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ヴァニラウェア神谷盛治氏,大西憲太郎氏インタビュー。マフィア梶田が「オーディンスフィア レイヴスラシル」の魅力について聞いた
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印刷2016/01/23 00:00

インタビュー

ヴァニラウェア神谷盛治氏,大西憲太郎氏インタビュー。マフィア梶田が「オーディンスフィア レイヴスラシル」の魅力について聞いた

どこともかぶらない,新しい世界観のワルキューレ作品を作りたかった


画像集 No.015のサムネイル画像 / ヴァニラウェア神谷盛治氏,大西憲太郎氏インタビュー。マフィア梶田が「オーディンスフィア レイヴスラシル」の魅力について聞いた

マフィア梶田:
 さっそく「オーディンスフィア レイヴスラシル」PS4 / PS3 / PS Vita)についていろいろお聞きしたいんですが,その前にまず,オリジナルとなるPS2タイトル「オーディンスフィア」が生まれた経緯からお話いただけますか?

神谷氏:
 はい。でもオーディンスフィアの成り立ちからとなると,また長くなってしまいそうですけど。
 
マフィア梶田:
 お時間が許すなら,長くなるのはまったく問題ないです。
 なんせオリジナルは発売から8年も経っている作品なので,知らないという人に向けてもここはぜひお聞きしておきたいと思ってまして。

神谷氏:
 でもそれだと,大西さんの話す時間が足りなくなるかもしれない。ドラゴンズクラウンの時みたいにレイヴスラシルの話まで辿り着かないかも……。

大西氏:
 いえいえ,大丈夫ですよ(笑)。

「プリンセスクラウン」
神谷氏が手掛けた2DアクションRPG。セガサターン後期に発売され,その美麗なグラフィックスやアニメーションの滑らかさなどで好評を得る
(C) SEGA & ATLUS 1997.2005 キャラクターデザイン 神谷 盛治
画像集 No.006のサムネイル画像 / ヴァニラウェア神谷盛治氏,大西憲太郎氏インタビュー。マフィア梶田が「オーディンスフィア レイヴスラシル」の魅力について聞いた
神谷氏:
 では,なんとかまとめてみます……。
 話はスクウェア・エニックスさんの元で,「ファンタジーアース ザ リング オブ ドミニオン」(現「ファンタジーアース ゼロ」)を作っていたころに遡ります。
 それまで僕は1997年に「プリンセスクラウン」を世に出したあと,いろいろな会社を転々としていたんですが……。

マフィア梶田:
 会社がなくなったり,企画が思うように形にならなくて,苦労されていたんですよね。

神谷氏:
 そんな状況にありながらも,僕は悶々とプリンセスクラウンの続編の企画を考えていました。それがいまのオーディンスフィアの形に至ったのは,初台のエニックスビル(旧本社ビル)9Fの“潜水艦”でファンタジーアースを制作していたときなんです。
 あ,潜水艦というのは部屋の通称です(笑)。

マフィア梶田:
 えっ,ちょっと気になりますね。潜水艦ってどういうことですか?

神谷氏:
 その部屋は,扉が1個しかない縦長の部屋だったんです。

大西氏:
 はい。そして窓は端の方にちょろっとあったんですけど……。

神谷氏:
 そこが段ボールを置くのにちょうどいい“くぼみ”だったんですよ。そこに段ボールを積むと,窓が塞がって完全に光が無くなるんです。それで1個だけの扉をハッチに見立てて,この部屋を潜水艦と呼んでいたんです。そこに泊まりこんで制作していました。

マフィア梶田:
 たしかに潜航中の潜水艦のようですね。2013年のインタビューでも“業界経験の中で最も過酷な現場”だったと仰ってましたが,そんな鬱屈した環境だったんですか……。

神谷氏:
 そのビルの地下1階にはシャワールームがあったので,ほぼ住んでいました(笑)。よくお風呂セット持ったほっこほこの戻りエレベーターで,朝出社してきたスクウェア・エニックスの社員さん達と出くわして気まずかったり……。

マフィア梶田:
 朝風呂ですか? そこだけ聞くとなんだか優雅ですね。ある意味仕事に集中できる環境ですよ。

神谷氏:
 そんなファンタジーアースですが,僕にとっては初めての3Dゲームだったこともあって,制作はとにかく大変でした。当初ヴァンパイアと人間が争う対戦ゲームという企画だったのに,いつのまにやら,ファンタジーRPG路線に変わったりもしましたし……。

マフィア梶田:
 初めての3D制作で苦戦していたのに加えて,方針の変更もあったんですね。

神谷氏:
 ヨレヨレになっていたそんな当時,同じエニックスビルにトライエースさんも入っていました。

マフィア梶田:
 おおっ,奇しくもオーディンスフィアと同じ,ワルキューレを題材にした「ヴァルキリープロファイル」を制作したトライエースですね。

神谷氏:
 はい。そして……これは人づてに聞いた話なので,いまとなっては真偽は分からないのですが,「ヴァルキリープロファイル2」の企画会議で「次はお姫様を主人公にしよう」いう話になったときに,プリンセスクラウンが話題に出たそうなんです。

マフィア梶田:
 そうなんですか! 同じ“お姫様が主人公のRPG”ということで名前が上がったんでしょうけれど,作り手としてはかなり嬉しいことですよね。

神谷氏:
 実際はどうだったのかはわかりませんが……ともかくその話を聞いたときは,「いいなあ面白そう,僕もワルキューレで作品を作ってみたい」と素直に思ったんです。
 北欧神話自体はファンタジーの源流ですから,昔からそのエッセンスを作品に反映できたらと思っていましたが,ワルキューレを含む北欧神話そのものモチーフが次のプリンセスクラウン企画となんとなく結びついたのは,あのときが初めてだと思います。

マフィア梶田:
 主人公がワルキューレ……つまりのちのグウェンドリンになるわけですね。

神谷氏:
 ワルキューレというモチーフで,代表といえる作品はすでに世にいくつもありますよね。ヴァルキリープロファイルはもちろん,僕ら世代にとってはずせないナムコ(現 バンダイナムコゲームス)さんの「ワルキューレの伝説」とか。

マフィア梶田:
 しかもヴァルキリープロファイルは,2Dアクションのようにサイドビューのダンジョンを進んでいくゲームですね。

神谷氏:
 はい。それらは人気作品ですし,そのせいもあってワルキューレ自体なかなか作品を作りにくい題材だと思っていたのですが,プリンセスクラウンのコンセプトを引きずっていることを逆手にとって,それらとは軸の違う独特な北欧神話の世界を作れるのではと考えていました。

画像集 No.009のサムネイル画像 / ヴァニラウェア神谷盛治氏,大西憲太郎氏インタビュー。マフィア梶田が「オーディンスフィア レイヴスラシル」の魅力について聞いた


大西さんがきてくれると聞いて

おっきい魚が釣れたと思った(笑)


マフィア梶田:
 大西さんはすでにこの時点で,神谷さんと一緒に働いているんですよね?

大西氏:
 はい。そうですね。

マフィア梶田:
 そもそもお2人の付き合いってどのくらいになるんですか?

神谷氏:
 ……飛び出したのが2000年ごろだから,16年ぐらい?

マフィア梶田:
 飛び出した?

大西氏:
 (笑)

神谷氏:
 大西さんに出会ったのはファンタジーアースを作る前です。
 それまで所属していたアトラス大阪開発室(通称「アトラス関西」)が解散して,僕は当時のチームごと,ラクジンに引き取ってもらったんですが,そのラクジンに大西さんがいたんですよ。

大西氏:
 ラクジンは老舗の開発会社なんですけど,アトラスさんと懇意だったんですね。当時新人だった僕は,二十数人という大人数がどやどやと入ってきたのを覚えています。

マフィア梶田:
 ラクジン時代に,一緒のプロジェクトで仕事をしていたんですか?

神谷氏:
 いえ,ないですね。彼は一人で「ジェットでGO!」を作ってました(笑)。それを「いつも大変そうだなあ,異様に頑張ってる人だなあ」なんて見てました。

大西氏:
 僕は「神谷さん,ドリームキャストで何か作ってるなあ」と,後ろから見てましたね。

神谷氏:
 ドラゴンズクラウンをドリームキャスト向けに,3Dで試作してたころだね。

マフィア梶田:
 ドラゴンズクラウンを3Dで!? さらっと貴重な話をされましたね,いま!

神谷氏:
 もちろん,いま出ているゲームとはぜんぜん違いますけど,王道の「ダンジョンズ&ドラゴンズ」路線をやろうというコンセプトは一緒のものでしたね。
 しかし,企画は結局通らずじまいで,その後は主にお手伝いのようなことをフラフラとやっていました。

「ドラゴンズクラウン」
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マフィア梶田:
 なるほど,ではそんな2人の運命がどこで交差したんですか?

神谷氏:
 僕が元アトラス関西の小森くん()に,SCEに一緒に行こうと誘われたときに,これから新規プロジェクトを立ち上げるためにはプログラマー探しが急務でした。

※小森成雄(こもりしげお):アトラス所属のゲームクリエイター。代表作「世界樹の迷宮」シリーズでは,世界設定やストーリーの担当ほか,ディレクター,プロデューサーを務める

マフィア梶田:
 それで一緒についてきてくれるスタッフを探そうとなったんですか?

神谷氏:
 さすがに辞める会社からスタッフを引き抜くのはアレなので,ラクジンの人達には,「まあどこかで縁がありましたら」って感じで,辞職の軽い挨拶のネタ的に声を掛けてました。
 そんな時に大西さんにも,冗談交じりに声を掛けたんですよ。

マフィア梶田:
 冗談交じりで?

神谷氏:
 大西さんは真面目だし,絶対に辞めたりしない人に見えましたからね。ノリとはいえ皆に声掛けているのに,一人だけ声かけないのも変かなと思って(笑)。
 そして,僕は声を掛けたことをすっかり忘れちゃってました。

マフィア梶田:
 忘れちゃったんですか!?

神谷氏:
 それからしばらく経ったある日,大西さんから「凄く考えたんですけど……行きます」って電話が掛かってきたんですよ。でも僕の対応は「え? どうしたの? えっ,行きますってどこへ? なんの話?」って。

マフィア梶田:
 おおう……それは酷い……。

大西氏:
 酷い話ですよ,3日ぐらいずっと悩んでいたのに(笑)。大学を出て勤めてから3年め,24,5歳のときでしたからもちろん初就職で,会社を辞めた経験もなかったんです。でも,「これは大ごとや」と悩みに悩んで決心し,電話してみたら「えっ,なんの話? マジで?」なんて反応なんですよ。

マフィア梶田:
 まさか誘った側が忘れているなんて(笑)。そのとき大西さんはどういう心境で,この人生における重大決心をされたんですか?

大西氏:
 ラクジンで嫌な思いはしていないし,辞めるなんて考えたことは全然なかったんです。でも,不満はないけど次のステップが見えているわけでもないという時期でした。

マフィア梶田:
 そんな風に将来についてモヤモヤ考えているときに声が掛かったと。

大西氏:
 声を掛かけてもらえることなんて,滅多にないだろうと思いました。それで,「飛び出すなら早い方がいい。若いうちなら,ダメだったとしてもどうにかなるだろう」と考えて,会社に辞めることを告げたんです。
 もちろんその時は神谷さんの名前は出さなかったんですけど,あとでバレましたね(苦笑)。

神谷氏:
 ぶっちゃけ当時のラクジンの偉い人に怒られましたが,僕だって,まさか彼が釣れるとは思ってもみなかったわけですよ(笑)。

マフィア梶田:
 釣れるって!

神谷氏:
 「なんかおっきい魚かかったでオイ! 餌ついてないのに針飲み込んでもうてる!」って,速攻で小森くんに電話しましたよ。

(一同爆笑)

マフィア梶田:
 酷すぎる(笑)。そんな感覚で,人ひとりの人生変えちゃったんですか!

大西氏:
 この話をされるたびに,いまだにいろいろ思い返しますよ(苦笑)。

マフィア梶田:
 でも,“おっきい魚”と表現したくなるくらい,大西さんは神谷さんの目から見て有能な人材だったということですよね。

神谷氏:
 彼のラクジンでの印象は,真面目でキチンと成果を上げる人だったんです。面倒くさいことや無茶なことも振られても,成し遂げる。毒の沼に浸っていようと,息を止めて延々と仕事をこなす凄い人という。

マフィア梶田:
 一緒に仕事をするうえでも信用できる人だったんですね。

神谷氏:
 本当に来てくれると思ってませんでした。「スタークラフト」を一緒に遊んではいたけど,ほとんど話をしたことが無かったし。

マフィア梶田:
 あっ,そういう繋がりはあったんですね。じゃあ,そこはやっぱり,一緒にゲームで遊んだことが紡いだ縁であったということで。

神谷氏:
 なんか良い感じでまとめていただきましたね(笑)。それで一緒に東京出て,めちゃめちゃ苦労させることになるんです。

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