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「パックマン」の生みの親,岩谷 徹氏が語るゲーム企画の神髄とは。JOGA主催の「ゲームを創るということは,人の心を知ること」セミナーレポート
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印刷2015/10/29 21:33

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「パックマン」の生みの親,岩谷 徹氏が語るゲーム企画の神髄とは。JOGA主催の「ゲームを創るということは,人の心を知ること」セミナーレポート

 日本オンラインゲーム協会(JOGA)は2015年10月28日,「ゲームを創るということは,人の心を知ること」と題したセミナーを東京都内で開催した。

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 このセミナーでは,「パックマン」の生みの親として知られ,現在は東京工芸大学 芸術学部 ゲーム学科の教授を務める岩谷 徹氏が,自身の経験を交えてゲームの企画開発に関する講演を行った。本稿では,その講演の模様をレポートしよう。

東京工芸大学 芸術学部 ゲーム学科 教授 岩谷 徹氏
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日本オンラインゲーム協会(JOGA)公式サイト



ゲーム開発の歴史と市場の拡大


 講演は,岩谷氏が「ゲームは総合芸術・技術」という持論を示すところからスタートした。これは,ゲームがさまざまな学問や芸術の要素から成り立っているということであり,そのためさまざまなアプローチが可能であるというわけだ。岩谷氏自身,ゲーム学を体系化するにあたり,これらの学問を通して掘り下げを試みているという。

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 今回の講義で使われる“ゲーム”という言葉は,主にアーケードゲームやコンシューマゲーム機用のゲーム,PCゲーム,モバイルゲームを指している。岩谷氏は,1970年代に生まれたアーケードゲームによってゲームセンターが日本で登場したことや,あるいは1983年に任天堂からファミリーコンピュータ(以下,ファミコン)が発売されたことを挙げ,ゲームが子ども達が集まる「遊びの場」を変化させきてたと語った。

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 ファミコン用のゲームと現在のゲームをグラフィックスで比較すれば,この30数年で表現力は大きく向上している。しかし岩谷氏は,そういった技術的な革新だけに目を向けるのではなく,遊び手であるプレイヤーが何を求めているのかについても考えなければならないとした。と言うのも,例えば現代のゲームに慣れ親しんでいるからといって,もうファミコン用ゲームを楽しめないかというと,必ずしもそうではないからだ。

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1976年に登場したATARIの「Night Driver」やナムコのエレメカ「F-1」が,技術の進歩によって「リッジレーサー」などのリアルな表現に変化していった
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 ゲームの市場規模は,今も世界で拡大を続けている。岩谷氏は,今では当たり前の考え方と前置きしつつ,日本国内だけでなく海外に向けてゲームを開発すること,とくにそれぞれの国や地域の文化に合わせた内容にすることの重要性を説いた。

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 一方で,ゲームは職業ゲームクリエイターのみから生み出されるわけではない。とくに誰もがゲームを世に送り出すチャンスがある現代において,ゲームのデベロッパやパブリッシャは,どういった形でビジネスを展開していくかを,今まで以上に考えなければならないと,岩谷氏は語った。

会場では,物理学者のウィリアム・ヒギンボーサム博士が,1958年にコンピュータを一般の人に理解させるために開発した,オシロスコープに画面を表示するテニスゲームが紹介された
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「パックマン」の企画開発はどのようにしてなされたのか


 続いて岩谷氏は,「パックマン」の企画開発当時,どのように進めていったかを紹介した。「パックマン」は1980年に登場し,2015年で35周年を迎えたタイトルだが,スマートフォンゲームとして新作がリリースされるなど今なお,世界的に人気の高いIPとなっている。岩谷氏はその人気の背景には,ゲームの面白さや人に訴えかけるものの普遍性が存在すると語った。

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 岩谷氏は,「パックマン」を企画した当時を振り返り,こまめにプレイヤーのことを考えて「至れり尽くせりのゲーム設計」をしたと説明。頭の中で,小さな女の子やお年寄り,あるいはすごくじょうずな人など,さまざまな人達がプレイする場面をシミュレートし,それぞれに合わせた難度設計をしていったという。

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 「パックマン」の開発コンセプトはいくつかあるが,その一つに男性客中心だったアーケードゲームに,女性客を呼び込もうというものがあった。そこで「侵略してくるエイリアンを迎撃する」といった殺伐とした内容ではなく,「食べる」という行為をキーワードにすることを思いついたという。ちなみにパックマンの特徴的なシルエットは,丸いピザから一片を取ったときの形をモチーフにしているのだそうだ。パックマンを追ってくるゴーストが4色のカラフルなカラーになっていて,デザイン的にも可愛らしいのも,女性を意識した結果とのことである。

 またゲーム中でのゴーストは,常にパックマンを追いかけているわけではなく,一見あらぬ方向に進むことがある。これはゴーストが色によって異なるアルゴリズムで動いているからで,たとえば赤のゴーストは常にパックマンを追いかけているが,ピンクのゴーストはパックマンの向いている方向の32ドット先を目指して動いている。青のゴーストはパックマンを中心とした点対称のポイントを目指し,オレンジのゴーストは完全ランダムで動く。

 こうしたアルゴリズムの違いによって,ゴーストが四方八方に散らばり,ゲームとしてのスリルを生むと岩谷氏は説明。そしてゴーストに追い詰められたときに,首尾よくパックマンがパワークッキーを食べることで立場が逆転し,一網打尽にできるという爽快感を生むのである。
 仮にすべてのゴーストを赤のアルゴリズムで動すと,ゴーストが数珠つなぎでパックマンの後ろを追いかけることになり,ゲームとしてはまったく面白くなくなることが想像できるはずだ。

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 加えて,パックマンがゴーストに追いつかれてミスとなったときには,少し難度を下げた状態でリスタートするという仕様も採用されている。
 以上をまとめて岩谷氏は,「パックマン」がヒットした理由を「アイデア」「ビジュアル」「プログラム」の3つについて,プレイヤーのことを丁寧に考えた結果であると説明した。

 また岩谷氏は,ゲームの開発中,上司やクライアント,スポンサーから無茶なリクエストを受けたり,アイデアや仕様を否定されたりした場合の対処法も披露。「パックマン」の事例では,ナムコの創業者である中村雅哉氏が開発中のバージョンを試遊し,「敵味方が分かりにくいから,ゴーストをすべて赤にしろ」との指示したことがあったという。
 それに対して岩谷氏らが採用した手段は,40名ほどの若手スタッフに「ゴーストは赤1色がいいか,カラフルなほうがいいか」というアンケートを取ることだった。結果は,全員がカラフルなほうを支持し,岩谷氏はそのデータを示して中村氏を説得したとのこと。

 ただ,これは中村氏が経営者であり,何事もデータをもとに判断する人物だったから成功した事例ではある。相手によっては,「女性向け」であることをアピールしたほうがいいかもしれない。岩谷氏は,相手がどのような価値観を持っているかを把握し,それに沿った適切な説得手段を選択すべきとまとめた。これは,上記のプレイヤーのことを考えてゲームの企画開発を進めるという考え方にも通ずる部分といえるだろう。

 また当時のゲーム開発は,機材などの事情で今のように簡単に試行錯誤ができなかったため,岩谷氏は考え得るすべての状況を頭の中でひたすらシミュレートして,「これなら行ける」となったとき,初めてプログラマーにプログラムを依頼しに行ったという。
 岩谷氏は,「とりあえずやってみよう」ができる今の環境を否定するつもりはないが,と前置きしつつ,頭の中でよく考えることの重要性をアピール。双方を経験している岩谷氏からすると,とりあえず実行することと,考えることをそれぞれ半々くらいのバランスで企画開発に臨むといいのではないか,とのことだった。

会場では,岩谷氏の手による「パックマン」の仕様書も一部だけだが公開された
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 ほかにも,ゲームの企画開発上で重要になるポイントがいくつか紹介された。その一つが「魅力あるハイリスクを設定」することである。これはミスする可能性が高いけれども,高得点や優れたアイテムなどを得られる部分を敢えて設定することで,主に上級者の「より難しいことにチャレンジしたい」「他人にうまいところを見せたい」といった心理を満足させる,というもの。さらに初期のアーケードゲームでは,難度の高い部分を設定することで,プレイの長時間化を抑えるという目的もあったという。

 またパッと見てゲームの目的が分かること,そしてミスしたり,ゲームオーバーになったりしたときに,自分がなぜ失敗したのか明確に理解できることも大きなポイントだ。自分の失敗を反省し,解決方法を簡単に頭に浮かべることができれば,それを試してみたくなる。そういった繰り返しが形成されていくうちに,プレイヤーはそのゲームにハマっていくというわけだ。

ゲーム中で向こう岸にジャンプしようとしたら,落ちてしまった。このとき「踏み切り地点が遠すぎたから」という理由が分かれば,次はもっと近くでジャンプしようと試みることになる。この繰り返しで,プレイヤーはゲームにハマっていくのだ
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 こうした構造のゲームは世界的なヒットとなる可能性が高いが,実現するには,ゲームをシンプルに作ることが必要であると岩谷氏は語った。イメージ的には,一つのゲームルールを軸に,2〜3本の枝を付け,飾りの花を添えるくらいがちょうどいいとのこと。言い方を変えると「足し算ではなく引き算で考える」ことだそうで,例えば「パックマン」なら何も足せない,何も引けないところまで考え抜いて作り込んだそうである。


ゲーム開発のポイントは人間研究や日頃の観察にある


 講義の後半では,岩谷氏自身の取り組みが紹介され,最初に前半でも触れられた人間研究の重要性を強調するものとなった。岩谷氏によれば,人間とは「FUN FIRST」,つまり「楽しさ第一主義」で,基本的に難しいことや苦しいことを歓迎しないという。歴史家であるヨハン・ホイジンガの「人間は遊ぶ存在である」という言葉や,社会学者のロジェ・カイヨワによる「遊びの4つの分類」,心理学者のアブラハム・マズローによる「5段階欲求説」などをベースに,現在の氏は自身の研究を進めているとのことである。

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 そんな岩谷氏が定義するゲームとは,「一定のルールに基づいたすべての遊び」というもの。もちろん,そのルールはプレイ中に変更されることがあってはならない。そしてゲームを企画開発するにあたっては,制作者自身ではなく,プレイヤーが楽しめるように配慮する「サービス精神」が重要であるとのことだ。

 プレイヤーがゲームをプレイする動機と条件は3つあり,1つは「ゲームの目的がはっきりしている」こと。これは上記のとおり,パッと見てすぐ目的が理解できることである。
 2つめは,「操作技術,知識が適している」こと。たとえば欧州で野球ゲームをリリースしてもまずヒットしないが,これはその地で野球がポピュラーなスポーツではないからだ。
 3つめは,これも上記で示したとおり,うまくなったときに「注目を受けたり,パフォーマンスを披露できたりすること」である。

 プレイヤーがゲームを面白いと感じる要素は6つ挙げられたが,岩谷氏はその中から「ミス設定に納得ができる」と「練習効果が高い」を強調した。これらの存在によって,上記のようにどうすればいいのかを考える余地が生まれて次につながり,さらには「うまくなった」と実感できる。一方,難度の設計は直線的に右肩上がりにするのではなく,踊り場を用意してプレイヤーがゲームを手玉に取れるタイミングを作ることも必要なのだそうだ。

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 そうしたゲームをプランニングする上で,岩谷氏はこれまで経験したこと,学習したことを引き出しとしておき,その掛け合わせの妙をアイデアとして出していくことが重要と語った。
 とくにアイデアを出し合う会議においては,どんな意見でも否定しない空気が大切だ。岩谷氏の経験では,周囲が「くっだらねえ」と失笑するようなアイデアがヒットすることも頻繁にあったそうだ。

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 さらにアイデアを企画としてまとめ,プレゼンテーションするときには,必ず考え方の枠組みや結論のたたき台を用意すること,具体的な内容よりも「なぜ,何のために」を示すコンセプトから説明することの重要性も指摘された。

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 アイデアを出すためには,日頃の「観察」が重要となる。例えば電車の中でぬいぐるみを持っている人がいたとして,そこから流行っているキャラクターや好まれるぬいぐるみのサイズ,あるいは所有者の人となりなどの要素を観察し,さらに分析・考察すれば,「こういったものを作ればヒットするのではないか」という仮説を立てることができる。それがアイデアにつながるというわけだ。

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 また仮説から,具体的にゲームを企画開発する段階では,プロデューサーの提供する「価値」が重要になる。この価値とは,顧客,経営者,開発者それぞれの要求やモチベーションに沿ったものにならなければならない。
 プロデューサーもしくはリーダーの最大の役割は意志決定にあり,例えば現場がA案とB案に分かれたとき,岩谷氏はリーダーの権限で即座にどちらかに決めてしまったほうがいいと語った。と言うのは,例えば「それぞれの長所をデータとしてまとめてプレゼンしてください」といったような指示を出してしまうと,泥沼化しどちらがより優れているのか,いつまで経っても結論が出なくなってしまう恐れがある。もちろんリーダーの意志決定が間違っている可能性はあるが,それは避けられない必然であり,割り切る覚悟も必要とのこと。

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 岩谷氏は最後に,ゲームは社会やアートなど,あらゆる題材に拡張可能な存在であること,ゲームを創ることは人の心を知ることであること,ゲームの内容は作り手の人生観によって左右されるものであることを指摘し,目の見えない人を含めたあらゆる人に届くようなゲームを作りたいとして,公演を締めくくった。

会場では,お年寄り向けの「太鼓の達人」など「社会に役立つゲーム」や,日本工芸大学の研究事例などが紹介された
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研究開発中の「Gaming・Suit」も紹介された。これはプレイヤーが,入力デバイスと出力デバイスを兼ねたスーツを着用し,ゲームをプレイするというもの。既存の概念とは異なるゲームセットであり,アートの要素も含まれている
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