連載
「あんぷらぐど☆げーまーず」第11回:野伏せり達の襲撃から農村を守りきれ。アントワン・ボザ氏による協力型ボードゲーム「士魂〜サムライスピリット」
2011年ドイツゲーム大賞受賞作品「世界の七不思議」や,2013年のドイツ年間ゲーム大賞受賞作品「花火/Hanabi」で知られる奇才,Antoine Bauza(アントワン・ボザ)氏の最新作「士魂〜サムライスピリット」を紹介しよう。
本作は,特殊な能力を持つ7人のサムライとなって,野伏せりの襲撃から農村を守り切ることが目的の協力型ボードゲームだ。そのシチュエーションから分かるように,黒澤 明監督の映画「七人の侍」から着想を得て制作された作品であり,大の日本通としても知られるボザ氏が,いったいどんな風にかの名作映画をボードゲームに落とし込んだのかが気になるところだろう。ホビージャパンから発売されている日本語マニュアル付の輸入版を元に,その魅力に迫ってみよう。
ホビージャパン「士魂〜サムライスピリット」紹介ページ
村を襲う野伏せり達の襲撃に立ち向かえ!
舞台となるのは,戦国時代のとある農村。プレイヤーは武装した野盗の集団である“鬼武者党”の襲撃から村を守るために立ち上がった「サムライ」となって,野伏せり達と死闘を繰り広げることになる……というのが本作のバックストーリーだ。
ゲームの準備はまず, 農村に「防御柵」「農地」「(農民の)家族」のトークンを配置するところからスタートする。このうち「農地」と「家族」は,プレイヤーたるサムライ達が死守しなくてはならない対象を示している。これらがすべて失われると,その時点でプレイヤーの敗北が決定してしまうのだ。
あとは襲いかかる野伏せり達が描かれたカードを,プレイ人数に応じた枚数(人数×7枚)山札として場に配置すれば準備は完了。いよいよ野伏せりとの戦いが幕を開けることになる。
ゲームは,プレイヤーが時計回りに手番を行っていくことで進行する。
手番では「戦闘」「援護」「パス」の3つのアクションから一つを選んで行動するのだが,まずは基本となる「戦闘」アクションから説明しよう。
戦闘を選択した場合,プレイヤーは山札から1枚カードをめくって表向きにする。そこに描かれた野伏せりと戦うわけだが,このときプレイヤーは「対決」と「防御」の二つのオプションから,どちらかを選ぶことができる。
「対決」を選んだ場合は,サムライボードの右側に野伏せりカードを配置する。野伏せりカードには戦闘値が数字として書かれていて,この数値の合計がサムライの戦闘値を超えない限りは,何人でも相手にすることができる。野伏せりと正面切って戦うことで,足止めを狙う,というわけだ。
一方で,「防御」を選んだ場合は,野伏せりカードの数値ではなく,右上に描かれたアイコンに注目する。このアイコンは,その野伏せりの攻撃対象を示していて,「農民」「農地」「家族」の3種類がある(アイコンがない場合もある)。サムライ側は,各アイコンにつき一度までこれを「防御」でき,そうして処理したカードはサムライボードの左側に配置する。絵的には,戦いを避けて村に侵入しようとした不届き者を後ろからバッサリ,といったところか。
こうして手番ごとに山札の野伏せり達を片付けていき,山札が尽きればラウンドは終了。山札を作り直して次のラウンドに望み,農村を守って3ラウンドを耐えきればプレイヤー側の勝利。これが本作の基本的なルールというわけだ。
村に襲いかかる数々の苦難
つまり本作は,サムライの能力のうちでいかに多くの野伏せりを受け持ち,村に手を出させないようにするか,というゲームだ。野伏せりカードの枚数はプレイ人数×7枚なので,一人あたり7人を受け持てば,パーフェクトゲームが達成できる。そうして完璧に守り切れれば何も問題はないが,もちろんそう簡単にはいかない。では守り切れなかった場合にはどうなるか。
まず,野伏せりカードの数値の合計がサムライの戦闘値を超えてしまうと,その時点で「防御柵」が(柵が一つもなければ「農地」が)一つ破壊されてしまう。そのうえでサムライは行動不能になって,そのラウンドが終わるまで手番がまわってこなくなる(これは「パス」を選んだ場合も同様)。つまり,その分のしわ寄せが,ほかのプレイヤーに行ってしまうわけだ。
そして山札が尽きる前に全員が行動不能,もしくはパスせざるを得なくなった場合,残った野伏せり達は「侵入者」となって,村を破壊し始める。
このときは,まずサムライ側に「防御」で消費していないアイコンがあった場合,その種類に応じたペナルティが発生する。「農地」が残っていれば農地トークンが,「家族」が残っていれば家族トークンがそれぞれ破壊され,それぞれトークンの裏側に書かれているマイナス効果を受けてしまう。「農民」が残っていた場合は,サムライ自身がダメージを負ってしまうのだ。
「侵入者」の村への攻撃はまだ終わらない。残った野伏せりカードをオープンしていき,右下に火災アイコンを持つカードが出るたびに「防御柵」が,柵がなければ「農地」が壊されていく。
そうして侵入者達による破壊が終わったあと,それでもまだ「農地」と「家族」が残っていれば,まだ敗北ではない。守るべき農地や村人が残っている限り,戦いは次のラウンドに続いていく。ただし,2ラウンド目以降の野伏せりには,より強力なカードが混じることになるのだが……。
サムライの“魂”を解放して立ち向かえ!
といったように,農村を守る戦いは非常に厳しいものとなる。実際にプレイしてみれば,一人も侵入させないパーフェクトゲームは夢のまた夢で,常にギリギリの戦いを強いられることが分かるわけだが,まだ希望はある。サムライ達にはこの苦難を乗り切るための特別な力が備わっていて,それを使いこなすことで戦局を覆すことができるのだ。
サムライの能力には幾つかあるが,まず重要なのが「特技」だ。
各サムライは「野伏せりの戦闘値が奇数だった場合,隣のサムライに譲る」「戦闘を行ったあと,2回目のアクションを行える」などの特技を持っていて,条件を満たしてさえいればいつでも発動可能。さらに手番で「援護」を選択した場合,ほかのプレイヤーに自分の特技を使わせることもできる(ただし隙を作ったことになり,野伏せりカード1枚が侵入者として確定する)。
さらに「気合能力」というものもある。これは,「対決」によって累積した野伏せりの戦闘値が,各サムライの戦闘値の最大値(これを「気合値」と呼ぶ)とピッタリ同数になった場合に発動できる能力のこと。条件が厳しいだけあって効果は絶大で,例えば「野伏せりカードを2枚捨て札にする」「防御柵を1枚追加する」など。タイミングよく発動させられれば,一気に窮地を脱することも不可能ではない。
最後はサムライの切り札とでも言うべき「獣人化」だ。
野伏せりの攻撃や,村への襲撃によって負傷したサムライは,二度目の負傷を受けるとボードを裏返し,秘められた「サムライスピリット」によって,獣人に変身するのだ。獣人になると戦闘能力が大幅に強化され,戦闘値の上限が増えて,「気合能力」もパワーアップ。戦いがグッと楽になる。ただし,獣人化した状態でさらに2回負傷すると,そのサムライは「死亡」となり,その時点でプレイヤー側の敗北となってしまう。強力だが諸刃の剣であることは覚えておいたほうがいいだろう。
高めの難度から生まれる,心地よい連帯感
難度はやや高いようで,筆者がプレイした限りでは,最後まで村を守り切れたほうが少ないくらいだったが,むしろその緊迫感が心地よい。負けると「次こそは!」となるし,勝てたときの達成感はかなりのものだ。野伏せりカードや防御柵トークンの数を調整することで難度を調整することもできるが,安易に簡単にするよりは,クリアできるまで何度も挑戦することをオススメしたい。1回のプレイ時間もそこまで長くはないので,繰り返し遊ぶ事で,なんとなく戦友としての絆が芽生えてくる。そういった協力ゲームならではの感覚が,本作の醍醐味と言えるのではないだろうか。
「七人の侍」から受けたインスパイアを,協力型ボードゲームの形で見事に表現した本作。村を守るサムライとして,泥の中を駆け回るヒリヒリした戦いを体験したい人は,ぜひ一度プレイしてみてはいかがだろうか。
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