでしょう。

AMDのFreeSyncシリーズ紹介ページ

  • 関連タイトル:

    FreeSync

  • 関連タイトル:

    ファークライ5

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