イベント
Media Moleculeの新作「Dreams」の開発者にインタビュー。“ポイントクラウド”によって,3Dポリゴンから脱却したテクノロジーがスゴい
2015年6月にロサンゼルスで開催されたE3 2015,そして10月のParis Games Week 2015でトレイラーが公開されている「Dreams」だが,それらの映像だけでは「一体どんなゲームなの?」という疑問しか浮かばないはずだ。実際,筆者も「夢を作って誰かと共有するゲーム」くらいの認識しかなかったものの,幸いなことにMedia Moleculeの創設者の1人であり,テクニカルディレクターを務めるDavid Smith(デイヴィッド・スミス)氏にデモを見せてもらいつつ話を聞く機会を得た。
今回公開された「Dreams」のプレイアブルデモは2台のモニターで行われていた。1台はクマのようなフワフワしたクリーチャーが森を彷徨うシーンで,DUALSHOCK 4を使って移動していくという内容。まだ開発中だからか,何か目的を持って探索している様子がなく,小川を渡ったり,倒木を乗り越えたりといったものだった。
もう1台のモニターには,PlayStation Moveを使って自分の夢に出てくるクリーチャーを作成するというデモが表示されていた。担当者が両手に持ったPS Moveを器用に動かし,粘土細工のパーツを組み合わせていくようなスタイルで,イヤリングのような細かい形状のオブジェクトをクリーチャーに施していた。
以下にスミス氏とのインタビューを掲載するが,実のところ,「Dreams」がPlayStation Experience 2015で公開されるという事前情報はなく,ほとんど下調べをしていない状態でインタビューに臨んでいる。そのため,スタンダードな1対1でのアプローチというよりも,スミス氏にデモを解説してもらいながら,時間の許す限り質問を浴びせ続けたという形に近い。それでも,本作について多少なりとも理解が深まれば幸いである。
「Dreams」公式サイト
ポリゴンを使わない3Dグラフィックスの肝となる「ポイントクラウド」とは?
(デモを眺めている筆者を見つけて)ようこそ。「Dreams」についてはご存じですか。
4Gamer:
「自分の夢を作り出すゲーム」ということは知っていますが,この(クマのようなクリーチャーが森を彷徨う)デモを見ただけではどんなゲームプレイなのかが予想できません。
スミス氏:
まだ開発途中であり,ゲームプレイのメカニクスを組み込むところまで手が回っていないのですが,「夢」によってプラットフォーム型ゲームのように謎を解いたり,モンスターと戦ったり。それから「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」風の,ポイントを稼いで回るようなマップを制作できるようにもなっています。
もちろん,そうしたゲームプレイを排除し,ムービーのようにプレイヤーを誘導していくといったようなスタイルを採用して,ストーリーテリングのみに重点を置くことも可能ですよ。
4Gamer:
なるほど。そのようにして,自分の作った夢の世界をほかのプレイヤーと共有するというわけですね。
スミス氏:
そのとおり。では,もう一つのデモをお見せします。これは制作ツールなのですが,デモ担当者は今朝から生体ロボット風のクリーチャーを作成しています。
(担当者がイヤリングのようなオブジェクトを肩のラインに沿って並べているのを見て)まだ未完成のようですが,細かい部分も作り込めるのですか。
スミス氏:
はい。こうしたパーツは事前に用意されており,リング状のオブジェクトを薄く小さくして,あの形にしています。ポリゴンを使っていないので,PS Moveによって角度や大きさを自由に変えられるのが「Dreams」の特徴です。例えば,岩のパーツも角度を360度変えられるので,2,3個組み合わせると新しく作成したオブジェクトに見えてしまうというわけです。
4Gamer:
今,ポリゴンを使っていないと言われましたが,3Dグラフィックスですよね。
スミス氏:
ええ,もちろん3Dですよ。ポリゴンではなく,大量の点やディスク,ラインを使った表現になっています。
4Gamer:
どういうことでしょうか。
「ポイントクラウド」(point cloud/点群)と呼ばれる技術を取り入れています。点の集合体でオブジェクトを作り出している,と言えば分かりやすいでしょう。でも,点だけでは草や泥などは表現しにくいので,ディスクやラインなどの大きめの集合物も利用するようにしています。
4Gamer:
そのポイントクラウドをゲームに活用する利点とは?
スミス氏:
ポリゴンで作られたオブジェクトとは異なり,モデリングする側の負担が少なくなるということが大きいですね。先ほどお話ししたように自在に角度を変更でき,テクスチャも存在しませんから。それだけプレイヤーのイマジネーションを妨げずに大きなモンスターを作ったり,複雑な夢の世界を表現できたりといったことが可能になります。
現在の目標は,(「人喰いの大鷲トリコ」に登場する)トリコをペットにして大空を駆け回るような夢を作成してもらうこと。まだ羽毛をどう表現するのか,試行錯誤している段階ですが,すでに体毛はうまく表現できていますので,実現するのは難しくないはずです。「自分の体から鳥の翼が生える夢」というのも,多くの人がきっと望んでいることでしょう。
プレイヤーの夢を具現化するためのさまざまな仕様も明らかに
4Gamer:
ポリゴンで制作されたキャラクターの場合,コリジョンディテクション(衝突検出)のためにボックスが必要です。その点,ポイントクラウドではどうなるのでしょうか。
スミス氏:
「Dreams」ではモデルのすべてに衝突判定があります。ただ,「体に触れた枝が跳ね返る」といったような細かいアニメーションを表現するのは難しいですね。
4Gamer:
そもそもプレイヤーが作成するキャラクターは,動物だったり人間だったりロボットだったりとさまざまですが,それらのアニメーションはどのように設定されていますか。
スミス氏:
それでは,開発用のインタフェースを特別にお見せしましょう(デモ担当者がダイヤル風のパラメータがいくつもあるインタフェースを表示してくれた)。Speed(移動速度)やSloppiness(だらしなさ),Sass(女っぽさ)といったパラメータを7段階に変更し,自分の好みのものに調整できるようになっています。
4Gamer:
こうしたデータも,ほかのプレイヤーと共有できるのでしょうか。実際,データシートみたいなものが存在するとか。
スミス氏:
データシートはありませんが,プレイヤーが作成したキャラクターやオブジェクトはサーバーにアップロードされ,ほかのプレイヤーが自由に活用できます。「このクリーチャーの動きが素晴らしい」と思った人は,それをダウンロードしたうえで,そのまま使っても,手を加えてもいいのです。
ちなみに,それぞれのオブジェクトにはクリエイターのタグが付き,オリジナル制作者のタグは変更できません。
4Gamer:
地面や鉄板など,キャラクターが歩く場所によって足音も変わりますが,オーディオ効果はどのように制御されるのでしょうか。
スミス氏:
良い質問ですね。まだ,実際にお聞かせできるほどは仕上がっていませんが,オーディオ効果もプレイヤーができるだけ自由に,それでいて簡単に設定できるようにします。さらにプレイヤーが音声や効果音をインポートできるようにしたいと考えています。
自分の夢の中の世界ですから,自分の声を入れたいという人もいるでしょう。夢であれば必ずしも現実味のあるサウンドにこだわる必要もありませんので,音は非常に重要なファクターと言えますね。
4Gamer:
そうなると,版権に関わる問題が発生しませんか。
スミス氏:
その点は我々もいろいろと考えています。ただ,映画から俳優の音声を使ったり,バンドの楽曲を使ったりしない限りは,プレイヤーが無償で作ったものなら大きな問題にはならないと思います。もちろん,違反者に対しては,プレイヤーが発見次第,レポートしてくれるようなシステムを搭載し,サーバーからデータを削除することになるでしょう。
4Gamer:
なるほど。「自分の夢」と言いつつ,ほかのゲームを「Dreams」で再現してみようという野心的なプレイヤーは登場するかもしれませんね。
スミス氏:
ええ,すでにテスター達も有名なゲームやアニメの世界を再現しようとしていますよ。例えば,このキャラクターモデルは(と言いながら,完成した別のロボットのモデルを表示する),「MechWarrior」のファンが手持ちのフィギュアを見ながら作ったものです。これがそのフィギュアですが,なかなかの完成度でしょう?
4Gamer:
確かにスゴいです。逆に,「Dreams」で作成した夢の中のキャラクターを3Dプリンタで実体化できると面白そうです。
スミス氏:
それも社内で話題になったことがあります。おそらく問題なくできるはずです。
4Gamer:
おお,そうしたゲームへの愛情表現こそがゲーマー達の「夢」とも言えますね(笑)。いろいろな意味でスゴいゲームになりそうです。
スミス氏:
現時点では,2016年内のβテスト実施をアナウンスしていますが,長いスパンで「Dreams」を皆さんに応援してもらえると嬉しいですね。
「ポイントクラウド」というテクノロジーが商業レベルでゲームに採用されるのは,この「Dreams」が初めてのケースだと思われる。そうした最新技術への興味も尽きないところだが,リトルビッグプラネットシリーズのデバロッパらしく「誰でも自分の世界を作成できるツール」を念頭に置いているというのも,今回のスミス氏の話からうかがい知ることができた。
ちなみに取材の数日前,Media Moleculeの開発陣は「Dreams」のマップ制作の過程をTwitchでライブ配信している。使用されたオブジェクトは事前に用意されたものであったが,短時間のうちに「夢の世界」を作り上げていく様子が確認できるので,気になる人はチェックしてみるといいだろう。
「Dreams」公式サイト
- 関連タイトル:
Dreams Universe
- この記事のURL:
キーワード
(C)2019 Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Media Molecule.
- 【PS4】Dreams Universe【早期購入特典】Dreams Universe™ テーマ(封入)
- ビデオゲーム
- 発売日:2020/02/14
- 価格:¥3,480円(Amazon) / 3515円(Yahoo)