インタビュー
ヴァニラウェア神谷盛治氏,大西憲太郎氏インタビュー。マフィア梶田が「オーディンスフィア レイヴスラシル」の魅力について聞いた
2Dであることに説得力を出すためにも
舞台劇の演出は有効だった
マフィア梶田:
そんな大西さんを含めた5人で,ファンタジーアースのプロジェクトから離れるタイミングでヴァニラウェアを設立し,オーディンスフィアを作り始めるんですね。
ワルキューレを軸に,北欧神話をベースにした世界観というのが定まって,そこからどのようにあのゲームの形になっていくんでしょうか。
神谷氏:
そうですね。まずゲームのベースはプリンセスクラウン,つまり2Dで作ろうとなったんです。元となった企画にプリンセスクラウン2というのもありましたが,それに至った理由には先ほどお話しした3D制作での苦労というのがあります。
大西氏:
神谷さんのアートを生かした3Dを作るというのが,当時の僕らの技術では凄く難しく,それもまたひと苦労でした。
神谷氏:
まさに技術的な問題で,イメージどおりのグラフィックスにするためには,かなりの実験から始めないといけなくて,それに時間がかかるわけです。「2Dだったら描き起こしたイラストのイメージそのままでいけるのに」と,そんな苦労を重ねているうちに,2Dで作りたいという想いが高まっていったんです。
大西氏:
でも,当時はまさに3D技術がどんどん進化してる全盛の時代で,2Dは過去のものみたいな風潮もあったわけです。その中であえて2Dでゲームを作るということが,うまくいくか分からなかったんですね。
神谷氏:
2Dは3Dのようにカメラワークによる演出表現が使えません。やはり3Dに比べて2Dは限界があるのではないか,なんて悩むこともありました……。
大西氏:
神谷さんが,あえて2Dで作ったという説得力を生むために,舞台劇のような演出をやろうって言ったんですよね。
マフィア梶田:
その着想はいったいどこで得たんですか?
神谷氏:
ストーリーを作るために北欧神話を調べていた際,ワーグナーの「ニーベルングの指環」をはじめとした,楽劇や舞台劇にたどり着きました。それらを観て,横画面だけでも面白く表現する方法として,舞台の演出がそのまま使えるのではと閃いたんです。
大西氏:
舞台劇というのは,お客さんの目線である真横から見た演出がなされていますよね?
ズームアップもない。カメラという概念がないんです。
マフィア梶田:
なるほど,なるほど。
神谷氏:
オーディンスフィアのベースとなったプリンセスクラウンは,欠点の多い作品でした。その一つであるストーリーが面白くないと指摘された点は,演出やシナリオ構築の仕方から考える必要があったんです。
どこかアニメや映画を意識して作られたシナリオは,実際にゲームに組み込む段でいろいろと無理が生じましたし,プリンセスクラウン型のシナリオ演出を考えるなら,まさに舞台劇や人形劇の方が合っていたんです。
マフィア梶田:
2Dの表現や,プリンセスクラウンで指摘されたストーリーといった,あらゆる不安点や弱点を克服する手段として,舞台劇が有効だったと。
神谷氏:
あとは実践でした。もともと僕は,プリンセスクラウンで始めてテキストを触った程度で,シナリオについてはほぼ素人。いきなり舞台作家級の台本が書けるとも思えなかったんです。
なのでまず,舞台台本をあさるところから始めました。どうせならと王道で原点でもあるシェイクスピアの舞台劇の数々を選んだんです。
マフィア梶田:
北欧神話に続いて,今度はシェイクスピアですか。いろいろと結びついてきますね。そこからどのようにオーディンスフィアの世界観が生まれてくるのか気になります。
神谷氏:
まずゲームの顔となるストーリーは,ニーベルングの指環を元にした恋愛劇を起案にしましが,ワルキューレ,つまりグウェンドリンのイメージでは相当悩みました。
マフィア梶田:
それこそさっき名前が挙がった,2作品のイメージが強いというところですね。バイキング風のデザインだとナムコのワルキューレが,中世風の鎧だとヴァルキリープロファイルが思い浮かびますし。
神谷氏:
ほかに何か良いモチーフはないかと悩みながら,舞台劇をいろいろと研究していたところ,舞踊劇としてバレエに辿り着いたんです。
大西氏:
あのグウェンドリンの衣装は,白鳥の湖のチュチュなんですよね。
神谷氏:
空を翔るワルキューレと,白鳥の踊り子のイメージが合致したんです。まあ,それを実際のデザインに落とし込む段階でまた悶絶するんですが。
マフィア梶田:
あの世界観にしっくりくる美しいデザインは,そうやって生まれたんですか。
神谷氏:
いえ,オーディンスフィアの場合は,世界観よりグウェンドリンのイメージが先ですね。そこから彼女がいてもおかしくない世界とその住人を作りあげたんです。
もしリアル中世風の住人に混じって,グウェンドリンだけバレエの格好して歩いていたら変だなってなりますよね(笑)。
マフィア梶田:
なるほど,本当にグウェンドリンありきであの世界ができあがったんですね。
神谷氏:
そこからメルセデスは妖精版「グラドリエル」(※1)として女王の成長物語を,ベルベットは謎に挑むアラビアンな赤ずきんちゃん,コルネリウスは大好きだった「メルヘンヴェール」(※2)という昔のPCゲームのオマージュで童話風に……というふうに世界を築き上げていきました。
※1 プリンセスクラウンの主人公
※2 1985年にシステムサコムより発売されたアクションRPG。主人公の王子は,魔法使いの呪いにより怪物のような姿(ヴェール族)にされてしまう
絶賛だったグラフィックスとストーリー,
酷評を受けてしまったゲームシステム
そうして,ほかにはなかったワルキューレの世界を作り上げたオーディンスフィアですが,発売を迎えたとき心境っていかがでしたか? こんな手ごたえがあったとか。
神谷氏:
発売できたことは嬉しかった。なんせ本当に久しぶりに思いのたけをぶちまけたタイトルでしたから。発売日には,実際にお客さんが手に取って買うところを見たくて,ショップに行ったりしましたよ。
大西氏:
実は……僕はけっこうネガティブな印象でした。
マフィア梶田:
ネガティブ? 一体それはどうしてなんでしょう。
大西氏:
まずは有名になってしまった処理落ちですね。英語はよく分からなかったんですが,海外のレビューでも“Slowdown”っていう単語がたくさん出ていたんですよ。
マフィア梶田:
オーディンスフィアという作品を語るとき,今でも出てくる話ではありますね。
大西氏:
もう一つは,ゲームのフローがプレイヤーにとって難解になってしまったことです。
そうなってしまったのも,当時の僕は,「ゲーム性がなにより大事」という凝り固まった考え方で,自分が思う「これが面白いんだ」というゲームの形を押し付けるような作りにしてしまっていたせいなんです。
マフィア梶田:
具体的に言うと,どのようなところでしょうか?
大西氏:
RPGは腕前だけで乗り越えるものではなく,まず準備だと。これから挑む敵に対抗するものを用意するとか,レベルを上げて自分を強化して突破するという。
だからバトルも,こちらが攻撃したら敵の攻撃を受けるのが筋だと考えていました。それでこそレベルを上げることやアイテムを入手することが重要になると考えていて。
マフィア梶田:
ダメージを受けたら下がって回復する。駆け引きが大事というところですね。
大西氏:
アイテムの所持数が限られていたのも,アイテムが一杯で持てないからこそ,ステージを進む中でどのアイテムが必要か,逆に何がいらないかを取捨選択する。
そこでタネを植えたり合成をするきっかけが生まれる,そのアイテムマネジメントが面白いんだよという考え方で,ガチガチに作っていたんです。
マフィア梶田:
なるほど,バトルの駆け引きもそうですが,見た目は横スクロールアクションだけど,中身はしっかりRPGな作りにしたわけですね。
僕はオリジナルのマジックミックスは結構好きなんです。これは神谷さんが「お風呂で一生懸命考えて思いついた!」といって聞かせてくれたシステムで,斬新でオリジナリティもあってお気に入りでした。
理解すれば独特の面白さがあるんですが,でも普通のRPGのアイテム合成って,やってもやらなくてもゲームは進められるものですよね。
マフィア梶田:
たしかに回復アイテムが作れるみたいなサブ要素だったりしますね。でもマジックミックスは,面倒だからとやらずにいると,ゲームを進めるうえで有効な魔法薬が手に入らない。
大西氏:
料理も同じです。普通のRPGでは回復手段の一つくらいのおまけ要素なんですが,本作では料理を食べないと経験値が得られないので,こちらも面倒だからとやらずに進めると……。
マフィア梶田:
結果,レベル不足で後半詰んでしまうことにも繋りますね。
大西氏:
はい。そのように,普通のRPGでは面倒だからいいやとスルーしてしまいがちなことが,オーディンスフィアというゲームにとっては重要な要素で,それを怠ると凄く難度の高いゲームになってしまうんです。それをプレイヤーにうまく伝えられなかったんですね。
マフィア梶田:
そうはいっても,チュートリアルもありましたよね?
大西氏:
それだけで理解できる人が少なかったんです。チュートリアルって最初に一回あるだけですよね? でもシステムが難解で一度だけでは理解できない。そしてよく分からないままゲームを進めるけど,結局は行き詰まってしまう。
マフィア梶田:
なるほど……たしかにいろいろ奇跡的なバランスで,素晴らしい世界観とデザイン,物語ができたのに,ゲーム性が複雑,そして処理落ちという理由で最後まで遊んでもらえなかったのは,なんともやるせないですね。
大西氏:
神谷さんの作り上げたデザインやビジュアルは,国内外ともに否定的な意見がなく,絶賛されていました。制作を始めるときにあった「2Dだけど大丈夫かな?」という不安も,「いま2Dでゲームを作ったヴァニラウェアは“ロック”だ」といったような,好意的な意見が多くて嬉しかったんです。
神谷氏:
でも,欠点指摘の声がぼこぼこに届くようになって,僕は3か月ほど布団で震えていました。
マフィア梶田:
とはいえ,なかには開発側の意図を汲んで,楽しんでいたプレイヤーも多かったんじゃないですか? いまでも知名度ある作品だし,ヒットもしている。だからこそレイヴスラシルもこのように話題になっているわけですから。
神谷氏:
そう言っていただけるのはありがたいことですが……でも凹んでたときは「割と面白いよ」と言ってもらえても,「こんなゲームでゴメンナサイ」って気持ちでいっぱいでした。
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