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[GDC 2017]2年近くアーリーアクセス状態にある「ARK: Survival Evolved」の開発者が語る,プレイヤーを飽きさせないための“自己採点”という仕組み
オンラインゲームがゆえに必要な「ゲームの健康値」
「ARK: Survival Evolved」は,2015年6月にアーリーアクセス版が公開されて以来,PC,Xbox One,そしてリリースされたばかりのPlayStation 4版を合わせて総計700万本というヒットを記録したタイトルだ。
2015年のSteamサマーセールに合わせてアーリーアクセス版をリリースしたのが功を奏し,最大で100人前後のプレイヤー達が1つのサーバーに集って“トライブ”と呼ばれるグループを作り(コンシューマ機版は70人がキャップといわれている),レベルを上げていくことで住環境を整え,やがては恐竜達を手懐けて冒険に出かけたり,面白おかしい生活を楽しんだりと,その自由度の高さが受け,当初から高い「CCU」(Con-Current Users/同時アクセス者数)を維持している。
実際,ラプザック氏によると,「ARK: Survival Evolved」のデザインドキュメントは8ページしかないらしく,恐竜達のユニークアビリティや家具作り,メガネやグラップリングフックといったアイテム,さらには魚釣りやヘアスタイルの変更,複数のトライブによる連合体,スプリットスクリーンやユーザーインタフェースといった数々の機能は,アーリーアクセス版のローンチ以降に,プレイターの要望によって加えられていった。
おそらく最近加えられたSFチックなアイテムが揃う「TEK Tier」なども,「元々のデザインドキュメントでは制限されていないからアリ」という逆説的な論法で加えられたのだろう。
Steamのコミュニティページはもちろんのこと,RedditやTwitterなどさまざまなソーシャルネットワークサービスを利用してファンとのコミュニケーションを図るStudio Wildcardだが,前代未聞といえるほどの膨大なアップデートを繰り返し,さらにはプレビュー動画を公開したり,ホリデーイベントを開催するなどしてファンを楽しませたり,送られてきたファンアートを公式サイトで公開したりして親睦を深めるなど,コミュニティマネジメントについては積極的だ。
スティーグリッツ氏は「ゲーマー達は批判をしながらも,ゲームを遊び続けてくれるときがある。また,批判は少ないがゲームに接続するプレイヤーも少ないということもあり,つまりはオンラインゲームにおいてはCCU以外で,作品の健康値を図ることはできない」という信念を持っていると話した。ラプザック氏も,「それゆえに細かいアップデートを繰り返してコンテンツを常にフレッシュなものにし,プラットフォームのセールスの時には利益無視で必ず参加する」と続ける。
メジャーアップデートの自己採点表を公開
そうしたCCU重視の姿勢の中から,Studio Wildcard内で生み出されていったのが「Scorecard」(自己採点表)という内部評価の仕組みである。評価項目は7つでそれぞれに点数が設定されており,内容を満たしていれば加点,そうでなければ減点という計算方式になっている。
「我々が必要と思うフィーチャーだったか?」(2点)
「コミュニティが必要にしているフィーチャーだったか?」(2点)
「新しく参加するプレイヤーには良い内容か?」(2点)
「開発を継続するにあたり,利便性があるか?」(2点)
「アップデート後に,ファンやメディア評価で問題視されたか?」(1点)
「コンテンツを盛り込むのは容易だったか?」(1点)
「我々が満足できる仕事内容だったか?」(2点)
○ 「Survival of the Fittest」(2016年3月導入)
e-Sportsの人気をヒントに,一部のファンの要望に応える形で追加された「Survival of the Fittest」。しかし,多くのプレイヤーは「ARK: Survival Evolved」のコンテンツで競技性のあるゲームモードを求めていなかったようで,現状ではほとんどの人がプレイしていないため,そのポイントは0点で「失敗」と評価された。
○ 「Scorched Earth」(2016年9月導入)
本編自体がアーリーアクセス版であるのに,有料の拡張パックを販売するという,これまた前代未聞のアップデートとなった「Scorched Earth」については,ファンやメディアの間で様々な議論が行われた。ラプザック氏が“レビュー爆弾”(Review Bomb)と表現する,ネガティブなレビューも一時的に増えたものの,実際にはCCUは継続的に増えており,良いコンテンツアップデートだったのは疑いないので,総合4点で「成功」とされている。
○ Dino Rebalance (2016年1月導入)
アーリーアクセス版のローンチ以降,一部のプレイヤー達が熱中したことで,テイムされた恐竜達が強力になり過ぎ,プレイヤーが飼い慣らしたラプターが,一回の攻撃でティラノサウルスのような大型種を次々とノックさせていくというような事例が発生したとのこと。
つまり,このバランス調整では“ナーフ”が行われたわけだが,レビューは一時的に酷くなっただけで,それ以降はバランスが修正されたことが評価されてCCUも増加した。総合6点で,こちらも「成功」だ。
○ Swamp Fever (2016年6月導入)
沼地に近寄ると謎の病気になってしまい,治癒アイテムを生成しない限りは体力が削がれていくという不思議な伝染病が発生したというコミュニティイベント的なアップデートとして導入されたのが「Swamp Fever」だ。
しかし,十分なアイテムを入手できない新規プレイヤーには不公平な内容になってしまい,アクセスするたびに死ぬのに嫌気がさしてプレイを止めてしまったり,せっかく成長させたキャラクターに被害を与えたくないベテラン達もプレイしなくなるなど,CCUは日を追うごとに低下した。もちろん評価は0点で「失敗」だ。
○ Cross-ARK(2016年11月導入)
「Cross-ARK」は,プレイヤーが1つのサーバーに固定されず,そのアイテムも移動できるという仕組み。サーバーへの参加者は限られているため,多くのプレイヤーが参加する“アルファトライブ”が絶対勢力として君臨してしまうというマンネリ化を解消する目的で導入されたものだ。だが,狙い通り「自分が最強ではない」ことを悟ったプレイヤーたちが,より熱中して切磋琢磨するようになったため,2016年の年末に向けてCCUも継続的に向上した。総合4点評価で「成功」であるという。
○ Sheepgate (2016年12月導入)
年末にあわせて導入された新種動物Ovis(ヒツジ)だったが,これはSteam内のお遊び授賞式の1つである「家畜のもっとも良い使い方賞」を狙っての導入であるということは,ファンにすぐに見破られてしまった。批判的なレビューも増えたが,年末セールの好影響もあって,CCUは伸びたという。すでにハッピーなゲーマーコミュニティをわざわざ焚き付ける必要はないという自己批判をこめて,総合0点の「失敗」アップデートだった。
○ TEK Tier (2017年1月導入)
まだ導入されたばかりだが,「TEK Tier」はエンドゲームコンテンツとして,プレイヤーキャラクターやクリーチャー達へのアーマーといったSF的なアイテムを製作できるようになるものだ。必ずしもファンの食いつきが良かったとはいえないものの,これは開発チームが必要であるとしており,実際に史上初めて,CCUが10万人を超えることになった。そのため,総合2点でギリギリ「成功」と言えるアップデートであるという。
○ Underwater Bases (未導入)
2015年の時点で,ファンに約束しておきながらも,Studio Wildcardが未だにフィーチャーしていないのが「海底基地」である。コミュニティは今でも熱望しているが,例えば地域を拡張した場合に,それまで海だった部分にあった基地に被害が及ぶといった技術的な問題が考慮されているために,開発チームは乗り気ではないらしい。
ただ,すでに約束してしまったので,いずれは導入することは間違いないとのこと。ただ,随分と後回しにされているので,事前自己評価としてマイナス2点の「失敗」評価となった。
新しい恐竜とバグフィックスを抱き合わせるなどし,次々とアップデートを行っている「ARK: Survival Evolved」。まさしく,ファンの要望と必要に駆られた「即興的なゲーム開発」が実践されているが,こうした客観的な評価を行うことにより,進むべき道からは外れていないように思える。早ければ,この夏あたりにも「完成版」へと昇格しそうな気配もあるが,随時日本語化もされているので,まだプレイしたことがないという人なら挑戦してみてもよさそうだ。
「ARK: Survival Evolved」公式サイト
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